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14/21

罵り

9/22 めっちゃ久々更新


 八月にさしかかると高校はもうすでに夏休みとなっていて、あとは家でゴロゴロするか、外で遊ぶか、という、まあ勉強もしなくちゃいけないんだけどそれはまぁあとでいいんじゃないかな? ていうのが私の持論というか、モットーというか。


 まあまあ言っても、ただ単純にやるべきことを先延ばしにしているだけなんだけどね。


 勉強なんて今やらなくても死なないし、出来てなきゃいけないときに出来てりゃそれで良いんじゃない?


 まあまあまあどうでもいいことだけどね。


 で、何故私がこうやって説明しているのかと言えば、今話、私、三谷桜子が語り部になったということで、いえ、私目線から見た今回というか……そんなことなのである。


 夏島君の考えていることから説明するには面倒というか、なんというべきか。実際彼が関わった事件、といっても一つしかないけど、どうにもこうにも彼本位というか、主役なんだからそれでもいいんじゃない? って訳にもいかない気がするんだよね。


で、このクソ暑い中で何が起こるというのか。


 いや、別に何も起きて欲しくはないんだけどね。





















 地下室に降りてみた。この部屋は涼しくて気持ちがいい。勉強をするときも、少し落ち着きたい時にもここに来るのが私は好きだ。


 私の今の気分では本が読みたい。本の種類はなんでもいい。とにかく読みたいのだ。図書館のように連なった本棚をゆっくり歩いていると、ふと、目に入った。


「人間創生? なんだ、この本」


 手にとって読んでみる。本は割と厚くて、私の片手じゃ数秒しか持てなかった。


「えーと、なになに? 『人間が作られたのは天使の研究のため』? なんだそりゃ」


「『なんだ』とはなんだ。それ、至極本当に書いてある本だぞ。なにせ悪魔が著したやつだからな」


「へー、そうなんだ……へっ! 誰!?」


 さも当然のように本棚と床に腰掛けて本を読んでいる人物がいた。


 いや、人じゃないか。


「びっくりした。夏島君か」


「そうそう、夏島君ですよ。不法侵入してるからって手にバット掲げないでくれる? いかに悪魔だろうと俺、弱体化してるからソレやられたら数時間まともに活動できなくなっちゃう」


 うるさい。


 不法侵入には変わりないんだからそんなに冷静に対処すんなし。


「夏島君は私のうちでなにやってんの? 盗み? 暴力? 殺人? そういうのはやってほしくないんだけど」


「どれもやらねえよ。とりあえず調べもんだ。魔界に帰るのは……まぁ、できなくはないけど追い出されたに近いしな。普通に帰ったら蜂の巣にされかねないし」


 と、夏島君が遠い目をして宙に言葉を吐いた。


 へえ。魔界はどうやらコワイところのようだ。


「ふうん。で、なんで追い出されたの?」


「知らねえ。濡れ衣着せられて人間界に逃げてきた」


「……知らないうちに何かやらかしたんじゃない?」


「何もしてねえよ。副隊長は死んじまったのかねえ」


「副隊長?」


 魔界ってのは軍隊なのだろうか?


「ああ。ほんとに最悪だよ。隊長初日に副隊長殺されて、濡れ衣着せられて、ろくな準備もなく人間界に来てこんな弱体化して……俺が何したっていうんだ」


「思ったより酷いね、それ。なんか嫌がらせみたい」


「みたいじゃなくて嫌がらせそのものだよ。絶対何かおかしい。家が落ちぶれたのもそうだ……なんで唐突に父上も母上も金に執着した? 弱体化?」


「どうしたの?」


 私は聞く。


「いや、俺たちは悪魔だ。力に執着するのはわかる。それは悪魔の常識だから」


「ふうん」


「で、俺の両親は急に金に執着した」


 お金に?


 ……まるで人間みたいだ。


「金なんて……これじゃまるで人間じゃないか。悪魔の力が弱体化して人間に近づいたみただ」


「ん? 弱体化すると、悪魔って人間に近づくの?」


「詳しいことは割愛するけど、力がなくなるにつれて人間に近づいてしまう。これは天使もそうなんだけど……でも、何が原因で?」


「うーん。あれじゃない? 人間が近くにいたとか」


「それはないけど……あ、アイツ」


 アイツ?


「アイツって誰?」


「アイツは……」


 と、そこで地響きが聞こえた。地響き? いや、これは地震だ。すごい揺れてる。思わず私は体勢を崩して倒れそうになる。


「おっと」


 倒れそうになったところで夏島君が私を支えてくれた。華奢であるのに、筋肉はあるんだなぁ、なんて考えてしまう。


 しばらく。


 といっても数秒な気がしないでもない。


 地震は続いた。


「びっくりした。最近地震なんてなかったから驚いた」


 収まったので夏島君から離れる。


「違う」


「え?」


「地震じゃない……探してやがる」


「誰が?」


「天使達だ。あいつら血眼で俺を探してやがる」


「? 何で? 夏島君は魔界で事故ったんでしょ。なんで天使さんが探しに来るわけ。おかしくない?」


 そう私が夏島君に聞くと、彼は私を引き寄せて地下室の影へ移動しながら言った。


「知らねえよ。おおかたあのクソ天使がやってるか、魔界側が俺を探しに天界に頼んだんだろ。魔界は今仕事がたくさんあって人手不足なはずだ。やむおえずってこともあんだろ」


「……ふうん。悪魔ってちゃんと仕事してるんだね」


 私は内容そっちのけで素直に感想をポロっとこぼしてしまった。


 だって、おかしいじゃない?


 悪魔のイメージ壊れちゃうって。


「そうですわよねえ。悪魔が仕事だなんて……ちゃんちゃらおかしいですわよねえ」


「――っ!」


「なっ――」


 そのとき、真っ白な天使が本棚の上から綺麗な声がした。


「クスクス。面白いものですわ、悪魔の方が天使よりもバカ真面目に仕事なさるんですもの……本当に仕事がお好きなのね」


「ふん。仕事が好きなんじゃない。お前らが仕事するよりもこっちがやる方がうまくいくんだ。天使の仕事ぶりは大雑把すぎる」


「大雑把とはよく言いますわ。人間ごときに真剣になるのは不愉快なだけです。だから、今回の仕事も不愉快極まりません」


 天使は自分の装飾を撫でるように見て、爪なんかもチェックしながら言う。本当に、本当に興味なさげな格好だ。


 て、仕事?


 天使がこんなところに何の用?


狙いは夏島君……じゃない?


わたくしは天王の勅命できたのです、リード」


「俺を捕まえに来たのか? ろくに力も使えないから今のうちにか?」


 夏島君の質問に天使はおかしそうに答えた。


「まぁ、似たようなものです。勅命としてはあなたを捕獲することですが、天界に勅命とはいえ天使が悪魔を天界に連れ込むのはよろしくないのです、リード。というか、私が人間が嫌いなので本当は触れたくもありません、毛皮らしい」


「……へえ」


「それに、弱っているとはいえ悪魔の力は凄まじい。私で抑えられるかわからないので――」


 ので?


 と、その時私の体がふわりと浮いた。


 いや、表現が正しくないかもしれない。浮いているのは天使で、夏島君の後ろにいた私はゆらりと天使に抱かれていた。


驚いた。瞬きしたかのように一瞬で景色が変わってしまっていた。


「ので、三谷桜子を人質にとります。さあフリードリヒ、天界に来なさい。さもなければこの人間はにえです」


「お……まえ……」


 夏島君は絶句する。


「クスクス。いい顔をしますね、リード。あなたの怒った顔は私にとってとても娯楽なのですよ、フリードリヒ・クラム・ジズ」


「てめぇ!!」


 夏島君は天使に詰め寄る。私を掴もうと手を伸ばして、そして。


「ぐあっ!」


「ただの人間が私にかなうとでも? まともに突っ込んでくるお馬鹿さんに、私は捕まりませんよ」


 夏島君手は私に届かず、天使の羽の風圧で吹き飛ばされる。


 てかここ、私のうちなんだけど。本が吹き飛んでるんだけど。


「ああ、掃除が大変なことに……」


「あら、三谷桜子。別に良いではありませんか。人間は汚い生き物です。だからこうして汚い部屋になっていても何も問題ありませんわ。どうせ汚れているのですから」


 ……この人なに言ってんだろ……いや、天使だっけ。


「く……そ」


「ああ、いい顔ですわいい顔ですわ。――ほら、もっと怒りなさい立ち上がりなさい奇声を上げないさい牙を出しなさい羽を生やしなさい爪をたてなさい使い魔を呼びなさい武器を召喚しなさい! ほらっほらっ! もっともっと感情を露にしなさい!!」


 ホントウに、この天使はなにを言ってんだろうか。


「クスクス。ああ、本当に楽しみですわぁ」


 そういうと、夏島君をその場に残して私は天使に抱かれて光に消えるのだった。


 何もできずに。



罵り

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