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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第83話


 ヤナギ車道流道場。


 マサヒデに続き、


「トミヤス流、アルマダ=ハワードです」

「トミヤス流、カオル=サダマキです」


 と、皆も名乗って頭を下げていく。

 うんうん、とヤナギが頷き、


「では、皆さん頭を上げて下さい」


「はいっ!」


 マサヒデが大きな声を上げ、びしりと背筋を伸ばす。

 アルマダがちらりとマサヒデを見て、


(やれやれ。これは駄目だ)


 がちがちだ。とても立ち会いなど出来る状態ではない。陛下の晩餐会に行った時のようだ。


「トミヤス君。君の活躍は聞いていますよ。つい先日も、あのシンノスケ=ナカタと果たし合いをして勝ったとか。読売にでかでかと載ってましたね。腕は大丈夫なのかな? ばっさりと斬られたと書いてありましたけど」


「はい! そちらの治癒師、ラディさんは、死んでさえおらねば、手足を斬り落とされてもぴたりとつけてくれる腕をお持ちで!」


「おお、それは凄い! で、ぴったりくっついて大丈夫なんですね?」


「はい!」


 ヤナギが左右の高弟を見て、


「だそうだよ。楽しみですね」


「は」


 小さく答えて、高弟達が会釈する。


「で・・・まあ、私もこの年ですが、耳は良い方です」


「は」


「三傅流。一剣流。神誠館。打剣館。皆さん、活躍したそうですね。一剣流のヤダ先生は、免許皆伝を出そうとしたとか?」


「まさか! からかわれただけです」


 ヤナギがにやりと笑い、


「剣は真剣の下で生きてこそ。うんうん。ヤダ先生は、この年になって子供程に若い者に教えられたと、それはもう感心していましたよ」


 ヤナギがクレールを見て、


「神誠館や打剣館では虎が出たとか? 恐ろしいですね」


 ぎく! とクレールが肩を竦ませ、


「い!? あ、ええと・・・はい・・・」


「おお、神誠館で思い出しました。あそこには鬼も出たとか。顔をお見せ下さい」


「はい・・・」


 シズクがフードを取り、覆面を外す。


「羨ましいですなあ。その『闘将』のマフラー。あのノギからもらったとか?」


「まあ、その・・・そうです」


 実はクレール配下の忍に作ってもらった偽物だ。本物は貴重品なので、クレールに封印されてしまった。

 ヤナギがにっこり笑って、


「ひとつどうです。そのマフラーを賭けて勝負でも」


「それは」


 シズクが言いかけて、アルマダが手で止める。


「何を出して頂けましょう」


「騎士の位でどうでしょう?」


 何? と高弟達が顔を見合わせる。

 ここに来ている門弟のほとんどが、そこを目指して稽古をしているのだ。

 が・・・アルマダは怪訝な顔をして、


「御冗談ですか? それとも、確認ですか?」


「どういう意味でしょう」


「ヤナギ先生はご存知でしょう。我々には、騎士の位など価値はありません」


「近衛騎士ならどうでしょう?」


「釣り合いません」


 即答。

 キョウイチが驚いた顔でアルマダを見つめる。

 貴重な物かもしれないが、たかがマフラーではないか。

 しかし、アルマダ以外の皆も、特に変な事を言った、という顔はしていない。

 ふ、とヤナギが笑い、


「ふふ。何となら釣り合うでしょうか」


「無刀取り」


「ほ」


 ヤナギが笑った。

 嘘だろう、という顔で、ヤナギ以外の、高弟達とキョウイチがアルマダを見る。


「このマフラーは、我々、特にシズクさんにとっては、それだけの価値があります」


「ううむ、残念。無刀取りは免許皆伝の時に伝授する技法だから・・・流石に出せませんねえ。欲しかったけど、闘将マフラーは諦めますよ」


 ヤナギがにやにや笑う。

 踊らされてなるものか・・・

 アルマダもにっこり笑って、


「また御冗談を。我々の事はご存知でしたでしょう」


「いやあ。ごめんなさい。試すような事を言ってしまって」


「いえ。我々も自分達が他の流派の方々からどう思われているかは、承知しております。確かめたくなるのも当然ですから」


「済まなかったね。で・・・知っての通り、うちは袋竹刀ですから」


 ヤナギが横の高弟に向いて「頼むよ」と言うと、高弟が頭を下げ、マサヒデ達の前に一礼して袋竹刀を置いていく。


(こいつか)


 マサヒデはまだ浮ついて気付いていないようだが、カオルの目が細まった。明らかにカオルに袋竹刀を置く時の目が変わった。問題の貴族か・・・


「うちは基本的に試合ってしないんですけど、今、皆さんは噂でもちきりですからね。私も興味津々なんですよ。では、早速行きましょう。最初は誰が出ますか?」


 さ、とカオルが手を挙げる。


「私でも宜しいでしょうか。私、マサヒデ様の内弟子で手ほどきは受けておりますが、正式な門人ではないのですが」


「勿論! トミヤス君の内弟子! ううん、楽しみだねえ! 誰が行く?」


「私が」


 さ、と袋竹刀を持って来た高弟が立ち上がる。それを見て、カオルは心中でほくそ笑んだ。

 丁度良い。ヤナギの目の前。叩きのめしても文句は言えまい。

 すたすたと両人が歩き、向かい合う。

 カオルは深く頭を下げ、


「名高き車道流のお方にお相手して頂けて、私、光栄でございます。宜しくお願い致します」


 ふん、と高弟が小さく鼻を鳴らすのが聞こえた。


「宜しくお願いします」


 高弟がぞんざいに返す。

 す、とカオルが頭を上げると、明らかに見下した目。


 ぱし、と軽く袋竹刀を手に当てる。撓む(たわむ)。余程に強く当てても、そうきつくは入るまい。では・・・


「じゃあ、構えて下さい」


 おや? 声の感じが・・・カオルがちらりとヤナギを見る。

 ほんの小さく、ヤナギが頷いた。

 なるほど。そういう事かな? と、カオルも目で頷く。


 高弟は無形に。カオルは右脇構えに。似たような構えになったが、守りと攻めだ。


「始め」


「参ります」

「来い」


 高弟から見て、カオルが振り始めるのが一瞬見えた。


(あんな所から)


 届くはずがない、と思った瞬間、目の前が暗くなって後ろに吹き飛んだ。

 カオルは前に伸びるように袋竹刀を突き出していた。


 マサヒデがナカタとの立ち会いでやったのと、同じ使い方。

 無願想流で飛び込みつつ、右手を前に、切先1寸で斬る。

 ただ、カオルは斬るのではなく、振って伸び切った所が丁度水月に当たるように突いた。


(ふふ)


 一瞬、身体が押し返されるかとも感じた重み。当たった瞬間、ぐっと撓って、高弟が後ろに吹き飛んだ瞬間、ぐっと戻った袋竹刀の感触。

 それらが同時に手に伝わってきた。思い切り入った感触だ。

 振っても撓るので、突き入れた。突いても撓るが、これなら十分に効く。


「はい! 一本です!」


 ヤナギの声がかかる。

 前に出ている右足に左足を引き付け、切先を下に向けて、血振るいの動き。ゆっくり左手に袋竹刀を納め、既に昏倒している高弟に深く頭を下げ、


「わざわざお手を抜いて下さり、ありがとうございました」


 と言って、しれっと元の位置に戻り、すっと正座した。

 高弟達は驚愕の目で、戻って行くカオルを目で追っていた。

 キョウイチも驚いていたが、ヤナギの顔を見て、そういう事かと落ち着いた。


 アルマダがしれっとしたカオルを見て、


「良いんですか」


「大丈夫です。ヤナギ先生も『そのつもり』です」


「ああ・・・なるほど。そういう事でしたか。じゃあ、全員そうですか」


 シズクも聞いていて、不安そうな顔で、


「どういう事? ぶっ飛ばしても良いの?」


 ふ、とカオルが笑って、


「そういう事です。ヤナギ先生の前での立ち会いです。誰も文句は言えますまい」


 カオルの返事を聞き、シズクも口の端を小さく上げた。


「なあるほど・・・そういう事か。ちょいとお灸をってね。次、行って良い?」


「棒でも良いんですかね?」


 はい、とシズクが手を挙げて、


「先生!」


「はいはい?」


「私の得物は棒です! 大丈夫ですか!?」


「勿論! ねえ、皆? 得物が違うからなんて、逃げるような人は居ないですよねえ。そんな人は車道流には居ません」


「・・・はい」


 ぞおー、と高弟達の顔から血の気が引く。

 誰だ、誰だ、とちらちら目を見合わせる。次の相手は鬼族だ・・・

 ヤナギが昏倒している高弟を指差し、


「ねえ、誰か。あの根性なしを片付けてもらえますか」


「私が」


 キョウイチが立ち上がり、倒れた高弟に「大丈夫ですか」と声を掛けたが、反応がない。まさか、と首に指を当てる。ほ、と安堵の息を吐いた。生きている。


(いや待て。あの突き、臓腑が破れていまいな?)


 念の為と札を出して、高弟の道着を開け、貼ろうとしてぎょっとした。

 真っ赤に腫れている。これは打ち身で赤くなったものではない。

 臓物が破れている! 死んでしまう!


(まずい!)


 慌てて、く! と札に軽く魔力を籠め、ぴたりと貼る。

 すうっと札の字が消えていく。これで大丈夫だ。


「ニシムラ君? どうしたの?」


 後ろからヤナギの声。


「えっ!? あっ・・・いや、少し良い感じに突きが入ってしまったようですので、念の為にと」


「あそう? 臓物とかやられてなかった?」


「いえ・・・いえ。念の為です」


 たらりと高弟達の額を脂汗が落ちていく。真っ青な顔のキョウイチを見れば分かる。

 あれは臓腑を破られたのだ。

 キョウイチは倒れた高弟をおぶって、少し離れた所に慎重に寝かせる。


 シズクが後ろにいるラディに振り向いて、


「なあ、ラディ?」


「あっ!」


 ラディが「しまった!」と顔を上げた。今のは自分の出番ではないか・・・

 カオルが凄い一撃で終わらせてしまったので、驚いてしまっていた。


「次は頼むよ」


 そう言って、シズクが立ち上がった。

 げ、と高弟達がシズクを見る。

 次は鬼族とやるのか!?


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