第64話
翌朝、シルバー・プリンセス号、レストラン。
「皆様。まずい事になりました」
カオルが真剣な顔でテーブルの皆を見回す。
「昨晩、排斥派の暗殺者を確認しました。それも恐ろしい凄腕です」
アルマダが顎に手を当てる。
「何者です」
「シンノスケ=ナカタ。ご存知でしょうか」
「いや。どのような」
「西のサキョウで排斥派に加担して、何人も政治家や貴族、有力な商人などを斬っております。分かっている限り、これまでに暗殺の失敗はひとつもございません」
「ほう」
「このナカタなる者、単独での暗殺活動はしません。相手を徹底的に調べ上げ、綿密な計画を立て、一切の証拠を残さず殺します。ただの指揮官ではなく、自身も現時流の達人です。昨晩、私は見つかる所でした。見つかっていたら」
す、とカオルが首の前で手刀を振る。
「これです。冗談や例え話ではございません。ナカタは必ず斬った者の首を取ります。そして、竹に突き刺し、晒し首にするのです」
シズクが顔をしかめ、
「うぇい・・・晒し首かよ! 竹に刺してえ!?」
「そうです」
「えぐっ!」
マサヒデが顔をしかめるシズクを指差し、
「そのナカタという人は達人だから、シズクさんを斬れると思います。でも、仲間はどうするんでしょう。もしやられたら、証拠を残してしまいますよ」
「魔術師か、魔族か、魔術のこもった武器や魔剣などを揃えて来ると思います」
ん? とマサヒデが怪訝な顔をして、
「魔族? 排斥派なのに?」
「ナカタ自身は教会に入信しているわけではありません。彼が標的とするのは、教会に敵対している、または敵対しそう、そういった有力者です。人族であろうが関係なく斬りますし、排斥派の信者ではありませんので、同じ暗殺者仲間に魔族が居てもおかしくはございません」
ふーん! と鼻でため息をついて、マサヒデが腕を組む。
「それは面倒ですね・・・」
「面倒この上ないです。町中を歩いていたら、いきなり大きな魔術が目の前に、などという事も十分にありえます。ナカタは証拠を決して残しません。証拠さえ残さねばどんな手も使います。しかし、大きな欠点があります」
「どんな」
「必ず標的の首を取るという事。ここだけはナカタは決して譲らない。どんな手も、と言いましたが、いきなり大きな火の玉が、大砲の弾が、などは決してありません。焼けたり潰れたりすると、顔が分からなくなりますから。鉄砲は・・・音がするので使わないでしょう。目撃者を出す恐れがあります。ナカタは標的とその護衛以外は決して殺さない男です。無関係な者の被害者はおりません」
「ふうむ」
「そして、ナカタのこれらの行動から、ナカタという人物像が見えてきます」
とん! とアルマダがテーブルを叩き、
「異常な程に仕事内容に拘る男・・・何か、誇りのようなものがある?」
「さすがハワード様。その通り。ナカタは己が武士であるという所に大きく拘りを見せています。必ず首を取るのもそう。古の武将達が相手の首を取って手柄や誉れとしていたのに倣っているから」
シズクが首を傾げて、
「武士に拘り? それがなんで暗殺なんかするのさ」
ふん、とイザベルが鼻で笑い、
「シズク殿。勉強不足だ。戦では夜討ち朝駆けが常道である。相手を調べ上げ、行動を読み、綿密に作戦を立て、必要な人員を揃え、必ず勝利し、首級を上げる。どうだ。言葉にすると、まさに古の名将そのものであると思えぬか?」
「ああっ! 確かに!」
イザベルが険しい顔でカオルを見る。
「戦場では勝つために手など選ばぬ。が、ただひとつの例外がある。古き武士に拘るナカタはそれから決して逃れられない」
カオルが頷く。
「一騎打ちの申し出。決闘です」
皆の目がマサヒデの方を向く。
「ナカタは必ず勝つと決まった時に来ます。ナカタが来る時は、我々が死ぬ時です」
「ううむ・・・こちらから向かわないと死ですか」
クレールが険しい顔で、
「こちらが暗殺しましょう」
レイシクランの忍で暗殺・・・出来るだろうか。
彼らならこの国の一流の忍にも負けないが・・・カオルが少し考え、首を振る。
「おそらく無理です」
「なぜでしょう」
「ナカタは何人も有力な政治家、貴族、商人を始末しております。忍で暗殺が出来るなら、とっくにされております」
「ううん・・・確かに、忍で始末出来るならされてますよね」
「元々剣の達人で、勘は恐ろしく研ぎ澄まされております。それが長年の暗殺稼業で更に研ぎ澄まされております。当然ながら、常に自分のすぐ側に同じ暗殺者がいると考えて生活しているはず。小動物のように敏感になっているはずです。カゲミツ様を暗殺するくらいと見るのが妥当かと」
「むむむ」
「決して近付かず、居場所を把握しておくように、遠くから見張る程度にしておきましょう。少しでも異常を感じれば、さっさと潜伏してしまいます。そうなるといつ襲われるか分かりません」
ううん、とクレールが腕を組む。
「こちらが気付いている、という事に、気付いていない・・・くらいしか、アドバンテージはないですか。かといって、暗殺は難しい」
む、とクレールが顔を上げ、
「カオルさん。気を悪くしないでほしいのですが」
「はい」
「昨晩、見つかりそうになった、と言いましたが、本当に見つかっていませんか?」
カオルが難しい顔で目を瞑る。視線は感じたが、見られてはいない・・・はず。
しかし、あの時は屋根の上だった。
魔術師や弓使いが居なかっただけかもしれない。
逆に泳がされただけかもしれない・・・
「・・・おそらく」
「おそらく、ですか」
「正直に申しまして、確信は持てません。見つかったが泳がされた、という事もありえます」
「では、アドバンテージはないと考えた方が確実ですね」
「は」
ふう、とクレールがため息をつく。
マサヒデが腕を組む。
「ナカタは・・・数日は来ないと見ても」
「おそらく」
「ううむ。おそらくが多いですね」
ぐ、とカオルが言葉に詰まる。
「・・・申し訳ございません。近付く事が出来たら、確実に掴めたと思うのですが」
「まあ、やるだけの事はしましょう。現時流の達人か・・・難しいですね。とにかく一撃必殺の剣だとしか知りません。あれは門外不出の流派ですから・・・一剣流に近いものでしょうか・・・」
マサヒデが言葉を切って黙り込んだ。
相手は勇者祭の者ではないのだ。
やるだけの事をしたら・・・
斬るか、斬られるか。
ならば、斬る。
すっとマサヒデの目が据わったのを、皆が認めた。
「今日は三傅流の道場に行きます。フギ先生は色んな流派を知っている。もしかしたら知っているかもしれない」
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森戸三傅流道場。
マサヒデは皆を稽古に参加させ、22代宗家ヒデノブ=フギと縁側に並んで座る。
「で、話って?」
「フギ先生、現時流って知ってますか」
「勿論」
「どのような剣かも」
「そりゃあ勿論。現時流、興味ある? 現時流は今も御留流(他派との試合、稽古の見学禁止など)の感じ濃いからねえ。中々相手してくれる人は居ないからね」
フギはにこにこしながらマサヒデに話し掛けるが、マサヒデは難しい顔。
「実は・・・現時流の達人と言われる方と、近々」
「おおー! 凄いねえ! 見せてくれる人見つけたんだ! 滅多に見られないよ」
「真剣で」
ぴたりとフギの笑いが止まった。
「斬り合う」
「はい。先日、私が排斥派に襲われたとはご存知でしょうか」
「読売に載ってたね。一面に。で、現時流の使い手を排斥派の連中が呼んだと」
「はい。確認も取れました。ナカタ。シンノスケ=ナカタ」
すー・・・はあ、とフギが息をついた。
「シンノスケ=ナカタ。名前は知ってるよ。確かに現時流の達人だ。サキョウで暗殺しまくってるって。晒し首立てるって奴だ」
「はい。そのナカタです」
「いいよ。現時流、教えるよ。トミヤスさんにはまだまだ出稽古に来て欲しいから」




