第52話
不思議な鎧を着た聖騎士、サダと喋っていると、シズクが歩いて来た。
シズクがサダを見て、
「おはようございます」
と、頭を下げる。サダが振り返って、
「あ・・・ああ、おはようございます」
マサヒデがシズクを見て、
「サダさん。その方が噂の鬼族です。シズクさん」
「ああ、あんたが・・・はじめまして。キョウジ=サダ。俺、ここの聖騎士やってるんだ。今日から護衛につけって言われたんだけどさ」
んん? とシズクが胡乱な目でサダを見る。
「聖騎士? 護衛?」
「排斥派に襲われたんだってな。で、ここの教会にとっちゃ大事な人だから守っててくれ、だとさ。でも、あんた達に俺の護衛、いるかな?」
「ふーん・・・」
シズクがじろじろとサダを見る。
シズクの勘ではそこそこ強そうな感じはするが、どうだろうか?
「分かんない。腕次第?」
マサヒデがサダの後ろから、握り潰された銅貨をシズクに投げる。
ほい、とシズクが受け取って、
「ほーん。力自慢」
「ま、そんなとこかな。正直に言うと、剣はからっきしだよ」
シズクがもそもそと懐から銅貨を出して、くっと握る。
「1枚」
左手を下に置いて離すと、同じように潰れた銅貨が落ちる。
2枚重ねて、くっ。
「2枚」
2枚重ねても潰れた。
3枚重ねて・・・くっ。
「3枚。いける?」
3枚重ねの銅貨が潰された。これは凄まじい力。さすが鬼族・・・
はて、とサダが首を傾げて、
「重ねては試した事がないな。まだ銅貨あるか?」
「あるよ」
サダの手に、ちゃりり、と銅貨が置かれる。
「どうなんだろうな・・・ところで、先に聞いておきたいんだけど」
「ん?」
「この銅貨、曲げたり潰したりしたら弁償しなきゃ駄目か?」
「あははは! 奢るよ!」
「じゃ、試させてもらうよ」
ぐ、ぐ、ぐ・・・
サダがくる、くる、と拳を回す。
「ううん・・・重なってると感触がよく分からないな? 曲がっただけかな?」
ぱ、と手を開くと、曲がった3枚重ねの銅貨。
重ねてほんの少し曲げられるというだけでも恐ろしい力だが、ぴったり半分に折れている。
おお! とシズクが笑顔になって、
「あ! 凄いじゃん! あとは木刀で私ぶっ飛ばせれば合格だよ!」
「木刀で鬼族を? 折れちまう・・・だ、ろ・・・」
言いながら、サダがゆっくりとマサヒデに振り向いた。
そうだ。マサヒデは試合では木刀で鬼族を壁まで吹き飛ばしていた。
人族でもあんなに吹き飛ばそうと力が入ったら、簡単に折れるはずだ。
「・・・」
もう一度シズクを見て、またマサヒデを見る。
「どうやったんだ?」
マサヒデは困惑した顔で、
「どうって・・・普通に振っただけですよ」
「すまない。ちょっと良いかな・・・」
サダがシズクの前で膝を付いて、顔を見上げ、
「持ち上げてみても良いか? ぐいっと行かないから。持ち上げれるかどうか」
「ふふーん。良いよー。上がりはすると思うよ」
ぐ、と足を抱くように掴み、
「む・・・む・・・」
何!? とマサヒデが驚いて目を見開く。
以前、カオルと2人がかりで持ち上げてみようとした事があったが、微動だにしなかったシズクの足が、ぐ、と持ち上がった。ぎゅ、ぎゅ、とサダの足が地に沈む。
「くそ! これ以上は無理だ・・・」
「あはーん。その程度じゃあ鬼には勝てないぞー」
サダが手を離すと、どすんとシズクが足を着き、にやにや笑う。
「狼族よりは力あるかなー。同じくらいかなー。でも私ら程じゃあないなー」
ふう! とサダが息をついて立ち上がり、呆れた顔でマサヒデの方を見る。
「この重さ、木刀で吹き飛ばしたのか? 身体が崩れてたって無理だろ?」
またマサヒデは困った顔をして、
「そう言われましても・・・ただ振っただけですから・・・」
シズクがにやにやして、
「マサちゃんって凄いだろ? これがトミヤス流なのさ! ハワード様だって、私ぶっ飛ばせるよ!」
「本当かよ・・・俺が護衛につく意味ないな。そもそも、真剣なんかいらないんじゃないか? 木刀何本か持ってるだけで良いだろ? 相手が鎧着ててもぶっ飛ばせるじゃないか」
「いや、木刀だと、相手が真剣で振ってきたら切り落とされてしまいますし」
「じゃあ鉄パイプで良いんじゃないのか?」
ぷ、とマサヒデが笑って、
「ふふ。それはちょっとどうかと・・・腰に鉄パイプだなんて、後ろ指ですよ。それに、刀は刀で使い方がありますから」
「どんな」
「降参しろって脅す時は、刀の方が迫力が出て良いでしょう?」
「ふ、ははは! そりゃあそうだ! その刀は脅迫用か!」
「ははは! この先もそうであって欲しいと思いますよ」
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「良い勉強になりました! ありがとうございました!」
クレールがマイロ牧師に頭を下げ、どさ、と小袋を置く。
「おお、こんなに。ありがとうございます」
「お収め下さい! それでは、また来ます!」
ててて・・・とクレールが小走りに走って行き、カオル、イザベル、ラディと教会を出て行った。子供のようなクレールの後ろ姿を見て、マイロ牧師も微笑みを浮かべる。服装は平民層と変わらなかったが、あれは裕福な貴族の子供であったのだろう。
自分の説法を聞いて、小遣いを出してくれたのか。
それよりも、自分の話が勉強になった、と喜んでもらえた。
温かい気持ちになり、出て行く者達を見送って、寄付の箱を持ち上げて奥に持って行く。机に寄付箱を置き、す、と先程の子供が置いてくれた小袋に手を添える。
初めて来てくれた子であった。
大事な小遣いを出してくれるほど、喜んでくれた。
自分の説法をそれほどに喜んでくれた事が、何よりも嬉しい。
(ありがとうございます)
神様と子供に感謝して、そっと小袋を開ける。
「うっ!?」
ぎょっとして、マイロ牧師の手が止まった。金貨・・・
銀貨、銅貨ではなかった! これは金貨の小袋!?
恐る恐る小袋を開けて、じゃらら・・・と箱の中に開ける。
全部、金貨。
ぷつぷつと汗が額に浮いてくる。
こんこん。
は! としてマイロ牧師がドアを見る。
「マイロさん。サダです」
「サダ君か・・・入ってくれ」
がちゃ、とドアが開いて、サダが入って来た。
「ははは。今日も閑古鳥ですか」
「いや・・・いや、サダ君、これ見て」
ん、とサダが寄付箱を覗いて、ぎょっとして固まる。
「何ですか、それ・・・」
「さっき、子供が寄付してくれたんだ。背は小さかったが、多分、14、5くらいかな・・・」
「子供? 貴族の小遣いって額じゃないですよ。もしかして王族だったんですかね」
「分からんが・・・」
は! とサダが顔を上げ、
「ああっ! あいつか! ほら、奥方、とんでもなくでかい魔の国の貴族だって教えてくれましたよね。さっき、トミヤスさんが外に来てたんです」
「何!?」
がば! とマイロ牧師が顔を上げた。
「その子供、きっと魔族ですよ。トミヤスさんの奥方だったんじゃ」
マイロ牧師が慌てて教会を飛び出して行ったが、表では子供が遊んでいるだけだ。
道に飛び出たが、いつもの景色。
「・・・」
サダが歩いて来て、マイロ牧師の横に並び、苦笑を浮かべて、
「トミヤスさんの護衛は断られちゃいましたよ。俺じゃあ役に立つどころか、足手まといになるだけです。木刀で鬼族ぶっ飛ばせるなんて、人族だって信じられませんよ。本当は龍人族とかじゃないんですか?」
きゃあきゃあと、教会の庭で子供達が遊んでいる。
かくん、と膝が抜けて落ちそうになったマイロ牧師を、サダが受け止めた。




