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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第84話


 ヤナギ車道流道場。


 明らかにカオルを見下していた高弟は、思い切り突かれて臓腑を破られてしまい、昏倒してしまった。

 そして、シズクが立ち上がる。


 前に出て、ヤナギの方に向かって頭を下げ、


「お手合わせ、宜しくお願いします!」


 ヤナギがにやにやしながら、左右の高弟を見る。


「誰が行くんですか? もう情けない姿を見せないで下さい」


 3人の高弟が、目をちらちら合わせては、小さく首を振ったり「おい」と小さく顎をしゃくったり。

 ヤナギが呆れ笑いを浮かべ、


「ところで、あなたは・・・確か、トミヤスさんとの試合で、トミヤスさんにぶっ飛ばされた方ですよね?」


「はい!」


「では、トミヤスさんはあなたより強いんですよね?」


「はい!」


「そちらのハワードさんとは立ち会った事はあるんですか?」


「あります! 歯も立たないです!」


 ヤナギが高弟達を見る。


「だそうだけど。君達どうするの? 後になるほどきつくなるよ」


 高弟がおずおずと手を挙げ、


「では・・・」


「早くなさい。待たせてしまっているんです」


「は!」


 立ち上がった高弟の顔はまさに悲壮。しかし、シズクの前では胸を張った。


「宜しくお願いします!」


 シズクが声を上げて、深く頭を下げる。


(おい)


 高弟が小さく声を出す。


「ん? 何か言いましたか?」


(静かに)


「は?」


(当てるだけにしろよ)


「はあ? 何ですか? もう一度」


 こいつヘタレだ。

 こんなのがのさばっているのか。

 シズクが心のなかでげらげら笑いながら、聞こえないなあ、と耳に手を当てる。


(だから)


「構えてー」


「あっ! はいっ!」


 ヤナギの声が掛かる。

 びし! とシズクが構える。

 うう、と苦い顔で高弟が正眼に構える。


「始め」


「・・・」「・・・」


 どう料理してやろうかなあ。

 真剣な顔を作り、緊張しまくっている高弟を見つめる。


「えーい」


 ひょいと棒を突き出すと、ば! と高弟が後ろに跳び下がった。


(ええー! それはないわー)


 ひょこっと突き出しただけなのに、ものすごく後ろに跳んだ。

 歩いて行ってほいっと振り回すだけで勝てそうだ。

 が・・・真面目に真面目に。

 すり足でゆっくり近付いていく。


 すぱ! と高弟が右手に飛び込んで来た。


(おおっ!?)


 速いではないか。流石は高弟。

 とん、と右手で棒を立てると、ばしん! と袋竹刀が当たった。ぐにっと袋竹刀が曲がって、切先が腕の上を通る。


「たあー!」


「えい」


 すとん、と棒を少し左に動かす。ばしん! と袋竹刀が当たる。


「たあ! たあ! たあー!」


「えい。えい。えーい」


 ばん! ばん! ばん!

 速い。だが、腰の引けた振りなど軽くいなせる。


「おっ?」


 すっと手を滑らせて上に。手のあった所に袋竹刀が当たる。


「くそ!」


(やれやれ。こんなもんかあ?)


 アルマダの騎士達の方が遥かに上だ。

 鎧を着ていてもこのくらいの動きはする。


(おーおー)


 あの人達は馬術しかないとか言ってたけど、剣術も車道流の高弟より上じゃないか。


「でい! でい! でやあー!」


 じゃあ、結構強いんじゃないか?

 この高弟より上なら、普通に王宮で騎士として働ける腕はあるんじゃないか?


「だあ! どあ! はいあー!」


 馬術は一級品で、腕も王宮騎士並なら、あの人達、凄いじゃないか・・・

 そんな事を考えながら、ばしん、ばしん、ばしん、と高弟の撃ち込みを片手で受けえいると、


「おい! お前!」


 息切れした高弟がじろりとシズクを睨みつける。


「はいっ!」


「何で撃ち込んで来ねえんだよ!」


「あ、私の番ですか?」


「うちは守りからのカウンターが基本なんだよ!」


「じゃあ行きます」


 ごぎん。

 立てた棒をそのまま肩に落とす。袋竹刀で受けられたが、そのまま落とす。

 めぎっ! と袋竹刀が潰れる音。

 そのまま、袋竹刀ごと拳ひとつくらい鎖骨を折って肩にめり込んだ。


(あやべっ!)


 やってしまった! 左側だ! 真下に心臓!


「ラディ!」「うぎゃっ!」


「はい!」


 がつん! と高弟が膝を叩きつけるように付く。

 慌ててラディが駆け寄ってくる。


「かかっ・・・かっ・・・」


 高弟は倒れ込んで、泡を吹いて失神してしまった。


「ああーっ!?」


 ぱ! とシズクが棒を上げると、下にラディが滑るように入り込み、高弟の肩に手を当てる。


「だだ大丈夫!?」


「大丈夫です!」


 ラディが強く打ち付けた膝にも手を当てる。


「いー・・・やっちゃったい・・・」


 小さく呟きながら、じじじ・・・と目線をヤナギの方に向ける。

 が、ヤナギはにやにや笑って頷き、


「はい、一本! ありがとうございました!」


「・・・あっ! ありがとうございました!」


 ば! とシズクが頭を下げて、そのままラディに顔を向ける。


「平気?」


「気を失っているだけです」


 倒れた高弟の側に膝をつき、小さな声で、


「あっぶねえ・・・左側だったから、心臓やべえって」


「本当です。今のは危なかったです。気を付けて下さい」


 ころんと棒を転がし、倒れた高弟をひょいと持ち上げて、カオルが昏倒させた高弟の隣まで持って行って並べて寝かせる。

 キョウイチがそのシズクをじっと見ている。

 視線を感じ、ん? とシズクがキョウイチに目を向けると、キョウイチが小さく口の端を上げた。



----------



 マサヒデは高弟を抱えていくシズクを見て、不安そうな顔で、


「あれ、やりすぎじゃあありませんか」


 と、アルマダを見る。


「大丈夫です。あれはヤナギ先生の計らいです」


「計らい?」


「お灸を据えてくれ、と、あの4人の高弟さんを用意したんですよ」


「あ、そういう事」


「ま、あの方々から学ぶ事はないでしょう。早々に叩きのめして、次を呼んで頂きましょう。ああ、反面教師にはなりますかね」


 どすどすとシズクが戻って来て、よいしょっと座る。

 マサヒデがシズクを見て、


「どうでした」


 シズクは小さく肩を竦めて、


「ヘタレ。始める前、小さい声で当てるだけにしてくれ、だってさ」


 ふ! とアルマダが呆れ笑いで吹き出す。


「しかし、飛び込んで来た時の踏み込みは中々でしたよ」


「騎士さん達も同じくらいの動きするよ。鎧着ててさ。まあ、ビビって鈍ってるんだと思うよ。いつもはもっとマシだと思うな」


「でしょうね。あれで高弟などとは思えませんよ」


 マサヒデ達の前では、ヤナギが残った2人の高弟をちら、ちら、と見て、


「次、どっちが出る? トミヤス君もハワード君も、今の鬼の子より強いって話だけど」


「・・・」「・・・」


「君達、ここの高弟でしょう。少しは高弟らしい所を見せて下さいよ」


 ヤナギがマサヒデ達の向こうを指差すと、何人も手を止めてこちらを見ている。


「ほら。皆、見てますよ。格好良い所見せないと、舐められますよ。そんなに腰が引けてて大丈夫ですか?」


「・・・」「・・・」


 高弟2人が俯いて、顔を赤くしたり青くしたりしながら、拳を握る。


「もう降参しちゃう? 私はそれでも良いけど」


 剣も交えず降参したなどと・・・しかも、周りには人の目がある。宗家も見ている。


「私が行きます」


 もう諦めたような顔で、1人が立った。

 ヤナギが笑顔になって、マサヒデ達に頷き、


「次は誰?」


「はい」「はい」


 マサヒデとアルマダが同時に手を挙げた。

 む、とアルマダがマサヒデを見る。


「譲って下さいよ」


「嫌ですよ」


「玄関開けたの、誰だと思ってるんです」


「うっ・・・」


 しょぼん、とマサヒデが手を下げた。

 アルマダが立ち上がり、にっこり笑って、


「私が参ります」


 すたすたと高弟の前に歩いて行く。


「いやあ、車道流の道場で竹刀を持たせて頂くなど、夢のようです」


「いや、こちらこそハワード様にお相手して頂けるなど」


 おやおや、腰の低い事だ・・・カオルの前ではふんぞり返り、シズクには当てるだけにしろと言っていたらしいが。

 ふっ、アルマダが鼻で笑って、


「手加減は必要ですか?」


 高弟が何か言いかけた所で、ヤナギが大きな声を上げる。


「こら! ハワード君! 君は車道流を馬鹿にしているのかね! 立ち会いに際し、相手に手加減が必要かなどと!」


「おっ・・・確かに! 大変申し訳ございません! 手加減が必要か、などとご無礼な発言をお許し下さい!」


 ば! とアルマダが頭を下げる。


「い、いや、私のような未熟者に」


「何を仰られる! 貴殿はヤナギ車道流道場の高弟! 高慢な私をお許し下さい! 全力で参ります! 胸をお貸し下さい!」


「・・・」


 ヤナギとアルマダの大きな声が道場に響いた。

 全力で叩きのめされるのか・・・

 高弟が渋い顔で横を向く。

 目の端に、こちらを向いている門下生達が見えた。


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