第6話
イザベルの部屋。
ラディは一番狙われやすいので、今夜はこのツインルームで過ごす。
イザベルとラディがそれぞれのベッドに腰掛ける。
「風呂場にも銃は持って行け。と言っても、シャワールームの中にまで持って行くなよ」
「はい」
「分かっているだろうが、湿気にやられるからな。バスローブにでも丸めておけ」
「はい」
「それと、お前は魔術も使えるという事を忘れるな」
「あ、そうでした」
「そこを忘れるなよ。弾を打ち切っても何とか出来る。まあ、その頃には誰かが駆け付けているだろうが・・・」
イザベルが部屋を見回す。
「なるべく、部屋の中では銃を使うな。跳弾が怖い。この部屋は広いし鼓膜をやられる事はないだろうが、しばらく聞こえづらくはなる。敵の動く音など聞こえなくなったら致命的だ。まあ、使うなと言ってもなるべくだがな。緊急時には躊躇わず撃て」
「分かりました」
「よし。先にシャワーを浴びろ。驚いただろうから、風呂場の前に居てやる」
「ありがとうございます」
ラディが荷物袋を開け、中から下着を出し、ふわふわのバスローブを持って立ち上がる。イザベルも下着とバスローブを抱えて立ち上がり「ぱちん」と腰の山刀の留め具を外す。
「・・・」
「ほら、熱いシャワーを浴びて、すっきりして、今日は寝るのだ。我も早くすっきりしたい」
「はい・・・」
----------
更衣室に入って、どきどきしながらバスローブを置き、中に拳銃を入れる。
この更衣室も広い・・・
バスローブに手を突っ込み、拳銃を出して、そっと見回す。
ゆっくりと風呂場の戸を開ける。
ふわりと湯気が出て来て、眼鏡が曇る。すっと眼鏡を軽く指で拭いてもう一度。
中に誰も・・・いない。
「ふう」
息をついて拳銃をバスローブに突っ込み、眼鏡を外し、髪を解いて、服を脱いで、風呂場に入る。
(まさか初日からなんて)
洗面器を取り、風呂の蓋を開けようとして、ぎくっとした。
まさかこの中に・・・
どきどきどき・・・
ぴちゃん。
「はっ!」
がらっと勢い良く戸を開け、バスローブから拳銃を出しながら、
「イザベル様!」
がちゃっ!
「どうしたッ!」
「風呂です! 音が!」
ベルトからナイフを抜き、イザベルが風呂場を覗く。
「どこだ」
ラディが素っ裸で拳銃を構えたまま、風呂桶を指差す。
「ちっ・・・往生際の悪い・・・」
ぱ! とイザベルが風呂場に飛び込む。
ばがららっ!
大きな音を立てて、風呂の蓋が跳ね飛ばされた。
「・・・おい」
「はい」
「何もおらぬぞ」
「で、でも、さっき、音が!」
イザベルががっくりして、
「はあー・・・風呂の蓋から落ちた雫ではないのか」
ぴちゃん。
あの音は確かに・・・
「あっ」
「さっさと入ってくれ。無駄にでかい胸を見せつけるな」
「す、すみません」
ラディが気まずい顔で拳銃をバスローブに突っ込んで、風呂場に入って戸を閉めた。
----------
イザベルが投げ飛ばした風呂の蓋を置き、湯船から洗面器で湯をすくって、頭からかぶる。
ざー・・・ぴちゃちゃ・・・
「はあ・・・」
恥ずかしい真似をしてしまった・・・
きゅ、と蛇口をひねり、シャワーを出す。
椅子に座ったままシャワーを頭から浴びる。
座っているだけで、シャワーがこんなに強く当たるとは。
備え付けのシャンプーの容器の蓋を開け、たらりと手に垂らし、わしわしと全体を洗ってから、両手を使って髪を挟むように洗い、爪を立てないように指先で頭をわしわしと洗う。
排水溝に流れていくシャンプーの泡を見ながら、ふう、と溜め息をつく。
明日からずっとこんな感じなのか?
マサヒデは昼間は大丈夫そうと言っていたが、夜はずっと・・・
リンスをかけながら、これからの生活を考えてみる。
飯はレストランに行かず、部屋に運んでもらった方が良いのではなかろうか。
いや、それだと運んで来た者が闇討ちの輩であった場合、対処出来ないかも・・・
皆と一緒にレストランの方が安全か?
(ううん・・・)
リンスを流して、スポンジを取って石鹸を泡立てる。
マサヒデ達が出掛ける時はどうしたら良いだろう。
やはり常に一緒の方が良いか?
でも、マサヒデとアルマダは色んな道場に行くと言っていた。
カオルもシズクもイザベルも一緒に行くだろう。
残りは自分とクレール、トモヤとアルマダの騎士達。
先程のように矢が飛んできた時、叩き落とせる者はいない。
咄嗟の時に不安だ。
ついて行ったら迷惑であろうか・・・
きゅ、とシャワーの栓を閉める。
「んむむ」
顔の湯を払って、湯船に浸かる。
足を伸ばしても、向かい側につかないほど広い湯船。
「はあ・・・ううん・・・」
疲れた。このまま眠ってしまいそうだ・・・
くらり・・・くらり・・・
びちゃ。
「はっ!?」
顔がぴちゃりと湯について、驚いて顔を上げた。
眠ってしまった!?
「・・・」
まずい。どのくらい寝てしまったのだ?
風呂場の前でイザベルが待っている・・・
ばしゃっと上がり、急いで身体を拭いてバスローブを着て、拳銃をバスローブの腰紐に挟んでドアを開ける。
あぐらをかいて腕を組んだイザベルが、むっすりとラディを見上げた。
「長湯だな」
「すみません・・・湯船に入ったら、がっくりきて、うっかり寝てしまって・・・」
「そうか。まあ良い。疲れたであろうし、仕方ないわ。もうベッドで寝ておれ」
「はい」
イザベルが更衣室に入って行った。
ラディもベッドに向かい、スタンドの脇に眼鏡を置き、ぼふっと倒れ込む。
(ああ、柔らかい・・・)
ごろんと上を向いて、腰紐に挟んであった拳銃を枕の下に入れ、口を半開きにして、ぼーっとしていると、風呂場からシャワーの音。
(イザベル様・・・シャワー・・・)
眠りに落ちる寸前。
「はっ!?」
がば! と枕の下の拳銃を取って、ベッドから跳ね起き、風呂場の戸の前で片膝立ちになり、窓に向かって銃を向ける。
今、あの窓から何者かが飛び込んで来たら!?
ぱ! ぱ! と左右に銃を向ける。
どきどきどき・・・
がちゃ。
「はっ!?」
出て来たイザベルをラディが見つめる。
窓に銃を向け、見上げるラディをイザベルが見つめる。
「・・・どうした?」
「窓、窓から、誰か来るかも・・・って・・・」
「良い警戒だが、そうあからさまにしておるとな。では寝ろ」
「は、はい」
イザベルがベッドに歩いて行き、枕元に山刀を置き、ナイフを持って寝転ぶ。
(あ、そうか。持ったまま)
さっきは枕の下に拳銃を入れていたが、確かに持ったままの方が良いではないか。
ラディもベッドに仰向けに寝転んで、腹の上に拳銃を置き「かちん」と安全装置を外した。
「てぇい!」
「ひいっ!」
がば! とラディが起き上がる。
イザベルがラディの拳銃を指差して、
「安全装置まで外すな! 寝ている時にうっかり引き金を引いたら死ぬぞ!」
「は、はい! すみません!」
「全く・・・寝ろ」
「はい・・・」
かちりと安全装置を掛けて、柔らかなベッドに身体を沈ませる。
く、く、と引き金の人差し指を動かす。
安全装置はしっかり・・・
「てぇい!」
「ひあっ!?」
「引き金から指は外せ!」
「は、はい! すみません!」
「寝ろ!」
「はい・・・」
安全装置も掛けたし、引き金から指は外した。
が、どんどん不安になってきた。
これで咄嗟に撃てるだろうか・・・
どきどきどき・・・
「あの」
「何だ」
「イザベル様のベッド」
「ベッドがどうした」
「一緒に寝ても」
「お前は子供か!?」
「闇討ちが心配なんです!」
「ち・・・構わんが、お前、変な気を起こすなよ」
「し、しません! 起こしません!」
「何をしません、なのだ? 全く、そのでかい乳に度胸は入っておらんのか」
「胸は関係ありません!」
「度胸の『きょう』は胸という字ではなかったか? 我の思い違いかな・・・」
イザベルが横にずれて、枕と山刀の位置を直す。
「よいしょ・・・ほれ。来い」
「ありがとうございます!」
いそいそとラディが枕を置いて、イザベルの横に寝転がる。
「はあ、今日は疲れました」
「全くだ。主にお前のせいだがな」
5分もせずに、すー、すー、とラディが眠りについた。
ぱちっとイザベルが目を開ける。
寝入ったラディを横目でちらりと見て、イザベルも目を瞑った。




