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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第一章 首都へようこそ

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第7話


 翌朝。


 ぱちりとカオルが目を覚ました。

 音を立てないようほんの少し首を回し、目を動かして左右を確認。


 するりとベッドの下からカオルが出てくる。


「ううん・・・」


 ぐっとカオルがのびをする。


 ベッドの上に長細く丸めた毛布と、先に被せられたかつら。

 その上に布団が乗っている。

 かつらを取って荷物袋に入れ、毛布を広げて戻す。


 洗面所に入り、変装を取って、顔を洗い、歯を磨き、もう一度顔を洗う。

 石鹸も歯磨き粉も洗濯も全て無香性に変えてもらった。


 鏡に映った本当の顔を久し振りに見て、急に落ち着かなくなった。

 変装を顔に被って、継ぎ目に指を当てて確認。

 目の色も変わっている。


「さあて」


 荷物袋の横の打太刀モトカネと、小太刀イエヨシを見る。

 今日はどちらにしようか。

 イエヨシを取り、廊下で邪魔にならぬよう、腰に落し差し。

 今日は冒険者ギルドに行かねば・・・



----------



 カオルがドアを開けると、廊下でシズクとアルマダの騎士のジョナスが話していた。カオルに気付いて顔を向け、


「おはよ!」

「おはようございます」


「おはようございます」


 静かにドアを閉めて、2人の所に歩いて行く。


「カオル、昨日どうだった? なんか見つかった?」


 カオルが首を振って、


「いえ。足跡が少し残っておりましたが、途中で消えており」


 ジョナスも残念そうな声を出す。


「ううむ、そうでしたか・・・」


「はい。ほとんど分かりませんでした。足跡から判った事は単独犯で身長5尺半から6尺足らず。男性。体重は20貫前後・・・と言っても、装備重量を含めてで、その装備も分かりませんので、体重は不明と同じですね。足の蹴り方からおそらく猫族。猫族であれば年齢は80歳前後であろう、という事くらいしか」


「・・・」「・・・」


「あれは中々の者です。見事に痕跡を消しておりました。が、忍ではないでしょう。イザベル様にも手助けを請えば良かったと後悔しております」


「そう・・・全然分かんなかったね・・・」


「無念です」


 肩を落とすカオルを見て、シズクとジョナスが顔を合わせて肩をすくめる。

 がちゃりとドアが開き、カオル達がそちらを見る。

 マサヒデが出て来た。


「や、おはようございます」


 マサヒデが軽く手を上げて歩いて来る。


「マサちゃん、聞いた?」


「聞いたって、何を?」


「カオルが追いかけた、弓のやつ」


「ええ。聞きましたよ。次はどんな方が来ますかね。虫人族あたりの方が毒とか罠とか仕掛けに来ますかね? シズクさんが以前戦ったバッタみたいな方が飛び乗ってきたりして」


「あ! それあるかも!」


「飛べる方なら、縄とか使って登らずに普通に忍び込めますよね」


「そうじゃん!」


「エミーリャさん、覚えてます? 虫人族の」


「当たり前じゃん」


「結構高く飛びましたよ。この船くらいの高さなら、飛べる虫人族は入れそうですね。私、鳥人族ってまだ会ったことありませんけど、飛んで入れますかね?」


 シズクが腕を組み、


「入れるねー。あんま腕っぷしは強くないし、羽がでかいから変装とか隠れて待ち伏せは出来ないと思うけど、ちょちょっと忍び込むだけで仕掛けは簡単でしょ?」


「そうです。港からではなく、倉庫の屋根から飛んで来たら、明るいうちでも入れますかね」


「いや、さすがに目立つでしょ。人の大きさのが飛んで来るんだよ? 港も船も人がいっぱいじゃん。すぐ誰かに見つかって、警備隊にどろぼー! って捕まっちゃうんじゃない?」


「ううむ、そうですか・・・いや、そうですよね」


「やっぱ夜が怖いよね。鳥人族ってほとんど夜目がきかないけど、たま~~に夜の方が見えるってやつもいるんだ。そういうのに鉄砲でどかん! ってされるかもね。でも、やっぱ闇討ちなら虫人のが怖いよ。夜でも目いいやつも多いし」


「へえ」


 がちゃ。

 ドアが開いて、イザベルとラディが出てくる。


「マサヒデ様! おはようございます!」


「おはようございます。ラディさんは良く眠れました?」


「ぷっ」


 イザベルが小さく笑って顔を逸らす。

 ちら、とラディが目を逸らし、


「良く眠れました」


「本当ですか? まあ、顔色は悪くないですが」


「ラディ、昨夜はよく眠れたな? 意外と甘えん坊さんだったのだな」


 き! とラディがイザベルを睨み、


「やめて下さい!」


 がちゃ。

 アルマダが出て来た。


「どうしたんです。朝から大声を出して」


「何でもないんです!」


「そんな顔でもないですが」


 ぷ! とイザベルが吹き出し、


「ラディの大きな胸に度胸の胸はないようで」


「はあ?」


 ぱ! とラディがイザベルの口に手を当てようとしたが、ぱし! とイザベルが掴む。


「む、む・・・」


 イザベルがにやりと笑い、


「ふふふ。これ以上はラディの名誉もありますゆえ、お聞き下さいますな。ラディ、貸しひとつだぞ」


「くっ!」


 ぱ、とイザベルがラディの手を離す。


「くくく・・・今夜は誰に貸しを作る? カオル殿か? シズク殿か? 思い切ってマサヒデ様か? それともハワード様か?」


「もう! 知りません!」


「ははははは! 冗談よ、冗談! だが貸しは覚えておけよ」


「むっ」


 アルマダが苦笑して、


「まあ聞かないでおきましょう。マサヒデさん。クレール様は」


「化粧ですって。化粧する所は見るなと追い出されました」


「ははは!」



----------



 全員揃ってレストランで朝食。


 先頭のアルマダがドアに手を掛けると、中でオニール船長が窓際の席で読売を読みながらパイプを吹かしている。


 アルマダがちょいちょい、と指を動かすと、騎士達がアルマダの側に近寄った。

 一言二言話して、騎士達が笑顔で頷く。


 ドアを開けて中に入って行くと、オニール船長が読売から顔を上げて、笑顔で目礼した。皆も軽く頭を下げ、席につく。騎士達はオニールの向こうの席に座り、給仕に注文をしている。


 アルマダはマサヒデ達一行の席の近くに立ち、にっこり笑って、


「まあ見てて下さい」


「は」

「はあーい!」

「は!」


 カオル、シズク、イザベルが笑顔を返事を返す。

 アルマダがすたすたとオニール船長の席に歩いて行き、


「申し訳ありません。実は昨晩、ドアを壊してしまいまして・・・」


「ええ、聞いております。構いませんとも。船で起こった事は全て私の責任です。貴方がたに責任はありません」


「ありがとうございます。ああ、この記事・・・船長、最近、首都も禁煙がどうのとうるさく言う者が居ますが、また読売に・・・」


「ええ。面倒な者達です。喫煙家の私には厳しい世の中になってきました」


「全くです。そういえば、この船内では禁煙だとあなたに強く注意されましたが」


「・・・」


 アルマダが給仕から珈琲を受け取り、静かに口に運ぶ。


「そのパイプ、いかにも船長というイメージですね。しかし安物だ。オニール船長が持つにはふさわしくない。思い入れのある品なら別だが、それは新品。『本物の』オニール船長ならば買わない」


「くくく・・・カッコいいねえ・・・全くおたくカッコいいぜ」


 ばさ、とオニールが読売をテーブルに投げ出す。


「確かに俺は船長じゃあねえ。本物の船長はまだ睡眠薬で寝コケてるぜ」


「間抜けが見つかったようですね」


 ざざ! と偽者船長の後ろに騎士達が立ち、すらりと剣を抜く。

 アルマダが優雅に珈琲を飲んでいると、偽物船長がアルマダに手を向けた。

 かしゃ! と音がして、袖から小さな拳銃が出てくる。


「俺はここでリタイアだ。だが、おたくを殺ったとなりゃ俺の組にはどかんと点が入る。魔王様からたんまり賞金も出て山分けってわけさ」


「ほう! 賞金! 私も随分と評価されているようですね」


「くくく・・・おたくも中々速いらしいじゃあねえか。だが鉄砲の弾より速く剣は抜けねえだろ」


「さあ。試した事はありませんので」


「後ろッ! 動くんじゃあねえぜーッ! お前らが剣を振るより俺が引き金を引く方が速いッ! そして宣言する! この引き金を引いた瞬間ッ! 俺は降参と言う! 降参した奴を斬れば即失格でムショ行きだぜぇーッ! ぎゃーはははーッ!」


「なるほど・・・ところで名も知らぬあなた。珈琲は」


「おたく1人で楽しみな。飲み終わるまで待ってやる」


「そうですか。うむ・・・残念です」


「この俺をナメとったらいかんぜよ・・・何がざん」


 どん! とアルマダがテーブルを叩いた。

 ように見えた。

 テーブルには抜き打ちされた剣が乗っていた。

 かちゃん、とアルマダの左手のソーサーの上にコーヒーカップが乗る。


「ねんっ、だっ?」


 ごとん、と船長の手首から先がテーブルに落ちる。


「だっ? だっだだっ?」


「早く引き金を引いて降参しなさい」


 アルマダがカップを取って、すっと口に運ぶ。


「ビニャアーッ!?」


 船長が手首が落ちた右腕を左手で掴む。


「俺の手ェーがァーッ!」


 噴水のように船長の手から血が吹き出す。


「全く騒がしい方ですね。降参するんですか? 早くしないと」


「するゥー! 降参ッ!」


「結構! ホルニコヴァさん!」


「はい!」


 ばたばたとラディが駆けてきて、船長の手に治癒の魔術をかける。

 ラディの治癒魔術はどういう仕組か、傷どころか血まで元に戻って行く。

 ぴたりと男の斬れた手首がくっついた。

 斬れ落ちたばかり、まだ壊死はしない。


「あーひィーッ!」


 アルマダは青い顔の給仕を見て、ソーサーをテーブルに置いて笑顔で手招きし、テーブルの剣を納めた。


「港の警備兵を呼んで下さい。この人は船長の変装をしている偽物」


 サクマが後ろから髪を掴んで引っ張ると、べろりと頭から変装の一部が取れる。


「本物のオニール船長は、この男に睡眠薬を盛られて寝ています。急いで船医を向かわせなさい」


「ははははい!」


 ばたばたと給仕が走って行く。


「この船は禁煙ですよ」


 アルマダが落ちて煙を上げているパイプを拾い上げてソーサーに置き、カップの珈琲をかけ、じゅう、と音が鳴った。


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