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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第91話


 稽古が終わって、日没の時間。


 時間は少し早いが、せっかく来てくれたニシムラ兄弟を夕食にと、レストランへ誘った。緊張した顔で、2人がテーブルに着く。

 オクマツはレストランを見回し、


「ほへぇーっ! これ全部貸し切りっ!?」


「まあ、そうです。クレールさんの家の船なので、貸し切りというのも少しおかしいですが」


「はあー・・・」


「大体の物は作ってくれますよ。ふりかけご飯から、何か良く分からない高そうな物まで」


 オクマツがにやりと笑って、


「へーえ。ま! うちも今は落ちぶれちまったが、一応は貴族だったんだぜ。こう言っちゃなんだが、それなりに舌は肥えてるつもりだ」


 はあ、とキョウイチが溜め息をつき、


「オクマツ。レイシクランのシェフが作る料理だぞ。分かっているのか? 俺達ではまず口にする事は出来ないんだ。国王陛下がやっと食べられるくらいの」


「兄貴、もう言わんといて下さいよ。早く注文しようぜ」


 オクマツはくすくす笑う給仕の方を向き、


「じゃあ、俺はその自慢のシェフにお任せでコースを頼むよ」


「承知致しました」


「私は・・・シンプルな物で結構。そうだな、今はスズキが旬だ。スズキをムニエルにしてもらおう。醤油・・・いや、ガーリックを効かせてほしい。後は任せます」


「承知致しました」


 皆の前に水を並べ、とん、と水差しを置いて給仕が下がって行く。

 くぴ、とオクマツが水を飲み、


「えっ・・・」


 驚いた顔で、オクマツがコップの水を見つめる。


「あっ・・・兄貴・・・この水・・・」


「? どうした?」


「な! 何ィーッ!?」


 大声を出したので、皆が驚いてオクマツを見る。


「オクマツ!? どうした!?」


 がた! とカオルが椅子を蹴立てて、さ! とオクマツの横に立ち、


「毒ですか!? ラディさん!」


「はい!」


「い、いや! 待て! 違うんだ! 美味いっ! ただの水なのか!? 兄貴も飲んでみてくれ! スゲー美味い水だ! 休憩なしで朝から昼まで素振り棒でひたすら素振りして、初めてごくっと飲んだ時みてーな!」


 む? と怪訝な顔でキョウイチが水を口に入れ、は! と顔を変える。


「ほ・・・本当だ!? 確かにこれは美味い! 何と言う銘柄の・・・」


 ふふん、とクレールが得意そうな顔をして、


「うふふ。皆様、味がお分かりになりませんから、分かる方に飲んで頂いて嬉しいですよ! それは魔王山頂上の5万年前の雪解け水!」


「ええっ!? そうだったんですか!?」


 マサヒデが驚いて声を上げる。

 つーん、とクレールが拗ねた顔をして、


「もう! マサヒデ様は味がお分かりになるのに、今まで気付かなかったんですか!?」


「い、いや、普通に美味しい水だなあって・・・」


 ごくっ・・・ごくっ・・・ごくっ・・・


「っつ~~~~~~~・・・うまあーいッ!」


「オクマツ・・・確かに美味いが、大声を出すな・・・」


「いや、こんくらい美味かったんだよ! すげえな! 魔王山頂上の雪解け水う?」


「おーほほほほ!」


 クレールが高笑いして、オクマツが水差しから次を注ぐ。


「これ1杯でいくらすんだろな・・・」


「そういう事を言うな」


「兄貴だって、1泊いくらって聞いてたじゃねえかよおー」


「・・・」


 かちゃかちゃかちゃ・・・

 給仕がワゴンを押してきた。


「おっ! 来たぜ来たぜぇー!」


 皆の前に食事が並んでいく。

 マサヒデ、カオル、ラディの前には米と味噌汁と焼いた肉。

 シズクとイザベルの前には、これでもかという大きなステーキが重ねられた皿と、サラダがボウルごと置かれる。


「あんたら、そんなに食えるのかよ」


 シズクとイザベルが顔を見合わせ、


「控え目だよねえ」

「そうだな」


「・・・あそう? そうなの?」


「そりゃあ、私とクレール様とイザベル様が、毎日腹一杯食ってたら、すぐ食材無くなっちゃうもん」


「そうなんだ・・・」


 給仕がオクマツの前に皿を差し出す。


「何これ」


 クレールがにっこり笑い、


「それはモッツァレッラチーズとトマトです!」


「もっつぁ・・・チーズ? チーズなのか? これ」


「魔の国で生まれたチーズなんですよ」


「おお! 魔の国で! へえー! じゃいただきまーす!」


 ぱくり。むぐむぐ・・・


「うん・・・」


 かちゃ、とフォークを置いて、


「まあ、美味いんじゃないのかなあ・・・うん、美味い。美味いよ。かなり。でもよお、俺も半分魔族っても、この国生まれのこの国育ちだからよお・・・何ていうか」


「オクマツ様、違います! トマトと一緒に食べてみて下さい!」


「トマトと一緒にい~? 日輪国と魔の国じゃ味覚がさあ~」


 ぱくり。


「・・・」


 にやり。


「如何ですか?」


 ぷるぷる・・・

 オクマツが細かく震え出し、皆がオクマツを見つめる。


「こ! これわあ~~~・・・この味はあ~~~!?」


「おほほほほ!」


「美味い! マジに美味い! トマトとチーズがこんなに合うのかッ!? これこそ味の調和だ! 例えるなら! 8代王と首切り十郎! 8代王とお奉行様! 8代王と悪代官!」


 シズクが呆れて、


「全部8代王じゃん」


「それがあって8代王が引き立つんだろーがッ!」


「おい、そんなに美味いのか? 一切れ」


 キョウイチがフォークを伸ばすと、さっとオクマツが皿を取り上げ、


「食いてえなら兄貴も注文してくれよ! これは俺の分! 餓死寸前でも絶対やらねえ!」


「それもそうだな。では」


 キョウイチが手を挙げて、給仕に注文する。

 オクマツはもう一切れ食べて、ぐぐ! と拳を握り、


「くぅ~~~~っ! んーまいっ! 生まれて良かったぜえ~! オフクロが魔族で幸せェーッ! 俺も魔の国の味が分かるんだなあー」


「・・・」


 味に感激するオクマツを、マサヒデが静かに見ていたが、


「つかぬ事をお聞きしますけど」


 ん、とキョウイチとオクマツがマサヒデを見る。


「お父上は亡くなったと聞きましたが・・・お母上は」


「ああ、とっくに魔の国に逃げたよ」


 む、とマサヒデの顔が引き締まる。


「逃げた? もしや、排斥派ですか?」


 オクマツはひらひらと手を振り、


「違う違う。親父について行けなくなって逃げただけ。別に恨んじゃいねえぜ。あんな親父についていけた俺達がおかしいんだ」


「申し訳ありません」


「謝るこたねえよ。オフクロだって手紙送ってくれるし、こっちからも送ってるし、連絡は取ってるよ。全くギスギスしてたりはしねえ。オフクロも出ちまった手前、やっぱ戻って来づらいってのはあるだろうしよ」


 オクマツがにやりと笑い、


「それによ。俺達が鍛えてるのも、出世してえってだけじゃねえ。いっぺんはオフクロの所に行ってみてえからって所もあるんだ」


「何故鍛える必要が?」


 キョウイチがフォークを置き、


「母の実家は、砂漠にある。それも、宝石や油の産地だ。おかげで、平民の割には裕福ではあるが、野盗や泥棒が絶えない。わざわざ他国から泥棒に来る者までいる。一昔前は、血を見ない日がなかったというくらいだ。魔王様が警備を強化してくれたおかげで、戻ってみたらかなり良くなっていた、と聞いてな・・・今のうちにとな」


「今のうち?」


「また野盗の類は増える。魔獣と違い、頭を使うからな・・・追いかけっこさ。俺達は人族の血が濃い。純血の魔族ほど、身体は強くはないからな。母の家を訪ねるには、そういう準備が必要という事だ」


「そういう事。向こうの野盗はおっかねえらしいぜ。あんたらも魔の国に行くんだろ? そういう覚悟はしときなよ」


 そういう覚悟・・・斬る覚悟、と言いたいのか。


「ま、私は大丈夫です。先日も斬りましたし・・・」


 ぐっとオクマツが身を乗り出し、


「おおっ! それよそれ! 人斬りシンノスケ! 聞きたかったんだよ! 聞かせてくれよおー」


「最初から話すと、かなり長くなりますから・・・」


「ああいやちょっと待った! 幽霊屋敷で30人と立ち会ったって話も聞きたかったんだよ! 先にこっち教えてくれよ!」


 む、とマサヒデが顔をしかめ、


「30人? こっちでもそんな話になってるんですか? 実際に立ち会ったのは10人もいなかったですよ」


 にやっとシズクが笑い、


「でも、マサちゃん、真剣相手に、全員木刀でのしちゃったもんねー」


「まじかよ!?」


「でー、斬り合いは最後のセンセイだけ! でも、このセンセイってのがさ、とんでもなくやばかったんだ! 私もビビッて動けなくなっちゃったもん」


「そんなに!? あんた、鬼族でもヤバいって感じる相手だったのか!?」


「そおさ! マサちゃんも最初は・・・」


 シズクが調子に乗って話し始め、マサヒデは箸を取った。

 場は明るくなり、皆も楽しそうにシズクの話を聞いている。

 まだわだかまりがあるのか、マサヒデは何とも言えない顔をしていた。


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