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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第五章 ブランクマインド流

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第58話


 ブランクマインド流道場、打剣館。


 館長の得心斎=イトウが笑いもせず、クレールとラディを見る。

 凄い威圧感! 皆はこの人の前で名乗って挨拶をしていたのか。

 2人が手を付いて頭を下げ、


「クレール=フォン=レイシクランでございます」


「ラディスラヴァ=ホルニコヴァです」


 む、とイトウが頷き、


「館長の得心斎=イトウです。お二方は、魔術師だとか」


「はい」「はい」


「ひとつ、うちの門弟共を揉んでやって頂きたいのですが」


「はい・・・」


 高弟が軽く頭を下げ、


「館長。よろしいですか」


 ぎろりとイトウが高弟に目を向ける。


「何か」


「魔術師はレイシクラン殿。ホルニコヴァ殿は治癒師です。レイシクラン殿は毒も使うそうで。解毒が絶対に必要だそうですので、手伝いにと」


「む、そうか。ホルニコヴァ殿、ありがとうございます。宜しくお願いします」


「はい」


「レイシクラン殿。魔力が切れましたらば、言って下さい」


「はい」


 む、とイトウが頷き、高弟の方を向き、


「用意をさせよ」


「はい。レイシクラン殿。ホルニコヴァ殿。後ろを向き、皆の方を」


「はい・・・」「はい」


 肩をすぼませながら、2人が後ろを向く。


「清聴っ!」


 ばばば! と門弟達が高弟の方を向く。


(ひえー!)


 まるで軍隊のようだ! トミヤス道場とは雰囲気が全然違う!


「ありがたい事に、クレール=フォン=レイシクラン様が魔術でお相手下さる! 多くの高名な魔術師を排出しておられるレイシクラン一族のお方である! 純粋魔術師と手合わせする事が出来るのは、滅多にない機会である! 感謝せよ!」


「「「ありがとうございます!」」」


「場を開けよ!」


 さささ! と門弟達が左右に分かれ、道場の真ん中が開く。


「レイシクラン殿。こちらへ」


「はい・・・」


 どきどきどき。

 門弟達の視線が突き刺さる。高弟に連れられるまま、道場の真ん中に立つ。


(どうしよう!?)


 高弟が離れて、


「手合わせを願う者は挙手せよ!」


 ばばば! と皆が手を挙げる。


(持ちませんよ!?)


 どうしたら!? どうしたら!? 脅かせば・・・熊でも出せば・・・


「よろしくお願いします!」


「はっ!? よろしくお願いします!」


 しまった! 思わず返事をしてしまった! すぐに! 急いで!

 ぽふん、と拳大の水球が浮かぶ。


「はじめっ!」


「どぁああーっ!」


 凄い声に驚いて、頭を抱えて座り込む。


「はゃあっ!?」


 ばきゃん! と音がして門弟が吹き飛ぶ。

 ただの水球をぎゅうっと押して、ぱっと前の蓋を取るイメージ。勢い良く飛んでいく、水鉄砲の魔術。


「ああーっ! ごめんなさい!」


 見れば、倒れた門弟の胴が割れている。これはまずい。中まで入ったか!? 胴を割るほどの強さで中まで入ったら・・・


「えふっ」


 倒れた門弟が起きて、よろよろと立ち上がり、


「ありがとうございました」


 と、ふらふらと歩いて行く。

 死んでいなかった。良かった・・・ほ、とクレールが胸を撫で下ろす。


「あっ・・・」


 高弟の方を向き、ば! と頭を下げ、


「すみません! 鎧を壊してしまいました! 弁償します!」


「構いません。使っていればそのうち壊れるものです」


 あ。鎧・・・あの防具は全身鎧ではない。顔もすかすかではないか。

 蜂を出せば驚くだろうか。


「次の者!」


「はい!」


 次の門弟が立つ。


「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


「はじめっ!」


「たあー!」


「あっ? あれ?」


 クレールがきょろきょろと周りを見る。

 む? と審判役の高弟も異常に気付き、怪訝な顔をする。


 むーん・・・


 この音は? あれ? と門弟も竹刀を上に上げたまま、周りを見る。


 むーん・・・

 にやっとクレールが笑い、


「ばあー!」


 ぶううん!

 クレールの背中から、ぶわっと髪を巻き上げて何かが出て来た。


「む!?」


 蜂の音! ぱ! と門弟が下がったが、ばらっと蜂が広く拡がった。門弟を囲んで、派手な音を立てながら迫ってくる。前後左右を囲まれ、逃げ場がない。


「えいっ!」


 竹刀を振るって、顔を袖で隠して蜂の中にぱっと飛び込んできたが、蜂の壁を抜けた所で、ばたんと倒れてしまった。


「ラディさん! 解毒お願いします!」


「はい!」


 ぱたぱたとラディが走ってきて、前のめりに倒れた門弟の腰の辺りに手を当てる。ちらりと門弟の足を見れば、黒い物がすすっと消えていった。クレールの得意な手。何かに目を引き付け、その隙に小さな毒虫を大量につけていたのだ。

 高弟は気付かず、


「むう・・・ショック死しないと良いのですが」


「あ、大丈夫です。蜂ではないですから」


 ぶううん・・・と蜂の群れがクレールの横に戻って来た。もうクレールも落ち着いた。倒れた門弟を、他の門弟が引きずっていく。だが、もう先程のように「あれ? あれ?」などという手は通用しない。


「すみません。5秒下さい」


 杖を出して、ぐっと集中。

 ほわわ・・・


「なっ!?」


 高弟も驚いて声を上げた。クレールの横に虎が出て来た。一瞬だけ透けていたが、もはや生きている虎と全く見分けがつかない。死霊術は幽霊のように透けると聞いたが、全く透けていない。これはもう生きている。


「ありがとうございます。準備終わりました」


 高弟が目を見張る。でかい。虎とはこんなに大きな生物であったか。尾を抜いても7、8尺はありそうだ。重さはどれくらいあるのだろう? 50貫(約190kg)はゆうに超えるはず。70、80貫はありそうだ・・・

 のっしりと虎が起き上がり、くわあ、と欠伸をした。みし、と小さく床が鳴る。


「あぁう・・・むああう!」


 虎の鳴き声が道場に響く。腹に響く。

 クレールがにっこりと笑って、虎の横腹を撫でる。


 最初こそ勢いに驚いたが、オリネオの町の冒険者ギルドでの稽古と変わらない。トミヤス道場の稽古と変わらない。ただ激しいぶつかり合いの稽古で飲まれていた。

 面防具の向こうの門弟達の顔は分かりづらいが、飲めた。雰囲気で分かる。あれは虚勢を張っている。こっちが飲んでやった!


 ぶううん・・・と音を立てる蜂の群れ。

 ぐるぐると喉を鳴らす虎。


「お次の方、どうぞ!」


「はいっ!」


 声が違う。自分に気合を入れようと声を張っている。手に取るように分かる!

 クレールが高弟に笑顔を向け、


「あの治癒師のラディさんは凄い腕利きです。手足が千切れても、元通りに治すことが出来ます! 出血も直後なら戻せます! ご安心下さい! ラディさん、こちらへ!」


 クレールが高弟の横を指差す。


「はい」


 いつも通りのクレールになったのを見て、ラディも落ち着いたようだ。ささ、と歩いて来て、高弟の横に正座する。


「構え!」


 門弟がぐっと構える。力みすぎ。緊張している。だが、面防具の向こうの目は光っている。恐れてはいるが、臆してはいない。挑もう! という気持ちが伝わってくる。


(この道場は凄い!)


「はじめ!」


 のっそりと虎がクレールの前に立つ。ぶううん・・・と蜂の群れが嫌な音を立てて飛んでいく。

 ぱ! と門弟が横に跳んだ。さ! と虎も柔らかく跳ぶ。

 あの大きさで何と素早い! 門弟は一瞬目を見開いたが、すぐ目を据える。


「しゃあ!」


 ばしん!

 虎の頭にもろに竹刀が入った。

 かく、と虎が少しだけ頭を下げて目を瞑ったが、ぬぬぬ・・・と顔を上に向け、門弟の顔を見る。


「う・・・」


 門弟と虎の目が合った。

 ふ! と虎の前足が振られた。

 ばん! と音がして、竹刀がすっ飛んだ。


「おおっ!?」


 竹刀と一緒に身体が持っていかれ、よろけた門弟の袖を、虎が爪を引っ掛けて止める。

 ぶううん・・・


「うおおっ!?」


 面防具の中に大量の蜂が入り込み、慌てて小手で面防具を拭うように振り、頭を振り、身体を振る。


「一本! 一本です!」


 高弟の声がかかり、音を立てて蜂がクレールの側に戻って来る。

 門弟は一本の声が聞こえなかったか、まだ手を振り回している。

 高弟がずかずか歩いて行き、門弟を抑え込み、


「一本だ!」


「は!? は!?」


 ぱしぱしと面防具を軽く叩く。顔は全く痛くない。刺されていない・・・


「レイシクラン様に感謝せよ! 本来であれば腕が飛び、顔が焼き餅のようになっておった所だ! さっさと竹刀を拾って下がれ!」


 門弟がクレールの方を向き、頭を下げ、


「ありがとうございました!」


 と礼をして、走って竹刀を拾って元の位置に座る。


「ありがとうございました! 次の方! どうぞ!」


「はい!」


 はじめの掛け声と共に、虎が門弟に飛び掛かる。


 腕が飛ぶ。

 足が千切れる。

 叫び声が上がる。

 その度にラディが駆け寄って怪我を治し、引きずられて行く。

 その光景を間近で見ているのに、最後まで挑戦者は絶えなかった。


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