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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第99話


 翌朝。

 キノト、ミスジ、オオカワの3人がシルバー・プリンセス号の前に立つ。

 その姿は、まるで海に浮かぶ豪邸。


「聞いちゃあいましたけど、こりゃ・・・」

「参った・・・」

「流石はクレール様でありますな」


 三者三様の反応。

 キノトが港を見渡し、


「しっかしまた、よくここに入って暗殺なんざ出来たもんですな。警備兵にも忍が混じってやがる。船の中はうじゃうじゃ居るでしょうに・・・」


「都忍庵は、道場でも1、2の腕の者を送ってくれたと」


 キノトが訝しげに首を傾げ、


「都忍庵? 都忍庵・・・ああ! あのカザマ流やってるって忍術道場か・・・確か、商人とか金のねえ貴族に貸し出し・・・あ、いや、ミスジさん、失礼しました」


「いや、構わない。私が金の使い方が下手だというのは、私自身がよく分かっている」


「じゃあ、相談役でも雇ったらどうです」


「・・・その金がない」


 はあ、とキノトが溜め息をつき、


「後払いで雇って下さいよ・・・じゃ、良いですか、ミスジさん。皆、あんた殺そうとしてきますよ。何としても。殺される前に。この国の信用を失わないように。そこだけ上手くやってから殺されて下さい」


 む! とミスジが顔を上げる。

 きりりと引き締まった顔は、まさに戦場に向かうそれであった。


「もう首などいらぬ。最初から陛下の為、この国の為であればと・・・そうして甘言に踊らされたのだ。そう。陛下の為、この国の為! この首など惜しくはない!」


 これだけ胆力もあり、頭も回るのに、なぜ先の事を考えられないのだろう・・・

 キノトもオオカワも呆れた目でミスジを見つめる。


「じゃあと軽く差し出しちゃ駄目ですよ。レイシクランのお嬢には、絶対に許してもらわないと。それから首を出して下さい。じゃないと、この国は終わりです」


「私が必ずこの国を救ってみせる」


(あんたが原因だ)

(あなたが原因なんです)


 キノトもオオカワも溜め息をつくばかり・・・



----------



 船内のレストラン。


 マサヒデ、クレール、シズク、ラディが並んで座り、後ろにイザベルが立つ。

 対面に、ミスジを真ん中に、キノト、オオカワ。


 オオカワがクレールを見て悲しそうな顔をする。


(あんなに赤い目で・・・くまも出来ている)


 昨晩は泣いて過ごしたのだろう・・・じわりとオオカワの目にも涙が浮かぶ。

 本当は死霊術でこの3人を覗いていたので、ただ寝不足なだけだが。


 マサヒデが頭を下げ、


「キノト先生。ミスジ様。オオカワ様。おはようございます」


 マサヒデが頭を下げると、皆も頭を下げる。


「それで、急ぎのお話とは」


 キノトが手を組んで、並ぶ皆を見てから、目を伏せる。


「うん・・・ミスジさんから、君達に話があるんだ。とても大事な話だ」


「とても・・・余程の要件なんですね。ミスジ様、お聞かせ下さい」


 ミスジが拳を固く握りしめ、ゆっくりと頭を下げる。


「サダマキ殿に刺客を送ったのは・・・私だ」


 は! と皆がミスジに顔を向ける。


「てめえがあ!」「下郎!」


 シズクが椅子を蹴立てて立ち上がり、ミスジの胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 ぎり! と歯を噛み締め、ナイフを抜くイザベル。


「が、ぐ、が・・・」


 マサヒデが静かに立ち上がり、シズクの腕に手を当て、


「シズクさん。下ろして」


「潰す!」


「話を聞いてから・・・」


「口が残ってりゃ喋れるだろお! 他は全部潰してやるよ!」


「下ろしなさい」


 ぎりぎりとシズクが歯を鳴らし、ぱ、と手を離すと、がたん! と転がった椅子の上にミスジが落ちて後ろに転がる。睨みつけるシズクはまさに悪鬼の形相。が、顔とは正反対に、心の中でげらげら笑っている。全部知っているのだから。


「ふー・・・」


「座って」


「ちっ!」


 転がった椅子を立てて、シズクが座る。

 マサヒデも静かに椅子に座る。


「うう」


 クレールがハンカチを出して、目の下をそっと拭く。あの涙が出る軟膏が塗ってあるのだ。

 じわじわ・・・ぽろり。

 がたがたとミスジが立ち上がり、よろけながら椅子に座ると、ぎろりとシズクが睨みつけ、


「ふん! 死ぬ前に遺言は聞いてやる!」


 マサヒデがシズクを手で押さえ、ミスジを見る。


「で。何を話しに来たんです。ただ白状しに来ただけではないでしょう」


 マサヒデの目も鋭く、視線だけで斬られそうだ。

 これは演技ではない。場合によっては・・・と考えてもいる。


「この国の為と思ったのだ」


「カオルさんを亡き者にする事がですか」


「そうだ」


 マサヒデは俯いたミスジを睨みつけたまま少し考えたが、


「・・・分かりませんね。彼女を殺す事が、この国にどう影響するんです」


「彼女のみではない」


「私達全員を」


「いや。君とレイシクラン殿だ」


 やはり排斥派か・・・


「私? 私が何故」


「とぼけないでくれ。君の奥方はもう1人居るだろう。魔王様の娘。姫が」


「えっ!?」


 知らなかったオオカワが驚いて目を丸くした。

 ち、とマサヒデが舌打ちをする。


「失礼しました・・・という事は、魔族排斥派ですか」


 はあ? とミスジが顔を上げ、


「排斥派? あ、そうか。確かにそうも考えられるな。いや、排斥派ではない」


 む? とキノトもオオカワも顔を見合わせる。排斥派ではないのか?

 マサヒデも怪訝な顔をして、


「排斥派に、私達が居ない方が、とか言われたのではないのですか? 教会が国を援助しようとか」


「いや。先日の歌会の後、クラヨシ様にご相談されたのだ」


「何!?」「何と!?」


 キノトとオオカワが驚いて声を上げた。


 クラヨシ=ヒラマツ。現国王の年上の養子。

 現在は参政はしていないが、前王の代は相談役として置かれ、側近として活躍していた。前王はその仕事ぶりを「クラヨシ殿を親とも思う」とも評した程だ。


 現国王の即位に合わせ隠居し、爵位もない。

 爵位の話も出たが、それも自ら辞している。

 無理に隠居させられたわけではなく、自分から隠居を進言し「私の考えは古いから、時代にすぐについていけなくなる。良き者を見繕っておいたから君の目で使えるかどうか見定めなさい」と、国王に現在の御側御用取次役、ヘイシロウ=オカを推薦したのもこの男。


 別に現国王のノブヨシと仲が悪いとか、意見が違うという事はなく、同じ魔族融和の考えを持ち、即位前は応援、援助もしていた事もあり、隠居の際に国債をもらって、現在は何不自由の無い生活をしている。国政にも不満を述べる事なく、満足していると聞く・・・


「馬鹿な!? クラヨシ様に!?」

「信じられぬ! クラヨシ様!?」


 左右からキノトとオオカワに声を上げられ、ミスジが慌てて、


「う、嘘は言っておらん! 本当だ!」


 キノトが指を立てて、


「ミスジさん。よーく思い出して下さい。そのクラヨシ様、何か普段と違う所はなかったですか? 忍の連中は、見た目は全く同じに化けたりするやつがいますよ」


 ミスジが首を振り、


「いや、いや。少なくとも、私の見たクラヨシ様に、おかしな所はなかった。歌会であったし、偽物であればすぐ分かる。見事な歌をさらりと詠まれたし、歌風におかしな所なども」


「あんたの歌会、剣の達者も来ますでしょう? 影護衛で忍連れて来るお方だっているでしょう? 誰も、何も?」


「ああ、勿論」


「馬鹿な・・・クラヨシ様・・・」


 キノトが絶句してしばし身を固めたが、すぐ持ち直し、


「いや! いやいや、ミスジさん。クラヨシ様は融和的な、むしろ魔族は歓迎的な考えの人ですよ。それに、トミヤス君やレイシクラン様を排除などしたらどうなるかくらい、簡単に分かる方だ。頭もボケる年ではありませんよ!」


 ミスジが詰め寄るキノトから仰け反って、


「だが、御本人から・・・トミヤス君もレイシクラン様も、この国の為にならぬと順序立ててきちんと・・・忍を雇う為の金も、クラヨシ様がご用立ててくれたのだ」


「金? なんで金があるのに、クラヨシ様が自分で忍を雇わないんです」


「都忍庵は貴族と豪商にしか忍を貸し出さぬゆえ。クラヨシ様は王族とはいえ平民であるし、商人でもないから、私に代わって借りてもらいたいと。トミヤス家がある限り、この国には魔王の一族、レイシクランの一族が居座る事になるから」


「ちょっと待って下さい! トミヤス家!?」


 マサヒデが声を上げた。道場も狙われるのか!?


「トミヤス家!? トミヤス家と言ったんですか!? 家!?」


 キノトも声を上げ、更にミスジに詰め寄る。


「そうだが・・・」


 がたん! とキノトが立ち上がり、懐から金の袋を出してイザベルに突き出し、


「ファッテンベルク様! 通信だ! 走ってくれ! 冒険者ギルドが近い! マツ様にすぐトミヤス道場に避難しろと伝えるんだ!」


「は!」


 袋をもぎ取るように受け取り、イザベルが「ばたん!」とレストランのドアを開け、船を飛び降りる。

 どさ、とキノトが椅子に座り、頭を抱える。


「何てこった・・・もしマツ様がやられたら・・・この国は死ぬぞ」


「くそ!」


 がん! とマサヒデがテーブルを叩く。

 どんなに急いでマツの居るオリネオに戻っても、10日はかかる。

 オオカワが顔を蒼白にして、


「ミスジさん。トミヤス家の方にも送ったんですか」


「い、いや、私が借りたのは1人だけだ。トミヤス君達を頼むと」


「って事はだ・・・そっちは別に用意してんだ。剣聖の所に送る刺客なんて、とんでもねえ奴に決まってる。トミヤス道場は道場破り歓迎だろ。堂々と入っていける。そして・・・」


 殺される。

 マサヒデ達の胸が破裂しそうな程に高鳴る。


「はったりなら、良いがな」


 がたん! とマサヒデが音を立てて立ち上がったが、キノトが手を挙げて止め、


「トミヤス君。もう間に合わん。君らを狙うのとほぼ同時に事を行うはずだ。君が着くより前に終わってる」


「しかし!」


「カゲミツ様とマツ様に任せるしか、もう手はないんだ。刺客が来ると伝えられただけで十分だ。来ると分かってれば、あの2人ならどうとでも出来るさ・・・そもそも、あの2人を相手に出来る者なら、君が行っても無駄に死ぬだけだ」


「・・・」


 マサヒデは拳を震わせて、ゆっくりとレストランを出て行った。

 キノトはマサヒデの背を見送り、


「ミスジさん。オオカワさん。今日の所は、俺達も一旦引き上げよう。レイシクラン様、まだ、本家の方へのご連絡は控えて頂けますかね・・・また、改めて挨拶に。急いでクラヨシ様を捕まえないと」


 キノトが立ち上がり、早足でレストランを出ていった。

 ミスジとオオカワも、慌ててキノトについて行く。

 がく、とシズクが頭を抱え込んだ。


 ぱん! ぱん!

 クレールが手を叩き、


「急いでクラヨシ=ヒラマツを探すのです!」


「は!」


 何も見えない所から返事がして、レストランのドアが開いた。


「私ら、どうすんだよ・・・」


 シズクがぽつりと呟いた。


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