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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第89話


 シルバー・プリンセス号、図書室。


「おお・・・」


 これは驚いた。

 王宮図書館とまではいかないが、大きな図書館並。

 上が高くはないのは船だから仕方ないが、それでも蔵書はかなりありそうだ。

 本棚は横が広くはなく、ひとつひとつ真ん中の高さくらいに、細い木の板が入っている。あれを取り外して本を出すわけだ。揺れて本が落ちるのを防ぐ仕組みだ。


(工夫されているな)


 感心しながらぐるっと見渡す。クレールは見当たらないが、本が置かれている机がある。司書に軽く会釈をして、机に歩いて行く。

 机に置いてある本を見ると、道術と陰陽術の教書。


(道術・・・陰陽・・・なるほど)


 元々、陰陽術は、神道・道教・仏教から大きく影響を受けて出来たもの。

 元を軽く学びつつ、陰陽術を・・・と考えているのか。

 だが、道教は時代でかなり変わるし、派閥も多い。術の部分だけでも大変だ。ここにある本も『道術』の本で、道教のものではない。

 陰陽『道』は古の国家機関において技術を表す言葉であり、宗教ではない。

 簡単に言えば陰陽はただ技術なのだ。


 栞が挟んであるページを開くと、占い儀式の図と解説。

 八方天陣門。陣術としては基本の部類に入る。

 これはかなり大まかな予想しか出来ない、いわゆる初心者向けの陣術だ。


「あっ」


 小さな声がして、キョウイチが顔を上げた。


「ニシムラさん!」


 本を抱えてクレールが歩いて来る。

 ぱたんと本を閉じ、机に戻し、


「どうも」


 とキョウイチが頭を下げる。


「座って下さい!」


「失礼」


 クレールとキョウイチが座る。

 キョウイチが道術の本を手で指して、


「まずは道術からと?」


「はい! 神道、仏教はある程度学びましたけど、道教は全然知らなかったので!」


「ふむ・・・確かに道術も陰陽術と似て、実戦的というか・・・使える物が多い」


「ですよね!」


「が、道教、道術は年代で大きく変わってくる。派閥も分かれてきて、同じ結果を出すものでも、全く違う手順であったりもする。自分が学んでいる道術が、いつの、どの派閥のものか。そこをしっかりと把握しておかないと、後で学び直しという事になりかねない。そこを注意して下さい」


「はい!」


「逆に・・・単純に術のみであれば・・・様々な時代や派閥のものを比べ、良い物だけをピックアップ出来る。ある派閥では何時間も掛かる儀式が、別の派閥では机にいくつか置いて軽くお祈り、5分で終了、などという事もある」


「な、なるほど・・・」


「問題は、このピックアップにも非常に時間がかかってしまう所。とにかく多すぎる。同じ派閥でも10年も経った後では、術式ががらりと変わっていたりする。必要な数個の技術だけを絞って、他と比べて良いものを選びましょう」


「分かりました!」


「さて・・・陰陽術も知っての通り、多くの技術がある。レイシクラン様が必要と考えているのは」


 キョウイチがポケットに手を入れて、数枚の紙束を出し、さらりと机に広げる。


「まず符術。札では?」


「そうです」


「ならば見本の札を買ってきて写すだけで結構です。別にわざわざ難解な札の式を学ぶ必要はありません」


「あっ」


 ふ、とキョウイチが笑う。


「様々な形や大きさの術を扱おうとすると、何十枚あっても足りません。また、様々な形や大きさにする必要があるのは、敵が目前であり、目前で刻々と変化する状況に対して。それなら魔術の方が早いし確実。札はあくまでサポート」


「・・・」


「が・・・魔術では出来ない事がある・・・」


 キョウイチが一枚の札を出し、すっと机の上に置き、ぽん、と指で叩く。


「自分の意思を持ち、自律して動き、目標を達する・・・」


 小さなハツカネズミが札の上に出て、きょろきょろと周りを見渡す。


「死霊術では出来ない事だ。確かに死霊術でも、使役をやめてしまえば自律して動きはするが、完全に野生化してしまい、目標など忘れてしまう。術者本人に害をもたらす事さえある。そして、すぐに消えてしまう・・・ここがレイシクラン様が式神を欲する理由では?」


「はい」


 とん、とキョウイチが机の端を指で叩くと、たたた、とハツカネズミが走ってきて止まる。


「だが、近い事は出来る。レイシクラン様なら出来ますね。使役しているものの目を使う」


「ですけど、その間、私の目で見て動かす事になりますから」


 む、とキョウイチが頷く。


「その通り。例えば猫の目を通して見てみる。猫の視力は非常に悪く、レイシクラン様が猫の目に映った物を見ていても、ぼやけてほとんど分からない」


「はい」


「だが、その動体視力は人を遥かに超える。髪の毛の細さ程の動きも、猫は捕えられるが・・・レイシクラン様が猫の目を通して見ていても、それを認識出来ない。では、猫の目を通して見る意味はない」


「はい」


「術師の目、と言えば良いのでしょうか・・・それを乗せる、という高度な技術もあるが・・・レイシクラン様なら出来ますか。しかし、それでは人の目と同じになる。その目を通して見ている間は、自分の目で周りを見る事が出来ない」


「はい」


 キョウイチが何の指示も出していないのに、ハツカネズミがたかたか、たかたか、と机の上を走る。


「感覚が我々とは全く違い、その感覚で動き、目標を達する。そこに動物を使う時の『自律して動き』『目標に向かう』という意味が出てくる。例えば・・・隼。半里(約2km)も離れた所から、兎程度の大きさの獲物をはっきり捉える。人の大きさなら1里(約4km)先でも余裕で捉える事が出来る」


 ぱちん! とキョウイチが指を鳴らすと、びくっ! とハツカネズミが驚いて固まった。


「だが、死霊術で飛ばしているだけでは、術師が見えていなければ動かしようがない。自分の意思を持った隼ならば、1里も先に何かいる、と教えてくれる・・・これほど頼もしい偵察役は居ない・・・」


 すっとキョウイチがハツカネズミの上に手をやると、すうー・・・と消える。

 キョウイチがポケットから3寸程の小さな人形を取り出し、こと、と机に置く。


「札でなくとも・・・」


 兵の人形に手を置いて離すと、人形が立ち上がった。


「お、おおっ!?」


 クレールが驚いて声を上げた。


「このように、ただの物を動かす事も出来る」


 もうひとつ人形を出し、また手を置くと、また人形が立ち上がる。


「気を付け」


 かち、と小さな音を立て、人形が気を付けの姿勢を取る。


「腕立て用意」


 か、か、と音を立てて、人形が手を付き、足を伸ばし、腕立ての姿勢。


「腕立て始め」


 かち、かち。かち、かち。

 人形が腕立てをする・・・シュールな光景だ。

 キョウイチが腕を組み、


「これが、死霊術と陰陽術の違い」


「な、なるほど・・・」


 クレールがじっと腕立てをする人形を見つめる。

 やはり、疲れないのだろうか・・・


「この人形はいわゆる『擬人式神』になる。これは下位式神だから、言われた事しかしない。ただの物を動かす時は、基本的に下位式神を使う」


 喋っている間も、人形はずっと腕立てをしている。

 全くペースが乱れない。


「放っておいても、この人形はずっと腕立てをしている。死霊術であれば、ずっと集中し、意識というか・・・魔力の繋がりを持っていないと、使役も出来ず、すぐ消えてしまうが・・・この人形は、私が何もしなくても、私が死ぬか、人形自身が朽ちて果てるまで、次の命令が出るまで、ずっとこうしている」


「へえ・・・」


 キョウイチが指を立てて、


「この下位式神を使う時は『命令の仕方』がコツです」


「命令の仕方?」


「例を出します。腕立てやめ。腹筋用意」


 かちち、と人形が腕立てをやめ、腰を下ろして頭の後ろに手をやる。


「腹筋始め」


 かち、かち、と人形がひたすら腹筋を始める。

 キョウイチはテーブルに肘を乗せ、指を立ててこめかみを乗せる。

 人形を指差し、


「このままでは、この人形はずっと腹筋をしている。では、こう命令する。腹筋10回の後、腕立て10回を繰り返せ」


 かち、かち、かち、と腹筋を10回した後、腕立ての姿勢を取り、腕立てを始め、また腹筋・・・


「こうなる」


「なるほど・・・」


「そして、ただ言われた事しかしない、イコール、単純な動きしない、という訳ではない。上位式神に近い動きをさせる事も出来る」


「例えば?」


「クレール=フォン=レイシクラン様を守れ」


 人形がぴたりと腕立てをやめ、クレールの前に来て、気を付けの姿勢で立つ。


「こうすると、人形があなたを守る。どう守るかは状況で変わる。矢が飛んできたら鉄砲で撃ち落とす。刀を振り回してきたら、足に飛びついて足の腱を切り、動きを止めるなど、出来る方法で守る」


「ううん! 深いですね・・・術者の命令の仕方次第ですか!」


「その通り。式神使いの優劣は・・・勿論、式神の質もありますが、大事なのは術者のここ。負けた私が言うのもおこがましいですが」


 とんとん、とキョウイチが指で頭をつつく。


「このような人形を大量に用意して、軍のような運用をするなら、どうする、どうする、と細かく命令を出した方が良い。陣を張れ。銃口は誰々に向けろ。撃つタイミングはここ。お前達は撃つ。お前達は後ろを警戒。お前達は隠れて近付くのを待て。ひとつひとつ指示を出すことで、完璧な統制の取れた軍が作れる。意思がないから、乱れなく着実に命令をこなす事が出来る。だが、この部分は死霊術の方が優れている面もある」


「そうなんですか?」


「そう。特に攻撃に関して。例えば、大量に小さな生物を出した時。いくつかずつ固まって動け。広く散開して相手を囲め・・・完全に自分の意思通りに動かせる。だが、死霊術では出来ない事がひとつ。重大な欠点でもある。何だと思います?」


「出来ない事・・・欠点・・・う、ううん・・・」


 クレールは腕を組んでしばらく唸っていたが、あっと顔を上げ、


「分かりました! 守っていて下さい、が出来ない?」


「そう。そこが重大な欠点。守る時も、自分でこうして守れ、と動かさないといけない。分かりやすい例でいくと、真後ろから攻撃された時。この式神に守れと命令しておけば、勝手に迎え撃ってくれる。が、死霊術では自分が察知した所に行けと使役しないといけない。見えない敵を察知出来ていなければ、死霊術師は簡単にやられる」


「そこをカバー出来るのが式神ですね!」


「その通り。そして、下位式神は、死霊術を使うレイシクラン様なら簡単に作れる。まずは下位式神を教えましょう」


「宜しくお願いします!」


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