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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第72話


 クレールの式神守りの儀式が終わり、皆が部屋に戻った。


 式神の話を聞いた後、イザベルはずっと難しい顔で考え込んでいた。

 部屋に戻った後も、ベッドの上であぐらをかいたまま、腕を組んで険しい顔をしている。

 ラディがイザベルを見て、少し不安そうな顔で、


「イザベル様」


「なんだ」


「何か気に掛かる事でも」


「うむ」


「早目にクレール様やマサヒデさんに相談されては」


 イザベルは難しい顔のまま、目を瞑り、


「いや・・・ううむ、どうかな・・・」


「何が気に掛かっているのでしょう」


「うむ。ふと思い付いた事があってな」


「はい」


「簡単な、意識のない、指示を出さねば動かぬ式神よ」


「それが何か」


「うむ・・・軍が作れるな。完璧な統率が取れた軍が。術者が指示を出さねばならぬ。裏を返せば、術者の指示通りに完璧に動く軍が作れるのだ」


「あ・・・確かに」


「ひとつひとつは非力な式神でも、大量に揃えば脅威となろうが。それが完璧な統率の取れた動きで攻めてくるのだ。クレール様の虫の死霊術と同じよ。そして、此度の相手は達者であるな」


「・・・」


「考え過ぎだと思うか? クレール様も同じ攻め方を使う。我は話を聞いただけで思い付いた・・・が」


 イザベルはそこで言葉を切り、ぼすん、とベッドに倒れ込んで、足を投げ出し、鉄板入りの地下足袋を脱いで放り投げる。ごとん、ごとん、と結構な音がして転がった。


(床に傷はついてない・・・?)


「さて、どうかな・・・」


「ううん・・・私には良くは」


「そうだな。我にも良く分からん。何せ相手が全く見えんのだからな。式神しか来ぬでは、臭いで追うことも出来ぬ。どうしようもない。さあて、この相手、どうしたら良いかな・・・」



----------



 こんこん。


「・・・」


 こんこん。


(居ない?)


 ラディがカオルの部屋をノックする。


 こんこん。

 少し待ったが、返事がない。


(間違えたかな)


 皆、警戒の為に毎日部屋を変えている。

 今日のカオルの部屋はここではなかったか。

 戻ろうと振り返った時、き、と小さな音がして、ドアが開いた。


「?」


 居るのか?

 戻って、すっとドアを押すと、すうっとドアが開き、部屋が見える。


(あれ?)


 誰も居ない・・・


 は! として、懐から拳銃を取り出し、安全装置を外す。

 ドアの横の壁に張り付き、慎重に覗き込み、ふ! ふ! ふ! と部屋を見渡す。上からZの字を描くように確認。イザベルに教えてもらった、部屋に入る前の確認の仕方。


「カオルさん?」


 小さな声で呼び掛ける。

 返事がない。誰か呼んだ方が良い。

 すう! と息を吸い込み、声を出そうとした時、


「ラディさん」


 カオルの声。

 は、と吸った息を吐く。


「カオルさん? 居ますか? 大丈夫ですか?」


「本物ですか」


「え? はい」


「本物なら答えて下さい。トップバストのサイズは?」


「え? え? ええと・・・ええと、最近計ってなくて」


 カオルがぬるりと音もなくベッドの下から出て来て、にやっと笑う。

 手には抜き身の脇差。


「本物ですね。トップバストのサイズなんか、さっと答えられませんよ。どうぞ」


「・・・」


 懐に拳銃をしまって、部屋に入る。

 カオルはサイドテーブルの茶器が乗った盆を取って、ソファーの前のテーブルに置き、湯呑に茶を注ぐ。


「どうされました」


 着流しに気を付けてソファーに座り、湯呑を取る。


「あの、式神ですけど」


「はい」


「術者を追いかけられませんか」


「さて・・・」


 カオルが腕を組む。


「先程の猫」


「はい」


「逃げようとしておりましたが、適当に離れようとしたのか。それとも、ここまでかと術者の元に戻ろうとしたのか」


「あ、確かにそれも」


「追ってみて損はないかと考えております。猫を追うのは難しいですが」


 つ、とカオルが茶を飲み、


「それと、来る式神。強い陸上生物は絶対に来ません。小動物や虫に毒を仕込むしかないですね。クレール様の言うように、獣人族辺りは来るかもしれませんが」


「何故でしょう」


「ラディさんは強い動物と聞いて、何を思い浮かべます」


「熊、虎・・・獅子とかワニとか」


「そのような大きな生物が、町中を歩いて来ましょうか? もし来たなら、すぐ近くに術師がおります。しかし、式神を使えるのに、わざわざ近くに来ましょうか」


「あ、なるほど」


「私の考える所、怖いのは鳥です」


「鳥? 鳥程度は、先程のクレール様の札で守れるのでは」


「鳥本体は怖くないのです」


 カオルが懐から小さな壺を出し、テーブルに置く。


「このような物に、致死性の毒などを入れて、上から落とされたら・・・毒は式神ではありませんから、守れません。吸い込めば死にます」


「・・・」


 カオルが廊下を指差す。


「ドアが開いた瞬間あの廊下に入って来られたら。式神か。鳥は守りでばちんと消えました。しかし、鳥が掴んでいた壺は落ちて、ぱりん。密閉された廊下に、毒が撒き散らされ、呻いて倒れる私達。何の騒ぎだ。ドアから顔を出せば次々と・・・」


 こく、とラディが喉を鳴らす。


「式神も使いようです。この陰陽師、腕は立ちますが、大して怖くはありません」


 とんとん、とカオルが頭を指で突付き、


「ここが悪い・・・とは言い過ぎですか。おそらく、実戦経験が少なく、分かっていない者です。先程の猫で、陰陽師が狙っているともうバレました。私なら、先程の会場で、ご主人様の目の前に毒が入った壺を落としておりました。確かに猫なら町中を歩いていても全く警戒はされませんが・・・ふふ。そちらに気を取られすぎです」


 カオルがにやりと笑って茶をすすり、


「すぐに尻尾を出します。次は野良犬でしょうか。獣人族あたりの式神でしょうか。鳥が来ても偵察程度でしょう。しかし、時間を掛ければ、こう攻めれば、ああ攻めればと、段々と手を考えてくるようになりますから・・・」


 とん、と湯呑を置き、するりと湯呑の口の上で指を滑らせて、


「急いで居場所を突き止めねば」


 こん、と指で湯呑を弾く。


「私達が死にます」



----------



 ラディがカオルと話している頃、マサヒデの部屋。

 マサヒデは難しい顔でクレールと向き合っていた。


「クレールさん。先程、凄く大事な事を言いました」


「なっ・・・何でしょう」


 ごく、とクレールが喉を鳴らす。


「陰陽術は、魔族の間ではあまり広まっていない、ですよね」


「そうです」


「相手、魔族じゃないかもしれませんよ。勇者祭の者ではないかも」


 ぎょ! とクレールが顔を変える。


「はっ! た、確かに!」


「そこから考えてみましょう。陰陽術って、すごく難しいんですよね。クレールさんでも、いちいち本を見ながらでないと分からないくらい」


「はい」


「で、元々この首都にいる方で、あれだけの使い手って、誰が思い浮かびます?」


「まず、陰陽頭のハルオ=ツチカド様。ツチカド様の下の陰陽師の中にも、もしかしたら、くらい。あと、神祇官のオオカワ子爵・・・は、使うと知っているくらいですけど」


「オオカワ子爵は完全に味方に引き込めたから、候補から消しても良いですよね。そうすると、陰陽頭のツチカド様。確認しておいた方が良いのでは」


「む・・・むうん・・・」


 クレールが渋い顔をする。


「王宮務めですから、仕事場に忍はさすがに厳しいですか」


「侵入は出来ると思いますけど、帰れるかどうか。この国の忍は世界でも指折りです。こう言っては何ですけど、現場に出てる方は、カオルさんとは比べ物にならないと思います。ちょっと試してみようって感じには」


「なるほど。まあ、王宮から式神を送り出すなんてしないでしょうから、仕事場は無視してもよいでしょう。ということで、役宅は調べられますかね」


「それは出来ると思いますけど、式神がいっぱいうろついていると思います。別に危なくはないと思いますけど、式神に感付かれたら、ツチカド様にすぐ伝わります。その時点で失敗ですから、かなり難しいと思います。式神は薬とかで眠らせるとかも出来ないですし」


「ほおう・・・それは難しいですね」


「犯人だって分かってれば式神を全部黙らせて、王宮から戻って来る前にがばーっと盗めるだけ盗んで、その中から証拠探しで良いですけど、まだ分からない、確認するという状態ですから・・・見えない封印とかもあると厄介ですし」


「ふむふむ。そうですか。じゃ、カオルさんにやらせますか」


「え」


 ほえ? とクレールが小さく口を開ける。


「1人ではさすがに難しいですかね。イザベルさんもつけましょう」


「え、え、うちの者は使いませんか? あの、正直、忍の術はうちの者の方が」


「だからです。実践訓練ですよ。カオルさん、剣ばっかりなんですから」


 ええっ、とクレールが驚いて、身を仰け反らせ、


「ええっ!? 訓練で陰陽頭の役宅に侵入させるんですか!?」


「いけませんか?」


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