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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

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第51話


 翌朝。


 本日はアルマダ達の組とは別行動で、マサヒデ達は教会へ向かった。

 朝の居住区では、同じ服を着て鞄を持った子供達が並んで歩いている。

 子供達を指差し、隣に並ぶカオルに怪訝な顔を向け、


「あれなんです?」


「あれは寺子屋に行く子供達です」


「寺子屋? なんで同じ格好をしているんです」


「少々お高い寺子屋に行く子供達です。制服が支給されるのです」


「へえ・・・」


 カオルが目を細めて教会を見て、


「参りますウキョウ新教会も、寺子屋をしております。あまり金のない者や、安く済ませたいという家庭ではこちらに通わせておりますね」


「ふうん・・・」


「別に宗教などは叩き込まれたりしません。宗教学は宗教学で別枠という所です」


「別枠?」


「朝会で神様のお説法をするのです。この時間であれば、到着する頃には始まっておりましょう」


 ええ、とマサヒデが面倒そうな顔をして、


「お説法なんか嫌ですよ・・・私は黒嵐と遊んでいます」


「それも良いかと。私も説法には全く興味はありません。集まっている者の方に興味があります」


 きらりとカオルの目が光る。


「平民に混じって貴族連中も来ている、かも・・・」


「なるほど・・・居たら味方に出来ますかね」


 む、とカオルが黙り込む。

 ぽくり。ぽくり・・・としばらく馬を進め、


「安易に貴族連中を味方に引き込むのは、逆に危険を呼びかねません。貴族とは総じて噂好きな者。確認のみにしておきましょう。口の軽い者だと、そこら中にご主人様の秘密が広まってしまいますが・・・政治家や軍属・・・」


 いや、とカオルが首を振る。


「内憂を抱えかねません。味方にする者は、しかと吟味が必要です。此度は居るか居ないかの確認のみで済ませましょう」


 マサヒデが溜め息をつき、ちょいと笠を上げて朝の空を見る。


「ふう。味方を作るのも面倒ですね」


 ぽっくり、ぽっくり、と馬を進めて行く。

 後ろから、トモヤが欠伸をしながら馬車を進めてくる。



----------



 ウキョウ新教会。


 クレール達が教会に入って行くと、ちらっとマイロ牧師が見た。

 貴族らしい格好はしていないので、マサヒデの仲間だとは気付いていないようだ。

 クレールとラディは長椅子に並んで座る。

 カオルとシズクとイザベルは入口側の壁にもたれかかって、中を見回す。


「えー、有名なお言葉として『他者を愛すべし』というお言葉があります。これは聞いた事のある方も多いでしょう。本来、これは『己を愛するように、他者を愛すべし』というお言葉です。これはナルシスト的な考えを持ち、それを他に向けるというのではなく、まず! 己を愛せよ! 客観的に自分はどういう人間か。その自分を受け入れ、自分で自分を愛する事が出来るか。ここが大事なポイントなのです」


 くはあ、とシズクが覆面の下で欠伸をして、ちょいちょい、とカオルの裾を引き、


「私、外でマサちゃんと遊んでくる」


「はい」


 ぐー! と伸びをして、シズクが出て行く。

 カオルはゆっくりと教会内の者達の後ろ姿を見回している。


「自分を愛せない者が、他者を愛出来るわけがない。己を知り。己を愛する事が出来。初めて他者を愛する事が出来るわけです。自分で今の自分はどうであろうかと感じる方は、まず自分を律して、自分を愛する事が出来るようにと・・・」


 カオルの目が細まる。説法は右から左に流れていく。


「イザベル様。貴族も混じっておりますね」


「はい。しかと吟味しておかねば」



----------



 その頃、教会の外では。


「よーしよしよし。気持ちいいか? んんー? もっと撫でて欲しいのか? ここかな? そうか、この辺か」


 すりー、すりー、とマサヒデが黒嵐をブラシで梳いていた。

 ふ、と小さな笑い声と、小さな革鎧の音。殺気はない。

 マサヒデは気付かないふりでブラシをかける。


「その台詞、誤解を招きそうじゃないか?」


「ん」


 手を止めて肩越しに後ろを向くと、薄い紫の全身鎧を着た男。この教会の騎士?


(金属鎧? 魔術がかけてあるのか?)


 金属の音はしなかったが・・・

 昨日、船に来た騎士達とは違う。

 マサヒデを見て苦笑を浮かべている。


「え、そうですかね・・・」


「そうさ。何かいやらしく聞こえたぞ」


「いや、これはすみません。失礼しました」


「あんた、トミヤスさんだろ?」


「そうです」


 騎士が笑顔で軽く会釈して、


「俺はキョウジ=サダ。この教会の聖騎士ってやつ」


「聖騎士? って、何ですか? もしかして、偉い騎士様でしたか?」


「ま、そんなとこかな。親父は・・・」


 サダが城の方を向き、溜め息をついて、


「親父は、大店の店長やってるよ。おふくろは文部省の役人さ」


 サダが教会を見上げ、


「俺、ついこないだ、この教会に来たんだ」


「はあ」


 サダが苦笑して、


「おい、全く興味なさそうだな。知ってるぞ。お前、まだ16だろ。俺は18。俺の方が年上なんだぞ」


「あ、失礼しました・・・」


 マサヒデが笠を取って頭を下げると、サダが笑う。


「ははは! いいよ! 年上だなんて言って悪かった。冗談さ。つまんないよな、俺の身の上話なんて」


「いや、まあ、その、なんと言いますか」


 ふ、とサダが笑って、


「俺、あんたの護衛任されたんだ。こっちはいい迷惑だぞ」


「護衛?」


「そうだ。だけど、あんたに護衛いるのか? 俺の剣なんか、あんた達本職に比べたら、子供のチャンバラみたいなもんだし。試合、見てたぞ。鬼にも忍にも勝ってたじゃないか。排斥派がくるかもって言ってたけど、俺が居ても邪魔じゃないのか? マイロさんは何を考えてるんだか・・・」


「あ、いえ・・・ありがたい事です。感謝します」


 マサヒデが頭を下げると、サダが呆れた風に両手を上げ、こんこん、と鎧をつつく。


「この鎧はさ」


「はい」


「人を選ぶんだ。この鎧、生きてるんだぜ」


「・・・は?」


「ははは! わけ分かんないだろ? これ、金属じゃないんだ。魔獣化して、何百年も生きたでっかい虫の殻を使ってるんだ」


 は!? とマサヒデが驚いて鎧を見つめる。


「ええ!? それ、虫の殻なんですか!?」


「面白いだろ? 鍛冶族の鉄より硬くて、軽いんだぜ。鉄砲玉も弾くし、弾いても俺には全くがつんとこないんだ。で・・・」


 サダが後ろを向くと、ぱすん! と音がして、背中が上に開き、鎧がぱかぱかと開いていく。


「よっと・・・驚いたか?」


「・・・」


 開いた後ろ側からサダが1歩下がると、後ろが開いた、立ったままの鎧。マサヒデは唖然としてしまい、言葉も出ない。


「何の仕掛けもないって言うのもおかしいけど、脱がないとなって思うと、勝手にこうなるんだ。面白いだろ? 魔術とか呪いがかかってるわけじゃないんだ。ほら、こっち来いよ」


「はあ・・・」


 この鎧は一体何なのだ? 本当にわけが分からない・・・

 サダが開いた鎧の肘の内側を指差す。関節部に何か厚い布のような物が見える。


「ここ。よく見てみろよ。何か貼ってあるだろ」


「ええ」


「これ、虫の魔獣の神経をいっぱい繋げて貼ってあるんだ。あと筋肉の筋とかも織り交ぜてさ。伸びるから、こういう所に貼ってても平気なんだ」


「へえー!」


 マサヒデは顎に手を当てて、まじまじと鎧の肘を見つめる。

 この虫の魔獣の神経が反応して、鎧が動くのだろうか?


「ここは見て分かりやすいけど、鎧全体にこの神経が貼ってあって、繋がってるんだ。でもさ、脳はないんだ。なのに生意気に着る者を選ぶんだ。不思議だろ?」


「いや、全くです・・・」


 サダが鎧を親指で指差し、


「試しに入ってみろよ。お前が選ばれたら、着れる。着れたら、その鎧やるよ」


「ええ? それ、教会に怒られたりしませんか?」


 サダは肩を竦めて、


「別に怒られないと思うな。着るべき者が着るってだけだからさ。排斥派の連中が着れるんなら、そいつにやっても良いなんて言ってたんだぜ。ま、さすがにそれは冗談だと思うけど」


「ううむ・・・では、試しに・・・」


 よ、と立ったまま開いている鎧に身体を入れ、腕を入れてみる。何も変化がない。


「・・・」


「ははは! お前は嫌われちまったみたいだな! どいてくれ」


「ううむ」


 マサヒデが唸って鎧から出ると、サダが鎧にすっと身を入れると、ぱかぱかと鎧が閉じる。肩越しににやりと笑ってマサヒデを見て、


「な。この通りさ。この鎧に選ばれた奴が聖騎士になれるんだ。金や身分じゃ聖騎士にはなれないんだ。例え魔王様だって、この鎧に選ばれなきゃ聖騎士にはなれないんだぜ。ま、聖騎士なんて興味もないだろうけど」


「へえー! これは面白いですね!」


「まだあるぞ。さっき、神経と、筋肉の筋も織り交ぜて、って言ったろ?」


「筋肉・・・もしかして?」


「そう。これ着てると、凄い力が出るんだ。まあ筋肉って言うのはまだ分かるけど、ただ張ってあるだけだろ? 何でこんなにってくらい出るんだ・・・ええと、銅貨とか持ってるか?」


「はい」


 差し出されたサダの手に銅貨を乗せると、握って、開く。


「ええっ!?」


「ははは!」


 全然力を込めて握ってなかったのに、銅貨が紙を握り潰したように丸まっている・・・

 ひょい、とマサヒデに放り投げ、


「ま、剣術なんか全然だけど、この鎧の力のお陰で、騎士って見てもらえる。この鎧を壊しちまったら、俺は騎士廃業ってわけ。毎日ひやひやしてるよ。聖騎士って教会の称号ってだけで、身分でも公務員でもないからさ。給料も安いぜ」


 困ったような笑顔で、サダが肩を竦めた。

 サダの後ろから、ローブを被ったシズクが歩いて来るのが見えた。


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