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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第78話


 夜明け前、東門の宿町。


 す! と先頭のイザベルが手を上げると、アルマダ達の馬が止まった。

 がちゃちゃ! と鎧を鳴らして皆が馬を下りる。


「この宿です!」


 さ、とアルマダが剣を抜いて路地を指す。


「サクマさん!」

「は!」


 サクマが路地に駆け込んでいく。裏口を張るのだ。

 皆もしゃしゃ! と剣を抜く。


「イザベル様。ありがとうございます」


「ご武運を!」


 アルマダが頷いて宿のドアに手を掛ける。


「閉まっているか」


 さすがにこの時間は閉まっていて当然だ。

 がんがんがん!

 ドアを思い切り叩く。


「・・・寝ているか・・・」


 がんがんがん! がんがんがん!


「アルマダ様。ぶち破りますか」


「そうしましょう」


 頷いてドアから離れた時。

 かちゃり。鍵の開いた音。

 きい・・・とドアがきしみ、ゆっくりと開く。


「む」


 宿主が起きて来たか。


「ドアから離れて! 勇者祭の立ち会いです!」


 しん・・・ドアの向こうで誰も動く気配がない。


「む・・・?」


 アルマダが剣の先でそっとドアを押すと、すう、とドアが開いた。


「アルマダ様?」


「・・・おかしい。誰も出てこない。鍵が開いたのに」


 そっとドアに近寄り、開いた隙間から中を見る。


「皆さん。様子がおかしい。あれだけ音を立てたのに、誰も出てきませんよ・・・客が顔を出してもおかしくないはずだ」


 アルマダがドアの左右を指差すと、ささ! と2人が左右に立つ。アルマダが1歩下がると、もう1人はアルマダの背中にぴたりと背中を着けて立つ。2人がアルマダの方を向いて頷いた。アルマダが頷き返すと、き、と剣先でドアを開ける。


「・・・」


 アルマダがゆっくり歩き出す。


「1人そこの茂みに。窓から飛び降りて逃げるかもしれない。戦闘が始まったら、中の様子は隠れて見ていて下さい。危険だと思ったら魔術で援護・・・そうですね、何も考えず、全体に水をぶちまけて下さい。その隙に私達は逃げるか何かします」


「は」


 アルマダの後ろの騎士がさっと茂みに入る。

 中に入ると、安宿定番の酒場とカウンター。中は真っ暗だ。


「火を」


 騎士のジョナスがランプ、燭台と指を差すと、ぽ、ぽ、ぽ、と火が点く。


「ううむ・・・」


 ぼんやり明るくなったが、2階は良く見えない。標的は2階手前、通り側の部屋。

 階段は奥にある。奥まで行き、ぐるりと回って行かねばならない・・・


「むっ!? 警戒!」


 ささ! とアルマダの後ろの2人が、背中をつけて三角の形に陣を構える。


「二人共、ここはおかしい。気付きませんか」


「何がでしょう」


「飯の匂いがしない。酒の匂いがしない・・・ここで誰も食ったり飲んだりしていない」


「む!?」「確かに!」


「無人のようだが、先程、中からドアが開きましたね。誰かは居る。標的がわざわざドアを開けたのか?」


「・・・」

「・・・」


「罠ですね」


 じー・・・と3人が周りを見回す。

 さ! 奥のカウンター! オレンジ色の光がちらりと見えた。


「む! 式神。カウンターの向こう!」


「光って見えるとの話でしたが、見えるだけで光を発してその光が見える、という訳ではないのですね」


「そのようです。カウンターの後ろ、暗いままですね。見回して下さい。上も」


 ゆっくりと3人が部屋を見回す。何も見えないが・・・どこかに隠れている。

 そして、おそらく囲まれている。


 かちゃ・・・


「む!」


 がちゃちゃ! と鎧を鳴らし、皆が開いた2階のドアを見た。

 あれは・・・王宮魔術師、生徒の制服? 顔は蝋燭の光が届かず、良く見えない。


「私は・・・これが本業だが」


 す、と男が腰の刀を手すりより上に上げ、アルマダ達に見せた。


「ま、偶然にもそこそこ陰陽の才もあった。平民ながら、王宮魔術師の特待生にもなれた・・・」


「・・・」


「今頃、町の反対側では、トミヤスの組と弟がやりあっているという所かな?」


「弟?」


「君達はここでドロップアウトだ。私は死にゆく者には優しいから・・・教えておこう。私と弟。私達は2人の組だ。が・・・闇討ちであるし、複数の組でかかってきても問題ないな。トミヤスの方はどうなっているかな。弟は間抜けだが、剣の腕だけは中々だ」


「・・・」


「もうひとつ教えておこう。君達は」


 男が奥の階段を指差し、


「あの階段を登っては来られない。仮に登って来られても、私の前に立つ時には、もはや剣を握る力も残っていまい」


「・・・」


「さて・・・ランプにもテーブルの蝋燭にも火が点いているな。手で点けている時間はなかったな。という事は、魔術を使える者がいるわけだ。階段が登れないなら、魔術で私を攻撃してみても構わない」


 おそらく、自らを結界のようなもので守っているのだ。

 この自信。魔術は通らないのか。


「私を直に攻撃出来まいと思ったのなら、この2階の廊下に火を点けてみても構わないが・・・やってみるか? 親切で教えてやったが、私の言う事を信じなくても構わん」


 男がすらりと刀を抜き、階段に切先を向ける。


「さあ、上がって来てくれ。私はここで待とう。待つ・・・そう、君達が来るのを待っていたんだ。あの猫はお誘いだ。ドアを出ていくなら、今度は別の式神を送ろう。ふふふ。鳥に爆弾でも抱えて落とさせても良いな。爆薬の代わりに毒を撒き散らすというのも良いかな。船員に被害が出ては困るから、しっかり式神に言い含めておかないとな」


 アルマダも全く同じ事を考えていた。

 この男も既にそこに思い付いていながら、やってこなかった。

 本当に待っていたのだ・・・


「さ、遠慮せずに来てくれ」


「アルマダ=ハワード。参ろう」


 かちゃり、と鎧を鳴らして1歩踏み出した瞬間、さささー! と、カウンターの上がオレンジ色の光で包まれた。


「何!?」


「撃て」


 がたん! とテーブルを倒しながら、アルマダが転がる。

 ぱぱぱぱん!

 爆竹のような音が響いた。


「おっ!?」


 がちーん! とジョナスの鎧から音が鳴って、背中からもろに倒れ、頭が跳ねた。


「ジョナス殿!?」


「跳べ!」


 アルマダの声がして、は! と、リーもテーブルを倒しながら転がる。


「次弾装填! 射撃後、再度装填せよ!」


 かちちち! とカウンターの向こうから音がする。


「構え!」


 さささ! とカウンターの上がまたオレンジ色の光で包まれる。


「撃て!」


 ぱぱぱぱん!

 ばがん! とアルマダが隠れたテーブルに拳よりも一回り大きな穴が空く。


(銃!?)


「リーさん! ランプ! カウンター!」


「は!」


 リーが受付の上のランプを取って、カウンターに向かって放り投げる。


「撃て!」


 ぱぱぱぱん!

 空中でランプが弾け飛び、油が飛び散って、ぼうっ! と火が広がった。


(人形!?)


 カウンターの上には、兵隊の人形が大量に横並びに並んでいた。

 兵隊の人形! あれを式神にして、兵隊として使っているのか!


「バリスタ!」


「何!?」


 からからから、と小さな音がして、カウンターから、階段の後ろから、おもちゃのようなバリスタが出てくる。


「狙え!」


「くそっ!」


「撃て!」


 ぱ! と横っ跳びに2階廊下の下に飛ぶ。かきん! と足の鎧を掠めて、矢が飛んでいった。ごろごろ転がって、膝立ちに立つ。矢が飛んでいった壁を見ると、矢羽まで突き刺さった矢が見えた。小さなバリスタだが、威力は本物だ。これは鎧ではとても防げまい。


「壁!」


「は!」


 ぼん! とカウンターの前に土の壁が出来る。と、しゅっと札が飛んで行って壁に張り付いた。さらっと壁が砂になり、砂も消えてしまう。


「狙撃兵! 魔術師を狙え!」


 ぎょ! とリーが目を見開く。

 さささ! とカウンターの上の人形兵がリーに銃口を向ける。


「壁!」「撃て!」


 ばす! とリーが自分の目の前に壁を作った瞬間、ばがん! と穴が空いて、リーがよろめいた。壁の厚みで貫通はしなかったようだ。吹き飛ばされた土が当たってよろめいただけだ。


「再装填せよ!」


 がちゃちゃちゃ! と音がして、兵隊達が挿弾子マガジンのようなものを押し込んでいる。


「隙あり!」


 倒れていたジョナスがぱっと起き上がって、階段に駆けて行った。気を失ったふりをしていただけのようだ。


「よし!」


 と、階段に足を乗せた所で、ぴたりとジョナスが止まった。

 足の下で小さく何かを踏んだ感覚。

 かちりという金属音。


「やっ・・・ヤバい・・・」


「ジョナスさん?」


「アルマダ様・・・埋み火(地雷)です・・・」


「ははははは!」


 2階の廊下から、男の笑い声が上がった。


「バリスタ! 階段の前まで前進! 前進後、階段の男に照準!」


 階段の左右の横に出て来ていたバリスタが、人形兵に押され、からからと音を立てて前に出て来る。ジョナスは動けず、自分の横に出てくるバリスタを目で追う。剣が届く位置ではない。ジョナスの斜め後ろで、バリスタがきりきりとジョナスに向けて向きを変えている。


「ジョナス! 右! リー! 左! 柱!」


「は!」

「それだ!」


 ぼん! と左右のバリスタの下に土の柱が飛び出て、バリスタが天井まですっ飛び、音を立てて砕け散った。


「ほう! これはお見事な指揮! では次だ! 擲弾兵! 手投げ弾用意!」


「げ!?」


 ざざ! と階段の上に人形兵が並ぶ。奥に居たのだろう、角度で見えなかったのだ・・・ジョナスが冷や汗を垂らして人形兵達を見つめる。手には小さな何かを持っている・・・手投げ弾。


「擲弾兵! 散開!」


 ばらばらと手投げ弾を持った人形兵達が階段を数段下りたり、2階廊下に散ったりする。


「さあ! どうするね? 手投げ弾がひとつでも転がってきたら、埋み火ごと爆発だ。これだけ散られたら、先ほどのような壁も柱も通用しまい! そして! 忍者兵!」


 はら、とアルマダの肩に布が落ちてきた。

 は! と上を見ると、2階廊下の天井がオレンジ色に光っている。


「うっ!?」


 さ! と忍者姿の兵がアルマダの左右の肩に乗り、すらっと刀を抜いてアルマダの首につけた。刀の長さは2寸もないが、脈を斬るには十分だ。


「ハワード! 動けば首の脈を斬る! リー! 狙撃兵は君の頭を狙っている! 威力は知っての通り! 兜ごと吹き飛ばす! どうする!」


「・・・」


 かたん、とアルマダが剣を落とす。


「ふふふ。私の合図で君達全員が再起不能だ。降参するかね」


「私達、全員?」


 にやっとアルマダが笑った。

 2階廊下の真下で、互いに顔は見えない。

 だが、互いに相手が不敵な笑みを浮かべていると、双方が感じていた。


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