2話「不思議な生き物現れて」
事実でぼんやりしていると、窓の向こうにうさぎのような生き物がぽつりと佇んでいた。見た目は完全にただのうさぎなのだが、瞳は美しく、アメジストのような色をしている。宝玉のような眼に見つめられれば吸い込まれるかのようで、私は思わず窓を開けた。
「うさぎさん? どこから来たの?」
声をかけてから「人間の言葉なんて伝わるわけないわよね」と内心苦笑する――が、意外なことが起きた。
「入れてくれてありがとう!」
うさぎのような生き物が人の言葉を発したのだ。
ぴょんと私の胸もとへ飛び込んでくる。
取り敢えずキャッチした。
危うく落とすところだった、危ない危ない……。
「あなた、人の言葉を話せるの?」
「うん! 聞けるし話せるんだ!」
「そう……それは凄いわね。人の言葉が理解できるうさぎさんには初めて会ったわ」
この世には動物のようで動物とは少し違った不思議な生き物もいると聞いたことがあるけれど、実際に目にするのはこれが初めてだ。でもどうしてだろう、そこまで嫌な感じはしない。むしろ愛情が湧き上がってくるくらい。白くてふわふわの小さな身体を抱いていると、いつまでもこうしていたい、というような気分になる。
「きみ、なんだか暗い顔してたよね。何かあったのかい?」
「え」
「嫌な質問だったらごめん……」
しゅんとするうさぎのような生き物。
「そ、そんな! そんなことないわ! ……話、聞いてくれる?」
そう返すと。
「うん! 聞く聞く!」
うさぎのような生き物は笑顔になった気がした。
それから私はベッドに寝転びながらうさぎのような生き物に話を聞いてもらった。主な内容はアドムに関すること。魔法が使えたためにアドムらに拒否されたことなんかを――少々愚痴っぽくなってしまったが――何も隠さず話した。相手が人間であれば明かしづらいことでも相手が人間でなければ迷いなく話せる。
しばらく話をしたら、すっきりした。
「それは災難だったね」
「あーもういやっ! って感じだったわ。何もかも殴り捨てたいくらい!」
「……ねぇルレツィアさん」
「何?」
「きみは魔法使いみたいだし……もしよかったら新しい道を生きてみないかい?」
うさぎのような生き物は真剣な調子でそんな提案を贈ってくれる。
でも掴めない……何の提案なの? 新しい道? まさか、うさぎのような生き物のうちの一匹として生きていく、とか? いや、でも、それはさすがにぶっ飛び過ぎているように思うし……。
「新しい道って……どういうこと?」
「きみが魔法で人々を笑顔にしたいと思っていることは知っているよ。なら、その力をもっとたくさん使える場所へ行く方が、きみはきみらしく生きられる――そう思って、ね」
魔法で人々を笑顔にしたい。
その気持ちを知っているなんて。
どこの誰なの?
前に会ったことがある?
「具体的には?」
「きみを城へ連れていくよ」
「えええ!!」
驚きのあまり大きな声を発してしまった。
「……ご、ごめんなさい、急に」
「ううん大丈夫」
「で、でも、城へって……ごめんなさい、話が理解できないわ。どうして城なの? どうしてあなたには私を城へ連れていくことができるの? そこで何をさせるの?」
「落ち着いて落ち着いて落ち着いて」
思わず質問を続々放ってしまった。
「ぼくはきみを城へ連れていくことができるんだ、それは、今はまだ言えないけど事情があるからだよ。それについてはまたいつか話すけどね」
「事情があるのね。……じゃ、これ以上は聞かないわ」
「ありがとう」
「それで、いつ出発するの?」
「もう城へ来る気になってくれたのかい!?」
「ええ。それでもいいわ。それに……むしろそのくらいの変化がある方が良いのかもとも思うの」
とはいえ準備する時間が必要だ。
「ありがとう!」
「じゃあまずは親に伝えてくるわ」
「分かった! ぼくはここで待っておくね!」
うさぎのような生き物との出会いから幕開ける不思議な物語。
この道の果てに何があるかは分からないけれど――それでも私は前へと進んでゆくことにした。




