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逃げ

1/23 更新


 リードはさらに進んだ。天使兵はほぼ壊滅状態。上位天使もリードには敵わない。こぞって瞬殺されてしまう。その様子を千里眼で見ていたガブリエルは懐かしんでいた。リードに眠るクリードの面影が、より鮮明に感じられたのだ。


「ああ、クリード。久しいですわ。遠い遠い昔、二人で敵地を滅ぼした時も、天界に逆らったときも、今と同じ顔をしていますわ」


 さて、とガブリエルは自室の椅子から立ち上がる。


「体の調子はどうですか、三谷桜子」


「う……ぐ。力が溢れ出るっ。な、にこれ……」


「あなたには天使の血が、力が流れています。それも強力な因子が、ですわ。それを制御できるようになれば、あなたは天界でも屈指の力の持ち主になります。今のリードを止められるのはあなただけなのです。リード程の大悪魔をこのまま放っておけば、ここはただでは済まないでしょう。そうすれば人間界に影響も……」


「な、んで……」


「天界が堕ちれば、それまでこちらが封じてきた力が人間界に押し寄せてしまう。人間は脆い。いえ、並みの天使でも力に飲まれて破滅するでしょう。しかも、他の種族も参戦してくれば、未曾有の大戦争。そうなれば「界」自体が壊れてしまうかもしれない」


「か、い?」


「界が壊れれば天界も人間界も魔界も繋がってしまう。力が力を呼び、秩序は崩れ、最後に何が残るか……想像もできませんわ」


 ガブリエルは倒れた三谷桜子の顎に指をかけ向かせる。


「クリード……いえ、リードを倒すのです、三谷桜子。倒さなくてもいい。力を押さえつけるだけでも良いでしょう。あとは我々がとどめをさします。今だリードは万全ではない。人間の器を有している限りあなたとは対等のはずです。火力では劣っても、スピードは勝っているはずです。さあ、勝利を」


 瞬間、三谷桜子の体が宙に浮いた。ドクン、と小さな身体が跳ねる。苦悶の表情、彼女の瞳に青色が浮かぶ。髪は銀色に染まり、藍色のオーラが体を伝う。背中は薄ら金色の翼がはばたいた。今、三谷桜子が、天使として覚醒した。


 短く、ガブリエルは呼吸をした。


 自分は神クラスの天使であるのに関わらず、たった今生まれたひよこの天使に畏怖を感じてしまった。


 いや、感じている。ここまできて彼女がガブリエルを敵とみなし、攻撃を仕掛けてきたら逃げられるだろうか。戦うどころではない。正面からでは絶対に勝てない。

だって、全盛期のクリードの、おおよそ半分の力をこの娘は抱いているのだから。


「気分はどうです、クリードの力を受け継ぐ天使よ」


「……さgyklwこう」


 言って、天使三谷桜子は父親のもとへと向かった。











「あん?」


 リードは何かを感じ取った。既に塔の頂上まで来たところで何かが自分に接近してくるのをさとった。


 上を見上げた。ドゴン。とリードの真上に落ちてきた。当然避けたが、いつもの軽口を叩く余裕はないほどに緊張して臨戦体勢をとっている。


「この感じ……人間? 天使?」


 攻撃が来る。鎌の一振り。


「久gfshり、なrgwjv君」


 火を蹴り上げる。


「……三谷か。敵か?」


 切り上げ。


「qwyjん。今のkpmfろは」


 拳で刃を叩きつける。


「すげー力だな」


 天使の頭突きが入る


「反fxgtj者の力らしjzvq、これ」


 お返しにみぞおちに一発。二人は吹き飛ぶ。


「ガブリエルの入れ知恵だな」


「聞hywdgたはthkwzは、夏島君jlpvfないとylrwt勢の人がlgkjyqから」


「俺はお前を助けに来たというのに……」


「聞こhwfvよ?」


「てめーは人語しゃべれやボケ!!」


 リードは一先ず三谷と距離をとって考える。

この三谷桜子は今までの天使と力の差が桁違いで、それでいて本気でもない様子。軽くドアに向かってノックした程度の心持ちな気もする。


 三谷の初段攻撃は、一発でフェニクスを粉微塵にできる。それほどまでに三谷の体に力が溢れている。天使の力が身に収まらずにゆらゆらとタレ流れているほどだ。


 それではリードと同じく、魔力で出来た鎧を着こんでいるのと同じ。高密度でできており、それが彼には目にはっきりと見える。


「おいおい。ずいぶんなイメチェンだな。人間やめた気分はどうだ?」


「敵をかkbghん。Fvbきをoooooooooooo排除vgslgすすすすすすsssssssssssss」


「うーん。ガブリエルの洗脳か? 意識がぶっ飛んでら」


 頭をポリポリとかいて感想をもらす。なんてことはない。今まで、といっても数日友達やってだけの仲だ。倒すのは難しいが、まあ、リードならやれなくもない。


 覚醒したものの、全覚醒ではない。全覚醒なら力をものにしてるはずだ。しかし三谷桜子は力を制御できていない。倒しようはいくらでもある。


 しかし、リードにはとてつもない違和感を感じていた。三谷桜子とどこかで繋がっているような、そんな気分だ。


 それがリードの心に刺さって痛くて仕方がない。


「殺さずに倒すのか……。辛いな」


 元来。悪魔として殺すことに関しては特別思ったことはないリードだ。必要とあれば殺したし、私利私欲でも戦ってきた。普段のひょうきんな態度はそのストレスが生み出した。ストレスが溢れる殺害欲の抑えとして、弊害として出ていた。


「まあいいや。一度ぶちのめしてから考えりゃあいいだろ。魔人化して三谷の力を削ぎ落とす!!」


 言うが早いか、リードの叫び声と共に彼は魔人化した。


 今は人間の身。魔力を体から一気に噴射して、内なる悪魔を呼び起こす。


「おおおおおおおおおおおおおお!!」


「sssssssssssssssssssssssssssss!!」


 狂ったように二人は声を上げてぶつかっていく。一発一発が、けたたましく塔を揺らすほどに大きな力だ。


 数回、数十回とぶつかり合うたびに互いの力が削られて、体がきしむ。建物が大きく揺れる。


「うらあ!!」


「ssss!」


 確かに三谷桜子の速度は速いし威力もあるが、リードの体にはほとんど届かない。決定打には決してならない。


「捕まえたっ! 腹ががら空きだぜぇええええええ!!」


「gggggggggggggggggggggggggggggg!!!!」


 両の手をふるって三谷桜子を叩きつける。猛烈な破壊音をたてて一番下のホールまで彼女は止まることなくリードと落ちていく。


「ああああああああああああああ!!!!」


「ssssssssssssssssssssssssssss!!!!」


「目ェ醒ませや、三谷いいいいいいいいい!!!!」


 渾身の一撃を三谷桜子の顔面にぶち込む。


 と、腕を振り上げたところでリードは苦しんだ。


「gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」


 自身の胸から刃が生えていた。リードはおろか三谷桜子の体も貫通して二人は地面に串刺しにされる。


「ぐうっ……。てめえ……ガブリエル! 最高につまんねえことしてくれんなあ。あァ?」


「……あなたは今や界を破壊しかねない重罪人です。天界が責任をもってあなたを処刑いたしますわ」


「あん? ナマな口聞いてんじゃねえぞ、クソ天使っ」


「最愛の女性にその汚い言葉はいけませんクリード。そのような言葉は悪魔の口にするものですわ。私たち天使なら『愛してる』で事足りますわ」


「……おい頭イかれてんのか? どんな解釈したらそうなるんだよ。てめーは昔からそうだ。意味わかんねえ発言。天使の祝福による悪魔の弱体化。俺の家族を殺しやがって……」


「復讐ですか?」


「復讐じゃねえ。ぶちのめすまでだ!」


 リードは刺さった刃を引き抜いいて、凄まじいスピードでガブリエルに突きを繰り出す。

しかしゆるりと避けられる。


「はああああ!!」


「ふん」


 袈裟斬りも切り上げも、どの攻撃も、ガブリエルはするり避ける。寸でのところで全てカウンターされてしまう。


「くそっ。なんで当たらない……」


「それはあなたが私を殺すつもりがないからですよ。リード」


「なんだってそんな訳あるか! お前を殺す!!」


「『殺す殺す』とよく喚く小僧ですわ、まったく。殺すつもりがないから私を殺せない。思い出したくないから過去を思い出さない。救いたくないから三谷桜子を救えない。知りたくないから未来を知りたくない。所詮は子供のわがままですわ」


 リードは歯を食いしばる。


「リード。思い出すのです過去を、想いを。人間に殺されたその瞬間を身に染みなさい。愛していた人間に裏切られた気持ちはどうでしたか……。天界として、あなたの所業は許されることではありません。反逆、虐殺、責任の放置。天使として汚すぎる。これでは人間と同じではありませんか!!」


「……」


「あの日から人間を見ていました。人間という脆弱な生き物に心奪われたのでしょう。脆弱でいて、繊細な人間らしさに。私にとっては。人間でも悪魔でも、クリードはクリード、あなたはあなたなのです。リード、私はそれに気づくのに長い時間がかかってしまいました」


 ガブリエルはリードに歩み寄る。


「一緒に逃げましょうリード。天王の命令ではあなたは死刑です。いくらあなたでも天王の相手は無理です。あの方には無限の力が背後にあります。……一緒に逃げましょう。逃げて逃げて、二人でいつまでも一緒にいましょう」


 リードは言った。


「すまないガブリエル。それは無理だ」


 閃光が二人を襲った。



逃げ

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