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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第90話


 シルバー・プリンセス号、訓練場。


 緊張した顔で、オクマツがマサヒデ達の前に来る。


「や、やあ・・・どうもー・・・」


 マサヒデが小さく頭を下げ、


「わざわざ来てくれてありがとうございます。先日はニシムラさんの剣は見られませんでしたから」


「ああ、オクマツでいいよ。兄貴も来てるから、ニシムラじゃ分かんなくなるだろ」


 シズクがにやっと笑って、顎に手を当て、


「で? そのオクマツは強いのかい?」


 はあ? とオクマツが呆れた顔をして、


「あのなあ、ここで強いのかって言われりゃあ、まあそうでもないですって答えるしかねえだろ。真剣勝負ってんなら俺は強いぜって言うけどよ」


「あははは! 言うねえ!」


 シズクがカオルの手から木刀を奪い取り、ほいっとオクマツに投げる。


「あんた、私に勝てる?」


「はあー? そんなのやってみなきゃ分かんねえだろうが」


「道場で私見てたろ?」


「そりゃあ見てたよ・・・って何で俺ん所に来なかったんだよ!」


 ふーん、とシズクが横を向き、


「他に人がいっぱい居たもーん。順番にやってたら、時間になっちゃったもーん」


「あ、そうか! うーん、じゃあ仕方ねえな・・・門弟はいっぱい居るからな」


 シズクがオクマツに向き直り、にやっと笑って、


「ねえ、それじゃあさ。ここ、訓練場だよ。訓練しようよ」


 オクマツもにやっと笑う。


「いいぜ。あんたも中々だったしな」


「中々! ふうん・・・言うじゃないか」


「ははは! 良いじゃないですか!」


 マサヒデが笑って、


「ところで、車道流って試合は駄目なんでしょう?」


 オクマツがにやにや笑ってマサヒデを見て、


「トミヤスさんよお、そんな固え事言うなよおー。バレなきゃ良いんだって! 俺は今日、あんたに挨拶しに来ただけ! ついでに素振りしてただけ! そしたら何つー偶然! 鬼の姐ちゃんが前に居ただけ! だろ?」


「ははは!」


 アルマダもカオルも声を出して笑う。


「さあて、素振りでもするかなあー! 前にー、誰かがー、居たらー・・・危なあーいッ!」


 ぐるん、ぐるん、とオクマツが左右の肩を回し、むっと正眼に構える。


「じゃ私もー! 偶然! 素振りしてたらあー、前にー、オクマツがー! こりゃ危なーい! あははは!」


 こき、こき、とシズクが首を鳴らし、びたりと中段に構える。

 マサヒデがにやにやしながら、


「怪我しても死ななければ、奥で鉄砲の稽古してる方が治してくれますからね。では、始め」


「むっ・・・」


「へっへっへ・・・」


 へらへらしていたシズクが眉を寄せ、オクマツがにやりと笑う。

 マサヒデ達の笑いも消える。

 やはりこの男、中々だ。


「ほい」


 すぱん!


「つっ!?」


 何と言う突き!

 右片手で出された突きがシズクの親指を掠める。

 マサヒデ達も、驚いて目を見張る。これ程の使い手だったとは!?


「今よお~・・・その指・・・もらったぜ・・・へへへ・・・」


 とん、とオクマツがシズクの親指に切先を乗せる。


「・・・」


「いくら鬼族が丈夫だっつってもよお~・・・真剣で斬れねえってこたあねえよなあ~・・・まして指1本じゃあよお~・・・」


「や・・・やるじゃないか・・・」


 片手突きだから、間合いが凄く伸びる。シズクの棒で突くのと大して変わらない。

 すう、とオクマツが木刀を引き、正眼に構える。

 ぴ、とシズクが棒を握っていた前手の親指を立てる。


「こうじゃないとね。取られたんだ。使わないどいてやるよ」


「良いねえーッ! 勝負ってのはそう! そうじゃねえとな!」


 す、とシズクが1歩間合いを開ける。

 またもう1歩下がる。


「逃げてんじゃねーぞッ! 鬼娘さんよォーッ!」


「あんた・・・まだ何かあるだろ! なんか「ヤバイ」って勘が走ったからな!」


 ぎ! とオクマツがシズクを睨み、


「ンなこたあ叩きのめされてから考えやがれッ! 行くぞコラーッ」


 すっとオクマツが1歩踏み込む。


「下がる奴にゃあこうゆう事も出来るんだぜッ!」


 すぱん!


「いっ!?」


 左片手突き!

 がすす! とシズクの前手に当たって入った。

 瞬間、ぱ! とシズクが跳び下がる。


「ほお~~ら当たったァ~~・・・左でも片手突きってやつさあ~~っ」


「・・・つー・・・」


 すっとシズクが顔を歪めて前手を離す。

 左片手突きは難しい。柄の先を持って片手突きだから、確かに伸びる。

 だが、あのように正確な狙いで突くのは至難の技だ。

 ううむ、とマサヒデ達が唸る。


「どうだい? 中々だろーが」


 にやにや笑いながら、オクマツがゆっくりと木刀を引いて正眼に構える。


「へへへ・・・そんな遠くで。片手で。出来るかあ~~?」


「んー・・・やっぱり・・・あんた、頭悪いだろ?」


「何で!?」


 ばごん!


「ぶげっ!」


 棒の片手突きがもろに顔に入った。

 当然、刀より遥かに長い片手突き。シズクの棒は7尺(2m10cm)もあるのだ。

 マサヒデの「これは長い」と言われる雲切丸でも、2尺7寸。柄を入れて、やっとシズクの棒の半分くらいだ。

 オクマツが2間(約3m半)もぶっ飛んで、ばたん! と跳ねる。


「もー・・・凄い強いのに・・・何でーって、こっちの台詞だよねー」


 シズクが呆れ顔で倒れたオクマツを見る。

 皆も微妙な顔で倒れたオクマツを見る。

 相手は棒なのに、同じように突かれたらまずいとは少しも考えなかったのか?


「はい、一本。ラディさーん」



----------



 ラディがオクマツを治癒すると「はっ!?」とオクマツが目を覚ました。


「・・・」


 シズクが倒れたオクマツを見下ろし、


「あんたさあ、私が同じ事すると思わなかった?」


「お・・・思わなかった・・・ぜ・・・」


 はあー、とマサヒデ達が溜め息をつく。

 オクマツがにやりと笑い、


「へ、へへ、あんた、中々やるな。さっと俺の技を盗んじまうとは」


 はっ、とシズクが肩を落とし、


「ねえ、マサちゃん! やっぱオクマツ頭悪いよー!」


「なに? 何でっ!?」


 がば! とオクマツが立ち上がり、うわ、とラディが身を仰け反らす。

 オクマツはシズクの胸ぐらを掴み、


「何で頭悪いんだよ!?」


「あのさあ、普通に棒でも片手突きはするじゃん」


 は! とオクマツが驚いて、


「あっ! そうか! べ、別に盗んだわけじゃ・・・」


「そうだよ。何でそんなに強いのに、そんなに頭悪いんだよ」


 シズクを掴んでいたオクマツの手がぱたりと落ちる。


「知らねえよ・・・ああもう! 頭の良さは兄貴に全部持ってかれたんだよ!」


「ふーん」


「あ、兄貴なら、お前なんか目じゃねえぜ! 剣も俺より上なんだ!」


「頭良いなら、私は勝てないなあ」


 オクマツがにやにや笑う。


「そうだろ?」


「なんか嬉しそうだけど、あんた褒めてるわけじゃないんだけど・・・」


「え? そうなのか?」


「マサちゃん! 駄目だこいつ! 早く何とかしようよ!」


「ええ? 何とかと言われましても、私も勉学は全然・・・アルマダさん、頼みますよ」


「は? 私が? 何故?」


「私より頭良いでしょう?」


「それはそうですけど」


「・・・さり気なく言い切りましたね・・・」


 ぶは! とシズクが吹き出す。


「ぎゃーはははは! 馬鹿ばっかだー!」


「シズクさんも、人の事は言えないと思いますがね」


 カオルがオクマツの木刀を拾い、


「ご主人様、シズクさんは本を多く読みますよ。娯楽本ばかりとはいえ、ご主人様よりも遥かに多く」


 マサヒデが鋭い目でカオルを見る。


「何が言いたいんです」


 う、とカオルが固まり、


「い、いえ・・・特に何も含んでいる訳では」


「そうですか」


「は・・・」


 カオルが袖で額を拭う。

 がす、とオクマツがシズクの肩に手を回して、少し離れ、


(おい、トミヤスっていつもあんななのかよ。超怖えぞ)


(たまにああなるんだよ。たまーにしかなんないけど。下手すると斬られるぞ)


(気い付けるわ)


 と、こそこそ喋っていると、


「オクマツさん」


「はっ! はい!」


 マサヒデに声を掛けられ、びくっとオクマツが振り返る。


「一本どうです」


「はい・・・お願いします」


 マサヒデはにこにこ笑っていたが、さっきの目を見た後だと、余計に怖い。

 カオルが歩いて来て、オクマツに木刀を渡し、


(ご機嫌が悪いので・・・)


 と、こそっと囁いた。

 機嫌が悪いとどうなる!?

 ごく、とオクマツが喉を鳴らした。

 マサヒデはオクマツを見て、にこにこ笑っている。


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