第50話
昼食を済ませ、クレールと部屋に戻る。
訪ねる前に『教会』という宗教団体について教えてもらうのだ。
マサヒデは宗教は大して詳しくない。寺は生まれの村にもあったし、オリネオの町にもあったので、ある程度は知っているが、何とか宗、何とか宗とかもよく知らない。
寺は仏教。神社は神道。教会は・・・教会の神様? くらい。
マサヒデはベッドにあぐらをかいて座り、クレールはちょこんと足を投げて座る。
「で、教会と言うのはどのような」
「私から見ると、見た目が違うだけで、なんと言いますか、構造? お寺とかと大して変わらないです」
「と言いますと」
「お寺や神社と同じです。何とか宗とかがあって、お寺によって考え方がちょっと違うけど、まあ同じ仏教ですよね! みたいな」
「ふむ?」
「昔は宗派で戦争なんかもしてたんですけど、今はみんな仲良しというか、まあ同じ教会ですよね! みたいな感じで、くっついてる感じですね!」
「同じ教会で戦争なんかしてたんですか・・・」
にひひ、とクレールが笑って、
「歴史の闇ってやつですー! 教会では突っ込んではいけませんよ!」
「しませんよ」
「他にもー、教会以外は悪魔の教えだ! なんて言って、教会がない国に戦争仕掛けたりとかー! 結構、政治にどす黒く染まってる闇がありますね! 同じ人族を火炙りにして、燃やせば正体現すぞー! なーんて事して、あっ! 違った! でもこの人は正しい人族だから天国に行けます! 良かったねー、なんて! 教会に良い顔しない貴族や政治家をそうやって始末してたり! それが今の排斥派の始まりですね」
ふう、とマサヒデが苦い顔をして、
「何か、どんどん印象悪くなりますね」
「うふふ。お寺でも似たような事はありますよ。で、最初はハリーススと言われる教会の神様を崇めるひとつの宗教でした」
「ふむ」
「この神様は仏様と同じで、元々は人間です。生前に良いお言葉をたくさん残されたので、信仰の対象となった、みたいな感じです」
「ああ、そういう神様ですか。大昔にいた本物の神様ではなく」
「はい。でも、私の予想ではこのお方、凄い魔術の才を持っていたと見ています。奇跡と呼ばれる業績をいくつも残してますね。当時の人の国ではまさに生きた神!」
「へえ・・・魔術師だったんですか」
ううん、とクレールが腕を組み、
「魔術師というと、語弊があります。恐らく、ご本人も魔術を使っている、という認識はなかったと思います。ピンチの時にいつも何か奇跡が起こるので、神様が助けてくれたのでは? もしかして!? そうして、信仰心に燃え出し、仏教で言う悟りみたいな境地に。実はそれって本能で魔術を使っていたのでは、と私は予想してます。文字通りの大魔術師ですね」
マサヒデも少し興味が湧いてきて、顎に手を当てる。
「なあるほど・・・魔術が全然なかった時代に大魔術師か。それで悟りも開いて、良いお言葉も残されたら、神様とされるのも分かります」
「この神様が死んで、近しい信者さん、まあ道場で言う高弟の方々ですね。それが記録を作り、教えをまとめて、最初の教会が出来ました。大体2000年くらい前ですから、新しい宗教ですよ」
マサヒデが首を傾げ、
「2000年? それって、新しいんですか?」
「仏様が大体2500年前。仏様も修行の間に他の宗教のお方にいじめられた、というお話もありますから、もっともっと古い宗教もたくさんありますよ! 神道の最高神に至っては、世界が出来た時に降り立った方ですから、魔王様よりも年上です!」
むう、とマサヒデが腕を組む。
「ううむ! 知りませんでした! あ、では、神社の神様って、実際に居た本物の神様? どこかで寝ている?」(※勇者祭484話参照)
「神道にも色々神様が居ますけど、その可能性は高いと私は見ていますよ! どこかの神社の地下深くで、神様が寝ておられるかも!」
「それ、すごく気になりますね・・・」
む、とマサヒデが目を逸らす。
先日のウキョウ神宮。
お参りなどどうでも良いから、さっさと道場へ、などと・・・あの神社の下に神様は居たのだろうか・・・まずい事をしたかも・・・
「ん、んんっ! 話を教会に戻しましょう。で、神様がお亡くなりになって、高弟の方々が教えをまとめて、最初の教会が出来たと。その後どうなるんです」
「分かれて宗派が出来るわけです。お寺と同じです。最初は仏様一人だったのが、うちは何とか仏、何とか如来、何とか神、何々を崇めますよ。だから何々宗と名前を変えて分かれます、みたいな。でも同じお寺の仲間です」
「ふむ」
「細かく分けるときりが無いですけど、一番大きな穏健派。これは正式には教会世界派という宗派で、旧教会とも呼ばれます」
マサヒデが胡乱な顔で、
「世界・・・派? またでかい名前を・・・」
「この宗派には教皇という1人のトップがいるのと、派手好きというのが特徴ですね。教会の建物は派手で綺麗なんです。観光名所になっている所も多いです」
「ううむ、名前負けしないよう、見た目にも気を付けるみたいな」
「うふふ。多分、そんな感じですね! で、魔族受け入れ派。これは正式には抗議派。新教会とも呼ばれます」
マサヒデが首を傾げる。
「何の抗議です? 教会内での派閥争い?」
「長いので説明は省きますが、大体そんな所です。こちらにはトップはいないです。教会も地味ですよ。地域のまとめ役さんは居ますけど、別に偉いってわけではないです。ただ同じ信仰をしてるなら、皆が同じ仲間。だったら魔族も同じ信仰したいなら受け入れるのが当たり前じゃないか。そうして受け入れ派が出来たわけです」
「なるほど・・・」
「この新教会が出来た時は、穏健派に異端者扱いされて、お互いにバチバチ! どっちも向こうが異端者だ! って言い合って、戦争です! 数こそ穏健派が圧倒的でしたけど、受け入れ派には魔族が居ます。泥試合になって、結局はお互い同じ教えの書を持ってるし、教え方が違うだけですよね、と互いに互いを認めようという落とし所で、今の感じに」
「ふむ。で、排斥派は穏健派から生まれたと」
「元はそうですが、実は受け入れ派からも出てます」
「え?」
「穏健派と受入れ派の戦争時代に、お互いにあいつは魔族だ! あいつは穏健派だ! と密告があると火炙りにしてたり、適当な裁判で殺してたりしました。戦争が収まって、受け入れ派の方は消えましたが・・・という訳です」
「ううむ、そうだったんですか・・・」
「多数をしめる穏健派としては、教会の邪魔者をこっそり始末してくれる排斥派はありがたいです。だから文句を言われても知りません、存じません、と黙ります」
「ふむ?」
「マサヒデ様が、イザベルさんの前で「あいつ邪魔だなあ、嫌いだなあ」とぶつくさ言ってると・・・分かりますよね。そんな感じです。証拠もあるし危ないなとなれば、排斥派を突き出せば良いのですから、都合も良いです」
「トカゲの尻尾切りですね」
クレールが真剣な顔で前のめりになって、指を立て、
「ここからは私の予想なんですけど」
「はい」
「排斥派の元々の母体は穏健派です。もしかすると、魔族排斥派ではなく『穏健派の敵の排斥派』ではないでしょうか」
「む・・・」
「魔族を主に襲っているだけで、おそらく穏健派に邪魔な人族も手に掛けているのでは。『魔族排斥派』という名前から、魔族がやられたらあいつらか、ってなりますけど、人族だと、あれ? 誰がやったんだ? ってなりますよね。人族で狙われるのは、政治家とか貴族、あと豪商でしょうか。敵は多いから、余計に分からない」
「なるほど」
「マサヒデ様が狙われたのも、そういう考えが元々あったから、という所も強いと思います。彼らの神様はハリーススではなく、穏健派という母体。そこに陰ながら奉仕する事が彼らの正義であり、喜び・・・なのでは」
は、とキノト侯爵の話を思い出した。
「そうだ。そう言えば陛下もキノト先生も即位前に何度も襲われたとか・・・」
「そうです。陛下も魔族とは普通に接しよう、というお考え。魔族受け入れ派に近いです。確かに穏健派とは違う考え方ですけど、人族なのに襲われました。マサヒデ様も同じです。穏健派には大きな邪魔になりそうだからです」
「そうか・・・」
「でも陛下は宗教は厄介だと分かってますから、余程の事がなければ国教である神道以外には口を出さないです。で、特に邪魔するでもないし、即位もされて面倒だし、排斥派もまあ良いか、となるわけです。同じ考えを持つ受け入れ派は、陛下が宗教には無関心だから恩恵を受けられない。それで少数派の受け入れ派は苦労する、というわけです」
「ううむ。そうか、それで厳しい、後ろ盾が欲しい、私達の名が欲しいと」
「マサヒデ様は武術家です。勇者祭以外にだって、立ち会い願おう! って人はいます。でも、もしかしたらその人・・・排斥派に雇われた人かも・・・」
「ありそうですね」
「達人のおられる道場も、注意しないといけないかも、ですよ。大きな道場は大丈夫だと思いますけど、小さな所だとお金でころりはありえそうです」
ふ、とマサヒデが苦笑して、
「流石にそれはないと思いますがね。しかし、でしたら私も無関心にした方が良いでしょうか」
クレールが腕を組み、
「ううん、陛下みたいに即位して手を出せない程の強烈な力を持つでもないですし・・・私は、受け入れ派ならまあ、ね? という程度が良いと思います。完全に受け入れ派万歳! ですと、穏健派も敵に回りかねませんから、少しだけ。まあ教会の中では少しは信用は出来るけど、別に興味はないなあ、というくらい」
「ま、やっぱりそこらが妥当ですか」
マサヒデはあぐらのままごろんとベッドに転がって、足を伸ばし、ばすっと落とした。
明日辺り、マイロ牧師の教会を見に行ってみるか・・・




