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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第73話


 その夜半―――


 カオルとイザベルは陰陽頭ツチカドの役宅から、離れた屋敷の屋根で遠眼鏡を覗いていた。


「屋根に鳥・・・鷹です。前向き、後ろ向きで隣り合って置いてありますね。昼間であれば、既にここは見つかっておりました」


 き、き、き・・・夜間迷彩服のイザベルが遠眼鏡の倍率を微妙に変えながら、庭の方を見る。


「む! 庭木にフクロウが止まっております。夜間の見張りですね。こちらを向いておらずに助かりました」


「ううん」


「低木が並んで植えられております。見えませんが、おそらく中に何か置いているでしょう」


 すすす・・・と建物の方に動かしていく。


「ううむ・・・床下におります。姿は見えませんでしたが、何か動く物が見えました。天井裏にも配置してあると見て良いかと」


「難しいですね・・・」


 きり、きり、と倍率を変え、イザベルが黙って庭を眺める。

 す、と猫が横切る。

 反対側から、猫が来る。

 しばらく待っていると、また猫が横切る。


「猫が見回っております。時計回りと反時計回り。回り方も少し変えております。見落としのない回り方です。これは隠れての侵入は無理ですね・・・何か異常があればすぐ術師に伝わるのですから、煙幕なども使用禁止です。式神にまたたびなど効きましょうか?」


「効かないと見ておいた方が良いでしょう」


 イザベルが遠眼鏡をカオルに渡す。


「カオル殿。妾宅などありましょうか? 陰陽頭は暇な役と聞きますが」


 カオルも遠眼鏡を覗き込み、少し庭を見てから、


「ううん・・・代わりに、そこまで稼げる役でもないですから、女を囲う余裕はないでしょう。ご家族か手伝いの者など、あの家の誰かに化けるしかないですね・・・」


「動物がおります。見た目は大丈夫でも、臭いでバレますまいか」


「本人の服を剥ぎ取れば問題ないです、が・・・外に出るのを待たねば・・・厄介ですね。昼間、ここにいては屋根の上の鷹の目でバレます」


「・・・」


「あの警備では、今は家の中に入れません。間取りも分かりませんね・・・書斎などがどこか・・・居間などに重要な書類や札が積まれているとは思えませんし、探すしかないですね」


「長時間の潜入になりますね」


「む」


 カオルが寝転がったまま、器用に真横に動いていく。


「見えませんでしたが、離れがありますね。奥に広い・・・倉庫らしき小屋もありますか・・・」


「離れ、倉庫・・・調べる場所が多いですね」


「蔵がないだけましですね。蔵は罠や仕掛けが作りやすい。ただだだっ広いだけのようで、意外と面倒です」


 カオルが懐に遠眼鏡を入れる。


「今日はここまでにしましょうか」



----------



 イザベルは夜間迷彩の服からローブを着て、カオルは内弟子姿に戻って、夜道を歩いて行く。


「イザベル様、その服は良いですね」


「ありがとうございます。布を探すに苦労しました。大きな都市であればと思い、回ってみて良かったです」


 む、む、とカオルが首を傾けたり、後ろから見たり・・・

 この布で忍の服を作るのも良さそうだ。

 今はベーシックな柿色に変えたが、昼用、夜用と分けて準備しておくのも良い。


「軍の装備というものも勉強になりますね」


「私は忍の技術が気になります。あれだけの荷をどこに隠しておられるのです」


「それは秘密です。それよりも、さっさと潜入する方法を考えねば。家族の外出を見張っているのは時間が掛かります。ツチカドの家を訪ねても不自然でない者にしましょう」


「仲の良い・・・あ、オオカワ子爵ですか」


「その通り。危険であったナカタも消え、今は緊張を解いて安心して眠っておられるでしょう。侵入は簡単です。1着、お借りして来ましょうか」



----------



 翌日、陰陽頭ツチカド役宅。


 少し緊張しながら、オオカワ子爵に扮したカオルが入って行く。

 懐には、クレールに作ってもらった式神守りを封じる札。これで式神が寄ってきても、ばちん! と弾ける事はない・・・らしい。

 見回りの猫。

 ちらりとカオルを見て、すっと足元を普通に歩いて行く。

 心の中で、ほっと胸を撫で下ろす。


(大丈夫そうだ)


 すす、と襟を正し、玄関を開ける。


「御免!」


 ぱたぱたと音が聞こえ、女が出てくる。年齢からしてツチカドの妻か。


「あ、オオカワ子爵? お仕事はどうなされました」


「いや、仕事中ですが、急ぎの面倒がありまして。ツチカド様には許可を得ておりますので、ちと資料を拝見したく。書斎は」


「どうぞ。ご案内致します」


「失礼します」


 ちらりと廊下の上に目をやる。

 埃ひとつなく綺麗にされているのに、廊下に小さな蜘蛛の巣。不自然。

 あれも式神か・・・随分と厳重だ。


「こちらです」


「申し訳ありませんが、私がここに来たことは内密に。ツチカド様にもお口に出されませんよう。ここは厳重ですが、誰かに聞かれると厄介になりかねません」


「承知致しました」


 はは、と苦笑して、


「いや、政とは面倒なもので」


「いつもお気を使われて、大変ですねえ」


 さらりと襖を開けて中に。

 本棚には紙束が山積み・・・


(ちっ)


 時間が掛かりそうだ。あらかた持って行きたい所だが、それはまずい。


「ううむ、この棚にあると聞きましたが、これはまた・・・」


「ちゃんと整理しろって言ってるのに、本人はこれで整理しているつもりなんですよ。どこに何があるかは分かってるって・・・」


「私も似たようなものです。部屋はこんな感じですが、書いた資料は見やすくて良いと部下にいつも褒められるのですよ。何故か部屋が汚い者ほど、文書は綺麗に書かれるもので。不思議なものですな。ははは!」


 くす、と女が小さく笑う。


「ああ、しかしこれは時間が掛かりそうだ。早くせねば・・・」


「お手伝い致しましょうか」


「ありがとうございます。ですが、何分、政に関わる事ですから」


「あ、そうでしたね。では、ここは閉めておきますから」


「ありがとうございます」


 すす、と襖が閉まる。

 とん、と閉まった瞬間、さささ! と恐ろしい速さで紙を見ていく。


(教書か。真面目にやっているな。封印品。違う。方角まとめ? 何だこれは? 時間・・・何か儀式の時間か? またえらく細かく・・・)


 ほとんどが訳の分からない書類。クレールなら分かるだろうか。天気の占い? 星の位置? 何時に食べると良い物? さっぱり分からない。これが陰陽師の仕事か。

 さささ、と高速で読みながら、次の紙の束を取った時、はっとした。


(これは札か)


 普通の書類の大きさだが、一目で分かる。これは何かの札だ。持って行きたい所だが・・・

 さー、と親指で滑らし、数を数える。ぴったり100枚。抜いたらバレる。

 束ごとに書いてある模様や文字? が違う。

 他にも札の束があり、さっと指を滑らせて数えるが、綺麗に100枚ごとに分けてある・・・


(くそ)


 さ、と机を開けて、白紙を出し、書いてある模様と文字をささっと書き写し、ぴぴぴ! と小さく畳んで裾に入れる。時間がない・・・あまり長く居ると怪しまれる。

 さささ、さささ、さささ、と紙束を見ていくが、怪しい物はない・・・怪しい物だらけだから、ないというのもおかしいが。だが、らしい書類は見当たらない。

 机を調べる。す、す、す、す、と開けて見ていくが、怪しい物はない。

 筆の中まで見てみたが、何も無い。


(こいつではない、か)


 とととん、と引き出しを閉めていく。ここまでだ。

 ちゃり。小さな金属音。


(む?)


 閉めた引き出しを開け、中を見る。


「・・・」


 金属音を出しそうな物はない。

 とん。閉めると、ちゃり。

 やはり金属音・・・

 は! として、引き出しの中に手を入れ、ぱぱぱと手を当てていく。


(これか)


 何も無い所で、手に何かが当たった。

 何かを掴み、す、と手を上げる。


「おやおや・・・」


 排斥派の首飾り。

 これがあるからといって、仲間であるかどうかは分からない。ただ資料等として持っているだけかもしれないが、疑いの線はぐっと増した。

 戻して引き出しを閉め、部屋を出る。

 居間で茶を飲んでいた女に会釈して、


「助かりました。それでは」


「お疲れ様でした」


 からからから・・・とん。

 玄関を閉めて、カオルはゆっくりと歩いて行き、路地に入ってぱっと内弟子姿に戻った。


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