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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第81話


 城門前広場をマサヒデとカオルが馬に乗って駆け抜けていく。

 途中で夜廻の兵に声を掛けられたが「後で!」と声を上げて走って行く。


 剣の腕も立ち、魔族の血を引きながらも人の国の王宮魔術師の生徒、しかも特待生になれる程の男。


(もっと速く!)


 黒嵐が「ばふ、ばふ」と息を切らせて走って行く。

 ちら、と後ろを見ると、カオルが離れている。

 少し落とすか、と一瞬思ったが、急いだ方が良い、と思い切り走らせる。


(もうすぐ東門!)


 と、前に見える角からアルマダが愛馬のファルコンに乗って飛び出してきた。


「あっ!?」「あっ!?」


 お互いの姿を認め、離れて驚きの声を上げ、声を上げて馬の足を落とす。

 ふう、と安堵の息を吐き、後ろを向いて手を上げると、カオルも馬の足を落としてゆっくりになった。

 前のアルマダもぐるっと馬を回し、出て来た通りに向かって手を挙げる。


 ぽくぽくぽく・・・速歩で進めていくと、アルマダが苦笑のような、安心したような笑みを浮かべた。マサヒデも笑って手を挙げる。


「勝ちましたか」


「勿論」


「そっちは陰陽師だったんでしょう? 弟さんから剣も凄いと聞きましたよ」


「それは見る機会がなかったですが、凄い陰陽師でしたよ。あれで学生だなんて信じられません。賭けに負けたら、私を含めて3人は死んでました。マサヒデさんの方も、恐ろしい達者だと聞きましたよ」


「む」


 あの弟を思い出し、く! と下を向いて笑いを堪える。

 ぽくぽくぽく・・・カオルが来て、マサヒデと馬を並べた。


「カ、カオルさん・・・あの方、頭は良くないって」


「んむっ!」


 カオルが口に手を当てて、下を向く。

 アルマダが怪訝な顔で、


「どうしたんです?」


 マサヒデが笑いを堪えた真っ赤な顔を上げて、


「いや、1人だったんですよ。で、勝負だーって」


「ええ」


「で、私、前に立ちましたよ。その勝負、受けようって」


「はい」


「あの方、1対1って言わなかったので・・・勝負開始! がつん! 後ろから、クレールさんが水鉄砲の魔術を当てて昏倒。終わりでした」


 ぶふっ! とカオルが堪えきれずに吹き出し、


「ははははは! ご主人様、あれは、あれは!」


「ははは!」


 げらげら笑う2人を見て、アルマダが溜め息をつき、


「全く! こっちは死にそうだったと言うのに・・・」


「引きが悪かったんですよ。いや、良かったんです。それだけの相手を下したんだから、ぐんと順位は上がっているでしょう?」


「ふん・・・」


 がらがらと馬車の音が聞こえてきた。

 アルマダの騎士達も、アルマダの後ろで勝利の笑みを浮かべながら並んでいる。

 ずらりとならんだ4人の綺羅びやかな騎士。


「んん?」


 マサヒデが目を細めて騎士を見る。やけに綺羅びやかだと思ったら・・・


「ジョナスさん? 濡れてません?」


「ああ。ははは! ちょっと水をぶっかけられまして。アルマダ様、最後のはったりは効きましたな。始末しろ!」


 はさ、とアルマダが前髪を軽く払って、


「ふっ。口も戦術です」


「むむ。随分と面白そうな立ち会いだったみたいですね。道々聞かせて下さいよ」


「そうしましょう。急に眠くなってきましたよ。もうすぐ日が登ります。昼までぐっすり眠りたい」


 アルマダが馬を歩かせ始めた。マサヒデもカオルも馬首を返す。騎士達の後ろからイザベルも出て来て、


「ハワード様、私にも・・・」


「ええ。あれは凄い戦術家と言いますか・・・」


 常夜灯の明かりの中を歩きながら、マサヒデ達は船に帰って行った。



----------



 マサヒデが起きたのは、日も昇ってかなり経ってからであった。


 目を覚まして、隣のベッドを見ると、まだクレールが寝ている。

 窓を見れば、閉め切ったカーテンから陽が差し込んでいる。


「ふうーっ・・・」


 細く長く息を吐き、なるべく音を立てないよう、そっと起き上がり、洗面所に入って静かに顔を洗い、口をすすぎ、歯を磨く。歯を磨きながら部屋の方を見ると、クレールはまだ寝ている。

 口を綺麗にして、もう一度顔を洗い、マサヒデは静かに部屋を出て行った。



----------



 客室廊下から甲板に出る前に、一度港の方を確認。

 倉庫の屋根、港、とちらちらと見ながら出て行く。


(やはり闇討ちが多い)


 ふう、と息を吐いて、向かいのレストランに歩いて行く。

 中ではアルマダが何か飲みながら読売を読んでいる。


 さっさとこの首都を出て、北の国境沿いのゾエに向かいたい所だが、他にも道場はあるし、その中でも最重要の所に顔を出していない。

 レストランのドアを開けると、アルマダがぱさっと読売を畳み、マサヒデに軽く手を挙げて苦笑して、


「マサヒデさん。あなた、昨晩は楽して勝ったのに、私より寝てる事はないでしょう」


「成長期なので、眠くて仕方ないんですよ」


 マサヒデがアルマダの対面に座ると、給仕がやってきた。

 ん、とマサヒデが顔を向けると、給仕が湯呑を置き、茶を注ぐ。


「卵焼きと・・・甘めのやつ。あとは、ううむ、白味噌の味噌汁で、後は適当に頼みます」


「かしこまりました」


 アルマダがにやにやしながらマサヒデを見る。


「へえ。今朝は白味噌ですか」


「何となく。久しぶりに白が良いなあって・・・」


 ばさ、とアルマダが読売を置いて、ううん! と伸びをする。


「ま、私は今日はのんびり休みます。昨晩の立ち会いで疲れ果てました」


「私はフギ先生に挨拶してきます。ナカタと立ち会いする前、現時流を教えてもらった礼をしてないですから」


「ついでに稽古もしてきなさい。あなたは元気が溢れているでしょう」


「それも良いですね。ところで、明日辺り・・・そろそろ行きませんか」


「どこに」


「ヤナギ車道流」


「む・・・」


 厄介な連中が居るので敬遠はしていたが、それでも行ってはみたい。何しろ王宮剣術指南役の道場なのだから。

 アルマダが頬杖をつき、難しい顔をして、


「私も行ってはみたいですけどね・・・」


「ううむ」


「面倒になりそうですよ。あなた、このウキョウに来て、さらに名が売れました。読売にも何度も載ってます。しかし、身分は平民。まあ貴族連中には良いおもちゃですよ」


「・・・」


「良いんですか? 下手に事を起こすと、いや、下手すると稽古で小突いた程度でも、醜聞を撒き散らされますよ。名が広まった分、そういうのもあっという間に広まりますが」


 マサヒデは困った顔で、ぼりぼり頭をかく。


「私は良いですよ。公爵家って看板がありますから。イザベル様もクレール様も。ですが、あなた、カオルさん、シズクさん。身分がない。看板がない」


「でも見てはみたいですね。カオルさんに変装でも作ってもらってとか・・・」


「変装した顔でヤナギ先生の前に? まあ、カオルさんは職業柄、仕方ないですが」


「ううん・・・」


「まあ、それでもあなたが行くなら行きますけど」


 マサヒデが考え込んでいると、給仕が来てマサヒデの前に朝食を並べていく。

 味噌汁から上がる湯気を見ながら、マサヒデはじっと考え込んだ。



----------



 森戸三傅流道場。


 すぱぱ! とマサヒデとフギの木刀が掠める。


「ふうっ!」


「はーっ・・・」


 振りながらマサヒデはフギの袖を掠めて、くるっとフギの方を向いた。

 フギの間合いの外。

 溜めが出来ていて、下手に入るといつでも・・・

 じわりとフギが動いた。


「おっ!?」


 ぱ! とマサヒデが下がった。

 じわじわとした動きから、ぱ! と急に拍子が変わって深く入られた。

 目の前を木刀が掠める。


 一瞬でここまで踏み込むとは!?

 驚いた瞬間、既に掠めた木刀を入れ替わるように、フギが入っている。

 反射的に横にした木刀と、踏み込んだフギの添え手の斬り上げが、こつん、と当たった。


「く・・・参りました」


 1寸だけ外してくれたのだ。

 真剣なら、股から顎の下までばっさり斬られている。

 う、と顎を上げているマサヒデを、フギが下から見上げて、にやっと笑った。


「こんな感じ。うちはこの添え手を結構使う」


 おお、と門弟達から声が上がり、ぱちぱち、と拍手も上がる。

 フギが体勢を立て直し、添え手の木刀を右に左にと持っていき、


「近間になるとね。どうしても脇差とかに手が行っちゃうけど、これならいける。両手だから、咄嗟に相手が手を出してきても、軽く受けられる、捌ける」


 そして、くるりと回す。捌ける。

 一緒に来ていたカオルとイザベルも木刀を持って、フギを見ながら、こう、こう、と添え手をして小さく動かす。

 シズクは棒を見て、んん? と首を傾げている。


「ううむ! 素晴らしいです!」


「良いでしょ? これ」


「はい」


「じゃあ、教えてあげたから、皆に稽古つけてあげてくれる?」


 フギがにやっと笑って、自分の目の下に指を置き、


「しっかり見てるからね」


 少しでも見えたら盗むぞ、と言っているのだ。


「はい。それでは、最初の方!」


「はい!」


 マサヒデ達の稽古は、みっちり夕方まで続いた。



----------



 そして、稽古終了。


 門弟達があれはどうの、これはどうの、とか言ったり、手刀を作ってこう来て、俺の時はここで・・・とかやっている。ただ感心するだけではなく、普段の三傅流では見られないマサヒデ達の動き、太刀筋などを忘れないようにしっかりと反芻している。皆、良く学ぶ姿勢が出来ている。


「先生。私、そろそろ車道流に顔を出したいと思います」


「え! 行くの? 行かずに出てっちゃうかと思ってたけど」


「正直に言うと、それも少しは考えましたが」


「はは! やっぱり」


「でも、私は武者修行に来てるんですよ。勇者祭なんておまけなんです。武者修行に来たのに、車道流は行かないって、それはどうでしょう」


「ふうん」


 はは、とマサヒデが苦笑して、


「もう、変な貴族連中に何か言われてもいいです。大体、格好良い話ばっかり広まって、私も窮屈ですよ。聖人君子じゃないんですから」


「ほおう」


「まあ、言われたなら言われたで、それなりのお返しはするつもりですけど」


 ぱしん、とフギが膝を叩き、にやっと笑って、


「ははは! ヤナギ先生の門弟がごっそり減っちゃわない?」


「そんな事はしません。まあ・・・でも若気の至りってありますし・・・事故はあるかも」


「言うじゃない」


「ほら、あれですよ。大体剣術って、中庸とかいつとか。善悪もそうだと思いますから。どっちも程々という所で・・・多少は、です」


「多少じゃなくて、少にしときなさい。悪い方が大きく見えるから」


「分かりました」


「でもね」


 フギが腕を組んでにやっと笑って、


「うちの門弟も色々やられてるみたいだし・・・正直な所、ぎゅうっとお灸を据えてくれたら嬉しいかな。内緒だよ。まあ、変な記事が読売に載っても、世間は知らないけど、剣術やってる人達は、おおやってくれたか! って思うだろうね」


「ふふ。程々に頑張ってきます」


「うん。程々にね。その程々がどのくらいかは分からないけど! ははは!」


 2人の後ろで、カオルとシズクがにやにや笑っている。

 これは楽しくなりそうだ。


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