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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第五章 ブランクマインド流

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第57話


 シルバー・プリンセス号、貨物室。


 シズクが着替えてくるまで、マサヒデ達が険しい顔でクレール配下の忍を囲む。


「シュウゾウ=クノ。彼の男は、魔の国でも最強の一角と言われる男です。お姿は初めて拝見しました。名を聞いて、一瞬、心の臓が飛び出るかと」


「それ程の? 聞いたこともありませんが」


 忍が頷き、


「全方不敗流という流派で、かの者が創始者です。道場もなく、逗まる事なく戦う者を求めて世界中を歩いておりますし、先程のように名乗らずに相手を倒してしまうので、名が残らないのです。立ち会いとなれば、例え一撃掠めた所で、もう死んでおりますゆえ・・・此度は立ち会いにならず良かったですな」


「ううむ、あれが魔族の武術家ですか・・・全く勝てる気がしません。何百年も修行したんでしょうね」


「マサヒデ殿。彼の者は虫人族、蜘蛛の者ですな。命の長さは人族とさして変わりませぬぞ」


「む・・・」


 かくん、とマサヒデが肩を落とす。確かに自分はぬるい。あの男はどれほどの修行を重ねたのであろうか。


「家を壊さずに形そのまま蹴り上げて宙に飛ばしたとか、笑いながら大岩を殴り削りながら歩いて行ったら、つるりと磨かれたような穴が出来ていたとか、素手で竜の首をへし折ったとか、嘘か真か分からぬ話がひっそりと我らには流れてきます」


「先程の動きを見るに、どれも本当そうですが」


「全くです・・・カゲミツ様とは如何な勝負を致すのでしょうか・・・」


 皆が沈黙した。

 見たい。


「・・・」


 ちらちらと皆を見回すと、皆も落ち着かない顔で目を泳がせている。

 忍が残念そうに首を振り、


「馬を飛ばしても間に合いますまい」


 あっという間に跳んで行ったクノの姿を思い出す。


「ですよね・・・」


「彼の者がトミヤス道場に向かうとは報せを出しました。勝負の見届けは必ず」


「お願いします」


 話が一段落した所で、シズクが毛布を抱えて階段を下りて来た。あのシズクを片手で軽く転ばせる・・・とても考えられない。ぞく、とマサヒデの肌が粟立った。



----------



 ブランクマインド流道場、打剣館。


 得心斎=イトウが道場主を務める、軍人系貴族に人気の道場。

 サキョウ三傑と言われるキノトは、この流派をたった1年で免許皆伝を得たとか。

 胸を高鳴らせながら、門弟に案内され、道場に入る。


(おお!)


 壁際に並んだ門弟達が、皆防具を着けている。

 話には聞いていたが、このような防具か。胴丸と小手と、顔が虫かごのような面防具。

 得物は全て竹刀だが、ただ撃ち合うのではなく、殴る蹴る、組討まで行うという。


 門弟は軍人が多いせいか、それともトミヤス流が嫌われているせいか。ぴりぴりした圧迫感を感じる。

 そして、仙人のような髭を蓄え、つるりと剃り上げた頭の老人。


「打剣館の館長をしております。得心斎=イトウです」


「トミヤス流、マサヒデ=トミヤスです」

「同じく、アルマダ=ハワードです」


 と、皆が名乗り、順に頭を下げていく。

 入口側では、クレールとラディがひりついた空気で、身を小さくして正座している。

 イトウがフギの紹介状をばらりと広げて垂らし、


「ご指南希望とございますが、道場破りで」


「とんでもない!」


「左様で。では、本日はあちらで見取り稽古でも」


 と、イトウが皺だらけの手でクレール達の方を指差す。


「は! お許し、ありがとうございます!」


 マサヒデ達がクレール、ラディの横に、す、す、す、と正座して座る。

 ラディを挟んで、クレールがマサヒデに小さく声を掛ける。


「マサヒデ様ー」


「なんです」


「何も教えてもらえないんですかー」


「見るだけで稽古になるから良いんです。黙ってて下さい。馬車に戻って寝てても構いませんよ」


「んー・・・」


 喋っている間に門弟達が立ち上がり、ばらばらと2人1組で向かい合う。


「はじめい!」


 高弟の声がかかると「お願いします!」と一斉に声が上がり、ばしばしと撃ち合う音が響く。


「ひ」


 ラディが小さく声を上げて、口を押さえる。

 ばたんと倒れた門弟に、対する門弟が「ばん!」と竹刀を撃ち込む。

 別を見れば、鍔迫り合いから体当りして転がって組み合っている。


(ううむ!)


 防具があるからと言って、全然安心出来ない稽古だ。むしろ防具がある分、激しくなっている。まるで戦場で足軽同士が乱戦になった所を見ているようだ。


「ブランクマインド流」


 アルマダがぽつりと呟き、険しい目で稽古の風景を見つめる。

 防具に竹刀はなるべく怪我をしないようにと考えた物だという。確かに大きな怪我はしないだろうが、下手な木刀稽古よりも遥かに激しい稽古だ。稽古が終わる頃には、皆、へろへろになっているだろう。

 キノト侯爵はこれをたった1年で免許皆伝を得たというのか・・・


 四半刻(30分)ほどして、


「そこまで! 休憩!」


 高弟の声がかかる。「ありがとうございました!」と皆が声を上げ、その場にあぐらのような形で座り込む。


「むう・・・」


 マサヒデが唸り声を上げる。

 一見あぐらに見えるが、あぐらではない。後ろの足が跪坐(きざ:正座の足首の先を立てた状態)になって、その上に腰が乗っている。居合でよく使う、さっと立てる座り方だ。


「ラディさん、あの座り方、覚えておくと良いですよ」


 ん? とラディがマサヒデの方を向き、


「あぐらですか?」


「後ろの足、よく見て下さい」


 んん? とラディが首を前に出して目を細め、少しして違いに気付く。


「あっ」


「分かりましたか。足、立ってますよね。あれ、居合で使う、さっと立てる座り方です。鉄砲の早撃ちの稽古で使えますよ」


「なるほど」


「昔の武士は、ああいう座り方をしてたんです。畳の間で王の前にずらりと集まった時も、正座ではないんですよ。あぐらか、あの座り方です。戦場でも、いつ何が起こるか分からないので、基本的にああいう座り方で休むんです」


「へえー!」


 クレールが声を上げて、うんしょ、うんしょ、と足を変えて座ってみる。


「マサヒデ様、これ、すぐ足が痛くなりそうです」


「正座と同じですよ。慣れます」


 ふと前を見れば、イトウが高弟を手招きして、何か喋ってこちらを指差している。高弟が頷いて、イトウに頭を下げ、こちらに歩いて来た。


「失礼します。魔術師の方がおられると聞きましたが」


 どきーん! クレールとラディの心臓が跳ね上がる。

 ちら、と顔を見合わせ、怖ず怖ずと小さく手を挙げる。

 マサヒデが軽く会釈して、


「こちらのラディさんは、魔術師とは言っても治癒師ですから」


 す、とクレールに手を差し出し、


「稽古に参加させて頂けるのでしたら、そちらの。クレールといいます」


 高弟がマサヒデに頭を下げ、


「ではクレール殿、来て頂けましょうか。館長がお呼びです。皆に魔術師相手の稽古をつけてほしいと」


 あの凄い撃ち合いの稽古に入って行けと言うのか!?


(いひぇー! マサヒデ様! 恨みますよ!)


 マサヒデが手を挙げて、


「あ、お待ちを。でしたら、こちらの治癒師の方も連れて行って下さい。ラディといいます」


「!」


 ぎく! とラディがマサヒデを見る。


「クレールさんは毒も使います。解毒の術は絶対に必要です。本当に死んでしまいますから、この方も使って下さい。ラディさん。良いですよね」


「はい・・・」


 じと、とマサヒデを見て、ラディが高弟に頭を下げる。


「クレールさん。決して道場を壊さないように」


「はい・・・」


 どきどきしながら、クレールとラディが立ち上がる。


「では、こちらへ」


 高弟が振り向いて歩いて行く。

 クレールとラディも座って休んでいる門弟達をちらちら見ながら、高弟について歩いて行く。

 ぼこぼこに殴られたらどうしよう!?


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