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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第十章 忍術道場

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第95話


 忍術道場、黄龍穴道場。

 ここは正統なイノカシ流の道場である・・・


「どうもお! 黄龍斎=シノでーす!」


 むっすりした顔で、シノが頭を下げる。

 先程はやりすぎた・・・などとは思っていない。

 この男、死ぬかと思った、などと言ってはいたが、余裕があった。

 マサヒデ達は気付いている。


「トミヤス流、マサヒデ=トミヤスです」

「同じく、アルマダ=ハワードです」


 と、皆が名乗っていく。


「トモヤ=マツイじゃ! 黄龍斎殿、宜しゅうお頼み申す!」


 クレールもラディも入って来たが、今回はトモヤも入って来た。

 クレールもトモヤも忍者と聞いて何故か興味津々。

 いつもすぐ側に忍がいるのだが、不思議なものだ。


「はい。皆さん、宜しくお願いします」


 シノがまだ拗ねた顔で、カオルを見て、


「うちで教えてるのはー、イノカシですけどー」


 カオルが忍だとはとっくに気付いているようだ。

 頭を下げ、


「ご見学、お許し願えましょうか」


「まあ、良いですよ。でも、殺さないで下さい」


 カオルがにやりと笑い、


「またそのような・・・先程も驚いたと見えて、随分と余裕が」


「あらっ?」


 シノが苦笑して頭をかき、


「ああ、やっぱり実戦慣れしてる人は違いますよね。バレちゃったかあ」


「ふふふ。あの状況、もし斬られるとなれば、シノ先生はどう対応なされました」


「んんー・・・そうですねえ・・・色々あるんですけど・・・まあ、簡単なのは」


 ぼふん! と煙が上がった。


「おおーっ!」「なんじゃ!?」


 クレールとトモヤが声を上げる。


「こうしたかな」


 お!? と皆が振り向くと、縁側でシノがにやにや笑いながら腕を組んで立っていた。


「に、忍者ですよ!」

「本物じゃ! 忍者じゃ!」


 クレールもトモヤも大喜びしているが、マサヒデ達は冷や汗が出る思いだ。

 煙が上がったのはシノが居た所で、道場全体が煙に巻かれた訳ではない。

 どうやって、一瞬で縁側に!? 物理的に無理ではないのか!?

 だが、忍術は魔術ではなく、身体の技術なのだ。

 そもそも、魔術にも見えない・・・


「すげえ・・・」


 シズクが喉を鳴らし、こつん、とカオルを肘で突付き、


「おい、今の分かるか」


「全く・・・」


 ごくりとカオルも喉を鳴らす。

 これがイノカシ流の後継者の筆頭・・・

 この男はこれを『簡単』と言った。もはや忍の術では格が違う。

 カオルがひたりと手を付いて、頭を下げ、


「参りました」


「ええーっ!? もう!?」


 クレールがまた驚いて声を上げる。

 シノが笑いながらカオルを指差し、


「あははは! またまたー! そんな事言って、何か盗むつもりでしょう?」


「滅相もございません。もはや私とは格が。私、この場におる事を恥じております」


「まあまあまあ。そう仰らずに・・・」


 シノがにこにこしながら上座に戻って行き、


「サダマキさんでしたっけ」


「は」


「手裏剣、見せてもらえます? 興味あるなあ」


「は」


 す、とカオルが棒手裏剣を出して差し出す。


「あ、それじゃなくて。さっき投げたやつ」


「ああ」


 先程は咄嗟に抜いて、両方が尖った形の棒手裏剣を投げた。

 カオルはそちらを出して差し出す。


「へえー・・・珍しいタイプですよね・・・ふうん・・・」


 シノが上座から下りてきて、まじまじとカオルの手の棒手裏剣を見つめる。


「これ、ハンゲツ流で使ってるやつだけど・・・じゃあないですよね」


「は」


「どう見ても我流でもないですし・・・じゃあ・・・」


「・・・」


 シノが黙って頭を下げたままのカオルを見つめる。

 しばらくして、首を傾げて、


「まあ・・・あれかな! ううん、分っからないなあ・・・どこの人かなあ・・・」


 情報省とは気付かれたようだ。


「・・・」


「ううん、どーこの流派だろう。さっぱり分からないなあ・・・」


 首を傾げながら、シノが座に戻る。

 にっこり笑ってクレールとトモヤを見て、


「ところで、せっかくですから、忍者体験でも。手裏剣でも投げてみます?」


「はいはいはーい! やります!」


「おお! やらせてもらえるのか!?」



----------



「これが棒手裏剣」


 じゃらりとシノが手の平の棒手裏剣をクレールとトモヤに見せる。


「はあー・・・」


「マサヒデも使うの。あやつ、最初は金がのうて、5寸釘を代わりにしておった」


「ほおー・・・5寸釘で・・・」


 シノが顔を上げて、マサヒデを見ると、マサヒデが照れくさそうに頭を下げた。


「5寸釘ってハイレベルだよ。箸とかでも出来るけど」


「ええーっ! 箸ですか!?」


「うんうん。ちょっと待ってて」


 シノが回る壁の中に入って行き、箸を持ってすぐ戻って来る。

 クレールに差し出して、


「ほら。持ってみて。普通の箸」


「確かに・・・」


 ほい、とシノが手を差し出し、クレールが乗せる。

 ぼろぼろの畳から1間(約1.8m)ほど離れて立ち、


「まあ箸は軽いから、この辺が限界かな。これ以上は難しいですよ」


 ひゅ! とす! ひゅ! とす!


「おおっ・・・箸が・・・」


「えらいこっちゃ・・・箸も手裏剣になるのじゃな・・・」


 クレールとトモヤが驚いて、畳に刺さった箸を見つめる。


「食べてる時とかにね。襲われたりした時。他に武器がないとか、本当に緊急用。ほら、持ってみて」


「はい」「うむ」


 シノが2人の手に棒手裏剣を渡す。


「ほら。棒手裏剣って、金属でしょ。だから、一応刺さりはしなくても、当たれば、少しはがつーんと来るでしょ」


「あ、確かに」


「箸は軽いから、確実に刺さないとね。こつん、いてっで終わりだから、まあ難しいですよ」


「なるほどー!」


「じゃあ持ち方ね。指をまっすぐ伸ばす」


「ふむふむ」


「で、中指を引っ込める。こうね」


「こう」


「で、そのへっこみに入れるだけ」


 へ、とクレールが顔を上げ、


「これだけ? 何か特殊な持ち方みたいなのはないんですか?」


「ないですよ。これだけ」


「何じゃ。簡単じゃの」


 後ろでマサヒデとカオルがにやにや笑う。


「ふふふ。トモヤ、出来るかな? 1間で刺してみろ。1間だぞ。敵は目の前だ」


 トモヤがクレールに顔を近付け、マサヒデを指差し、


「ちっ! クレール殿、これは難しいのじゃ。見よ、あのマサヒデの顔。カオル殿までへらへら笑っておる。絶対出来んと見ておるわ」


「むむむ・・・」


 シノもにやにや笑って、


「まあ、まずは投げてみて下さい」


「よおし! 行きますよー!」


 クレールが振りかぶり、ぶーん!

 ぼす! からん・・・


「あや・・・」


「ははは!」「ふっ」


 マサヒデとカオルが笑う。


「もーう! 初めてなんですから!」


「うぬぬ、クレール殿、抑えなされ。ワシが投げて刺されば、皆の鼻をあかせるわ。よおし!」


 トモヤが思い切り振りかぶり、野球の投手のようにぶん投げる。


「あっ!?」


 すっぽ抜けて畳の上の壁に当たり、がつん! と跳ね返って、きん、ころん・・・

と棒手裏剣が転がる。


「あーっ!? ととトモヤ様!?」

「し、しまった!? 黄龍斎殿、わざとでは!」


「ははははは!」「あははは!」


「そう笑わんでも良かろうが!」


 ふ、とマサヒデが鼻で笑い、


「おお? 俺達の鼻を明かすのではないのか?」


「ぐぬぬ・・・」


 シノも笑いながら棒手裏剣を拾い上げ、


「じゃあトミヤスさん、お手本を」


「はい」


 すっと手首に巻いてある手裏剣入れから棒手裏剣を出し、


「トモヤ、見ておれ。こう投げるのだ」


 距離2間。これなら余裕だ。

 しゅ! すたーん!


「ほおれ、この通り。ほら、カオルさんもどうです」


「は」


 カオルは棒手裏剣を3本取り出し、クレールとトモヤに見せつけ、


「こうです」


 しゅ! たたたーん!


「おおっ!?」

「うぬっ!?」


 クレールとトモヤが声を上げ、手裏剣が刺さった畳を驚きの目で見つめる。


「ははは!」


 シノも少し驚いた顔で、笑うマサヒデとカオルを見て、


「おお、やりますね・・・」


「まあ、私はそれなりです。カオルさんには敵いませんよ」


「私もそれなりです」


 シノが突き刺さった棒手裏剣を抜いて、マサヒデ達の所に持って来て、


「どのくらいまでいけます?」


 マサヒデは腕を組んで、


「まあ、刺すだけなら3間くらいなら何とか」


「刺すだけなら?」


「トミヤス流の手裏剣術はあれです。糸をぶら下げる方で練習するんです」


「それだと何間?」


「まあ2間なら何とか・・・いけるかいけないかくらいですか」


「2間! やりますね・・・うちなら手裏剣術で黒帯あげたい所ですよ」


「カオルさんは?」


「ううん・・・4間は出来そうな出来なさそうな・・・」


 カオルが首を傾げていると、横からシズクが出て来て、


「私も投げてみていい?」


「だ、駄目ですよ! 壁に穴が開いちゃいますから!」


「軽くだから」


 そう言ってシノの手から棒手裏剣を取り、ひょいとぶん投げた。

 直後、ばがすん! と凄い音が響く。


「・・・」「・・・」「・・・」


 マサヒデとカオルは顔をしかめ、シノは目を丸くして畳を見ている。

 畳には、縦一文字になった棒手裏剣が深くめり込み、もう少しで貫きそうな感じ。


「やったね! 刺さった!」


「あれは刺さったって言わないんですよ。めり込んでるんです」


 トモヤがそっと畳に近寄り、指を入れて、ぐりぐりとやってみたが、


「やあ、クレール殿。これは取れんぞ」


「・・・これもありなんでしょうか」


「当たったら死ぬであろうし、ありではないかと思うのじゃが」


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