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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第七章 血闘、暗殺者

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第65話


 森戸三傅流道場、裏。


 フギは木刀を3本持って来て、1本を膝くらいの高さの低い左右の台に乗せる。


「現時流の稽古は凄く単純で、もう苛烈」


 フギが置かれた木刀を指差し、


「これ、本当は木刀じゃなくて、ただの木の丸太だと思って。竹を巻いたやつ使う所もあるけど」


「はい」


 フギは畳2畳くらい離れて、八相の構えから真っ直ぐ上に伸ばし、ささー! と走ってきて、


「てえいやあ!」


 と、凄い気合と共に、膝を下ろすと同時に撃ち込んだ。

 さらに、がん! がん! がん! と跳ねる木刀に木刀を撃ち下ろす。

 ふ、と小さく息を吐いて、立ち上がってマサヒデを見る。


「と、こんな感じ。後は丸太を地面に突き立てて、ひたすら朝から晩まで木刀で撃ち込む。丸太が削れてなくなったら、免許皆伝。凄いでしょ」


「・・・」


 マサヒデが眉間に皺を寄せて、フギが殴った木刀を睨む。

 なるほど、一撃必殺。

 走ってきて、がつんと重い必殺の一撃。

 暗殺にはぴったりの剣だ。


「これ、強烈な一撃が売りだと思うでしょ?」


「はい」


「違う。それは、この鍛錬で結果的についてくるだけ。たたたーっと駆け込んできて、凄い速さの振りで、ずばずばずばーっと一瞬で何度も斬る。この速さが本当の売り。避ける、受けるを許さない」


「なるほど・・・捨て身の剣と見ました」


「そうだね。何よりも反撃なんか一切気にせず飛び込める胆力。相手の間合いの中でも反撃を恐れず、真正面から何度も斬る胆力。これが怖い。腕の1本、足の1本。むしろ自分が死んでも、相手の命を取れれば勝ちなの。現時流じゃ、それ引き分けじゃなくて勝ちなんだね。甲冑着てたら、こんなに怖い剣術はないよ。文字通りの死兵なんだから」


「ううむ!」


「勝つにはどうしたら良いと思う?」


「・・・」


「着込みくらい簡単に斬ってくる。ハワードさんくらいの薄めの良い鎧だと、切り込まれちゃう。じゃあ厚い鎧? でも重い鎧じゃさっと動けないから、あの速さで簡単に隙間に突き込まれる」


「鎧は無意味」


「まあ、慣れてる人ならそんな事もないよ。鎧のね、丸い所で撃ち込みを流しながらって出来るし。でも、トミヤスさんは鎧は慣れてないでしょ?」


「はい」


「じゃあ、トミヤスさんに出来る事で、死なないように考えよう。こうすれば勝てるかもって分かれば、5割には持っていけるよ。私はね、トミヤスさんなら結構いけると思うんだよね」


 フギはマサヒデの肩に手を置いて、


「分かったら呼んでね。私が練習相手するから」


 そう言って、フギは道場に戻って行った。

 しばらくして、マサヒデは手に持った木刀を軽く撃ち付けてみた。


 かん・・・


 軽く手が痺れる。これを朝から晩まで行う。


(受けたら死ぬな)


 受けは論外。

 相手は撃ち込んでも痺れない。こちらにはがつんとくる。

 何回か撃ち込まれたら、受けきれずに身体に斬り込まれてくる。


 捌いて斬り返す。

 速さが売り。捌いた所でさっと引かれて次がくる。

 斬り返す程の隙が出来るか? 達人と言われる者の振り・・・


 避ける。

 同じだ。斬り返す隙がなければ、次をもろに食らうだけだ。


「ふう」


 マサヒデはため息をついて、かん、と軽く木刀を撃ち付けた。



----------



 夕刻近くになって、フギが道場から出て来た。

 門弟達はわいわいと喋りながら道場を出て行く。


 フギは黙ったまま腕を組み、立ち尽くすマサヒデをしばらく眺めていた。

 門弟達が出て行き、高弟のツカジとシズクが、がたがたと雨戸を閉める。

 シズク以外の皆も出て来て、そっとフギの後ろに立った。

 マサヒデは真剣な顔で、置かれた木刀をじっと見ている。


「トミヤスさん」


「あっ」


 は、とマサヒデが振り返る。皆が揃ってマサヒデを見ていた。

 フギが真剣な顔で頷く。


「どう? 何とか出来そう?」


「出来るかどうかは分かりませんが、これしかないと・・・」


「自信ある?」


「全くありません」


 フギはラディの方を向いて、


「準備しておいて下さい」


 と言い残し、マサヒデの前の台に乗った木刀を取り、マサヒデから離れて立つ。

 八相から、真っ直ぐ上に木刀を伸ばす。蜻蛉の構え。


「はあっ!」


 ささー! と一瞬でフギが詰めて来た。

 ば! とマサヒデが稽古着の音を立て、フギの横に、無願想流の振りですれ違うように飛び込む。

 同時に、がつん! という音が重なって響いた。


「ん・・・」「いっ・・・」


 フギの木刀はマサヒデの鎖骨に入った。

 マサヒデの木刀はフギの腹に入った。

 両者とも膝を付き、顔を歪める。

 ラディが目を見開いて驚いていたが、はっ! として駆けてきた。


「えぁー・・・」


 腹を押さえ、フギが片目を瞑って歯を噛み締めながら立ち上がる。

 さ、とラディが手を当てると、すぐにフギの顔が普段の表情に戻った。


「鎖骨」


 ラディはうずくまるマサヒデに駆け寄り、肩を押さえるマサヒデの手をどけて、自分の手を乗せる。


「ありがとうございます」


 マサヒデがラディに礼を言って立ち上がる。

 フギがマサヒデの方に振り向き、


「私とは、5割に持っていけたね」


「多分」


「でも、私は現時流は知ってるという程度。ずーっと現時流をやってた人には、同じ現時流じゃあ到底敵わない。達人なんて言われてる人にはとてもとても」


「はい」


 フギは自分の木刀の鍔元を指差し、


「今当たったのはここら辺ね。ずっと現時流をやってる人なら」


 すすす・・・とフギが指を上げていき、物打ちで止める。


「ここで当たったかな。トミヤスさんは真っ二つだった。トミヤスさんの刀は流れて、私の胴は斬れなかったね。撫で斬りくらいで浅くは斬れたかもしれないけどね」


「はい」


 という事は、完全に負け。これでは勝てないのか・・・

 フギはマサヒデの前に立ち、木刀を横にして、


「こう入ってきたよね」


「はい」


「欲張って真っ二つなんて狙わなくて良い。ほんの1寸だけ斬れれば勝てる」


 フギが1歩下がる。

 左手そのまま。

 右手が前に出てくる。

 す、とフギの木刀の切先が前に出て、マサヒデの脇腹に当たる。

 振り抜く途中のような形で、切先が前。


「ほらね? こう。分かる?」


「はい」


「こうすれば、もっと前で当たるよね。斬る深さは1寸で良いの。据物斬りじゃないんだから、これで良い」


 すす、とフギが木刀を上げる。切先は脇の下。

 は! とマサヒデが顔を上げた。

 フギがにっこり笑って、


「1寸で十分。ね? 普通はこんな所狙わなくても良いよ。腹でも。足でも。斬りやすい所で良い。余程の人じゃなきゃ、1寸で「斬られた!」って驚く。驚いた隙を取ってとどめ。けども・・・」


「現時流は驚かない」


「そう。驚かせるには、ここ。もろ急所だよね」


 フギが切先を首に持って行く。


「あと首ね。それか、驚きはしないけど、足。踏み込みの速さを少しは止められる。それで勝機が取れる、かもしれない、くらいかな。ところで、現時流の構えってこんなだったね」


 すう、とフギが木刀を天に真っ直ぐ上に向ける。蜻蛉の構え。

 左手で、ぽん、と脇の下を叩き、


「がら空きじゃない?」



----------



 マサヒデは船に帰って来てから、訓練場で竹刀を持ったイザベルを前に、腕を組んで、じっと黙っていた。イザベルはずっと蜻蛉の構えで竹刀を上げたまま。


 そのまま、半刻ほど過ぎた後。


「イザベルさん」


「は!」


 マサヒデは1歩下がって、


「そこから、思い切り速く私に飛び込んで来て下さい。私の・・・ううむ」


 下を向き、少し考えて、


「私の、1間(約1.8m)後ろに着地する勢いで。横に避けますから」


「は!」


 だん! とイザベルが床を蹴った。

 すっと横に避けたマサヒデを掠め、1間後ろに着地する。


「・・・」


 マサヒデが着地したイザベルの背中を見つめる。

 避けられた・・・

 速かったが、目で追うことも出来た。

 来ると分かっていた所もあるが、やはりもっと速いと思う。

 ナカタの踏み込みは避けられまい。


「戻って、もう一度。今度は撃ち込みます。イザベルさんも撃ち込んできて下さい」


「は!」


 イザベルがすたすたと元の位置に戻り、すう、と竹刀を上に上げる。


「では、いつでも」


 ぱ! とイザベルが飛び込んだ。マサヒデも飛び込みつつ、少し外して切先を掠めるように・・・


「うっ!?」


 ばたん! とマサヒデが後ろに倒されてしまった。

 当たって驚いたか、イザベルが脇をぎゅっと締めたのだ。

 竹刀が止まって、マサヒデが押し返された。


「ああっ!? マサヒデ様!?」


 ぱ、と腕を上げて竹刀を離し、イザベルが心配そうな顔でマサヒデを覗き込む。

 マサヒデは倒れたまま、ぺしぺしとイザベルの首を叩き、にっこり笑った。


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