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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第七章 血闘、暗殺者

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第68話


 ウキョウ南奉行所。


 奉行所の前には常夜灯が点いており、門番が立っていた。


「む!」「何用か!」


 かん! と槍の鞘を払い、門番が先頭のアルマダに槍をつける。

 アルマダは門番を馬上から見下ろし、


「アルマダ=ハワードと申します」


「何用かと聞いておる!」


「人斬りシンノスケの首と、シンノスケの仲間を連行しました。お預り願えますか」


 う!? と門番2人の目が見開いた。


「待て! 人斬りシンノスケと申したか!?」


 アルマダがイザベルを見ると、イザベルが頷いて馬を下り、風呂敷包をずいっと突き出す。


「確認してもらえるか」


「む・・・待て。しばし、しばし。お待ち下され!」


 門番が潜り戸をばんばん叩き、中から開けられると慌てて駆け込んで行く。

 しばらくして、ばたばたと同心が駆け出てきた。


「おいおいおい! 人斬りシンノスケの首ってなあ!」


「これだ」


 イザベルが風呂敷包を突き出すと、う!? と同心が仰け反り、風呂敷包を指差し、


「・・・これ?」


「そうだ。人相書きはあるな」


「あるある! ちょっと待て!」


 同心がごそごそと懐を探り、イザベルが地面に置いてはらりはらりと風呂敷を開ける。

 同心が座り込むと、門番も同心の肩からナカタの首を覗き込む。

 ん? ん? ん? と人相書きと顔を何度も見比べ、頷いて懐に人相書きを突っ込み、顎に手を当てて、


「はあー・・・こいつ、笑ってやがるぜ・・・」


「同心様」


 む? と同心が顔を上げると、見届人の1人が懐から分厚い封書を出し、


「こちらをお受け取り下さい。ナカタ先生の自白書と、遺書が入っております」


「何!? よこせ!」


 ばし! と同心が封書をひったくり、慌てて開ける。


「何々・・・果たし合いと・・・トミヤス・・・トミヤス? マサヒデ? んー・・・どっかで聞いたような・・・」


 門番が後ろから小声で、


「トミヤスの神童。300人の」


「ああーっ! てえ・・・事は・・・? いる? いる?」


 ぽく・・・ぽく・・・後ろの闇から黒嵐に乗ったマサヒデが出てくる。

 ナカタの返り血で真っ赤に染まったマサヒデの姿を見て、同心達がぎょっとする。

 右の袖が落ちている。斬り合いで落としたのか・・・


「私です」


「おおおおい!? その血は! お前、大丈夫か!?」


「返り血です。私は何とも」


 マサヒデが馬から下り、


「後ろに仏が乗ってます。下ろしてもらえますか」


「まじかよ!? ・・・おい!」


「は!」

「はい!」


 門番が駆け寄り、ナカタの遺体を下ろす。


「では、私達はもう帰ります。港のシルバー・プリンセス号という船に泊まっております。つい先程、果たし合いをしたばかりで疲れておりますので、お話は後日で宜しいですか」


 同心は少し困った顔をして腕を組んだが、にやっと笑って、


「む! うーん・・・まあ、本当はいけねえけど、どえらい賞金首との果たし合いだからな。仕方ねえ、特別に目こぼししてやる! お奉行様にゃ、俺がよおく言っておくからよ!」


 ばん! と同心がマサヒデの肩を叩き、


「もうけえんな! 明日はお調べがあるから、ゆっくり休んどけよ!」


「ありがとうございます」


 マサヒデは頭を下げ、馬に跨った。

 馬首を返し、しばらく進めると、ぐったりと疲れてきた。

 後ろから「縄を縛れ!」という声が小さく聞こえた。



----------



 翌朝。


 いつも通り、マサヒデ達の組とアルマダの組でテーブルを分けて朝食を食べている。

 アルマダ達のテーブルは賑やかであったが、マサヒデ達のテーブルは重く沈んでいた。

 シズクが難しい顔を上げ、


「マサちゃーん」


「何か」


「暗いよ。そりゃ人斬って明るくしてろってのは、厳しいと思うけど」


 し! し! とイザベルが小さく止める。


「・・・」


「無理しても食べなよ。それも武術家の心得ってやつでしょ」


「む・・・」


「どーせ今日は奉行所が来るんでしょ? 疲れちゃうよ」


「そうですね。皆さん、申し訳ありません」


 マサヒデがかたりと椀を取って、つつ、と汁をすすり、のそのそと箸を進める。

 暗殺者であった。

 紛れもなく、悪。

 本人も、悪だと言っていた。

 斬らねば斬られていた。

 果たし合いをしなければ、いずれ皆が死んでいた・・・

 なのに、全然「助かった」とも思えないし、悪人を成敗したという感じもない。


 一生日陰の暮らしを覚悟していた。

 武士の風上にも置けぬとは、自分の事。

 自分は武士ではなく、悪党。

 今夜だけは、本物の武士になれる・・・

 ナカタの言葉がぐるぐる回る。


「あの方、悪党でしたね」


「当たり前じゃん。どんだけ人斬ってるか分かんないでしょ」


「でも、凄く喜んでましたね。今夜だけは本物の武士になれるって」


「そりゃあ」


 何か言おうとしたシズクをイザベルが手で止め、


「マサヒデ様」


「何でしょう」


「死に際、彼の者は何を思われたか」


「・・・」


「笑って死んでおりました。マサヒデ様に感謝を持って死んでおりました。何をお悩みになられましょう。彼の者は喜んでおりました。死んでも嬉しいと。あれ程の剛の者を倒し、感謝を頂けた事、まさに武士の誉れ。剣客の誉れと思われませぬか」


 ふう、とマサヒデが息を吐き、海を見た。

 以前、センセイと呼ばれていた名無しの剣客を斬った時の事を思い出し、その時に坊主に説教された事を思い出して、ふ、と苦笑した。


「そう言えば、前に言われましたよ。自分を斬った者が簡単にやられては、斬られた者も無念だろうって」


「その通りです」


「私が斬った者の為、私は斬られるな。それが武人が武人に送る回向だって」


「む・・・良いお言葉です。マサヒデ様。もはや負けは許されませぬ」


「はい。でも負けそうだと思ったら逃げはしますよ。死にたくないですから」


 ぷ! とシズクが吹き出し、


「あはははは! それはそれで、斬った人がなんじゃこいつはってならない?」


「ええ? なりますかね? 兵法ですよ、兵法。引き際と見たら即退散。イザベルさん、これって兵法ですよね?」


「勿論です。勝ち目がない、被害が出そうだと見たら、さっさと引くのが名将です」


「ほおら! 尻尾巻いて逃げるのも兵法ですよ」


 む、とイザベルが不機嫌な顔をして、


「尻尾を巻いて逃げるなど・・・も少しお言葉を」


 少し間を置いて、ぷ! とラディが吹き出し、ぶは! とクレールが吹き出して汁を飛ばした。

 じろりとイザベルがラディを見る。


「・・・なんだ」


「しっぽ・・・くすっ」


「くっ! うくく・・・」


 2人が口を押さえて笑いを堪える。


「クレール様」


「だっ、だって、イザベルさん、しっぽ・・・くすっ」


「ぎゃーはははははー!」


 シズクが大声でげらげら笑い出し、皆も笑い出した。

 トモヤがそれを見て、呆れ顔で指差し、


「ほれ見い、アルマダ殿。マサヒデ共は全然平気じゃろうが」


「む・・・ううむ・・・もう少しへこんでしまうと思ったのですが・・・」


「マサヒデはあのカゲミツ様の子じゃぞ。そのうち、両手で真剣ぶん回して、げらげら笑いながら、どいつもこいつもかかってこんかい! となるわ」


「そんなマサヒデさんは見たくありませんね・・・」


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