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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第八章 陰陽師

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第71話


 シルバー・プリンセス号、図書室。


「ええと・・・つまり・・・こうすると」


 クレールが難しい顔で陰陽術と道術の本を並べて、何やら書いては線を引いたり、丸で囲んだり・・・


(全然分からない)


 横でラディが首を傾げながら、クレールが書いている図を見つめる。


「ううん!」


 クレールが頭をわしゃわしゃしながら立ち上がって、かつかつと靴を鳴らして歩いて行く。


「・・・」


 ラディが怪訝な顔でクレールが開いていた陰陽術のページを見る。

 『式神守りの法』。

 これだけで良いではないか。何故、道術まで?


 かつかつかつ・・・


「クレール様」


「む! 何か閃きましたか!?」


 ラディが陰陽術の本のページを指差し、


「これだけで良いと思うのですが」


「まあ、そうですけど・・・」


「何故、道術が」


 ふーん! と鼻から息を吹きながらクレールが座り、


「この式神守りだと、本当に弱いものしか防げません」


「はい」


「ある程度の力を持った式神だと、効果がないです」


「はい」


「なので、パワーアップさせたいんです」


「それくらいだと、刀や剣で斬ったり、魔術で始末した方が早いのでは」


「・・・」


「あと、陰陽術と道術、混ぜずに別々で2回やれば良いだけでは」


「はっ! ラディさん、賢い! そうですね!」


「・・・」


「早速準備に入りましょう!」



----------



 訓練場。


 正八角形に作られた仕切りの中に、小さな机と、太い蝋燭が左右に1本ずつ。

 真ん中に鏡が置かれている。

 ぱちりとクレールがコンパスを閉じ、時計を見て、


「よし、と! 方角! 時間! ぴったりです!」


 皆が揃ってクレールの後ろで立っている。


「では皆様、正座して座って下さい」


 皆が正座したのを見て、


「長くはないので、そのまま崩さないで下さいね。準備が出来ましたら呼ぶので、順番に並んで下さい。絶対に喋らないで下さいね。うっかり返事して、はーい、とか言わないように。逆に悪い効果が出てしまいます。注意して下さい」


「はい」


 びし! とクレールがマサヒデを指差し、


「それ! それ駄目です!」


 皆が口を閉じて頷くと、クレールが机に向かい、ぱ! と左右の蝋燭に指を向ける。

 ぽ! と火が点き、御幣を取って、ぶつぶつとクレールが何かを唱え出す。


「うんにゃかうんにゃか、うんにゃか・・・うんにゃか・・・うにゃうにゃ・・・」


 すう、すう、すう、と御幣を静かに振り、


「1人ずつ、順に来て下さい」


 マサヒデが立ち上がり、クレールの前に立つ。

 すう、すう、すう、と左、右、左、と御幣を静かに振る。


「結構です。次の方」


 アルマダが立って、クレールの前に立つ。

 すう、すう、すう、と左、右、左、と御幣を静かに振る。


「次の方・・・」



----------



 全員の神社のお祓いのようなものが済むと、


「ラディさん。用意の物を」


「はい」


 ラディがお盆を持って行き、仕切りの外からクレールに渡す。

 ぱさ、と黄色い紙束を取り、ば! と広げて、マジシャンがトランプを広げるように、さささー! と並べる。


「よ」


 筆を取って、小さな壺に入れて出す。朱墨だ。

 さらさらと筆を走らせ、とん、と置いて札を取り、


「ふー、ふー」


 ぺらぺらぺら・・・

 吹きながら、ひらひらやって、墨を乾かす。


「はい! 出来ました! これで終了ですよ! 皆さん取りに来て下さい!」


「はあ・・・」


 皆が黄色い札を受け取る。

 『勅~~式神退散~~~~令』

 途中に文字だか模様だか良く分からない字? が入っているが、式神退散。この字は分かる。


「ちっちゃく畳んで、飲み込んで下さい!」


「は?」


 皆が顔を見合わせる。お守り袋とかに入れておくのではないのか?


「食べるんですか? この御札」


「あー! 絶対に噛んではいけませんよ! 飲み込むんです!」


「水を」


「水は駄目です! 飲み込む前に墨が滲むと、効果が消えます! 唾が染み込まないように、一気にごくっと!」


「きついですね・・・」


 皆が札を小さく畳み、あむ! と口に入れ、ごく! と飲み込む。

 トモヤは握り拳を作り、仁王様のような真っ赤な顔で、


「ふんっ! ふーんっ! はいっ! はいーっ!」


 と、ぐ! ぐ! と力んでいる。

 マサヒデは胡乱な顔でトモヤの顔を覗き込み、


「トモヤ。お前は何をしているんだ」


 ごん、とトモヤが胸を叩き、


「ここら辺から・・・入らんっ! のじゃっ! ん! んぬっ! あいーっ!」


 くすくすと皆が笑う。

 クレールも笑いながらお盆の上の別の札を1枚取り、


「うふふ。よーし! 陰陽と道術の力! 試してみますよー!」


 ふわっと札を床に投げると、札からひらひらと蝶が舞い上がった。


「あ、良かった。教本通り書いたならちゃんと出ますね。さ、マサヒデ様の所に飛ぶのです」


 ひらひらひら・・・

 ばちん!

 派手に火花が飛んだ。


「うおっ!?」


 皆が驚いて仰け反る。

 薄く煙が上がり、蝶は消えてしまった。


「これで大丈夫! もう小さな虫みたいな式神は全く怖くないです。猫くらいの大きさでも、寄りつけないと思います。ですけど・・・」


 クレールが指を立てると、ふわっと蝶が浮き上がる。

 これは式神ではなく、死霊術だ。

 ひらひらと飛んでいき、うっ? と目の前に手を構えたマサヒデの手に、ふわりと止まる。


「あれ・・・?」


「式神は大丈夫ですけど、死霊術だと駄目です」


「何故です?」


 んん、とクレールが首を傾げて、


「メカニズムを説明すると長いですけど・・・説明しますか?」


「いや、結構です。で、これってどのくらい持つんです?」


「ぴったり1年です」


「本当にお守りなんですね」


 こほん、とクレールが咳払いして、真剣な顔になり、


「皆さん、良く聞いて下さい。式神の怖い所って、自分の意思を持って動く物を作れる所です」


「自分の意思ですか?」


「つまりですね、術者がああしろこうしろってしなくても良いですから、術者は遥か遠くに離れた所に居て、いくつも式神が襲ってくるという事があります。ぽんぽんぽん、と式神を出して、行けー! って送るだけで良いんです」


「なるほど・・・それは怖いですね。術者本人がどこか分からないと、ずっと襲われ続けるという訳ですか」


「そうです。魔族の間では、陰陽術ってほとんど広まってないんです。だから、私も全然警戒してなかったんですけど、今回は凄腕が来たので、ちょっと大変ですよ」


 アルマダが手を挙げ、


「何故、そんな便利な術が広まらないのです」


「儀式が必要であったり、札を用意して魔力を籠めて用意したりと、いちいち大変だからですね。魔術のように、ぱっと土や風や火とか、色々な種類の術を色々な形で出したりする事が出来ないです。1枚の札にひとつの術で、決まった術を決まった形でしか出せません。冒険者さん達は、魔力の節約でこれを上手く使ったりしますね」


「あ、確かに札を使う方はいましたね」


「では、式神はどうか。意識のない式神は、簡単に作れます。でも、さっきの蝶みたいに「飛んでいけ」みたいな感じで、いちいち指示を出さないといけません。意識のある式神は、作るのに魔力を結構使います。でも、目標に対して自分の判断で勝手に動いてしまいます」


「咄嗟の対応や、細かい調節みたいなのは出来ないんですね」


「その通りです。もしかすると、強力な式神がひとつふたつ来るかもしれませんから、気を付けて下さい。用意するのが大変なので、大量に来る事はまずないです」


「例えば?」


「んー・・・」


 クレールが腕を組んで、


「陰陽術の創始者の方は、鬼族の武術家を2人、式神に使っていたそうですよ」


「は!?」


 皆がシズクを見る。これが2人・・・どんなに頑張っても、死者が出る。


「な、何? 違うよ!? 私は本物だよ!? 式神じゃないよ!」


 シズクが慌てて手を振る。

 式神かと疑っているわけではないのだが・・・


「うふふ。ただの鬼族でなく、鬼の武術家。扱えるのは凄い魔力の持ち主ですよ! しかも、それをただの家事手伝いに使っていたそうです。ですけど、強力な式神を呼び出す場合、まずその者を打ち負かさないといけないんです」


「ふむ? という事は、強力な者にまず勝たないといけないと」


「そうです。なので、用意がとんでもなく大変なんです。普通の虫人族や獣人族の方とかは来るかもしれませんが、それなら正面から相手に出来ますし」


「確かに」


「もうひとつ強力かもしれないのが、思業式神というやつです。でも、これはまず来ないと思います」


「その『しぎょうしきがみ』って、なんです」


「簡単に言うと、自分が考えた最強の式神! というやつです。深層意識のイメージで形が作られます。普通の生物の形をしてないですから、一目で分かります。魔獣みたいなやつ、絵物語の変な妖のようなやつとか。とにかく普通じゃないって感じのです。そんなのが町中歩いてたら大騒ぎですから、まず送られてはきません」


 む、とアルマダが頷く。


「だが、術者本人の所にはいるかもしれない」


「その通り。術者を見つけても要注意ですね。今回の術者はかなりの使い手です」


 マサヒデが首を傾げて、


「クレールさんがその思業式神を作るのに、どれくらい掛かります?」


「ううん・・・全く分からないです。自分の深層意識でこれが最強ってイメージしているものに、それに値する魔力を注ぎ込んで作られるものです。例えば、お父様。剣聖カゲミツ様が私の深層意識でイメージしている最強だとします」


「ふむ」


「死霊術で考えてみます。私ですと、カゲミツ様くらいだと1分も呼び出す事は出来ないと思います。ここは簡単に1分呼び出せるとします」


「はい」


「1日分の魔力で1分です。ですから、30分使えるカゲミツ様の思業式神を作るには、30日掛かります」


「そんなにですか・・・」


「陰陽術で儀式とかしますと、もう少し魔力に優しく、自然の魔力も取り込んだりとかして、節約して作れるかもしれないですけど、半分でも15日ですから」


「しかし、作ってしまえば長時間使える恐ろしく強い式神が出来る」


「そうです。入念に準備している者であれば・・・それに、仮にカゲミツ様と考えますと、私達全員でも5分もあれば十分です」


「確かにそうですね。それほどの強さがある式神なら、数分で事は済みます」


 クレールがこめかみに「とんとん」と指を当て、


「問題は、その式神がどれだけ強いかは、術者の深層意識のイメージ次第という所です。魔王様くらいの恐ろしい強さの者かもしれませんし、厳しい教育係が強さのイメージかも」


「なるほど。そういう強いというイメージもありますね」


「だから、姿と実際の強さは比例しないはずです。例えば、鬼が出てきても、中身は子供のいじめっ子くらいだと、ひと殴りです。でも、その方の深層意識だと、幼い頃のいじめっ子が鬼のように見えていて、それが強く根付いている・・・とか。そういう事もありますね」


 マサヒデがにやにや笑って、


「ううむ、面白いですね。私の思業式神って、どんな姿をしてるんでしょう。父上とコヒョウエ先生と、あとマツさんと、フギ先生と・・・陛下も王子もかな。あ、8代王もいる。原野斎先生も見たし・・・色々足して混ぜた感じになるんでしょうか。どんな形になるんだろう」(※原野斎:勇者祭815話参照)


「マサヒデ様も陰陽術勉強しますか? 魔術より遥かに難しいですけど」


「ははは! しません!」


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