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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第86話


 ヤナギ車道流道場の高弟との立ち会いも終わり、宗家ヨシヒラ=ヤナギの心法の指南も終わった。


 ヤナギがアルマダに向いて、


「む、そうそう。ハワード君」


「はい」


「ニシムラ君から話は聞きました。神誠館を勧めたそうですね」


「はい」


「うん。ニシムラ君にはぴったりの道場だと思う。でも、移籍は駄目です」


「何故でしょうか」


 にっとヤナギが笑う。


「うちから近衛騎士、出したいんですよ」


 え!? とキョウイチが驚いてヤナギを見る。


「だから駄目です。ニシムラ君には近衛騎士になってもらいますからね。もう騎士には十分ですけど、近衛騎士には足りないから、もう少しうちに居てもらいます。騎士を飛び越えていきなり近衛騎士。さすがヤナギ車道流。さすが王宮剣術指南役。そう言われたいですからね」


 アルマダが笑顔で頷く。


「分かりました。私の話は忘れて下さい」


「ん。せっかく勧めてくれたけど、近衛騎士で、しかも腕利き陰陽師とか凄いでしょう? そういう理由があったんですよ。申し訳ない事をしてしまいましたね」


「ニシムラさんには宜しくお伝え下さい」


「うん。じゃあ、皆さん。後は適当に遊んでいって下さい。レイシクランさんは、虎を暴れさせて怪我人を出さないで下さいね」


 びく! とクレールが顔を上げ、


「え!? し、しません!」


「ははは! じゃあ、解散して下さい!」


「「「ありがとうございました!」」」


 皆が頭を下げて、立ち上がった。

 アルマダがちらっとキョウイチを見ると、拳を握り、肩を震わせていた。



----------



 道場の隅の方で、型稽古をしている者と高弟を見つけ、マサヒデとクレールが歩いて行く。


「失礼します。見学は許されましょうか」


「おっと・・・」


 マサヒデを見て、高弟がにやっと笑う。


「構いません」


 高弟が声を潜めて、


「ここだけの話、胸のすく思いでしたよ。他にもたくさん居ります。意趣返しなどされないよう、お気を付けを」


「ああ、あるんですか・・・そういうの」


「ございますとも」


 はあ、とマサヒデが息をつく。


「で、これはどういう型稽古なのでしょう」


「基本の基本で、奥義のひとつという。まあよくあるパターンのやつです」


「ふむ・・・」


 マサヒデが腕を組む。

 高弟が門弟の方を向き、


「さ、トミヤス殿のご視察だぞ。緊張するなよ。最初から。まず無形の位を取る」


「はい」


「違う違う。足は両方とも真っ直ぐ前。後ろ足が外に向かない。癖にならないように、今から気を付けろ」


「はい」


 高弟が門弟の後ろの腰に手を当て、


「前に出す」


「はい」


 む、とマサヒデが気付く。


「仙骨ですね?」


「その通り。さすがトミヤス殿は分かっておられる。よし。右足を真っ直ぐ引いて・・・」


 高弟の説明が続く。

 文字通り、手を取り、足を取り。

 そして・・・


「ここで大事なのは・・・」


「はい」


「よし。あとは反復で覚えるだけだ。だが、大事なのはこれを速く振る事ではない。結局の所、剣術は力や速さではない」


 ぴく、とマサヒデの耳が冴える。

 どういう事だ? と門弟が高弟に顔を向け、


「と言いますと」


「剣術は、時間。相手の時間を奪った方が勝つのだ。距離だとか、気の読み合いだとか。そういう所で、相手の時間の隙と言うか・・・どこかで時間を奪ってしまうわけだ。当然こっちは勝つように振っている。そのための型だからな。そういうわけだから、相手より振りが遅かろうが関係ない。時間を奪ってしまえば、絶対に勝てる」


「なるほど・・・」


 時間を奪う。これは三傅流にも通じる所がある。

 相手より拍子が早いから勝つ。時間を1拍奪っているからだ。

 イマイに三傅流を習っていなかったら、今の説明は中々分からなかっただろう。

 が、教えてもらったお陰で、すとんと入って簡単に納得できた。

 イマイの振りはマサヒデと同じか遅いくらいなのに、いつもマサヒデに勝つのだ。


「では最後の振り終わった所まで。ゆっくりで良い」


「両手で上げるようにして・・・」


 門弟が振り終わる。


「よし。ちゃんと出来ているかどうか見てみよう」


 高弟が正面に立って、ぐっと袋竹刀の先を手で押す。


「うむ。まあまあ・・・出来ているな。70点。貸してみろ」


 高弟が同じように振り下ろし、前に立つ門弟に、


「さっきの俺と同じように押してみろ」


「はい」


 ぐ、と門弟が押したが、微動だにしない。


「しっかりと出来てくらいが入っていると、こうなる」


 高弟は右手も離す。左手1本。


「どうだ」


 うん! と門弟が押したが、全く動かない。

 おお! とクレールが驚いて高弟を指差す。


「マサヒデ様! 凄いですよ!」


「ええ」


 マサヒデは鋭い目で口に手を当てて見ている。

 高弟がそのまま門弟の方に歩き出す。


「おお!?」


 門弟が押され、手に当たっていた袋竹刀に体重が掛かってぐにゃりと曲がったが、高弟は左手1本で軽く持っているだけ。門弟がずんずん押されていく。


「お、お、お!?」


 高弟が足を止め、よたよた後ろに下がっていた門弟も止まる。


「しっかりと位が入っているとこうなるんだ。絶対に耐えられない形がここに出来る。後は時間を奪えるかどうか。それで絶対に勝てる。文字通り一刀両断に出来る」


(ううむ!)


 研究し尽くされた型稽古だ。基本にして奥義。なるほど・・・

 高弟が門弟に袋竹刀を渡し、


「もう一度、最初から。最初の無形からな。ゆっくりで良い」


「はい」


 門弟が構え、足を引く・・・


「ちょっと良いですか」


「む、何でしょう」


「車道流の型稽古って、いくつかは知ってますけど、他にはどんなものがあるんでしょう」


 にやりと高弟が笑う。


「300以上ございます」


「は!?」「ええーっ!?」


 マサヒデとクレールが声を上げる。


「しかし、その全ての型は、たったひとつの技に繋げるための・・・何と言いましょうか。糸のようなもので」


「無刀取り?」


「そうです。まあ、1本は細い糸でも、300本も依り集めれば太い縄になりましょう。十分に登っていけます」


「ううむ!」


「マサヒデ様・・・300って、とんでもないですね」


 マサヒデが難しい顔で頷く。


「そこまでやらないと、無刀取りには辿り着けないんですよ・・・やり方知ってれば出来るってものではないんでしょうね」


 高弟も頷いて、


「私は技法を知らないので、そうだとは言い切れはしませんが、おそらくそういった事だと思いますよ。そして、その頃になって技法を知れば、何だこんな事か、と感じるのではないでしょうか」


「そうでしょうね・・・そうだと思います。私もいくつかは知っていますが、大体、奥義ってそんなものです。基本中の基本が実は奥義なんだと」


「ええ。この基本の型も奥義のひとつです」


「ううむ・・・」


 しばらく、ゆっくりと門弟が型稽古をするのを見ていると、高弟が話し掛けてきた。


「ところで、先程の振り」


「ん? ああ、何でしょうか?」


「トミヤス殿が振っていた。あれはどこの奥義で? 見た事のない振りでしたが。振ると言うより振られているようで、がつんがつんと奥まで入っておりましたね。真剣なら、文字通りなますになっていた所でしょう」


 む、とマサヒデが言葉に詰まる。あまり知られたくはない。

 特にこの人数が多い車道流の道場で喋れば、あっという間に世間に広まりそうだ。口の軽そうな者には見えないが、やめておこう。


「ううむ・・・実は、私も知らないんです」


「と言いますと?」


「どこの方かは分からないんですが、これは凄い! 間違いなく達人、という方と偶然出会いましてね。もう立ち姿から違いましたよ。遠目で分かりました。やばい人が居るって・・・」


「それ程の」


「ただ、何と言うか、ぎすぎすした方ではなかったんです。それで、思い切って話し掛けてみたんですがね。鼻で笑われましたよ。お前が噂の神童か? 全然神童には見えないなって。それで、一手教えて下さい、です」


「それで教えてもらったのが先程の」


「はい。我流か、どこか田舎の方の、あまり知られていない流派か、古くてあまり知られていないとか・・・教えてくれなかったので、分かりません。ただ、私にはこれが合うだろう、試してみろと。それで、ずっと練習しています」


「ううむ・・・何と言うお方だったのでしょう?」


 マサヒデは首を振り、


「分かりません。ただですね。父上が言うに、剣聖よりも強い者は世にいくらでも居ると」


「ほう?」


「まあそうですよね。この首都に来て、何人もの達人に会いましたよ。父上より強い方も居るでしょう。あの方も、そのうちの1人かも・・・です」


「剣聖よりも、ですか・・・」


 ごまかせたようだ。ふう、と心の中で安堵の息を吐く。

 高弟がちらちら周りを見て、声をひそめて、


「ここだけの話、トミヤス殿から見て、ヤナギ先生はどうでしょう」


 ふ、とマサヒデが苦笑して、


「先程、ヤナギ先生は竹刀を触りもしませんでしたね。ヤナギ先生から見たら、私はその程度」


「んん? どういう事でしょう?」


「相手にもならない。そういう事です」


 はあ、とマサヒデが溜め息をつき、悲しげに首を振った。

 ううむ、と高弟が横で唸る。


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