第5話
豪華なレストランでのディナータイム。
料理が運ばれてくる度に、イザベルとシズクが「すん」と鼻を鳴らす。
最初にカオルが口をつけ、こくんと頷いてから皆が食べる。
美味しいのだが、非常に緊迫感がある食事だ。
アルマダ達のテーブルからは笑い声が上がるが、マサヒデ達のテーブルはしんとしている。
「おおいマサヒデえー」
ワインの瓶を引っ掴んで、ふらふらとトモヤが歩いて来て、マサヒデの横に立った。
「なんじゃあ、皆様方、葬式のような顔をして」
「まあ、色々あってな。気にするな」
ぐびっとトモヤがワインを瓶から飲み、
「クレール殿!」
びく! とクレールが顔を上げ、
「はいっ!?」
にやあ、とトモヤが笑い、
「紫のワインは言うほど美味くないのお。じゃが、黄色いワインは実に美味い!」
む! とクレールが眉間に皺を寄せ、
「それはトモヤ様が飲み慣れていないからです!」
ふっ、とクレールが鼻で笑って、
「お子様舌の方ほど、白が美味いとおっしゃいますね」
「わははは! そうかそうか! ワシはワインなど飲み慣れておらんからのお~」
ぐびぐび。
「ぶはっ・・・」
マサヒデが呆れ顔で、
「トモヤ、その瓶で終わりにしておけよ。二日酔いになっても、薬はやらんぞ」
「あー、ではそうするかのお。時にクレール殿」
「なんですか?」
「三浦酒天から酒を仕入れて来てはどうじゃ。この船いっぱいに乗せて、お国に持ち帰るのはいかがかの」
「むっ!?」
「味見に1本2本残しておけば良かろう。あとはワシらでくいっと」
「トモヤ様!」
「なんじゃあ」
「良いお考えです!」
「ほうじゃろ!」
クレールが立ち上がり、ぱん! ぱん! と手を叩く。
「誰か! 紙とペンを!」
ささーと給仕が出て来て、クレールの前に紙とペンを差し出す。さらさらとクレールが何かを書き、給仕に差し出す。
「こちらを料理長に」
「は」
給仕が下がって行く。
クレールが顎に手を当て、
「特急便なら往復で3週間と言った所ですか・・・」
「あっ! クレール殿! わざわざ三浦酒天に行くまでもないわ!」
「何故?」
「ほれ、ここは首都じゃ。この国の酒は何でもあろうが。銘柄だけ聞けば、町で仕入れれば良かろうて」
「ああーっ! トモヤ様! 酔っていてもご慧眼は鈍りませんね!」
「ほうじゃろう! わははは!」
ぱん! ぱん!
「誰か! 紙とペン!」
また給仕がやってくる。
さらさら・・・
「これを料理長に。先程の注文は捨てて結構と伝えなさい」
「は」
給仕が下がって行く。
クレールが座ってにっこり笑い、
「これで明日か明後日にはあのお酒が入りますね!」
「うむ! 楽しみじゃの。ついでに虎徹の酒もどうじゃ」
「誰か!」
ふう、とマサヒデが溜め息をつき、料理を口に運ぶ。
やはりナイフとフォークは慣れない。
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ディナーが終わって、レストランから部屋へ。
「ふわーあ、やっぱりナイフとフォークは慣れないですよ」
「マサヒデ様、ここで練習しておけば、陛下の前でも大丈夫ですよ!」
「ああ、そういう考え方もあるのっ、かっ!」
どん! とクレールを押し飛ばし、脇差を抜きざまに「ばしん!」と矢を落とす。
「走って!」
シズクがおたおたしているラディと転んだクレールを抱えて、客室フロアのドアを吹き飛ばして駆け込む。騎士達も駆けていく。
マサヒデ、アルマダ、カオル、イザベルが残っていたが、もう矢は飛んでこない。
「初日の歓迎ですか。食事の後の気が抜けた所をという感じですね」
アルマダが言いながら叩き落された矢を拾い、カオルに渡す。
「毒ですか」
カオルが鼻を鳴らし、目を近付けて矢尻を見る。
「明るくしましょう」
マサヒデが鉄扇を出して、くっと軽く握ると、ぱちぱち! と雷の魔術で明るくなる。アルマダが驚いて目を細め、
「うおっ!? 何ですか!?」
「あれですよ。魔力の鉱石で偶然出来たんです。それよりカオルさん、どうです」
カオルが首を振り、
「私が見た所、毒はないですが・・・イザベル様」
「は」
イザベルが鼻を近付け、少しして首を振る。
「何も塗られておりません」
「ふうん・・・偵察って所ですかね。腕を見てみよう、みたいな」
「おそらく」
マサヒデが鉄扇をしまって港の方を見る。
「見えます?」
「いえ。イザベル様、臭いますか」
「分かりません。潮の臭いが強く」
ばらりとカオルが懐からロープを出し、
「見て参ります。痕跡があるかも」
「飛んできた向きからして、あの辺りですね。短弓の矢ですから、それほど遠くないと思います。この高さを下から狙うのは難しいから、多分、倉庫の屋根の上かな。にしても、短弓で狙うのは相当ですよ。適当に切り上げて戻って下さい」
「は」
カオルが手すりにロープを括り付け、さーっと降りていった。
アルマダが剣を納めて、
「ちょっと、マサヒデさん。それ見せて下さいよ」
「良いですよ」
マサヒデが鉄扇を出して、軽く握る。ぱちぱち! と音がして、周りが明るくなる。
「凄いですね」
「ほら」
とん、とアルマダに先を押し付ける。びりっときてアルマダが驚いて身を引く。
「うわっ!? 何をするんです!?」
「雷は全然強くないでしょう?」
「あ、確かに・・・いや、先に口で言って下さいよ!」
「ははは! で、持ってる私は全然痺れないんです。不思議ですよね」
「へえ・・・ちょっと持たせてもらえますか」
「どうぞ」
ぽん、と鉄扇をアルマダの手に置く。
「握って、軽く意識するだけで良いんです」
「ほう」
ぱちぱちぱち!
「おお、凄い! 全く痺れませんね!」
「でしょう? ラディさんとお父上のお陰ですよ。ホルニ工房でいくつも試し打ちして、これが出来たんです」
「へえ・・・」
マサヒデが客室フロアの方を見て、
「さ、私達も行きましょう」
「ありがとうございます」
アルマダから返された鉄扇を帯に挟み、客室フロアに入って行く。大きく壊れたドアは蝶番の方だけ残って、ばらばらになった欠片が廊下に点々と転がっている。
「ああ、このドア、いくらするんでしょう・・・」
廊下を見れば、青い顔でラディが銃を構えている。
「ラディさん、もう居ませんよ」
「はい・・・」
ぷるぷる震えながら、ラディが懐に拳銃をしまう。
マサヒデは壊れたドアの向こうを見て、
「カオルさんが行きましたけど、まあ見つからないと思います。毒も塗ってなかったし、多分、腕を見に来たという所でしょう。いくらこちらの方が明るいとはいえ、この暗さの中でしっかり狙ってきたので、中々の腕ですよ」
シズクが困った顔で、
「マサちゃーん、ドア、まずかったかなあ」
「今のは仕方ないです。クレールさん、とりあえずカーテンでも下げておきましょう。風通しが良すぎます」
「は、は、はい・・・」
ふう、とマサヒデが小さく溜め息をついて、
「これから、毎晩、来るんですか?」
「さあ。それは相手次第です」
かちゃ、と小さくドアが開き、は! と皆が身を固くした。
マサヒデとアルマダがさっと剣を抜く。
「あの・・・」
スタッフルーム。客室係が、ドアの隙間から目を覗かせる。
は、とマサヒデが息をついて、
「すみません。ドアを壊してしまいました」
「な、何が? 何が?」
「勇者祭の闇討ちです」
「ひ!」
ばたん! とドアが閉まり、がちゃりと鍵がかけられた。
マサヒデが少し声を張って、
「あなたは狙われませんから平気ですよー!」
ドアの向こうから客室係の声。
「ほほ本当ですか?」
「大丈夫。開けて下さい」
かちゃ・・・とゆっくり鍵が開けられ、細くドアが開く。
「一般人に被害を出したら即牢屋行き、死者が出たら死罪か無期懲役なので、大丈夫です。大砲や魔術でどかんと来るような事はないですから」
「はい・・・」
マサヒデが脇差を納めて、
「それでですね。ドアを壊してしまいました。申し訳ありません」
「い、いえ! 緊急事態でしたから!」
アルマダが肩を竦めて、
「ま、こんな感じですよ。初日から来るとは思いませんでしたけど」
「アルマダさんが目立つからじゃないですか?」
「マサヒデさんだって、あんな馬に乗って目立たない訳がないですよ。顔も売れまくってます。ここはお互い様でしょう」
「そういう事にしておきますか。さ、部屋に戻って休みましょう。満腹になって眠くなりました」
「私もです。シャワーを浴びて、今日は寝ましょうか」
平気な顔で、マサヒデとアルマダは部屋に入って行った。
「・・・」
がちゃ、とマサヒデがドアを開けて顔を出し、
「クレールさん。早く」
「あ、はい!」
ぱたたた・・・とクレールが小走りでマサヒデと同じ部屋に入って行った。
ぽん、とイザベルがラディの肩に手を置くと、びくっとラディが顔を向けた。
「ラディ。今夜は我の部屋に参れ」
「は、はい」




