4話「素敵なお茶会を二人で」
「ぼくはアルフレート・ビビア、よろしく」
「こ、こちらこそ……」
うさぎのような生き物は消えた、否、人へと姿を変えた。
そして今、私は王子アルフレートの前にいる。
彼の部屋にて、彼が出してくれた紅茶とお菓子を食べつつ、彼と話している。
「ああそうだ、ルレツィアさん、普通に喋ってくれていいんだよ」
「え」
「ぼくに対しては敬語とか要らないから。ね? あの姿の時みたいに、普通に、気楽に話してよ」
「で、できません! 王子相手に!」
「いいんだよー」
そう言って、アルフレートはティーカップを口もとへやる。ティーカップを傾けてその中のものを飲む、ただそれだけのことなのに、とても優雅に見えた。
一方私はというと、今になって緊張してきてしまって、ティーカップを持つだけでも少し震えてしまう。
「ルレツィアさん、緊張しなくていいよ」
「は、はい……あ、いえ、その……ごめんなさい、お気遣いありがとう」
紅茶を口腔内へ注ぎ、はっとする。
「美味しい……!」
まさに紅茶、というような香りもあるが、それだけではない。それとはまた少し異なった香りがある。心なしか癖のある香りなのだが不快感はなく、むしろ、紅茶をただの紅茶で終わらせない魅力がある。花のような、薬草のような、そんな香りが紅茶そのものに深みを与えている。
少し砂糖が入っているところも飲みやすくてありがたい。
室内にも紅茶のその香りが広がっている。
「きみにはこれから――その魔法の才を発揮してもらえればと思っているんだ」
「……何をさせるつもり?」
「警戒しないで、変なことをさせる気はないよ。ただ、その力を発揮してもらえたらと、そう思っていて」
「そう。分かったわ。でも……王子という身分のあなたがどうして私のところへ? 私たち、会ったことなんてないわよね?」
するとアルフレートは少し黙り、数秒後、真剣な面持ちで発する。
「あるんだよ、会ったこと」
思わずきょとんとしてしまう。
「数年前、あっちの姿で出掛けていた時、賊に襲われて怪我したんだ。それで困っていたら、たまたまきみが通りかかって。魔法で治療してもらったんだ」
「え。……覚えていないわ」
「本当?」
「ええと……」
過去の記憶を辿ってみると……小さな、本当に小さな欠片が、思い出されたような。
「あっ……!」
白いふわふわのうさぎの傷を癒やした。
その記憶が蘇る。
すっかり忘れてしまっていたが徐々に思い出せてきた。
「思い出した! あの時の!」
得たいの知れない嬉しさがあって、想定外に大きな声を発してしまった。
心の色が自然と声に出たのだ。
忘れていたことを思い出せたことへの達成感、だろうか。
「やったー」
にこにこするアルフレート。
彼を眺めていると何となくだが癒やされる。
王子相手にそんなことを言っては無礼かもしれないけれど……。
「あったわね! 怪我したうさぎさんを治したこと!」
「思い出してもらえて嬉しいよ」
「じゃあ、そのこともあって、私のところへ?」
「うんうん」
「でも……また、どうして。それからは会っていなかったわよね?」
「たまにきみの家を覗きに来ていたんだ」
「そうなの!?」
私たちはお茶と共に穏やかな時間を過ごす。
私と王子、その二人という意味では、私たちは初対面とも言えよう。しかし、初対面とは思えないようなほど、心を楽にして接することができる。
彼は魔法を悪く思ってはいないようだし、こうして関わりを持つのも良いかもしれない。
仲良しでいられそうな――そんな気がする。
「ま、これまでは声はかけなかったんだけどね!」
「気づいていなかったわ」
「落ち込んでるみたいだったからさ、つい……放っておけなくて」
「そうだったの、ありがとう」




