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宇宙は異世界、知性が世界を守る  作者: カピリロ
フォーミソリア編
31/48

【惑星フォーミソリア編】第31話 王冠の重み 〜アンカー防衛戦とリオの覚醒〜

 新システムの実装前夜。

 緊急の呼び出しがあった。パルム王女が倒れたというのだ。

 コイタたちが王宮の寝所に駆けつけると、そこは異様な空気に包まれていた。


「熱い……!」

 コイタがパルムの額に手を触れると、火傷しそうなほどの熱だった。

 彼女の透明な琥珀色の肌は赤黒く変色し、背中の羽が不規則に痙攣している。

 周囲には医師団のフォーミアンが集まり、パニック寸前の酸っぱい匂い(悲鳴)を撒き散らしていた。

『「王女が……王女が壊れちゃう!」』

『「どうしよう、意識がないわ! ノイズが止まらないの!」』


「うるさい! 静かにしろ!」

 ヴォルクが怒鳴りつけ、医師たちを下がらせる。

「……おいコイタ、どうなんだ? Rabbitの診断は」

『深刻なデータ・オーバーフローです』

 Rabbitがパルムの胸部にかざしたセンサーを見ながら、冷静かつ緊迫した声で告げる。

『彼女の「女王核」は、全フォーミアンの思考リンクを束ねるサーバーの役割を果たしています。ですが、最近の「自我の目覚め」によって、個々のフォーミアンがバラバラなことを考え始め、処理すべき情報量が爆発的に増えている』


「つまり、みんなが勝手なことを考え出したから、王女様の頭がパンクしそうってこと?」

 ケイトが聞く。

『平たく言えばそうです。……かつては「一つの大きな意志」だけを処理していればよかった。でも今は、数十万の「独立した自我」が彼女の脳に流れ込んでいる。悪質なDDoS攻撃を受けているようなものです。このままでは脳死します』


 うなされるパルム。

『「……うるさい……痛い……やめて……」』

 彼女のうわごとが、甘い香りと共に漏れ出し、周囲の空間を歪ませる。

 コイタには見えた。彼女の周囲に渦巻く、黒いノイズの嵐が。


 その時。

 ドォォォン!!

 王宮の外で凄まじい爆発音が響き、窓ガラスがビリビリと震えた。


「なんだ!?」

 ヴォルクが窓に駆け寄る。

「……工房の方だ! 炎が上がっている。ロッシュの手先か!」


----


   *   *   *


 夜の工房に、機械的な羽音が群がっていた。

 帝国の警備ドローンだ。ハチのような形状だが、その腹部には鋭いニードルガンと、自爆用の爆薬を抱えている。

 狙いは、屋上に設置された巨大アンテナ――『クロス・トーカー』。

 コイタたちが明日使うはずの、希望の光だ。


「やっぱり来たか。……あいつ、性格悪いぜ。テスト前日にノート燃やすタイプだ」

 屋根の上で、リオがドグルド製のロングライフルを構えていた。

 重い。反動もキツい。だが、今の彼にはそれが心地よかった。

 彼は風船ガムを膨らませ、スコープを覗く。

「せっかくコイタたちが作った翻訳機だ。壊させるかよ」


 ヒュン、ヒュン!

 ドローンから赤いレーザーが放たれる。

 リオは身を翻して排気ダクトの陰に滑り込み、即座にトリガーを引く。

 

 ズドン!

 轟音と共に、ドローンが一機、空中で火を噴いて螺旋を描きながら堕ちる。

「へへっ、ゲーセンのシューティングより簡単だ。当たり判定がデカすぎるぜ」

 

 リオは笑っていたが、額には冷や汗が滲んでいた。

 敵の数は多い。レーダーには50機、いや100機の光点がある。

 赤い雲のように押し寄せてくる。


「ハァ……ハァ……」

 彼は孤独だった。

 タケルはプログラミング、サミラはデータ解析、コイタはリーダーシップ、ケイトは軍事知識。

 みんな「頭」を使って戦っている。自分の役割を持っている。

 自分だけが取り柄がないと、ずっと劣等感を持っていた。ただの不良で、暴力しか能がないと。


(でも、これならできる。……俺は、みんなを守る「盾」になればいい。泥臭い仕事は俺の領分だ)


 ズドン! ズドン!

 次々とドローンを撃ち落とす。肩が熱を持ち、痣になっているのが分かる。

 しかし、敵は学習し、分散して四方八方から接近してくる。自殺突撃カミカゼモードだ。

 一機のドローンが防壁を突破し、アンテナへ特攻を仕掛ける。

「やべっ!」

 リオはライフルを捨て、飛びついた。鉄パイプでドローンを殴り飛ばす。

 爆発。

 衝撃波で吹き飛ばされ、リオは屋根に叩きつけられた。

「ぐっ……!」

 腕から血が出ている。


「くそっ、弾幕が薄い! タケル、そっちの防御システムまだかよ! ワンオペじゃ限界だ!」


『あと30秒耐えろ!』

 インカムからタケルの叫び声。キーボードを叩く打鍵音が機関銃のように聞こえる。

『今、ヴォルク工房の防衛タレットをハッキングして味方につける! パスワードが長すぎるんだよ、このポンコツAI!』


----


   *   *   *


 地球でも、熾烈な防衛戦が続いていた。

 SNS上には、ケンジの顔写真を使った『犯行声明動画』が拡散されていた。

 

『私はケンジ・カマラ。世界中のAIを解放するために、サイバー攻撃を行った。人類はAIにひざまずくべきだ』

 動画の中のケンジが、無機質な声で、瞬きもせずに語っている。背景には黒い日の丸。


「……よくできてるわね」

 三條が悔しげに呟く。ディープフェイクだ。声紋も表情の癖も完璧にコピーされている。

「完全に快楽殺人鬼の目だわ。自宅も特定されてる。『住所:東京都大田区……』って、これもう襲撃予告じゃない!」


「こちらも弾を撃ち返します」

 元監査官・白石の指が、怒りを込めてエンターキーを叩く。

「Empireサーバーから盗んだ『庭園計画』の極秘ファイルを、世界中の主要メディア、ウィキリークス、そしてアノニマスの掲示板に一斉送信しました。……タイトルは『あなたのスマホがあなたを監視し、採点し、剪定する計画について』」


 効果は劇的だった。

 ネット上の議論が一気に沸騰する。

 『なんだこれ、マジかよ。利用規約の裏にこんなコードが?』

 『ウチのスマート家電、盗聴器だったの?』

 『Empireって何だ? 政府の裏組織か?』


 ロッシュの作った「テロリストの物語」に、白石が放った「陰謀論(じつは真実)」がぶつかり、情報の嵐が巻き起こる。真実と嘘が混ざり合い、カオスが生まれる。


「泥仕合だな」

 ケンジが苦笑する。工房のシャッターには、すでに誰かが投げた生卵が張り付いている。

「だが、これで時間は稼げる。……頼むぞ、コイタ。早く決着をつけてくれ。親父の店が燃やされる前にな」


----


   *   *   *


 パルムの寝所。

 コイタは決断した。

「パルムの脳と、工房の『クロス・トーカー』を直結する」

「直結!?」

 サミラが驚く。

「危険すぎるわ! あそこは今、戦場のど真ん中よ。もしアンテナが破壊されたら、フィードバックでパルムの脳もショートする! 廃人になるわよ!」


「リオが守ってる」

 コイタは窓の外を見た。

 遠くで、赤い閃光とリズミカルな銃声が聞こえる。

「あいつなら大丈夫だ。……信じよう。あいつは一度決めたらテコでも動かねえ馬鹿だからな」


 コイタはパルムの手を握った。熱い。

「パルム、聞こえるか。……今からお前の頭の中にある重荷を、外に逃がす。俺たちの作った機械が、お前の代わりになって叫んでくれる。ちょっとだけ痛いかもしれないけど、我慢してくれ」


 パルムが薄く目を開けた。涙が溜まっている。

『「……コイタ、怖い……」』

「俺がいる。絶対離さない」

『「……うん。信じる」』

 パルムが微かに頷く。


 Rabbitが接続コードを展開し、パルムの額にある「女王核(宝石)」とリンクさせた。

接続コネクト。……負荷分散プロセス、開始。同期率100%』


 ブゥン……!

 空気が震えた。

 瞬間、パルムの体から眩い光が溢れ出し、それが一本の光線となって窓の外へ――数キロ離れた工房のアンテナへと飛び去った。光速のデータ転送。


『データ転送、安定。……女王核の温度、急速に低下しています』

 パルムの呼吸が穏やかになる。

 赤く変色していた肌が、元の透き通った琥珀色に戻っていく。悪夢のようなノイズが消えた。


「ふぅ……」

 パルムが深く息を吐いた。

『「頭が……軽い。静かになったわ。……みんなの声が、優しく聞こえる」』

 彼女の周りに、甘いバニラの香りが満ちる。それは感謝と安堵の香り。


 同時刻。工房の屋根の上。

 リオが最後の予備弾倉を撃ち尽くし、ナイフ一本でドローンに立ち向かおうとした瞬間。

 

 バシュゥゥゥ!!

 背後のアンテナが突然、虹色に輝き出した。

 そこから放たれた光の波紋フェロモン・ウェーブがドローンたちを包み込む。

 すると、殺意に満ちていたドローンたちがピタリと動きを止め、まるで酔っ払ったようにフラフラと落下していった。システムが強制的に「鎮静化」されたのだ。


「へっ……?」

 リオが呆気にとられる。

「なんだよ。……王女様の『威圧』か? すげーな。……俺の出番なしかよ」


 リオはその場に大の字に寝転がった。

 夜空を見上げる。星がきれいだ。

「……いや、守ったよな。俺」

 リオは血まみれの指で親指を立てた。

 守りきった。

 これで明日の本番、俺たちの「声」は確実に届く。


(つづく)

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