第8話
シルバー・プリンセス号、レストラン。
警備兵が偽者の船長を取り囲む。
「不法侵入および傷害! 公記号偽造及び不正使用で現行犯逮捕! 手錠!」
「はっ!」
勇者祭の相手を殺そうとしても、同じ参加者同士であれば殺人は許される。
殺人、未遂、幇助などはつかないが、この船への侵入、船長に毒を持った罪はつく。 船長に変装したので、さらに公記号偽造と不正使用。
アルマダはテーブルの対面で新しいカップで珈琲を飲みながら、
「失礼。禁煙の場所でパイプを吸うのは罪になりますか?」
「銀貨30枚以下の罰金になります。過去に同じ違反を重ねていた場合、金貨5枚以下の刑も重ねられます」
アルマダがソーサーの上の安物のパイプを差し出し、
「この船は禁煙で、これが彼の喫煙の証拠品。火が着いたまま落ちていて危なかったので、私が珈琲をかけて消しました」
「協力感謝致します。火が着いたままで落ちておりましたか。ううむ、火は出ていないので失火罪はつきませんが」
「構いませんとも。それより、彼が原因で傷付いたこのテーブルは」
「勿論、弁償です」
「ありがとうございます」
警備兵が敬礼し、逮捕された偽者の船長を睨んで、
「連行せよ!」
「は!」
ばらばらと警備兵が偽者の船長を連れて出て行った。
サクマがアルマダの横に立ち、
「アルマダ様」
かちゃ、とアルマダがカップを置いて、
「そうですね。テーブルを移りましょう」
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よいしょ、と慣れない手つきでマサヒデがパンにバターを塗る。
「ううむ、中々難しい」
「このくらいすぐ慣れますよ!」
マサヒデ以外、皆するするとパンにバターを塗っている。
「シズクさんも出来るんですか」
「このくらいはねー。宿だとパンが多いもん。これも旅してたおかげかな」
ラディがパンを裂いてちぎって口に運び、もぐもぐと噛んで飲み込み、
「マサヒデさん」
「はい」
「今日は出掛けるんですか?」
ラディは1人で残るのは怖いので、常にマサヒデ達と一緒に居たいのだ。
「ええ。まずは冒険者ギルドに行って、オリネオのギルドに首都に着いたって連絡を入れます。その後は職人街で研師さんを探します」
「研師?」
「イマイさんの師匠です。お手紙を預かっていますからね」
あ、とラディが驚いて、
「イマイさんの師匠というと、シロウ=サガワ先生」
「有名ですか」
「文科省の刀剣保存部の評議員です」
「へえ。省庁つきの職人さんですか。イマイさんのお師匠さんですから、凄いんでしょうね」
「はい。正六位上、鍛冶正です」
「え!? 官位持ってるんですか!?」
カオルが呆れ顔で、
「ご主人様、イマイ様も官位は持っておられましょう」
「あ、そういえばそうでした」
とはいっても、イマイの従七位下の遥か上。
マサヒデが指を繰って数える。
「ええと、いくつ上かな・・・」
従七位、従七位上。
正七位下、正七位、正七位上。
従六位下、従六位、従六位上。
正六位下、正六位、そして、正六位上。
11も上の位になる。従何位上と正何位下が同列とされる職もあるが、それでもかなり上だ。
「うへえ・・・」
「鍛冶正と言えば、国内に18人です。加えて、サガワ様は次期人間国宝候補の1人でもあります」
げ! とマサヒデが驚き、
「人間国宝!?」
「の、候補です」
「候補に上がるだけで十分凄いと思うんですが」
「はい。凄いです。イマイ様があれだけの腕を持っているのも納得の師匠です」
マサヒデがラディの方を向いて、
「だそうですけど、ラディさんも行きます?」
「行きます」
「クレールさんも行きません? イマイさんのお師匠さんです」
「行きます!」
「シズクさんはどうします?」
「んー、どうしようかな・・・」
「どこか行きたい所でも?」
「うん。この船、図書館あるんでしょ? ちょっと気になる、けど・・・行く!」
「助かりますよ。シズクさん、首都は詳しいんでしょう?」
「ここにいたの20年前だけど」
マサヒデが腕を組んで椅子にもたれかかり、
「道場とかある場所知ってます?」
「全部は知らないよ。人族の国じゃあ、20年も経ったら潰れてるとこも多いんじゃないの? コヒョウエ先生のアブソルート流も畳んじゃったんでしょ」
「森戸三傅流」
「知らなーい。道場はどの区画にもあるしね。まあ、その辺の捕まえて聞いてみたら?」
旅立つ前に注意された事を思い出す。
「車道流ってどこにあるんですか? あまり厄介になりたくない」
「来た時に広場通ったでしょ? あのすぐ近く」
「む」
あの広場からたくさん道が出ていた。多分、あの広場を通って色々な区画に行くのだ。という事は・・・
「あの広場に行くと、車道流の輩と会いそうですか」
「だね。まー、すぐ見ることになるよ。2、3日も居たらどっかで見るから」
「職人街はどこでしょう。サガワ先生の店は職人街に行けば分かると」
シズクが笑って、
「は! 車道流の道場がある通りを行ってー、ってわけ!」
「ううむ・・・仕方ないですね。クレールさん、イザベルさん」
「はい!」「は!」
「貴族の変な輩に絡まれたらお願いします。お家の看板使って」
クレールとイザベルが顔を見合わせ、首を振る。
「ハワード様のご予定は如何でしょう。我々の格好ではあまり説得力が・・・この船に来た際も、クレール様は疑われました」
「マサヒデ様、私の部屋に着替えはありますけど、着込みがないと不安です。ドレスに着込みは」
「ではアルマダさんに頼りますか。アルマダさんはまず一剣流の道場を探すのではないですかねえ。ちょっと聞いてきます」
マサヒデが立ち上がって、アルマダ達のテーブルに行く。
「アルマダさん。今日の予定は」
アルマダがにっこり笑って、
「勿論、一剣流の道場を探しに行くんです! マサヒデさんも行くでしょう?」
「ううむ・・・ちょっと、私に付き合ってもらえませんか?」
「どこへ?」
「冒険者ギルドでここに到着したって連絡をして、次にイマイさんの師匠を探すんです。職人街ですぐ分かると」
「おお! あのイマイ様の師匠! それなら構いませんよ」
ほう、とマサヒデが安堵の溜め息をついた。
「助かりましたよ。車道流の面倒な輩がうろついているそうで」
「車道流の? 面倒な輩ですか?」
「ええ。イマイさんに気を付けろって厳しく注意されました。悪い傾奇者みたいな振る舞いを行う貴族連中が徒党を組んでいるそうです。クレールさんやイザベルさんに頼ろうと思いましたけど、お二人共、服装が・・・クレールさんも昨日すごく疑われましたし」
「殴り飛ばしてやれば良いではありませんか」
「そうすると、変な噂を流されたり、闇討ちに来るそうですよ。なので、貴族の権威で何とかしろと」
アルマダが嫌な顔をして、
「面倒ですね・・・親の見ていない所でやりたい放題ですか。構いませんとも。機会があれば殴り飛ばしてやりましょうよ」
アルマダがこのような物言いをするとは珍しい。
「珍しく物騒な事を言いますね」
「私、そういうゴミ貴族は大嫌いなんです」
「ゴミ・・・」
「本来、民の模範となるべき者がそのような行いをするのは許せないんです。この国にとってマイナスにしかならない存在です」
「やたら殴り飛ばすのもどうかと思いますが」
「どうせ言ってもその場で頷くだけで、陰口を叩かれるに決まってます。殴り飛ばしても後で陰口を叩かれます。なら殴り飛ばした方が良いです。全員叩きのめして、道場に引っ張って行ってヤナギ先生に直談判しましょう。その後は彼らの家に申し立てをしましょう。公の場で裁判です」
「そんな道場の訪問の仕方はどうかと・・・勇者祭以外にも闇討ちが増えてしまいますよ」
アルマダが舌打ちをついて、窓の外を向く。
「・・・いらいらしますね・・・」
「堪えて下さい。ほら、三傅流のフギ先生の紹介状も貰ってますし。車道流は流して、他の道場行きましょうよ。いくつも道場はあるでしょう。うちと繋ぎ作っておけば、後々出稽古に来てくれるかもしれませんし」
「掃除をする良い機会ではありませんか」
「我慢して下さいよ。何なら陛下にこっそりお願いして許しを得てしまうとか、御前試合にしてしまうとか」
は! とアルマダが顔を変えて、
「それだ! マサヒデさん、あなたやはり策士ですね」
「・・・冗談だったんですが」
「今日は我慢しますよ。一緒に行きましょう」
「出来る限り堪えて下さいよ」
「勿論」
「仕方ない事ですよ。それまでは我慢しましょう」
「ええ。陛下に許しを得たら一緒にやりましょう」
「ははは! そんな道場破りみたいな」
車道流は王宮剣術指南役。
例え向こうから喧嘩を売られようと、やってはいけない。
ゴミ貴族がどんな噂を流すか分かったものではない。
彼らから闇討ちが送られる恐れも大いにある。
ただぶっ飛ばしたいという理由で、御前試合など組まれるはずもない。
だが、マサヒデは笑って頷いた。
仮に陛下の前か、道場主のヨシヒラ=ヤナギの前であれば・・・
そのような輩も文句は言えまい。




