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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十章 忍術道場

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第96話


 黄龍穴道場、縁側。


 マサヒデやアルマダ、門弟らが笑いながら皆に手裏剣を教えている間、カオルはシノと話があると縁側の隅に座った。

 口を手で隠すと、む、とシノがちらちらと周りを見る。

 周りに聞こえないよう、細心の注意を払い、


「お察しの通り、私、情報省の者です」


 こく、とシノが頷く。


「此度はお仕事のお話で参りました。先生でも、門弟のお方でも構いません」


 シノは黙って目で頷く。


「お断りされても特に情報省は問題としません・・・殺しです」


 シノが首を振る。

 ふ、とカオルが笑い、口から手を取って、にっこり笑い、


「申し訳ございません。今のは嘘です」


 んん? とシノが怪訝な顔をして、


「どこが? 情報省? 仕事内容?」


「どちらも。実は先日、私共の宿に忍が殺しに入ってきたのです。おそらく民間道場の者であろうと見当はついておりまして」


「ええ? 情報省でしょ? まあ、聞かないでおきます」


「ふふ。失礼をお許し下さい。こちらはまずないと考えておりましたが、念の為に」


 かくん、とシノが肩を落とし、溜め息をつく。


「うちはそんな事はしませんよ・・・まあ、軍にスカウトされた子達は、色々やってるかもしれませんけども・・・でも」


 シノが頬杖をついて、庭をちらちら見渡す。


「こんな警備が居て、入ってきたんですか? 凄腕じゃないですか」


 レイシクランの忍が見えている。流石だ。


「いえ。皆様、わざと見逃しました。私の訓練の為です」


「あらら」


「まあ、また来ると分かっておりますが、いつかも分かりませんし。こちらから出向いて確かめてみようと」


 ふうん、とシノが生返事をして、庭を向く。


「私、見越して嘘ついてるかもしれませんよ」


「いえ。それはないと私は判断致しました。まあ、そういうわけで最初の予想通り、自称カザマのあの方だと判明したわけです」


 シノが渋い顔をして、


「・・・まあ、あそこが何やってるかは知ってますけどね・・・他の道場に口は出したくないので、ノーコメントです。それがあそこの方針なら、私個人の見解でどうこう言える事じゃないです。けど、勿体ないですよね。私が見た所、カザマの技術、かなり近いんじゃないかなあ、という感じに復元してると思うんですけど」


「私もいくつか使えます」


「えっ!?」


 がば! とシノがカオルを見る。


「例えばこんな」


 さささ! と座ったカオルの姿が3つ。ぎょ! とシノが目を見張る。


「ぶっ・・・分身の、術・・・」


「私程度でも使えます。先生でしたら、簡単でしょう」


「ほら話じゃなかったのか・・・」


 すー・・・とカオルの残像が消えていく。


「この術をお見せした事、先程の失礼の詫びと致しまして」


 シノがきょろきょろを周りを見て、口に手を当て、こそこそ囁く。


(いくつかって言いましたよね。他でも良いですけど、何か技術の交換しません?)


 カオルも口に手を当てて囁く。


(何をお出ししてくれましょう)


(さっきの術と交換でどうです? 伝書ありますから、写していってもらっても)


(ありがとうございます。では、私はとっておきをひとつ)


 んん! とカオルが咳払いして、


(まだ練習中ですが、やり方は心得ております。軽功を応用した技術です)


 うんうん、とシノが頷く。


(呼吸法と丹田への気の流れを、よく見ていて下さい)


 すー・・・ふー・・・すー・・・ふー・・・

 何度もカオルが呼吸して、ぴし! と身体を決め、


(思い切り押して下さい)


 シノが頷いて、ぐ! とカオルを押すと、


「うっ!?」


 さー! と何の手応えもなく、カオルが縁側の端まで滑って行った。

 座っているのだ。床と服の抵抗はあるはず。だが、まるでそれを感じなかった。

 触った感じはあったのに、全く重さを感じなかった。何と恐ろしい術か!?

 シノは手を出したまま固まってしまった。


 カオルが険しい顔のまま、シノを手招きする。

 そそっと歩いて行くと、カオルが青い顔で脇差を抜き、シノに柄を差し出し、斬れ、と手刀を振る。喋る余裕もないようだ。

 うんうん、とシノが頷き、脇差を受け取り、す! とカオルの背中から振る。


「やっぱり!?」


 何の手応えもなく、まるで空振り。

 カオルが座った姿勢のまま、庭の方に、すー! と飛んでいく。

 途中で、


「はあっ!」


 カオルが息をつき、がくりと膝をついて止まった。

 慌てて脇差を置き、シノが駆け寄ると、カオルは顔を真っ青にして、脂汗をたらたら流している。


「大丈夫ですか?」


「はい・・・この術、気疲れが凄くて、中々・・・先生、掴めましたでしょうか」


「うんうん、大体分かった。見えたよ。気疲れは軽功の集中かな」


「そうです・・・はあ・・・ふうー・・・宜しゅうございました」


 シノが肩を貸して、カオルを縁側に連れて行き、脇差も納めてやり、


「ここで休んでて。僕が写し書いてくるから、寝ててね。その顔、どう見てもやばいよ。起きないで休んでて」


「見苦しい所を、申し訳ございません」


「いいから。喋らない。横になって、目を瞑って、呼吸にだけ」


「は」


「声も出さない。呼吸だけ整えて」


 すう、ふう、すう、ふう、と呼吸を整えるカオルを見て、シノが下がって行った。



----------



 帰り道、カオルの顔色はまだすぐれなかったが、気分は上々であった。

 シノが他にもいくつかおまけしてくれて、いくつも技術を知る事が出来た。

 そして、十中八九ここであろうという道場も分かった。予想通りだ。


 マサヒデが馬を並べ、


「カオルさん。気分が悪いんですか?」


「いいえ! 私、今最高の気分です!」


「顔色、あまり良くないですけど」


「ただの気疲れです。それより、先生からいくつも技術を授かる事が出来ました! この程度、どうという事はございません!」


 カオルの勢いが凄い。マサヒデは少し気圧され、


「そ、そうですか・・・なら良いですが」


 マサヒデの馬が前に戻り、アルマダと並んだ。

 カオルは2人の背を見ながら考える。

 あの忍の出自であろう道場が、おおよそ特定出来た。

 もうここまでで良いだろう。どうせ道場に忍び込んでも、帳簿などありはすまい。


 大事なのは、誰が雇って送ってきたか。

 追うか、薬で割らせるか。


 追跡がバレれば分からなくなる。相手は手練れだ。

 薬も、鍛えられた者だと、口を割ったふりで出鱈目を吐いたり自害する恐れがある。


「・・・」


 少し考えたが、やはり追って大元を突き止めた方が良い、と結論した。

 大元が分からなければ、また来る。

 自害されると、完全に糸が切れる。自害されぬように上手く追わねば。

 今回は、教会か、貴族か・・・



----------



 船に戻って、カオルは昨日と同じ部屋に入った。

 まさか昨日の今日で来る事は・・・とも考えたが、相手は実戦慣れしていない。

 ドアの前に立ったまま、どうしたら良いか考える。


(良し)


 頷いて、カオルはレストランに向かった。



----------



 その夜。


 カオルがベッドの下で寝ていると、ドアが開いた。


(ふっ)


 警戒している。

 しばらく待っていると、ふす! とベッドを差した音。


「よし」


 小さな声。

 ベッドの上では、血が流れているだろう。

 血袋と肉の塊を並べて置いておいただけだ。


 すー・・・と侵入者は出て行った。


(愚かな)


 死体を確認せぬとは。技術はあれど、やはり素人。

 す、とドアに身を貼り付け、細くドアを開けて廊下を覗く。

 客室に繋がる廊下のドアが閉まった。


 さー! と音もなくカオルが駆けて行く。

 そっとドアを開けると、倉庫の壁を蹴って登って行く者が見えた。

 警備兵にバレずにあんな真似を・・・やはり技術だけはある。


 さ! とカオルもドアから出て、侵入者を追って行った。



----------



 すたーん! と忍が塀を飛び越えて中に入って行く。


(何!? ここ!?)


 ミスジ家の屋敷!? 外務大臣、サネミツ=ミスジの屋敷ではないか!

 通り道にしただけか? と塀の上に飛び乗り、ささ! と周囲を確認し、慌てて式神が見えるよう目に水を塗り、さささ・・・と忍が走って行った方に入って行く。


 忍を見つけ、ぺたりと地面に張り付いていると、さーと床の下に入って行く。


(ちっ)


 心中で毒づきながら、カオルもそっと床下に入って行く。

 ただ通り道にしているだけなら良いが・・・


「ミスジ様。ミスジ様」


 忍の声が聞こえる。

 考えまい。ただ事実を掴むのみ。


「ううむ」


 小さく寝起きの声。


「ミスジ様。始末しました」


「む・・・ううむ・・・世話を掛けたね。今回は本当にありがとう。もう帰ってくれて構わないですよ。くれぐれも気を付けて下さい」


「は」


 忍の気配が完全に消えた。

 カオルもさっさと退散すべきだ、とするすると床下を抜け、邸内を出て行った。


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