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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十一章 亡国の危機

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第97話


 翌朝。

 レストランで難しい顔をしたカオルと、皆がテーブルを囲む。


「ミスジ公爵から、刺客が送られてきました」


「何ですって?」


 アルマダの目が細くなる。

 む、とクレールが顔を引き締める。


「外務大臣でしたね。サネミツ=ミスジ」


 は、とマサヒデとアルマダの脳裏に、キノト侯爵の言葉が思い出された。

 ミスジ公爵は怪しいかも・・・

 むむ、とマサヒデが眉をひそめ、


「カオルさん。ミスジ公爵って、どんな方です」


「一言で言えば賢人。古今の文学芸能に通じ、常に穏やかで、争いを嫌い、どなたにも優しく接し、丁寧に、真剣にお話を聞く。ただ優しいというだけでなく、自身の中にはしかと信念を持っていて、そこははっきりしている・・・外務大臣に選ばれたのも、この性格ゆえ」


「ふむ」


「ただ、ひとつ大きな欠点が。人の話を聞くと、意見がころころ変わります。丁寧にお話を聞く所、賢い所が災いし、筋さえ通っておれば、ああ確かに、と簡単に考えを変えてしまうのです。自分の信念の部分に障りがなければ、簡単に意を変えます。謂わば、戦場では素晴らしい将だが、王としては最低。戦術家としては最高だが、戦略家としては最低」


「ほおう」


「陛下はこの点を承知して外交を担当させております。信念に国、ここは譲れぬ、ここはこうして欲しいという戦略、指示をしかと据えさせる。そして、どの国の方とも穏やかで優しく丁寧に接し、持ち前の頭の良さで対応させる。このミスジ公爵のお陰で、この国の外交は非常に円滑に回っております」


 アルマダが紅茶のカップを取って、一口飲み、


「なるほど。賢く口が回り、柔らかく丁寧な態度。その場その場の対応は上手く出来るが、先々の展望は教えられないと分からない・・・本来は政治家向きではないですが、手綱を上手く捌けば便利に使える。政治家としてはそういう人物ですか」


「はい。また、公爵という身分にありながら、財政は非常に苦しい生活をしております。清貧というわけではなく、金の使い方、金の回り方が全く理解出来ないお方です。もし大蔵省におられましたら、この国は財政破綻で潰れておりました」


「ほう・・・金に困っている」


 かちゃ、とアルマダがカップをソーサーに置く。

 クレールが興味深そうに頷く。


「政治家としても貴族としても無能なんですね! でも、個人的にはお友達になりたいお方です!」


「無能って・・・」


 ばさりと切り捨てた言い方に、マサヒデが絶句する。

 カオルが鼻で笑い、


「民間道場の忍を使ったのも、情報省や軍から忍を買う金がないからでしょう」


「なるほど」


 シズクが首を傾げ、


「ふうん・・・で、なんでカオルなの? 多分、忍ってバレたでしょ」


「さ・・・腕はありましたが、素人です。忍と分かったかどうか? 忍と分かっていなければ、私が一番始末しやすく、後腐れもないですし・・・分かっていたのなら、後の仕事の為、忍がいると邪魔と見たか」


 ずずいっとトモヤが茶をすすり、


「まずは、済ませておかねばいかん事がありますのう」


 む? とマサヒデがトモヤに顔を向け、


「何をだ」


「分からんのか? 絶対にやらねばいかん事があろうが」


「む? む? ミスジ公爵を探るのか? あ、陛下に」


 トモヤが呆れた顔で手を振り、


「違うわ! 全く・・・葬式じゃ、葬式!」


「何? 葬式?」


「マサヒデ、本当に分からんのか? 死んだ事にしておかねば、失敗したとすぐバレるではないか」


「あ、そうか」


「それにのう」


 トモヤがカオルを見てにやりと笑う。

 カオルもトモヤを見てにやりと笑う。


「死んだ事にしておけば、カオル殿は好きに動けるであろうが」


「む! 確かに!」


「船の外で皆で喪服を着て、格好つけて海に灰でも撒けば良いのじゃ。で、外に『葬儀につき来客はお控え下さい』と書いて看板を出しておけば、警備兵の皆々様がふれ回ってくれるわ。あれ見よ、おらぬは唯一人。おおついにカオル殿・・・南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


 トモヤが芝居臭く手を合わせ、鼻を鳴らして目を拭う。


「トモヤ様、流石です。では、船員の皆様に口止めを・・・」



----------



 シルバー・プリンセス号の前に、高札が立った。


 『本日葬儀につき来客はお控え願います』


 見つけた警備兵が、何だ? と船を見上げ、詰め所に戻って行く。

 四半刻(30分)もすると、警備兵達が倉庫の前で並んでざわざわと話している。

 アルマダがその様子を窓から覗き、にやりと笑って頷いた。


「はーい! 皆さん、そろそろですよ!」


「はーい!」


 クレールの元気な返事。

 喪服を着た皆がぞろぞろ出てくる。

 船員に変装したカオルが皆の前を順に歩き、


「ささ、これを薄く目の下に塗ります」


 と、軟膏を薄く塗っていく。


「う、う、あえ?」


 すっきりしたハーブのような香り・・・

 と、目が沁みて、ほろりと涙が。


「はーあっ! 目が! 目がぁーっ!」


 ぼろぼろとクレールが涙を流し、ハンカチで目を拭う。


「ふふふ。やはり魔族の皆様でもこれは効くと思いました」


「ああぐっ! カ、カオル殿!? 鼻が! い、痛い・・・」


 イザベルは目よりも鼻に来てしまったようだ。

 が、やはり涙が出ているので良し。

 しかも痛みで尾が巻いている。尚良し。


「さあさあ、皆様。涙が切れぬうちに」


 マサヒデが涙を流しながら、くすくす笑って歩いて行く。


「ご主人様、私の葬儀で笑わないで下さい」


「ふふ、ごめんなさい。皆が泣いてるものだから・・・」


 んん! と咳払いして、灰が入った小さな壺を持ち、マサヒデが歩いていく。

 ドアの前で後ろを振り返り、涙を流す皆を見て、


「ぶふっ!」


 またマサヒデが吹き出す。

 釣られて、皆もくすくす笑う。

 イザベルだけは苦悶の表情だが・・・


「良し! じゃあ堪えて下さい! 行きますよ!」


 かちゃ・・・

 タラップを下りて行くと、すわー、と当たる海風。

 ざわついていた警備兵達が、しん、と静まった。

 みゃーお、みゃーお、とウミネコだけが鳴いている。


 皆が港の端に並ぶと、マサヒデが壺の蓋を開け、さー・・・と灰を撒いた。

 警備兵の1人がマサヒデ達を指差し、


「誰か、死んだのか・・・」


 警備兵に変装したカオルがすすっと警備兵が集まった中に入り込む。


「内弟子のサダマキさんがやられたんだ」


「え?」


「見ろ。皆揃ってるけど、サダマキさんだけ居ない」


「あっ・・・あの人か・・・」


「勇者祭か・・・いや、排斥派かもな。こないだも人斬りシンノスケ、あったろ」


「ああ・・・」


 す、とカオルが手を合わせると、皆も瞑目して手を合わせる。


「女だてらに頑張ってたのにな・・・凛としてるってのは、あの人の事だったな。俺は嫌いじゃなかったぜ」


「俺もだ」


 軽く頭を下げて、するりとカオルが抜けていく。

 アルマダ達のパーティーとトモヤは先に戻って行ったが、マサヒデ達は残って海を向いて立っていた。


「うくく・・・」


「しっ! シズクさん、笑わない!」


「か、帰っていい?」


「もう少し!」


 笑いを堪えてふるふる震えるシズクは、後ろから見ると肩を震わせて泣いているように見えた。ラディがマサヒデを見て、


「マサヒデさん。早く目を洗いたいです」


「わ、私ら、先に帰ろ」


 シズクは眼鏡の下にハンカチを突っ込むラディの腰に手を回し、口を押さえて船に戻って行った。

 イザベルも涙を流しながら、


「これはもはや拷問」


「そんなに鼻が痛いんですか?」


「一呼吸するたびに激痛が・・・」


「もうイザベルさんも戻りなさい。鼻洗うの大変でしょうけど」


「助かります」


 イザベルも涙を拭きながら戻って行く。

 アルマダ達も戻り、マサヒデとクレール2人になった。

 しばらくして、


「今日は、お芝居ですけど・・・」


「はい・・・」


 本番が来るかもしれない。

 いや、あと何十年もしたら必ず来るのだ。


「クレールさん、私の時、泣いてくれます?」


「大泣きすると思います」


「ですよね。私もそう思います。さ、私達も、そろそろ戻りましょう」


「はい」


 マサヒデもクレールの肩に手を置き、目を拭いながらタラップを上がって行った。



----------



 部屋に戻って喪服を着替え、ベッドに座り込む。


 ここまでは良いが、この後はどうするのだ・・・

 何故ミスジがカオルを狙った? 理由に全く見当がつかない。

 次は来るのか? これで終わりか?


 ミスジは排斥派に踊らされただけ?

 わざわざミスジを通さずとも、教会で忍を雇って送れば良いのでは?


 教会ならば何故カオルを狙う?

 マサヒデやクレールではないのか?

 カオルを先に狙っただけか?


(分からん!)


 刺客を送ってきた犯人は分かったが、カオルとの繋がりが全く見えない。

 何故カオルが狙われたかが分からないと、ずっと後手のままだ。

 この辺はミスジの都合だ。雇いの忍を捕えても分かるまい。


 マサヒデ達全員を、というなら話は別だが、ならばカオル1人を始末して帰るか?

 警戒されるに決まっている。

 ここは船なのだ。港を出て行ってしまったらどうするつもりだ?

 余程の愚か者でない限り、やはり狙いはカオル1人。


 そして、大元が分かった以上、もうこの忍を生かしておく価値はない。

 どころか、生かしておくのは危険に過ぎる。

 もし、また来たなら・・・


「・・・」


 マサヒデの鋭い目が、枕の横に置かれた雲切丸を見た。


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