ノボルうわさ その終
6/26 更新
私、緑木葉子はダメな子だ。
ごくごく平凡な家庭に生まれ、平々凡々に過ごし、つらつらと特技も何もなく生きてきた私には友達がいなかった。
小学校も中学校でも一人。合う人などおらず、他人は私にとって知人であった。決して、友達などではない。
話すことはあれど、一緒に出かけることはあれど。まぎれもなく私にとっては赤の他人。感動も感情もない。
けれど私も人間であるので感動も感情もなくはない。孤独になる勇気がない私は、人間のフリをしていた。笑ったり、泣いたり、喜んだりと。
そして高校。
高校生になって私は人間になった。蒼園奏子という人間を愛したためだ。
理由はわからない。
ある日突然、彼女のことが好きになっていた。確かに同じクラスになったこと、話したことはあったけれど、どれもこれも赤の他人と同じレベルであったのに、私は彼女のことが気になって仕方がなくなっていた。
結局のところ、高校でも友達はできなかった。奏子は私にとって友達ではなく、それ以上のものであり、それ以外の存在は私には不必要だったのだ。
一緒に出かけるたびに、話していくうちに、触れていくたびに、少しずつお互いの距離が近づいてゆき、どんどんどんどんとお互いがお互いを依存していた。
運命の赤い糸でつながっていると思っていた…………そう思っていた。
気づいてしまった。
奏子は私ではない、他の男を愛していた。奏子がその男を目にするたびに、その感情を吐露するたびに私は悔しかった。
あの男。夏島という男子を。
彼女は私を裏切った。
憎らしいほど愛しているのに、愛するほど憎い。
許せない。
「愛に裏切られたのですね」
「え?」
「見えますよ。あなたの嫉妬の嵐。絶望の氷河。壊された蜘蛛の巣ようなあなたの心が。魅力的な色合いが」
「あなたは、誰、ですか?」
「誰でも良いでしょう。差し上げましょう、復讐する力を。愛しているのなら、殺したいほどに愛しているのなら、殺してしまえばいい。そうすれば、彼女は永遠にあなたのものですわよ」
私はホントウにダメな子だ。天使のようなその光に、私はその身をゆだねてしまったのだから。
そして、私は奏子を抱きしめたまま自らの重みに押しつぶされた。
まるで、脚をちぎられた蜘蛛のような無様な魂で。
事の顛末として、蒼園奏子の件は一家心中として処理された。もともと家庭に問題ありな部分や彼女自身自殺未遂が何度もあったらしく、あっさりとケリがついたようである。
緑木葉子について、彼女は自滅した。
愛に押しつぶされたか、はたまた自身の罪深さからか、魂は俺が駆けつけた頃には消えていて、死んでいた。
学校側はそれを表沙汰にはしなかったようで、どうやったか知らんが情報を隠匿、都合の悪い部分は書き換えて、事件後一週間目の今日にはきれいさっぱり何もない。
教室の休み時間。机で伏せていると声が降ってきた。
「夏島君。僕たちが見たのは一体何だったんだろうね」
「どうした淡島。いつものキャラが崩れてるぞ?」
「あのねえ夏島君。僕だっていつまでもふざけてる訳じゃないし、バカをやるわけじゃあないんだよ」
ふうん。と俺は鼻を鳴らした。
なんだ。真面目なことも言えんのか。
「ただの噂だよ。登る噂。気持ちが煙突から出た煙のように上がって、それが雲になってしまうんじゃないかっていう噂」
「なにそれ? 夏列島君」
「三谷。確かに島だけれど俺は夏島だ。そんなに無理やりに入ってこなくていいよ三谷は」
全くもって強引な女だ。遠慮というものがない。
脈絡もないから読者が困惑するし、なにより意味がわからん。
「ヒド。か弱い女子高生に向かってそんな……」
「どんな設定だよ。そんな設定は更新されません」
「で、何の話だっけ? ああ、煙突から出た煙の話か」
無理やりすぎる!!
「……煙突から出る煙のように、人間から出た噂が広まって、煙が雲にみえるように、噂が現実になってしまうんだよ。雲が空を覆い隠して太陽を隠すように、緑木葉子の憎しみが蒼園奏子への愛を隠してしまった」
「登る噂。雲が蜘蛛?」
「言葉ってのは難しいようで簡単。簡単のようで難しい。気持ち一つで良くも悪くも現実にしちまう。ま、それを助長してんのはいろいろだけどな」
今回は面白おかしくした天使の仕業だったけど。最後までうまくいかなくてざまあみやがれ、あの堕天使がっ!!
「ん? うん?」
俺の顔から何かを感じたか三谷が頭を傾ける。
「なんもない。登る噂が落ちた現実になったなって」
悪魔が人間になったように。
ノボルうわさ その終