婚約破棄?悪役令嬢ゴリラは動じない
「公爵令嬢ゴリラ! お前との婚約を破棄する!」
王宮の晩餐会、第一王子ゴリラの咆哮が轟いた。
たくましい胸筋を叩き鳴らす王子。
その傍らには、可憐に寄り添う男爵令嬢ゴリラの姿があった。
「ゴリラ様はひどい方ですわ! わたくしを階段から突き落としたのです!」
涙を拭うフリをしながら、己の分厚い胸板を叩いて被害を訴えるゴリラ。
対する悪役令嬢は、優雅に腕組みをしたまま見下ろした。
「あら、証拠はあるのかしら? わたくしが本気を出せば、突き落とすどころか壁を突き破っていきますわ」
ゴリラはそう言うと、近くにあった全高三メートルの巨大な石像を片手で持ち上げ、粉々に粉砕してみせた。
会場の貴族ゴリラ達が「さすが公爵家……」「物理的説得力が凄すぎる……」とざわめくなか、王子は胸を張り直した。
「口答弁は無用! 正義は我が拳にあり!」
修羅場が物理的な殴り合いに発展しかけたその時……静かに間に割り込む影があった。
公爵家の執事ゴリラである。
「皆様、お鎮まりください。……真実を知るための『聖なる儀式』を執り行いますぞ」
執事が恭しく銀のトレーの布を剥ぐと、そこには黄金色に輝く最高級完熟バナナが鎮座していた。
「嘘をつく不義の者に、この至高の甘みは理解できませぬ。真実を知る者は、己を賭けてこのバナナを掴み取るのですぞ!」
「「「バナナ………!!!」」」
その瞬間、言葉による議論はすべて消し飛んだ。
王子ゴリラ、公爵令嬢ゴリラ、男爵令嬢ゴリラ、貴族ゴリラ、全ゴリラが眼光を鋭く光らせる。
「ウホッ!!(あれは渡さん!)」
「ウホホッ!!(わたくしのものよ!)」
「ウホホホホッ!!!(これは渡しませぬぞ!)」
理性を捨て去ったゴリラ達が、一斉にバナナへ向かって突進する!
ドレスを破り捨て、タキシードを吹き飛ばし、会場内を縦横無尽に跳びまわる大乱闘。
もはや婚約破棄も濡れ衣も関係ない。
そこにあるのは「一番強い奴がバナナを喰う」という原始の掟のみであった。
数十分後―――。
ボロボロになった会場の中心で、一番大きいバナナを山分けした全員が、肩を組んで笑顔でバナナを頬張っていた。
「美味いな、ゴリラ!」
「ええ、ゴリラ様! 争いの後のバナナは格別ですわ!」
「ウホホ〜イ!」
こうして婚約破棄の泥沼劇は終わり、会場は全員が笑顔で踊り狂う『ゴリラパーティー』へと変貌を遂げたのであった。




