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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第75話


 港に入る前に、ぴいん、と気を張って周りを確認し、カオルは船に向かって行った。


 先程、フギに言われた事を思い出す。

 届けて下さいと言われて安易に出て来てしまったが、自分も目標とされているかもしれないのだ。


(フギ先生は呆れておられたな)


 苦笑するフギの顔を思い出し、カオルはがっくりと肩を落としながら、貨物室に入って行く。馬房に白百合を入れた時、小蠅に「はっ!」と目を向ける。


(違うか・・・)


 これが式神だったら、クレールの式神守りの効果でばちんと弾け、煙になっている所だ。


(虫1匹にここまで気を使わねばならぬとはな)


 陰陽師とはここまで厄介な相手だったとは。離れて安全な所から、式神を送り放題なのだ。見える所で戦う魔術師とは大きく違う。

 ふう、と息をついて、カオルは階段を上がって行った。



----------



 図書室に戻り、陰陽術と道術の本を開くクレールにフギに手紙を届けたと報告。


「うんうん。フギ先生は何か言っておられましたか?」


「・・・私も狙われているかもしれないのに、来ても良かったのか、と・・・」


「あっ・・・そうでしたね・・・」


 2人の間に気不味い沈黙。

 クレールがもじもじしながら、


「ご、ごめんなさい・・・人族かも、じゃあ狙いはマサヒデ様、って・・・普通に勇者祭の人かもしれないんですから・・・そうですよね」


「私もそのように・・・うっかりしておりました」


 もじもじ。

 がっくり。

 ぱ! とクレールが顔を変え、


「あ、あの! 次を考えましょう! 取り敢えず、人族でそれっぽい方は認められましたよね! まだ黒に近いグレーですけど!」


「ははっ!」


「それでですね、役に立ちそうな物をピックアップしました。まず、見えない物が見えるようになるお水。これはささっと作れますけど、月の光が必要ですから、夜まで待って下さい」


「見えない物?」


「本来は幽霊とかをお祓いする時に使いますけど、式神にも効果はあるはずです。透明な式神がいても、これで見えるようになるわけですね。普通の生物と見た目がつかない式神でも、何か違う感じに見えると思います。残念ながら、消えたレイシクランは見えませんよ。うふふ」


「そのような物が?」


「水が古くなると効果が消えますから、持って1日ですね。水筒とかでずっと持ち歩けるような物ではないです。毎晩作れば良いと言えばそうなんですけど」


「捜索には十分でしょう」


「それと、次は作るのにちょっと時間が掛かります。コンパスのような物です」


「コンパス? 方位針ですか?」


 にやりとクレールが笑って、


「なんと! 標的の位置が分かります!」


「えっ!?」


「ですけど、結構近付かないと動きません。持ち主中心に8間(約10m)四方くらいが良い所でしょうか。これを持って、宿とか揚屋とか、あと空き家とか。勇者祭の者が居そうな所を回ってみましょう!」


「どのくらいで出来ましょうか?」


「今晩中には無理ですが、朝までには作りますよ!」


 夜通しで作るのか・・・これは申し訳ない。体力のないクレールにはきつい作業になるはずだ。


「お疲れでしょうが、申し訳ございません」


「良いんですよ! 早くしないとこっちが危険なんですから! あと、式神に効く武器もあるんですよおー」


「武器?」


 クレールが小壺をポーチから出して、とん、と置く。


「あ、爆薬ですか」


「ちち違いますよ! 勿論、爆薬でも良いのですけど、これは墨です。字を書く墨」


 カオルが胡乱な顔で小壺を見る。


「墨?」


「ちょっと特殊な墨です。魔除けみたいな効果があるので、これを塗れば木の枝でも凄い武器になります。勿論、式神相手なら、ですけど」


「ふむ」


「手裏剣とか矢に塗って当たれば、普通の式神なら一撃です。シズクさんくらい強い式神にも、全然刺さらなくたって、がつん! とくるはずです。指につけてデコピンでも、式神には、ぱかーん! ときますよ! 墨を口に入れて吹いたりとかも出来ますね。あと、布や網に染み込ませたりしておいて、まとめて「どっかーん!」とか。直接その壺ごとぶつけちゃっても良いですけど」


「おお、それは心強い。ふむ、網は良いですね。投げてよし、地面に敷いてもよし」


「皆さんの分は後で用意しますから、まずカオルさん、この墨はお持ち下さい」


「は!」


 カオルが差し出された小壺を慎重に懐に入れる。これは強力な式神と戦う際、決定打になるかもしれない。後で割れないように補強を入れておかねば。小さめの網を入れて、ひとつ網も作っておこう。


「では、夜まで眠っておいて下さい。日が沈んだら、すぐ水を作ります。イザベルさんと2人で、近い所を回ってもらえますか? 水を目に塗れば、式神はすぐ分かりますから」


「は!」



----------



 訓練場。


 イザベルとラディが向かい合って、拳銃の稽古。


「近距離で、魔術も出す間が無いという場合。お前が拳銃を使うのはこのくらいの時だ。お前はすぐ拳銃を出すが、なるべく魔術で対応せよ」


「はい」


 イザベルが近付いて来て、ほとんど刀と変わらないくらいの間合い。


「拳銃を使うのはこの距離。ここで抜くのは無謀だから、先に抜いておくのだが」


「え?」


「近いと思うか?」


「はい」


「だが、いくら攻撃魔術が下手とはいえ・・・」


 イザベルが数歩離れ、3間程(約5m)の距離。


「この距離なら何とか出来んか? 壁を立てる、穴を開ける、水をざばっと掛けて逃げる。初歩的な魔術でやりようはあろうが」


「多分、出来ないことも・・・出来ない、かも」


「ならば、拳銃を出して適当に相手に向けて1発だけ撃て。撃てば敵は驚く。撃った瞬間、逃げろ。当たらずとも良い」


「なるほど」


 マサヒデも言っていた。鉄砲の強みは音。相手を驚かせる事が出来る事。


「この距離で撃たれれば、当たった! と相手は必ず驚く。どこに当たった? と狼狽える。逃げる隙は十分作れる」


「はい」


「抜いて構えろ」


「はい」


 ラディが拳銃を抜いて構える。


「よし。良いか。相手の前で抜いたら即撃て。手を挙げろ、などはいらん」


「え」


「愚か者。動くな、などと銃を向けておって、後ろから斬られたらどうする。勇者祭では殺しは罪に問われぬ。相手も殺しに来る。抜いたら躊躇なく撃て」


 ごくっとラディが唾を飲み込む。


「はい・・・はい」


「安心しろ。その銃では、顔か心臓に直撃せねば死なん。頭では頭蓋骨で逸れてしまうくらいだ。そうそう死にはせん。狙いは顔ではなく、下腹の辺りだ。動かぬ。的が大きい。動きを確実に止められる上、中々死なぬ。死ぬまでのたうち回るがな。くくく」


 イザベルがにやにや笑う。


「ショック死とか」


 イザベルが顎に手を当て、にやにやしたまま、んー、んー、と、右上、左上と見て、


「まっ! それは運が良い奴であるな! 痛みで苦しまずに済むのだぞ」


「・・・はい」


 すたすたとイザベルが歩いて来て、刀の間合いくらいに来る。銃口は目の前。


「この距離でその構えは駄目だ」


 すぱん! とイザベルが両手で挟むように拳銃を叩くと、すとーん! と拳銃がすっぽ抜けて床に転がった。


「あっ? あれっ?」


 大して痛くもないのに、簡単に取られてしまった。


「拾え」


「はい」


 ラディが銃を拾ってくると、イザベルが手を出し、


「貸せ」


「はい」


 ちゃんと握りをイザベルに向けて渡す。

 イザベルは右手に銃を持ち、左手の手の平を真っ直ぐラディに向けて、右足を引いて半身。


「近くではこう構えるのだ。これなら弾かれぬ。相手は左手が邪魔で一拍の間が取れる。引き金は引ける」


 イザベルが左手を右の方に動かしていく。


「このように左手を取られて身体を振られても」


 くっと前に拳銃を突きつけると、銃口が出て来た。


「右手をちょっと前に出せば撃てる。な?」


「なるほど・・・」


「ここで前に出した手。手の平を相手に向けるという所が大事だぞ。例え向かって来ていても、自然な反応でほんの一瞬だけ相手は鈍る。狙いはやはり下腹に適当で良い。引き金は3度。片手で銃口は跳ね上がるが」


 イザベルが前に出てラディの下腹、胸、顔、と突く。


「跳ね上がってこうくる。気にせず、たんたんたん、と跳ね上がったまま引けば良い。下腹、胸、顔と勝手に狙いがつく。確実に仕留められる」


「・・・」


「3発のうちどれかが当たれば勝ちだ。例え我程の獣人族であろうが、下腹、胸、頭。このいずれかに1発当てればもうまともに動けぬ。悠々と歩いて離れ、とどめ。お前でも勝てる。逃げても良い」


「鎧を着ていたら」


「大丈夫だ。貫けずとも、ハンマーで思い切り殴られたくらいの衝撃は入る。余程の者でなければ膝はつく。動けぬから、もう勝ちだ。さっと離れ、穴にでも落とし、のんびり火の魔術の呪文でも唱えて燃やせ。ただし」


 ぴ! とイザベルが指を立て、


「腕や足、肩、脇腹。つまり、身体の真ん中の線にない部分。そこに当たった程度では、一瞬は止まるが動くぞ。ぱっと1歩だけ離れてもう1度撃つのだ。拳銃は撃ち殺すよりも動きを止める役に徹する事。とどめは魔術で良い」


「なるほど。止める役」


「そうだ。その拳銃で殺すのは難しいのだ。マサヒデ様の四分型拳銃ならかなり威力があるから、適当に撃てば結構殺せるがな。お前の銃にそんな威力はない。あくまで足止めの道具と心得よ。殺すのは長物の役目だ」


「はい」


「もうひとつ。撃てば必ず味方が来る。バラバラになってしまっていても、すぐに助けが来る。動きを止める。足止めして逃げる。さすればマサヒデ様達が引き受けてくれる。よく覚えておけ」


「はい」


「よし。構えてみろ」


 こうしてイザベルがラディに叩き込んでいると、カオルが訓練場に入ってきた。

 ちら、とカオルを見て、ラディに向き直る。

 今夜も忙しくなりそうだ。


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