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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第74話


 シルバー・プリンセス号、訓練場。


 陰陽師が片付くまでは外出を控えようと、マサヒデ達はここで稽古をしていた。町中で式神と戦うとなると面倒があるかも知れない。

 す、とドアを開け、カオルが入って来る。


「む。少し休憩しましょう」


「はあい・・・」


 どったん、とシズクがあぐらをかいて座り込む。

 マサヒデが入口で待つカオルの所に歩いて来て、


「どうでした」


「大きな収穫がありました。ツチカドの机から、排斥派の首飾りが見つかりました。資料で持っているとも考えられますが」


「ほう。ぐっと黒くなってきましたね」


「それと、私には分からないのですが、札がいくつも」


 カオルが袖から札の書き写しを取り出す。広げてマサヒデに見せるが、マサヒデは首を傾げて、


「ううむ・・・これは私達にはさっぱりですね」


「はい。クレール様は」


「図書室です。陰陽術を調べると、引っ込んでいます」


「行って参ります」


「お願いします」



----------



 図書室。


「ううん、これは全く怪しい物ではないです」


 ぺらり。ぺらり、とクレールが札の書き写しを並べて見ていく。


「たくさんあったんですよね」


「はい」


「あー、多分、授業で使う物です。魔術が籠められた札ですね。これは土の魔術。これは水と・・・あ、これー・・・は・・・雷、ですね。うん、雷は使えそうですから、頂いておきましょう。紙に写して私が魔力を籠めておくだけで、皆さんも雷の魔術が使えます。うんうん、確かに雷は集中がいりますし、札の方が良いかも」


「大した収穫ではありませんでしたか」


「いえいえ。どれも使えそうです。水の札があれば水筒いらず。雷の札があれば、誰でもびりーっ! と出来ますし、荷物も軽くなります。写すだけで作れますから、簡単ですね。魔剣があるから、魔力も籠め放題です」


「・・・」


 クレールがにこにこして札を並べて頷く。


「排斥派の首飾りがありましたが」


 にこにこしていたクレールが唸って、腕を組んで背もたれにもたれ、天井を向く。


「黒には近いですけど、やっぱり決定的な証拠ではないです。仰る通り、排斥派かどうか確認する為とか、何かの資料とか、そういうので持ってたっていうのもあります。隠していたのも、自分が排斥派って勘違いされるのを避ける為。ありますね」


「ううん」


「そういう活動を確認出来ませんとね・・・でも、確認するには張り付いてないといけないですし。役宅は式神だらけで、侵入は出来ません、と。家の中で見張るのは無理。取り敢えずは筆頭候補止まりです」


「は」


「それと、今日は行かなければならない所があります」


「クレール様。しばらくは外出を控えるのでは」


「そうですけど、フギ先生の所には行きませんと。マサヒデ様が現時流に勝てたのは、フギ先生のお教えがあったからです」


「それでは私が。現在の状況をお伝えし、後日改めてとお伝えして参ります」


「うーん・・・」


「もし道場に何か来たら大変です。万が一、強い式神が来たら、フギ先生にも門弟の皆様にもご迷惑をおかけします。収まるまで顔を出すのは控えた方が」


「そうですね。では、一筆したためますので、お届け下さいますか」


「は」



----------



 森戸三傅流道場。


 フギがカオルから手紙を受け取って、驚いた顔で手紙を読む。


「あーあー、凄腕暗殺者の次は、凄腕陰陽師? トミヤスさんも忙しいねえ」


「は。後日改めて、必ず顔を出しますので」


 ぱさりと手紙を閉じて、フギがカオルを見る。


「で、あなたは大丈夫なの?」


「は?」


「いや、今回はトミヤスさんだけじゃないでしょう。あなたもでしょうに」


 カオルは一瞬ぽかんとして、は! と顔を変え、


「・・・あっ!? あ、いや! 相手は勇者祭の者か分かりませぬので! 排斥派の者やも」


「それ、確認出来たの?」


 カオルが気不味い顔で下を向く。フギが苦笑して、


「ははは! まあいいよ。で、読売は見たけど、立ち会いの感じはどうだった?」


「構えた瞬間、初太刀で決まると分かりました。ナカタは蜻蛉に、マサヒデ様は無形に構えまして」


「うんうん・・・あ、ちょっと待ってて」


 フギが奥に入り、木刀を2本持って来る。

 1本をカオルに渡し、自分は蜻蛉に構える。


「トミヤスさん役やって。間合いはどのくらい」


 す、とカオルが下がり、


「この辺りです。ナカタが突っ込んできました」


 フギが出て来て、


「こう来たと。トミヤスさんは」


「先生にお教え頂きました通り、切先1寸で脇に」


 カオルが木刀を伸ばし、フギの脇に。


「入ったと。それで」


「ナカタは構わず真っ直ぐ振り下ろしてきました」


 すー、とゆっくりフギが木刀を下ろす。カオルが少し横に動き、フギの木刀の切先を上腕に当て、


「剣が交わった時、マサヒデ様はこの辺りでした。ここでマサヒデ様の右腕の外側ですね。肩の辺りから肘くらいまでが斬り落とされ、大量の血が吹き出ました」


「ううん!」


「最初から右腕は捨てる気でおりましたようです。左手で脇差を逆手に抜きまして」


 カオルが鞘ごと脇差を抜き、左足を出しながらフギの首に脇差を持って行く。


「こうです」


「なるほど!」


「おそらく、ナカタは脇でマサヒデ様の刀を取った事で、あの一瞬、振り上げず止まったのです。ここでさっと振り上げていたら、首は狙えませんでした。まあ、振り上げていたら振り上げていたで、喉を突いたと思いますが」


「トミヤスさん、凄い賭けに出たねえ・・・」


 おお、と声が上がった。いつの間にか門弟達が立ち会いの再現を見ている。

 カオルがフギが脇で挟んだ木刀を持ち、


「実はこの脇で止めたと見えた時、腕を斬り落としておりました。マサヒデ様の刀はここに」


 カオルが脇から木刀を抜いて、フギの腕の外側に棟を当てる。


「このように外まで出ておりました」


「ううむ! 斬り落としていたんだね!」


「おそらく骨に当たった感触があったので、ナカタは「止めた!」と思ったのでしょう。マサヒデ様は横に回っておりましたが、もしここでマサヒデ様が斬り落とした、斬り返しと行っていたら、頭蓋を割られたか、肩から腹までばっさりと斬られたと思います。ナカタは大声を上げながら恐ろしい速さで正面を何度も何度も振り下ろし」


 カオルが片膝をつき、


「このように膝が落ちてもまだ振り続け、そのまま絶命するまで振っておりました。そして、振りが止まった瞬間、斬られた腕がぽとりと。マサヒデ様はナカタの横で首から吹き出す血を浴びながら立っておりました。ナカタも、マサヒデ様の腕から吹き出る血で染まっておりました」


 フギが腕を組んで深く頷く。


「凄い勝負だったんだね」


「はい。ナカタが絶命した直後、マサヒデ様も倒れてしまいました。治癒がほんの一瞬遅れておれば・・・」


「ううむ・・・」


 カオルが立ち上がり、


「あのナカタなる者、勝負の前に、自分は武士の風上にもおけぬ卑怯者である。されども、この果たし合いの場で、今夜だけは真の武士になれると、マサヒデ様に頭を下げて感謝しておりました。死に顔も、笑っておりました。私、あれは勝ったと思って笑っていたのではないと思います。真の武士になれた、と」


 フギが感心して頷く。


「なるほどねえ・・・真の武士か。うん。考えさせられるね。これはねえ、名勝負だと言って良いと思う。トミヤスさんだけじゃなく、ナカタもね。凄いと思うよ」


 ぱちぱちぱち、と門弟達から拍手が上がった。


「サダマキさん、ありがとう。じゃあ、今日はもう帰りなさい。陰陽師に気を付けて、帰り道で襲われないようにね」


「は! それでは、失礼致します!」


 カオルは深く頭を下げ、三傅流道場を辞した。


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