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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第88話


 その夜―――


 首都の隅にある小さな神社。

 からん・・・からん・・・

 誰も居ない境内に、小さな音が響く。


「・・・」


 赤い字で絵馬に書いてあるのは『ゑいもせず』。いろは歌の最後の5字。

 普通、絵馬には名前、住所、日付を書く。

 この絵馬には、名前、住所、時間がある。


「どこで聞きつけやがった・・・」


 男が小さく呟き、絵馬を取って、袖に入れて神社を去って行った。



----------



 丑の刻(午前2時)。

 歓楽街の裏手、空き家になっている小さな宿。

 浮浪者や、酔っ払いがたむろするような場所だが、今夜は誰の気配もない。


 こんこん・・・こんこん・・・


 男がドアをノックする。

 しばらく待っていると、がちゃりと鍵の開く音がして、ドアが開きかけたが、とん、と男がドアに手を置き、


「開けるんじゃあねえぜ」


「うっ・・・本当に」


「お前さんは何も見ねえ。何も聞いてねえ。だろ」


「あ、ああ。俺は何も見てねえ。何も聞いてねえ。こんな所、来た事もねえ」


「それでいい。そこに居な」


 ぱたん、とドアを閉め、男がドアにもたれ掛かる。


「で? 誰を始末してほしい」


「カオル=サダマキ」


 む? と男が肩越しにドアを向く。


「サダマキ・・・そいつぁ、あのトミヤスの内弟子の事か」


「そうだ」


「ふうん・・・何故だ」


「てめえは金で人斬りすんだろうが。理由なんかいるのかよ」


「相手によりけりだ」


「ちっ! ・・・俺の顔に泥を塗ったからだ」


「お前さんの顔を潰された腹いせかい」


「そうだ」


「で。いつ、どこで、何をされた。最初から全部、細かく話せ。事実だけを話すんだ。お前さんがどう思ったとかは関係ねえ。あった事だけだ。それで手数料を決める。で、今回は相手が相手だ。値は覚悟しとけ」


「ああ、分かった。今日、いや、もう昨日の事か。俺は車道流の道場で・・・」


 中の者が話し始めた所で、男はやれやれと首を振って袖から静かに絵馬を出し、そっとドアの前に置いて、音もなく離れて行った。


「・・・そういう訳だ。ああ私怨だ。それがどうした。俺はあの女を殺せりゃそれで構わねえんだ。それで、いくらだ」


 返事がない。


「おい。いくらだ? 値切るような事はしねえよ」


 かちゃ・・・小さくドアが開いた。


「居るのか・・・? おい?」


 ゆっくりとドアを開けていくと、こん、と何かがドアに当たり、


「ふっ!?」


 小さく声を上げ、びく! と手を止めた。

 しばらくして、恐る恐る、中に居た車道流の輩が顔を覗かせる。


「お、おーい・・・居るのか・・・? 開けるぞ・・・?」


 輩がそっとドアを開けると、外には誰もおらず、自分が書いた絵馬が落ちていた。


「・・・くそ・・・名前聞いて尻尾巻きやがったのか・・・?」


 絵馬を拾い上げ、輩が裏通りに出て、左、右、ときょろきょろ見回したが、暗い裏通りには何の影も見えなかった。



----------



 翌日、シルバー・プリンセス号前。

 ニシムラ兄弟が足を止めて船を見上げている。


「なあ、兄貴・・・これかよ」


「そうだ。舳先の紋章はレイシクラン家のものだ。と言うか・・・」


 キョウイチが港を見回し、


「他に客船はない」


「なあ、他の港じゃあねえのか?」


「俺は言ったな。あの舳先の紋章はレイシクラン家のものだと。あれだ」


「まじかよ・・・」


 オクマツが座り込む。


「なあ、兄貴。正直に言うと、俺はビビッてるぜ。あんな豪華な船に! って喜びは全く感じねえ。入ったら金ピカの騎士とか忍だらけじゃあねえのか?」


「・・・」


「それはねえって言ってくれよ」


 キョウイチが座り込んだオクマツを見て、


「それを否定出来ん。レイシクラン本家の令嬢の船だ」


「まじかよ」


 キョウイチがポケットからハンカチを出して、軽く額を拭う。すっとポケットにしまい、


「行くぞ」


「まじかよ!? まじで行くのかよお~~?」


 かつかつと靴を鳴らして歩いて行くと、船員がタラップから下りてくる。


「申し訳ありません。この船は全室予約済みです。お引き取りを」


 キョウイチが軽く会釈をして、


「私はキョウイチ=ニシムラ。クレール=フォン=レイシクラン様はおられるか。クレール様に陰陽術の指南を頼まれた者だ」


「そちらは」


「弟のオクマツ=ニシムラ。これはヤナギ車道流の者だ。マサヒデ=トミヤス様にお引き合わせしたく、連れて来た。無用とあらば帰す」


「あ、ども。ニシムラっす」


 ぺこ、と頭を下げたオクマツを、キョウイチがじろりと睨む。


「少々お待ちを」


 船員がタラップを上がって行く。

 廊下に消えた所で、


「兄貴ぃ・・・やべえって~。これ絶対入っちゃいけねえって~」


「では、お前は待っていろ。トミヤス殿がおられたら、ここに来るように伝える」


「ナイスアイディアっ!」


「・・・客として訪ねて来て、俺は入りたくないからお前が出てこいと言うのか?」


「だよな。それはさすがに俺でも分かる」


「分かっているなら良い」


 キョウイチが襟を正し、オクマツもそれを見て襟を正す。

 しばらく待っていると、船員が下りて来た。


「大変お待たせ致しました。ご案内致します」


「お手数をお掛けします」


「うす」


 ぱしん! とキョウイチがオクマツの頭をはたき、


「宜しくお願い致します、だ」


「すません! 宜しくお願い致します!」


 くす、と船員が笑う。

 キョウイチがベルトのホルダーの刀に手を置き、


「得物はどこでお預けをしたら」


「ああいえ。帯刀したままで結構です。ではどうぞ」


 かん、かん、と船員の後に続き、タラップを上がって行く。

 上がって廊下を歩きながら目を見張る。

 ずーっと敷かれた赤い絨毯。

 重厚感のあるドアは、ワックスで綺麗に磨かれ、つやつやとしている。

 埃ひとつなく、窓のガラスは分厚いのに、綺麗に外の景色が見える。


「失礼。参考までにお聞きしたいのだが・・・」


「何でしょう」


「この船に部屋を借りる場合、いくらになるのか」


「1日金貨19枚です」


「・・・」「・・・」


「レイシクランのシェフのレストランに、最高のスパ、プール、展望台、世界各国の書物を揃えた図書室、最新の訓練設備を備えた訓練場。他にもまだまだ。部屋は言うまでもありませんね。全てをご利用出来ます。設備を考えればお得ですよ。船足もあり、ほとんど揺れません。快適な航海を楽しめましょう」


「左様で」


 ひたひたとキョウイチが額にハンカチを当てる。


(聞かなければ良かった)


 ちらっとオクマツを見ると、完全に萎縮している。


「おーい!」


 船員が声を上げ、は! として、オクマツが顔を上げた。

 向こうに居た別の船員が、足を止めてこちらを見て歩いて来た。


「こちらのオクマツ殿を訓練場にご案内してもらえるか。トミヤス様のお客人だ。俺はキョウイチ殿をクレール様の所にご案内する」


「はい」


「あ、兄貴」


 オクマツが不安で一杯の目をキョウイチに向ける。


「後でな」


 キョウイチは船員について歩いて行ってしまった・・・

 呼び止められた船員がオクマツの所に来て、


「ご案内致します。トミヤス様方は、今は稽古中ですので」


「はいっ!」


 兄貴ー! と心の中で叫びながら、オクマツは大きな身体を縮こまらせて船員について行く・・・

 たんたんたん、と階段を下り、船員が足を止めた。


「こちらです」


「ここ?」


「はい。どうぞ」


 オクマツが恐る恐るドアを開けると、マサヒデとアルマダが剣を構えて向かい合っていた。


(広いじゃあねえか! 船かよ!?)


 いいー、とオクマツが訓練場を見渡す。


 奥では拳銃を構えたラディにイザベルが何か指差して教えている。

 壁際に並んだ重量上げの器具の上には、鎧を着たままでトレーニングをする者。

 反対側を見ると、カオルとシズクが並んで遅く振る素振りをやっている。


 ぱたん。


「はっ!?」


 音にびくっとして後ろを向くと、ドアが閉まった。

 恐る恐る目を戻すと、マサヒデ達がオクマツを見ていた。


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