第9話
貨物室からタラップが下り、マサヒデ達一行は船から下りた。
大きな船であまり揺れは感じなかったが、馬達はそうでもなさそうで、機嫌があまり良くない。
「ほらほら、黒嵐・・・」
マサヒデがふんふん鼻を鳴らす黒嵐の首を撫でてやる。
横でアルマダもファルコンの首を撫でている。
「やっぱり船は苦手そうですね」
「ええ。機嫌が良くない。さあ、今日は外を歩くから、機嫌を直してくれ」
馬車の御者台に乗ったトモヤが、
「おおい、マサヒデ。今日はどこへ行くんじゃ」
マサヒデが振り向いて、
「冒険者ギルドと、職人街だ。場所が分からんから、人に聞きながらな」
「では、少し離れてついて行くわ。馬車は急には止まれん」
「頼むぞ」
マサヒデ達が馬を歩かせ始め、少し遅れて馬車が付いてくる。
マサヒデはカオルの馬の白百合と首を並べ、
「カオルさん、冒険者ギルドの場所、知ってます?」
「知っております。お任せ下さい」
カオルが前に出て、先導を始めた。
マサヒデ達はカオルについて行く。
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城門前広場に続く大通りを進んで四半刻(30分)もせずにカオルが馬を止めた。
カオルが馬を下りて繋ぎ場に馬をつなぐ。
マサヒデもアルマダもイザベルもトモヤも、怪訝な顔で建物を見つめる。
確かに『冒険者ギルド』と小さな看板は出ているが・・・
広場からここに来る途中にあったとは。あまりに小さいので、完全に見落としていた。首都の冒険者ギルドなど、さぞ大きなものかと思っていた。
カオルが歩いて来て、
「ここです」
アルマダが頷いて、
「ああ、なるほど! 出張所ですか! 首都は広いですし」
「いえ。出張所ではありません。ここです」
「・・・」
マサヒデ達が馬を下りて、繋ぎ場に馬を繋げる。
4頭は繋げなかったので、イザベルや騎士達は馬の手綱を持ったまま、馬車の横で待機。
「随分と小さいですけど」
カオルが頷き、
「基本的に、領主の力が強いほど、都会ほど、冒険者ギルドは小さくなります」
アルマダが怪訝な顔で、
「何故です? 大きな町ほど冒険者は必要とされそうですが」
「ご主人様、冒険者の仕事とは」
マサヒデが首を傾げて、
「まあ、雑用とか。配達したり、警備とかですか」
カオルが頷いて、
「例えば配達などです。道中、野盗に襲われる危険があります。では、冒険者は装備を揃えますね」
「ええ」
「装備。つまり武力です。ひとつ目はここが問題になってきます。冒険者の皆様は武力をお持ちです。そして、金で動きます」
アルマダが頷き、
「なるほど。傭兵」
「その通りです。冒険者ギルド即ち傭兵団です。元々、冒険者ギルドは傭兵団が名を変えて冒険者ギルドと名乗り、護衛や戦などの荒事以外の雑用を増やしただけです」
「町中に金で動く傭兵団が居座る。確かに統治者から見れば厄介です」
「そして仕事内容。例えば配達は分かりやすいです。本来、配達は総務省管轄の郵便局で行います。冒険者ギルドは国の仕事を奪っています。その分、国に入る金は減りますね」
「ふむ」
「雑用など如何でしょう。例えば洗濯。クリーニング屋の仕事を奪う事になりますね。側溝の掃除。本来は領主の管轄で、担当地域の者が領主に金を払い、指定の土木建設業者がこれを行います。領主にも土木建設業者にも金が入らない。警備。捜索。奉行所の管轄ですが、これも冒険者ギルドへ頼めます。もはや冒険者ギルドが居れば事足りる・・・そのような自体になれば、領主は如何に」
「確かに。領主は必要とされませんね」
カオルが頷き、
「冒険者ギルドも商売ですから、領主に税金を払います。領主が冒険者を不必要と判断した場合、非常に高い税金を求められます。そうすると、どうしても小さくなります。他にも、税を納めて決められた以上の収入があった場合はその分は全額納めるようにされるなど、規模が広がらないように強く押さえられます」
「オリネオの町のギルドは大きかったですが」
「領主のシライ様が冒険者ギルドとの共存を求めているからですね。田舎の領地ほど政府から回される手は少なくなりますが、シライ領は規模の割に裕福です。多少冒険者ギルドに持っていかれても、ギルドから入る税金で十分。ならば民が優先と」
「なるほど」
カオルが小さな冒険者ギルドを見て、
「さて、ここは首都。陛下のお膝元です。金で動く傭兵を多く置いていては危険と思いませんか?」
アルマダが頷く。
「確かに。他国から大金を送られて街を荒らすなんて事がされかねない、と」
「極端に言いますとそうです。実際、そのような依頼が入れば即通報され、国際問題になりますが・・・もしそれを冒険者ギルドが黙っていたら。そして、大量の冒険者が居たら・・・という訳です」
「やれやれ」
マサヒデが首を傾げ、
「そんな風に思われていたら、最初から店を開く事は出来なさそうですけど」
「メインスポンサーのシバン=スティアン伯爵の大きな力です。領内に世界でも有数の大港湾都市をふたつ押さえておりますね。スティアン伯爵の不興を買うと、米衆連合との貿易は激減します」
「なるほど」
「そして、冒険者ギルドは既に世界中の町に広がり、自国だけでなく他国への発言力も高い。魔王様とも懇意。ご本人も龍人族で正規軍1個大隊以上の力をお持ち。政治的にも武力的にも突っぱねれば厄介になりかねませんから、冒険者ギルドを置きたいと言われれば置くしかありません」
「怖いんですね、スティアン伯爵って」
カオルが首を振って、
「いいえ。お優しいと思います。言えば税金も規模も希望通りのギルドを置く事が出来ます。そこを領主の好きにして置くだけで良いと引いているのですから」
「ううむ・・・」
「ここでは主に通信が商売になっておりましょうか。所属冒険者も少ないでしょう」
がらりとカオルが冒険者ギルドの戸を開ける。
受付の男が読売から顔を上げ、
「はーい。いらっしゃいませ」
マサヒデが受付に歩いて行き、
「オリネオの冒険者ギルドに通信を頼みたいのですが」
「はい。少々お待ち下っさいっと」
受付の男が読売を置いて、受付を回ってきて、
「はい、じゃこちらへ。1人1分で金貨1枚ですねー」
「え」
マサヒデとアルマダが顔を見合わせる。まさかこんなに高いとは・・・
着いたという報告だけで長話するわけでもないので、渋々ついていく。
がちゃりと戸が開いて、通信機。
ぽんぽんぽん、と男が操作して、
「はい、じゃ時間計りますね」
と、時計を出して、時計を見つめる。
慌ててマサヒデが通信機の前に座って、画面を見つめる。
じりじりと待っていると、画面の向こうのドアが開いてメイドが入って来た。
「はい。こちらオリネオ冒険者ギルドです。これはトミヤス様」
画面の向こうにメイドが立ち、にっこり笑って頭を下げた。
「ええと、首都に着きました! あと、ええと、レイシクランの客船があったので、そこに泊まります! ええと、ええと」
「1分でーす」
「うわあ!? ええと、しばらくここに居ます! 以上です!」
ぱ! と男の方を向き、
「終わりです!」
「はい」
ぷつん、と画面が消えた。
「1分過ぎましたので、金貨2枚ですねー」
「は!?」
「端数切り上げですから」
「・・・」
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受付に戻り、苦い顔で金貨を2枚出す。
「毎度ありがとうございます」
アルマダがじっとりと男を睨み、
「次は魔術師協会に行きますよ。良い勉強になりました」
男はにっこり笑って、
「それはそれは。いや、お役に立てまして光栄です」
「・・・マサヒデさん、もう行きましょう。ここはあなたが居て良い場所ではない」
「おお! どこかで聞いたと思えば、あなたがあのトミヤスの神童と名高いマサヒデ=トミヤス様! いやあ、オリネオでの活躍は聞き及んでおります。是非、当冒険者ギルドもご贔屓に」
「もう来ません。さあ、マサヒデさん、カオルさん、行きましょう」
アルマダが不機嫌な顔で「がらっ!」と強く戸を開けた。
マサヒデとカオルも出ていって、戸を閉める。
「ちっ」
とアルマダが不機嫌な顔で舌打ちをする。
トモヤが御者台から降りて来て、イザベルもシトリナを引いて歩いて来た。
「アルマダ殿、どうなされた。あの男に何か言われたか」
「いえ。この冒険者ギルドには2度と来ませんよ。通信機を使う時は、魔術師協会に行きましょう」
イザベルが怪訝な顔で、
「何がございました? この冒険者ギルドに何か問題でも」
「イザベル様は、ここで仕事は請けないようにして下さい。この冒険者ギルドは全く信用出来ません」
「冒険者ギルドは信用が第一と聞いておりますが・・・」
マサヒデが首を振り、
「それも場所によりけりと良く分かりましたよ。1分少しの通信で、金貨2枚も取られました」
トモヤとイザベルが驚き、
「ぼったくりではないか!」
「は!? いや、オリネオでは」
マサヒデが苦い顔で小さな冒険者ギルドを見て、
「冒険者ギルドは領地によって変わるそうですからね。ここは知らない者からはぼったくってやれってギルドになっています」
「くっ・・・おのれ!」
マサヒデがイザベルを抑え、
「イザベルさん。やめなさい。知らなかった私が悪い」
「しかし!」
「構いません。良い勉強になりましたよ。世間知らずだった私達が悪かった。知らない町のギルドは、事前に町の方からよく話を聞いておかないといけませんね」
マサヒデが首を振って、繋ぎ場の黒嵐の綱を解き、
「もう行きましょう。トモヤ、馬車に乗れ」
「ええい! 胸糞悪いの!」
「そうですね。もう行きましょう」
アルマダもファルコンの綱を解いて、さっと跨る。
マサヒデも黒嵐に跨り、ふん、と鼻を鳴らして馬を歩かせて行った。
イザベルも慌ててシトリナに跨り、マサヒデの後ろについて行く。




