フィニクス
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「ふう」
と、リードは一息ついた。魔力の足りない今のリードにとって、身体に不可が生じていたのだ。
つまり空腹。
「腹が減ったぜ……こんな雑魚天使を喰っている暇はないんだけどなあ」
「ぎゃっ!」
「ひっ!」
「うわあっ!」
などと、悲鳴を上げる敵天使兵たちを、リードは片っ端から素手どころか口で、歯で、喰いちぎりながら既に塔の中腹まで敵天使の血で汚して歩いてきていた。
途端、リードの足が止まる。
「んー? んー?」
「ファイヤーーーーーーーー!!!!」
「うおっ!?」
「燃ーえーてードラゴンーーーーーー!!!!」
一直線に伸びた廊下を、凄まじい勢いでとても明るい赤が、リードに向かって突っ込んできたのだ。リードはぶつかる寸前、その赤色にバコンと盾で殴りつけた。
「ぬう……。なにやら侵入者と聞いて飛ばしてきたのだが? 我輩、いつの間に地にめり込んでいるのはどういうことだ?」
「お前が俺に落とされたということだ」
「おう! 貴様が侵入者か。悪魔は敵だ敵だ敵だ!!」
「いやまぁ、そうだけどさ……お前」
「我輩はフィニクス、不死の鳥なり! 我輩はフィニクス、我翼は業火の火なり!
我輩の翼で塵にしてくれようぞ!! 燃えてドラゴンーーーー!!!!」
「お前……お前鳥じゃねえの?」
リードの見た明るい赤の正体は大きな、それは大きな、数字で言えば五メートルを超える怪鳥であった。廊下はそれほど広くない。
けれど、短く羽ばたくだけの広さはある。翼を広げれば十メートルは軽く越すだろう。フィニクスは火で包まれた巨大な翼で一振りした。するとリードはたまらず吹き飛ばされる。服と、足の一部が少し焦げた。
今持てる魔力でできるだけ防いだが、神クラスの天使の攻撃は一筋縄ではない。
「すげー強度の火だな。業火っつうのは伊達じゃないな……」
「おう! おうおう! 貴様の名を聞いていなかった。貴様は何という? いや、やめよう。悪魔は敵だ。敵だ敵だ。貴様の名など知らん。だが何故だ? 貴様からは天使の匂いがする。何故だ何故だ何故だ何故だ!?」
「あん? 知ったことじゃねえや。ちっとコイツらの武器借りるぜ」
そう言ってリードは自らがさっき殺した天使から弓形の武器を奪った。
「魔力は足りないが一気に片付ける」
瞬間、火の翼がリード落ちる。
「おうおう! 遅いわ悪魔め! 我輩の火に潰されるがいい……ぬう?」
フィニクスは確かに敵を潰したはずだった。
だが、死体のかけらはどこにもない。人間なら翼がぶつかる前に燃え、攻撃が当たれば粉微塵に体が/吹き飛ぶ。どこにもない。
「ディレイ・エルゥ」
ズカズカとフィニクスにいくつもの矢が刺さる。
「コーラス・エルゥ」
フィニクスの体に、広範囲に威力が伝わる。
「ディストーション・エルゥ」
より激しく歪んだ痛みが、フィニクスを襲う。
火の勢いが弱まる。フィニクスは耐え切れずに身を倒してしまう。
「おうおう。何事だ。我輩、貴様を倒したと思ったが?」
「俺の速さを舐めてもらっちゃ困るね」
「弱体化したと聞いたが?」
「その情報古いぜ。俺は悪魔だ。能力なぞ喰って吸収したさ」
「……なるほど。悪魔とは厄介だ。我神の敵になりうる存在はやはり貴様ら悪魔というわけだ。百年経っても千年経っても貴様らと我輩らは相容れぬ」
リードはエルゥを喰った。つまりエルゥの全てをリードの中に吸収したのだ。魔力を吸収したにもかかわらず万全でなかったのは、エルゥの能力がリードに負荷をかけたからだ。
エルゥの時間操作能力は魔力を多く要する。発動してもしなくてもだ。天使の能力を無理やり悪魔の能力にした代償はそこにかかる。
「なに。相容れないものなんてどこにでもある。だからこそ意義があるものだってあるんだ。俺はお前がいたからこそお前の敵でいられたのさ」
「ぬう。綺麗事を。勝つことだ! 勝つことだけが自身を決める。勝つことだけが理を決める! 勝利だ! 勝利だけが成長なのだ。勝利だけが栄光なのだ!」
「プライド高いねえ……」
「おう! おうおう! 貴様は勝った。我輩に勝利したのだ! 我輩に勝利したということは、天使に悪魔が勝ったのだ。悔しいがな、誇っていいぞ! わはははは!」
「……そうだな」
「名も知らぬ悪魔よ、与えよう! 勝利だ! 我輩は勝利を望む! さあとりたまえ、我が魂を前に進め!! 燃えてドラゴンーーーーーー!!!!」
フィニクスの体は爆散した。リードは残ったフィニクスの魂をゆっくりと掴んだ。
リードの体を包む火の鎧は、こころなしか龍のそれに似ていた。
フィニクス