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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第九章 車道流道場

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第82話


 翌朝、ヤナギ車道流道場前―――


 玄関前でうろうろするマサヒデを、皆が呆れた目で見ている。

 アルマダが見かねて、


「マサヒデさん」


 マサヒデがぴたりと足を止め、ば! と顔を上げる。


「はっ!? はい、何でしょう」


「あなた、昨日の勢いは何だったんです。多少はやってやるとか、程々にやってやるとか、醜聞なんか気にしないとか・・・」


「そこじゃないですよ! ヤナギ先生が居るんですよ! ここには!」


 はあ、とアルマダが溜め息をついて、


「知ってますよ。ここは『ヤナギ車道流道場』って言うんです。国王陛下のお膝元にあるヤナギ車道流道場です。王宮剣術指南役のヨシヒラ=ヤナギ宗家が居るんです」


「言わないで下さいよ! 緊張するじゃないですか!」


 うろうろうろ・・・

 すたすたとアルマダが歩いて来て、ごす! と水月に木刀の柄を入れる。


「ぐふっ」


 さ! とマサヒデの懐に手を入れ、フギからもらった紹介状を取り、


「私が行きます。あなたは後ろについて来なさい」


「そんな・・・深・・・く、入れ、なくて、も・・・」


 マサヒデが水月の辺りに手を当てて、よろよろ歩く。

 かくっと膝が折れそうになった所で、シズクがマサヒデの肩の下に腕を入れて、


「マサちゃん、大丈夫?」


「何とか・・・」


 はあ、とシズクが呆れ顔で溜め息をつき、


「そんなんでヤナギ先生の前に行くの? それはなくない?」


「緊張、するんですよ・・・」


 がらっ! とアルマダが玄関を開ける。


「おはようございます!」


 かちゃかちゃと音がして、手前の戸がさらりと開いた。

 男が出て来て、玄関を向いた瞬間、目を見開いて固まった。


「・・・」


 驚いてアルマダも口を開ける。あの陰陽師ではないか。


「ハっ・・・ハワード・・・」


「あ、あなたは・・・いや、そうでした。あなたは車道流でしたね」


 す、す、と男が玄関まで出て来て、気不味い顔で袴を捌いて座る。アルマダから目を逸らしたまま、


「・・・何しに来・・・ちっ・・・失礼、本日は何用で」


「ヤナギ先生は」


「おられます」


「これを。森戸三傅流宗家、フギ先生からの紹介状です」


「一手ご指南ね・・・」


 男が紹介状を受け取り、ん? とアルマダの後ろの、腹を押さえて顔を歪めているマサヒデを見る。


「あれは大丈夫か? 随分顔色が悪いが」


 アルマダが呆れ顔で、肩越しに親指で後ろを指し、


「あの顔色が悪いのが、マサヒデ=トミヤスです」


「で? そのマサヒデ=トミヤスはどうしたんだ? 体調が悪いなら、無理して来る事はないだろう」


「いえ。緊張して玄関が開けられなかったので、喝を入れました。ここに」


 ここ、とアルマダが自分の水月を指差す。


「それは・・・トミヤス流の喝か?」


「ははは! そんな訳はないでしょう。ところで、変な貴族は来てるんですか?」


「居ない日はないな。じゃあ、ヤナギ先生に紹介状を渡してくる」


 ふう、と男が息をつき、苦い顔で首を振る。


「がっかりしないでくれ。ヤナギ先生も、中々全員を見て回れないんだ。先生の教えは本当に素晴らしいものなんだ。腐った連中が酷いだけなんだ」


 そう言い置いて、男は下がって行った。

 奥の扉が開いた瞬間、ぱしん! ぱしん! えい! やあ! と稽古の音が聞こえて、扉が閉じてすぐ静かになった。

 アルマダが後ろを向いて、


「今、ちらっと見えましたけど、奥までかなり広いですよ。オリネオの冒険者ギルドの訓練場くらいあるのでは」


「それはまた」


 カオルとイザベルが顔を見合わせる。

 ふ、とアルマダが笑って、


「さっきの方が、先日の凄腕の陰陽師ですよ」


「ええっ!?」


 皆が驚いて声を上げた。

 次いで、クレールが声を上げる。


「あの! ハワード様!」


「どうしました」


「私、あの方から陰陽術を習いたいです!」


「ここでは駄目ですよ。剣術の道場なんですから。プライベートで願えないか、お尋ねしてみましょう」


「そうします!」


 ううむ、と顔色が若干戻ったマサヒデが唸って、


「あの弟さん、来てますかね。こないだは何もせずに終わりましたから」


「それも聞いてみましょう」



----------



 10分程待って、やっと男が戻って来た。


 綺麗に袴を捌いて座り、頭を下げ、


「お待たせ致しました。どうぞお上がり下さい」


 アルマダが上がり框に足を乗せた所で、


「おっと、そうでした。あなたにお尋ねしたい事が3つ」


「どうぞ」


「お名前は」


「ニシムラ。キョウイチ=ニシムラ」


「弟さんは今日は」


「来ております。弟はオクマツ」


 アルマダが振り向いてクレールの方を向き、


「最後。あちらのクレール=フォン=レイシクラン様が、あなたから陰陽術のレッスンを受けたいそうです。時間は取れますか」


「何!?」


 ば! とキョウイチが顔を上げた。

 アルマダ、クレールと、ば! ば! と顔を見る。


「ふふ。私達は実力主義なんです。クレールさんは、魔術は凄いですが、陰陽術はそうでもなく」


 む!? とクレールがアルマダを睨む。


「ハワード様!? それは何か私が素人みたいな!」


「時間が取れるようなら、ご連絡を。連絡先は知ってますね。では失礼」


 アルマダ、カオル、イザベル、マサヒデ、シズクと上がって行き、クレールが框に座ってブーツを脱いで、驚いた顔でクレールを見ているキョウイチを見て、


「お時間がある時で良いですからね! あなたは学生さんだと聞きましたし!」


「は・・・」


「では失礼します!」


 ぱたた・・・とクレールが上がって行く。

 最後に、びしっと治癒士のローブを着たラディが上がって行った。



----------



 広い廊下の後ろからキョウイチが来て、扉を開ける。


(うっ!)


 マサヒデ達、皆が驚いた。

 これはでかい。トミヤス道場など比べ物にならない。

 奥が広い、と言うより遠い。人が小さく見える。

 これが道場!?


 す、とキョウイチが出て、


「まあ、初めて他の道場から来た奴らは、大体ここで足が竦んじまうよ。俺は逆に、初めて他の道場に行った時、こんな狭いのかってビビッちまったが・・・来てくれ」


 キョウイチに案内されるまま、広い道場の真ん中を歩いて行く。

 素振りをしている者、構えを細かく直されている者、撃ち合いをしている者、何やら怒鳴られている者は、型を練習しているのだろうか・・・

 ちらちら視線を感じるが、皆、稽古は続けたままだ。


 ずっと奥まで歩いて行くと、一段上がった小さな畳の間があって、そこに小柄で丸顔の優しそうな老人。左右には2人ずつ、老人と正反対に鋭い目を向ける者が座って居る。


 キョウイチが老人の前で手を付き、


「先生。皆様をお連れ致しました」


「ありがとう。ニシムラ君も、ついでに近くで見ていきなさい。よく学ぶんですよ」


「は!」


 ささ、とキョウイチが脇にどく。

 同時に、ば! とマサヒデが手を付いて、


「トミヤス流! マサヒデ=トミヤスでございます!」


 凄い声。隣に座っていたアルマダが、ぎくっとして、少し身を離す。

 ええっ? と皆も驚いてマサヒデを見る。

 鋭い目を向けていた高弟達も、おおっ? と驚き、次いで、ふっと鼻で笑った。


「ははは!」


 老人が手を叩きながら笑い、


「トミヤス君。緊張するのは分かりますけど、もう少し柔らかくしないと、後の立ち会いで困りますよ」


 立ち会い!

 その言葉を聞き、ぎくっとして、皆がマサヒデから老人に目を向ける。


「ヤナギ車道流、22代宗家。ヨシヒラ=ヤナギです」


 にこにこ笑う老人の目からは、皆を試すような視線を感じた。

 マサヒデはぴたりと床に額をつけたまま。

 他の皆が、こくん、と小さく喉を鳴らした。


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