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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

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第55話


 翌朝、レストラン。


 秋刀魚をもしっと箸でほぐし、大根おろしと口に放り込む。脂が乗ってこってりした秋刀魚と、黒い臓物の苦み。それが、さっぱりした大根おろしで、すっと入っていく・・・合わせて、がつがつっと米を口に入れ、少し噛んで、ごくっと飲み込む。


「んん・・・良いですねえ! 海の魚ですが、秋刀魚は良い」


「良いよね!」


 シズクもばりばりと骨ごと食べて、がつがつ米を進めて行く。

 その隣では、カオルが綺麗に秋刀魚をほぐして食べている。細い骨が骨格標本のように残っている。


「カオルさん、昨晩の次第は」


 にやりとカオルが笑って、


「上々です。これで疑惑が拡がり始めます。あと2、3回で排斥派は動くのも難しくなるでしょう。放っておいても、少なくともこの首都の排斥派は、内部から瓦解していくやも」


「ふむふむ。では、ひとつ質問ですけど。これとは関係ないですが」


「はい」


「あなた、教員になりたいですか? 私の内弟子になりたいですか?」


 何の事だ? とカオルが箸を咥えたままマサヒデを見る。


「旅が終わったら、情報省に戻りたいですか? 教員やめて、私の所で働きませんか?」


「・・・」


 スカウト?

 シズクもラディもイザベルも、箸を止めてマサヒデとカオルを交互に見る。


「取引の条件。あなたを私の個人的な忍にしようかな、と考えてますが・・・あなたはどっちが良いですかね。道場に戻ったら、もう忍の仕事ってほとんど無くなると思いますけど」


 ぽろ、と箸が落ちて、こん、とテーブルで跳ね、床を転がる。


「あ、教えられる技術を道場で教えるってのもありですか・・・どうします」


「ご主人様の所に・・・」


「そうですか。じゃあ監視員の方に、条件決まったので鎧の秘密話しますって伝えて下さい。伝えるまでもないか。どこかで聞いてますよね。サイードさん、1刻もしないで来るでしょう」


 ずず、と味噌汁をすすり、隣のテーブルのアルマダの方を向いて、


「アルマダさん、今日どこ行きます?」


「ブランクマインド流、行きませんか? キノト侯爵の」


「おおっ・・・ブランクマインド流! どこにあるんです!?」


「城の方です。貴族の家が合った区画。あそこを入って行くと軍関係の貴族の区画に・・・」


 のんびり道場の話をしているマサヒデを見て、ほろりとカオルの目から涙が落ちた。

 シズクが落ちた箸を拾って、カオルの前にそっと置き、


「良かったな」


 と、にっこり笑って、ぽす、と肩に手を置いた。



----------



 マサヒデがレストランで暇つぶしに読売を読んでいると、サイードがすぐに入って来た。


「あっ」


 立ち上がって頭を下げる。サイードも頭を下げ、マサヒデの対面に座った。


「あのひよこで宜しいので?」


「ええ。情も湧いてしまいましたし」


 ふ、とサイードが笑う。


「安すぎます。あのひよこが死んだら別の者を送りましょう」


「ありがとうございます。ではその条件で、見た、聞いた限りの事を全てお話しましょう」


 マサヒデが笑って頷く。

 す、とサイードが手を出すと、後ろの黒眼鏡の男が紙束とペンを渡す。


「材料ですが、魔獣化した虫の殻です」


「虫の殻・・・なるほど。それで革鎧のように音が少ない・・・なるほどなるほど」


「数百年生きたものの殻でないと駄目だそうです。まあ、若い虫では殻に厚みも出ないでしょうし、殻も小さいですよね」


 ぴたりとサイードのペンが止まる。


「・・・」


「で、鎧の内側には虫の神経と筋肉の筋を織り交ぜたものを貼っている。関節部分は結構厚めに貼ってありましたね。他は見た目は貼ってあるのか分からなかったです。脳は使わないそうですが、何故かそれで生きているように人を選ぶようになるとか。筋肉を使っているので、あんな力が出るんですかね」


 サイードが鋭い目でマサヒデを見つめる。

 数百年も生きた、魔獣化した虫の殻。簡単に集まる物ではない。ひとつ作るのにどれだけかかるか・・・


「銅貨3枚を重ねて簡単に曲げてました。いやあ、凄い力で驚きました。あと、普通の鎧みたいに着たりするのではなく、背中がぱかっと上に開いて、後ろ側がぱかぱか勝手に開くんです。脱ぎたいなって思うと、勝手に開くそうです。鎧に入ると、またぱかぱか閉じて。凄かったです。神経と筋肉を使ってるから、勝手に動くんですね」


「ううむ・・・トミヤス様」


「はい?」


 サイードがペンを置き、指先でころりと転がす。


「交渉が上手くなりましたな」


 マサヒデがすっとぼけて、はあ? という顔を作る。


「は?」


「魔獣化した虫の殻・・・数百年も生きた物。そうそう集まりはしません」


「え? え? でも、虫ってたくさんいますよね? 魔の国とかにはいませんか?」


「そんなもの、そうそう出くわせはしませんとも」


「え!? じゃあ、作れないんですか!?」


「私が生きている間に、作れますかどうか・・・」


「は!? そんなに数少ないんですか!?」


「少ないですとも。しかも、教会と取り合いです」


「ええ・・・では、では・・・これって、情報の価値、ないですか・・・」


 マサヒデがかくんと肩を落とし、下を向く。笑いを堪えるのが難しい。

 ふうー・・・とサイードが細く長く息をつく。


「作れはしませんが、材が分かれば欠点も分かるというもの。無価値ではございませんな。約束通り、ひよこはお持ち下さい。あれが動けなくなりましたら、交代要員も送ります」


 マサヒデが慌てて手を出し、


「ええ!? ちょっと、それはいくら何でも・・・」


「構いませんとも。聖剣の在り処など掴めたら、教えて下さい」


「そんな、申し訳ないですよ。カオルさんの話は無しでも」


 サイードが首を振り、


「情報省は約束は必ず守ります。先に条件は飲みました。トミヤス様はお話し下さいました。聖騎士の鎧の材料だけでなく、仕組みも分かりました。ひよこと交換なら、むしろ過分な情報です」


 マサヒデが肩をすぼめて、


「すみませんでした・・・凄い情報だと思ったんです」


「お気になさらず。また何か掴んだら教えて下さい」


「はい・・・必ず・・・」


 サイードはしょんぼりするマサヒデの肩に手を置いて、帰って行った。少しして、給仕が茶を持って歩いて来る。


「上手くいきましたな。もう大丈夫です」


 と、マサヒデの前に湯呑を差し出した。

 クレール配下のレイシクランの忍だ。


「ふう!」


 息をついて、マサヒデが顔を上げ、湯呑を取る。


「サイードさん、途中で凄い目になりましたよ」


「大丈夫です。決して恨みには思いますまい。聖騎士の鎧の材料と仕組み。カオル殿が10人でも交換出来る情報です。サイード様が自分で仰っていた通り、過分な情報です。今は期待通りの情報ではなかった、などと肩を落としているかも知れませんが、帰る頃には大はしゃぎしておられるはず」


「参考までに聞きますけど、魔の国なら材料揃えられます?」


 くす、と忍が笑って、


「とてもとても。1着作るのにどれだけかかります事やら。小さな部分は何とか作れるかもしれませんが、全身が神経、筋肉で繋がっておりませんと意味がないわけで。まあ、特殊な力は出せずとも、鉄砲も弾ける軽鎧とあらば、一部だけでも十分ですが」


「ううむ、確かに!」


「ふふふ。虫で軍事産業に入れますな」


 マサヒデが顎に手を当て、


「羽とかも丈夫なんですかね?」


「どうでしょうか・・・何百年も生きた虫の魔獣など、私も見たことが」


「透明な部分とか、割れないガラスみたいに使えませんかね」


「良い思い付きで。そのような発想は武術にも忍の術にも必要なものです」


「ううむ、そうですか? さてと」


 ぐ! と残った茶を飲み干し、たん! と湯呑を置き、


「ではブランクマインド流に行きますか! 楽しみですよ」


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