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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

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第49話


 客は昼前に到着した。


 マサヒデと牧師、2人で船のレストランで向かい合う。

 牧師が頭を下げ、


「はじめまして。アンジェロ=マイロです」


「マサヒデ=トミヤスです」


 マサヒデも頭を下げる。

 給仕が2人の前に紅茶を置いて下がって行く。

 牧師は給仕が離れるのを少し見て、


「内密に、お尋ねしたい事があって参りました」


 マサヒデがちらりとレストランのドアに目をやる。

 ドアのガラスの向こうに、紋章が入った騎士が2人。あれが受け入れ派の紋章?

 教会の牧師はそれなりの地位があるだろうし、出歩く時は護衛は当然か?

 それとも、やはり警戒をしているのか・・・


「はい」


「さるお方からお聞きしたのですが・・・トミヤス様の奥方様の事で」


「私の妻・・・ああ・・・」


 取り敢えずとぼけてみようか。

 マサヒデが渋い顔でレストランを見渡し、


「すみません。ちょっと金銭感覚がずれているというか・・・こんな大きな船があると、やはり邪魔でしたか・・・」


「ああいえ、そうではなく・・・」


「あ! そうか。教会・・・そうですよね。失礼しました。私の妻、魔族だから」


「あいや、私共の教会は、魔族も受け入れておりまして」


 驚いた顔を作って、


「えっ? 教会って、魔族は駄目なのでは?」


「いえ、普通に受け入れている所もあります。まあ、正直に申しまして、魔族の受け入れをしている所は非常に少ないのです。私もそちらでして」


「へえ・・・知りませんでした。では、あれですか? 私の妻を教会にと」


 う、とマイロ牧師が気まずい顔をして目を逸らし、


「ま、まあ・・・早い話、それが出来ましたらばと思います」


 ううむ、とマサヒデが腕を組んで天井を見上げる。


「申し訳ないですけど、妻はちょっと影響力があるというか。かなり大きな家の者で、特定の宗教は許されていない感じで。その、家の影響力が大きいので、ちょっと、何て言うんですかね。宗教に限らず、特定の一派閥に肩入れみたいな事はしないようにという・・・」


「・・・教会に対して、良い気持ちを持っていないのは、承知しております」


 マサヒデは紅茶をすすり、かちゃ、と置いて、


「まあ、ぶっちゃけて言うと、私個人はそうです」


「今朝の読売を見ました。排斥派の者に襲われたと」


「別に私個人を狙いに来るなら、ここまで教会という存在を嫌いになっていませんでした。あの人達、周りの全く関係ない者も皆殺しにするつもりでしたからね」


「・・・」


「それと、先日、神祇官のオオカワ子爵とお会いする機会がありました」


「オオカワ様と」


「教会の神は金さえ出せば魔族も許す。免罪符を買え・・・とか」


「それは」


 言いかけた牧師をマサヒデが遮り、


「教会は排斥派とかいう過激派を黙認しているとか」


「・・・」


 マイロ牧師は下を向いてしまった。


「はっきり言いますが、今の所は、魔族を受け入れているからと言っても、教会を好きにはなれないです」


 今の所、と、ちらりと隙を見せておく。完全に拒絶しては駄目だ。


「それでも、私が教会を好きではないだろうと承知で、ここに来た。大事な話があるんですね」


「はい」


 会話の主導権はほぼ握れた。ここまでは良し。後はどういう感じで味方にするかだが・・・


「門前払いするような真似はしません。お話は伺います」


 すう、と一呼吸置いて、下を向いたままのマイロ牧師を見る。


「で。妻の、何を聞きたいのでしょう」


「トミヤス様の奥方様が・・・」


「はい」


 こくん、とマイロ牧師が喉を鳴らす。


「・・・魔王様の縁戚であると」


 マサヒデが気不味い顔で海の方を向く。勿論、演技。


「誰がそのような事を」


 勿論、変装したカオルから聞いたのだ。


「昨夜、貴族の方が来られまして・・・懺悔室で。暗く、顔は分かりませんでした」


「仮に・・・仮にそうだとしたら・・・妻に何をしてほしいのでしょうか」


 マイロ牧師は、無念というような、悔しそうな、恥じ入るような・・・色々と混じった、何とも言えない顔をして、ぐっと拳を握り、頭を下げ、


「言葉を飾るような事はしません。トミヤス様ご夫妻に、我々の後ろ盾になって欲しいのです」


「・・・」


「私共、魔族も受け入れようという教会は、少ない。先程仰られたように、中には免罪符などとふざけた物を売り、金を稼ぐ教会もあるのも事実です。ですが、規模の大きな穏健派とは違う。信者も少なく、パトロンがつく所はほとんどない。金が欲しいという事は同じですが、それは寄付だけではやっていけない所が多いからです」


「同じ教会でしょう。金が欲しければ、規模の大きな所に泣きついては如何です」


「どうしても立ち行かないとなれば、そうもします。ですが、魔族を受け入れるという考えの我々は、中々受け入れられず・・・」


「そうですか。で、妻には支援金をと」


「いえ。お名前です。これほどのお方が受け入れ派にという・・・入信してくれとは言いません。魔族を受け入れる教会に、多少好意を持っている。それだけで・・・」


 ふ、とマサヒデが小さく溜め息をつき、


「先程申し上げた通り、私の妻は特定の宗派に肩入れという事は出来ないのです。後ろ盾になるような事は、家の都合もありますし」


「・・・」


「妻に聞いてみて・・・話してみます。妻も魔族ですから・・・」


「ありがとうございます」


「妻は、無宗教です。ですが、それもあって、偏った目でどの宗教がどう、という見方はしません。私と違って非常に学もあり、様々な宗教への見識も深い。教会についても当然。教会全てが排斥派のような者ではない事も、知っているでしょう」


「はい」


「私個人は、排斥派を目の当たりにして・・・彼らを黙認しているという事も知りましたから、教会という存在に疑問を持っています。教会にも色々な教会があるようですが、中には人を殺す過激派がいて、それを知っていながらただ黙している。これ、人を救おうという姿勢ではないと思いますが。違いますか」


「仰る通りです」


「同じ教会の中で争いをしたくないというのは分かります。でも、それって、人の命と天秤にかける程ですかね。あの方達、教会に対して特に何もするでもない方を、私にしたみたいに斬りに行ってませんかね。彼ら、何の関係もない目撃者もついでにと斬ります。被害者の方・・・」


 確かに黙しているとはいえ、これでは八つ当たりのようなものだ。話しながら、思わず昂ってしまった。

 マサヒデが口を閉じて首を振り、


「いや・・・あなたとは違う教会の方ですし、あなたを詰問したってどうなるって話じゃなかったですね。愚痴でした。申し訳ありませんでした」


「いえ。お怒りもご尤もです。派閥争いを嫌がって、我々が黙しているのも事実です。そのせいで何人も被害者が出ているであろう事も」


「・・・」


 マイロ牧師が真剣な顔を上げ、


「宗教家としてあるまじき発言ですが、私は力が欲しい。発言力が欲しい。私自身、今の教会の姿勢には疑問を抱いています。しかし、私共少数派が意見を述べても、そうかと流されるだけ。強気に出ては、蚊を潰されるように叩かれる。だから、トミヤス様の名が欲しい。奥方様の名が欲しい」


 ふう、とマサヒデが息をつき、冷めた紅茶を飲む。


「それで・・・私達の後ろ盾が出来、発言力が出来、教会は変わりますか。変わった後、派閥争いなどになったりしませんか。教会は世界中にありますよね。大きな争いになったりしませんか。それに力を貸し、火種となった私達、どうなりますか」


「・・・」


 マサヒデがドアの向こうにいる騎士を指差し、


「あの騎士のお二人。教会の紋章が入った鎧を着ていますね。教会には武力があるということですね」


「ございます」


「あなた達、魔族を受け入れる派閥の方が発言力を持ったことで、争いになりませんか。意見の言い合い、口喧嘩という争いではなく、殴り合いの争い。剣を取った争い。もしそうなったら、たくさん死にますよ。教会の方は当然、関係ない人も」


「その可能性も、あると思います」


「確かに、私も今の教会のままで良いとは全く思いません。でも、少数派のあなた方が急に発言力を持てば、均衡が大きく崩れますよね。そうなる恐れはありますよね」


「はい」


「仮に実際に剣を取る事になれば、魔族の武力があるあなた方が、少数で一方的な大量虐殺をする事になると思います。結果、やはり魔族は受け入れない方が良かった、となりませんか。向こうから手を出してきたで済みますかね。私達もあなた方も血の歴史を残した上、排斥派のような過激な考えが教会の主流になってしまうかも」


「そうなるかもしれません」


 マサヒデとマイロ牧師は沈黙した。

 しばらくして、マサヒデが給仕を呼び、新しい紅茶を注がせる。


「妻には、あなたが来た事を伝えておきます。私の妻は、とても優しい。あなた達が困っていると聞けば、見に行かずにはいられない。ですが、先程話した都合で、後ろ盾やパトロンとかは無理です。せいぜい、お賽銭程度の寄付をするとか、近くに行ったついでにあなた方の教会を見に行くとか、たまにはお説法を、とか・・・その程度です。好意を持っていると周りに見られるには、これくらいでも十分でしょうか」


「・・・はい」


「あなた方は、今まで武力を使わずに歩んで来た。魔族を反対する派閥など、簡単に殴り倒して黙らせる事が出来るのに」


「・・・」


「私は、まだその事実にしか信頼を置けません。それ以外は皆無です。私に、魔族を受け入れている教会を信頼させて下さい」


「はい」


 マイロ牧師は俯き加減にレストランを出て、2人の騎士と船を降りて行った。

 階段を下りて行った所で、カオルが出て来てマサヒデの前に座る。


「上手く行きましたかね」


「はい。『信頼させて下さい』。上手く希望を与えられたと思います。頑張って働いてくれるでしょう。少数派とは言え、教会内部から排斥派に注意勧告は出るはず。少しは大人しくなるかもしれません」


「この後は」


「教会を訪ねて『お賽銭』でも寄付してみては。小袋ひとつくらい」


 小袋・・・金貨100枚。何年も働かずに暮らせる金額だ。


「いきなりそんなに出して良いですかね」


「何事も、最初が肝心です」


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