ご、ごきげんよう...
ご、ごきげんよう…
最近貴族になった成金の娘が来た
私に貴族の礼儀作法の指導を頼んできたようだ
彼女はそうだっけ言って
決まりが悪そうにオロオロしている
目も泳いでいる
汗も滲んでいる
ハシタナイ
彼女が来て数日たった
思った以上に素養があった
言われたことを、言われた通りにできるだけでも
及第点である
だが、しょせん成金の娘
本物には及ばない
彼女とは指導時間以外でも話をするようになった
ある日、彼女が幼いころ村でよく食べていた、
石ころのような黒パンを
もう一度食べたいっと言った
正直言って、いつも柔らかいパンしか選ばない私には、あまりにも遠すぎる話だ
やはり、私と彼女ではあまりにも距離があるのだ
日に日に彼女は令嬢になっていく
やがて帰る日が来た
令嬢は言う
父の本心は、大貴族である貴方と私が懇意になることだったのでしょう
ですが、どうやら父の願いは叶わなかったようですね
私も、実を言うと
貴方の「真意」らしきものに気づいてしまってからは、
「お付き合い」というものがとても興味深くなりました
ですが、それは貴方ではない
貴方もきっとそう思っているのでしょう
彼女の眼は凛々しくも、確実に私を絡めとっていた
そう言って彼女は馬車に軽快と乗り込み、
もう一度こちらを見た
もう以前の、辿々しい彼女はいない
ごきげんよう
そうだけ言って、彼女は行ってしまった
私は、動けなかった
ただ、だんだん遠くなっていく彼女の姿を
眺めることしかできなかった
彼女と別れたから10年
どうやら私は婚期を逃してしまったようだ
あの別れの後、彼女と2度と会うことはなかった
石ころは、とっくに齧り尽くしている




