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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第87話


 マサヒデとクレールが型稽古を見て感心していた頃。


「なあ、トミヤス流の奥義みたいのあるだろ」


(どうしていつも私が貧乏くじを・・・)


 カオルが面倒な高弟に絡まれていた。


「見せろよ。俺も見せるからよ。技術交流! な?」


 アルマダが気付いて歩いて来たが、高弟から少し離れた後ろで立ち止まる。

 困った顔の門弟達と並び、腕を組んで、にやにや笑っている。


「・・・」


 カオルが恨めしげにアルマダに目を送る。


「おーい。聞こえてんだろうが」


「あ、いや・・・見せられるものではなく・・・」


「はあん?」


 何とかしなければ。実際、トミヤス流の奥義など知らない。そもそもあるのか?


「私、奥義などまだ。マサヒデ様には鼻で笑われております」


「嘘つくんじゃねえ。あの腕でまだってのか? 一瞬でふっ飛ばしてただろうが!」


「本当です」


「んなわけねえだろうが!」


「あの、心構え・・・のような? そういう所は」


 お? と輩が顔を変え、


「ほおう。言ってみろ」


「形に縛られるな、と。決まった形ではなく、自分に合った形を見つける事だと。ですので、私、我流のままで、マサヒデ様からはたまにご注意を頂くだけで、特にこれといって技法を習うでもなく」


「はーっ! 我流!」


 輩がカオルを指差してげらげら笑う。


「おめえ、それでよくトミヤス流だって言えるな! 掠りもしてねえじゃねえか!」


「は。まだまだトミヤス流を習える腕ではないと、誠に自分が情けなく」


「全くだぜー! ははは!」


 その『我流』で別の高弟を昏倒させたのが・・・


「じゃあその我流で良い。見せろよ。別に奥義でも何でもねえんだろうが」


 輩がへらへらしながら、すっと構える。

 慌ててカオルが手を振って、


「いえ! それは困ります! あ、でしたら、ヤナギ先生にお許しを」


「俺が。許す。車道流高弟の許しじゃあ不足か?」


「しかし、あいや! 車道流は試合は禁止しておられるのでは? 先程、ヤナギ先生からそう聞かされました」


「俺が良いっつったら良いんだ! 俺が見せろっつったら見せろ! 立ち会えっつったら立ち会え! 平民ごときがぐだぐだ言ってんじゃあねえ! 構えろ!」


 なんと高圧的な・・・ここまで酷い者達が外で群れているのか。

 下手に腕が立つだけに、傾奇者よりも遥かに厄介ではないか。


「いえ、それでは私のみでなく、あなた様もヤナギ先生にお叱りを受けられます。それは余りに申し訳なく」


「良いよ別に! 構えろ!」


 つかつかとアルマダが後ろから歩いて来て、ぽん、と高弟の肩に手を置く。

 やっとか! カオルが胸を撫で下ろす。


「では、私が見届人として、審判をしましょう」


「ああ?」


 輩がアルマダを見て、一瞬、あれ? という顔をして、は! と顔を変える。


「げっ・・・ハワード様・・・」


「私の立ち会いの下でなら、ヤナギ先生もお許し下さいますよ。事後承諾になりますが、私が責任を持って先生に許しを得て参ります」


 ふ、とアルマダがカオルに笑顔を向け、じろりと冷たい目で高弟を見る。


「・・・」


 高弟が気不味そうにアルマダから目を逸らす。

 カオルがじっとりとアルマダを見る。


(もっと早く来てくれれば良かったのに!)


 アルマダが周りを見て、


「どなたか! 治癒魔術を使える方! こちらへ!」


「ぃー・・・」


 しまった! と輩が渋い顔で下を向く。


「カオルさん! 頭を下げなさい! ヤナギ車道流、それも高弟の方が、わざわざお相手を申し込んで下さったのです!」


「ははっ! このような機会、もはやありますまい! ありがたく申し込みを受けさせて頂きたく思います!」


 アルマダが周りを見て声を上げる。


「皆様! こちらの方からトミヤス流との他流試合を申し込まれました! 良い見学の機会です! お集まり下さい!」


 何だ? と、周りの者達がこちらを見る。

 げ!? と輩がきょろきょろ周りを見る。


「どうぞこちらへ! 他流試合です! 車道流では中々見られませんよ!」


 おお、と声を上げ、わらわらと門弟達が集まってくる。

 別の高弟が慌てて駆けて来て、アルマダに頭を下げ、


「申し訳ありません、申し訳ありません! 当流は試合は禁じられております!」


「ああ、いえ! こちらの方から申し込まれたのです。車道流高弟の方からの申し込み、とても貴重な機会です。お断りなどとても出来ません」


 高弟が輩の方を向き、


「あなたから? 何を・・・あなたは、何をしてるんです!?」


「い、いや・・・ちょっとトミヤス流が見たいと言っただけなんだ・・・」


 ふん、とアルマダが鼻で笑い、


「そして! ・・・立ち会いの所望を。僭越ながら、ハワード公爵家、トミヤス流高弟の私が審判役を授かります。不足ですか? ヤナギ先生の詫びは私が引き受けますので。皆様には一切のご迷惑をお掛け致しません」


 げ! と高弟が顔を変える。


「ばっ、馬鹿な事を!? あなたは・・・どうするんです!? 破門になっても知りませんよ!? あれだけ固く言われているでしょう!」


 す、とアルマダが手を出して、


「まあまあ、もうその辺りで。そちらから立ち会いを申し込まれ、受けました。ここで受けるなら辞めるなど、とても言えないでしょう。そんな振る舞い、剣術家として、いや貴族として、いやいや。そもそも人として恥も良い所ですから」


 これでは引けないではないか!

 高弟が渋い顔で輩を睨みつけ、


「・・・もう私は知りませんからね。あなたから申し込んだ勝負なんです。あなたの責任ですよ。どうなっても知りません」


 そう言って、高弟も下がった。

 アルマダはにこにこして輩の肩に手を置き、


「ヤナギ先生には私が頭を下げてきますから。カオルさんにびしびしと叩き込んでやって下さい」


「はい・・・」


 アルマダも少し離れ、2人の間に立つ。


「構え!」


 輩が正眼に構える。

 カオルは深く頭を下げ、


「貴重な機会を与えて下さり、ありがたき幸せ! 全力で参ります!」


 そう言って、右脇構えに構える。


(また突き入れるか? 今度はどうしてやろうか)


 ふ、とアルマダが小さく笑う。


「始め」


 ち、と輩が小さく舌打ちして、カオルを見据える。


(おっと?)


 先程のヤナギの前で立ち会った高弟とは違う。言うだけあって、それなりだ。それに、じっと動かないが、腰が引けている訳ではない。まあ、それなりだが。


「参ります」


 さ! と踏み込み、ちょいと袋竹刀を動かす。


「む!?」


 と真っ直ぐ入った所で、横に無願想流で振る。

 カオルの身体が、ぐっと真横に傾いた形で止まった。


「うっ・・・つ・・・」


 下から斬り上げられる、と下げられた輩の袋竹刀の横を通り抜け、太刀筋が変わり、首にぴたりと当てられる。


「・・・」


 ぎらりとカオルが輩を見据える。

 すう・・・と輩の頭の上を回して、袋竹刀を下ろす。

 この辺りが振り終わり。真剣ならこの輩の首は飛んだ。


「おあっ!」


 輩が下げた袋竹刀を斬り返してきた。

 カオルはさっと足を引きながら、真っ直ぐ斬り上げる。

 輩の斬り上げは何も無い所を斬り、カオルの袋竹刀の切先が輩の小手を下から。

 また、ぴたりと袋竹刀が当てられて、撃ち込んではいない。


「て、て、てめえは・・・」


 互いに近く、真横と真横で立っている。

 すうっと輩が腕を上げ、小手を外し、すぱん! と身体を回しながら横一文字に振ってきた。

 カオルはくるくるっとダンスのように回り、輩と背と背を合わせるくらいで立つ。


「もう宜しいですか」


 カオルは担ぐように、手を外に開くように、袋竹刀を後ろに。

 輩の喉元に袋竹刀が当たっている。

 おお! と見ている者達から声が上がった。


「後ろからってのは、後ろからって!」


「あ、左様で」


 すっとカオルが袋竹刀を引き、1歩離れた所で、


「馬鹿が!」


 くるりと輩が回りつつ、そのまま横一文字。

 が、カオルは合わせるように、横にすとっと軽く跳んだ。

 空振り。


「・・・」


「後ろからは・・・良くないのでは?」


 言いながら、ゆっくりとカオルが身体を向け、そっと振り抜かれた輩の腕に左手を乗せる。これで止めた。


「車道流は・・・手の平で相手を転がすが如き。故に車道と言うそうですが・・・」


 ひたり。

 輩の首に袋竹刀を当てる。


「言うな!」


 ば! と輩が竹刀を離し、掴もうとしてきたが、カオルがさっとしゃがんだ。

 そして、輩の首に当てた袋竹刀を、すすっと首を擦って引く。


「ハワード様」


 む、とアルマダが頷いて、後ろの高弟を見て、


「あれは一本ですよね?」


 高弟が渋い顔で、無言で頷く。

 最初の一太刀目で、とっくに一本だ。


「はい。一本です」


 カオルが立ち上がり、ふっ、と小さく笑った。


「ふっ。見苦しい」


 輩にだけ聞こえた、カオルの小さな嘲りの声と、カオルの小さな笑い声。


「く、く・・・」


「ご指南、ありがとうございました!」


 ぱ! とカオルが頭を下げると、歓声と拍手が上がった。

 輩は真っ赤な顔で、拳を震わせていた。

 ふ、とカオルがもう一度笑った。


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