第48話
翌朝、シルバー・プリンセス号。
レストランで朝食。
ここしばらく洋食ばかりだったので、今日は和食だ。
マサヒデが納豆をかき混ぜていると、アルマダが隣のテーブルから、
「マサヒデさん」
「んっ・・・何です」
「タレは後から入れた方が粘りが出ますよ」
「そうですか」
「それと、今日は多分お客様が来るので、出掛けるのはやめておきましょう」
「客」
マサヒデが納豆をかき混ぜていた箸を止めて、アルマダの方を向く。
「教会ですか」
アルマダが頷いて、
「そうです。カオルさん、首尾はどうでした?」
「上々です。必ず来るでしょう」
「と、いうわけです」
マサヒデは箸を止めたまま、じーっと納豆を見つめる。
ふ、とアルマダが苦笑して、
「やはり会いたくないんですか?」
「まあ、それもありますけど・・・別の不安があります」
「不安? 何です」
「来るの、魔族受け入れ派の方ですよね」
「ええ」
「その方・・・ここに来て、排斥派に殺されたりしません?」
「・・・」
「私と仲良くしに来ましたって、それ、狙われたりしませんかね」
カオルが箸を置いて、
「まだ、それはないかと」
「まだ? どういう事です」
「殺される恐れが出てくるのは、ご主人様と関係が出来たと分かった時。それでも、排斥派も可能な限りは教会内で派閥争いは起こしたくないでしょう。派閥争いで排斥派が暴力に訴えてとなると、他の派閥が全部敵に回る恐れが高いです」
「仮にそうなるとどうなるんです」
「排斥派は教会という団体から追われる事になるかと。人数はがくんと減るでしょう。それでも活動を続ける者はいるでしょうが、完全に異端者となりますね。教会の保護は受けられないので、野盗や盗賊の類になるか、町人に隠れている者はそのままただの町人になり、穏健派の方にさりげなく」
「別の宗教とかになりませんか?」
「独立した団体になるかもしれませんが、教会を敵とします。厳しい監視がつき、現在のような活動はかなり難しくなるでしょう」
マサヒデはまた箸を回し出す。
「ふうん・・・教会の方は大丈夫と。では、私は変わらず狙われる?」
「ましょうが、先日のように人前で白昼堂々はなくなるはずです」
「何故」
「受け入れ派が接触してくるからです。派閥争いにしたくないなら、排斥派が殺したという証拠は絶対に残せません」
「こないだは堂々と来ましたけど」
「まだ受け入れ派にご主人様が知られていなかったからです。もう受け入れ派はご主人様の事を知りました。後はべったりとは言わずとも、普通にしていれば結構です」
「それだけですか」
「それだけです。保護して下さいとかもいりません。危険だとなれば受け入れ派が勝手に守りに来たり、報せてくれます。抗争は教会同士で勝手にやり合います」
「ああ、嫌ですねえ」
「先に注意しておきますが、絶対に『まだ魔王様に認められていない』と言ってはいけません」
「どうして」
「受け入れ派にとって、ご主人様の価値が大きくすぼんでしまいます。認められていないのか。では今は別に仲良くする必要もないな、と認識されると、排斥派に斬られようがどうでも良い、となります」
「なるほど。分かりました」
どろん、と飯の上に納豆を乗せる。
「んー・・・すみません!」
マサヒデが手を挙げると、給仕が来た。
「はい。何をご注文でしょう」
「生卵ひとつ。大きめのを」
「かしこまりました」
給仕が下がって行く。
シズクがうえ、と嫌な顔をして、
「納豆飯に卵かけんの?」
「美味しいでしょう?」
「いや、美味いけどさあ・・・あれ、後ですっげえ臭くなるじゃん!」
「良いじゃないですか。久し振りの和食なんだから・・・食べたらすぐ部屋に戻ってシャワー浴びますよ」
「うはー! クレール様、部屋臭くなるぞー! 覚悟しときなよお」
「ええーっ!?」
----------
朝食を終え、シャワーを浴びて、頭を拭きながら出てくると、
「マサヒデ様ー。臭いますよおー」
クレールが顔をしかめている。
「ううむ・・・すみません。部屋、変えましょう」
「そうしましょう! 服に臭いがうつってしまいます!」
ドアを開け、向かいの部屋に荷物を運び入れていると、船員が歩いて来て、
「お、トミヤス様」
「あ、おはようございます」
「お客様が来ておられます」
「ああ・・・来ましたか」
教会か、面倒だな、とマサヒデが顔をしかめると、
「勇者祭の対戦を希望したいという方が」
お? と顔を変え、
「あ、そっちですか。どこに?」
「港の方で。タラップの下で待っております」
むむ、とマサヒデがクレールを見ると、クレールも顔を引き締めて頷いた。
----------
タラップを下りて行くと、男が1人。
(1人・・・これは腕利きか)
アルマダの組も呼ばれたようだ。全員揃って立っている。
ふふん、と男が笑って、
「マサヒデ=トミヤス。だな」
「そうです」
「そっちのアルマダ=ハワード・・・どっちかと立ち会いたい」
ばさ、と男が羽織っていたローブを投げ捨てると、腰にガンベルト。
(鉄砲使い)
アルマダがマサヒデを見て、にこっと笑い、
「今回は私に譲ってくれますよね」
「どうぞ」
かちゃ、かちゃ、かちゃ、と鎧を鳴らしてアルマダが男の前に立つ。
「私です」
「ふふふ」
男が笑ってアルマダの剣を指差し、
「あんさんの剣! 銃より速いそうだな」
アルマダが鎧を鳴らして肩を竦め、
「さあ? 相手によりけりです」
「銃は剣よりも強し! 名言だよなあこれ。俺みたいなガンマンにとっちゃ尚更」
「ま・・・それも相手によりけり、です」
「俺は速いぜ。剣じゃあ銃には勝てねえ」
「ふふ。相手によりけりですよ」
アルマダがさらっと前髪を指で払った。
ぴく! と男の指が動く。
「・・・」
「・・・」
睨み合い。
と言っても、男もアルマダも余裕の顔。
見ているマサヒデもカオルもにやにや笑う。
「旦那ッ!」「バァカめ!」
男が声を上げた瞬間、アルマダがくるりと身体ごと横を向く。
一瞬遅れ、ぱぱぱん! とほぼ同時に3発の弾が撃たれた。
「ほう! 中々です」
後ろでイザベルが早撃ちに感心した声を上げる。
「あれ・・・? 俺・・・? なんで・・・っ」
いつの間にかアルマダの後ろに鎧通しを持った男が立っていた。
からん、と鎧通しを落とし、銃弾をもろに受け、よた、よた、と後ろに歩き、ばたんと倒れる。
「はっはっは! 1人で立ち会うとは言ってない! ですか!」
笑うアルマダを、男が驚愕の顔で見る。
「・・・」
アルマダが笑いながら男を見て、銃を指差す。
「それは6連発。今3発。残り3発。私のパーティー全員を相手に出来ますか? 逃げても構いませんよ」
「よし! 逃げよう!」
全く躊躇わず、くるりと男が回って、ローブを拾いながら全速力で走って行く。
「・・・」
笑っていたアルマダも驚いて、銃に指を差したままの形で、駆け去る男を見送る。
皆も驚いて、男を見送る。
クレールが走っていく男を見ながら、
「決断、早いですね・・・」
「ええ・・・」
は! とマサヒデが倒れた男に気付き、
「あっ! ラディさん!」
「は? あっ、ああっ!」
たたた・・・とラディが倒れた男に走って行き、カオルもささっとついて行く。
すぱん! とカオルが男の服を斬って、びりっ! と横に開き、傷口を見て、ごろりと男を転がす。背中から血が出ている。弾丸は貫通したようだ。
頷くと、ラディが手を当てる。
この男の隠形も見事だった。タラップの上から降りてきて見ていたのに、全く分からなかったのだ。気配もほとんど感じず、アルマダの後ろにぱっと現れるまで、ぼんやりとしか気配が分からなかった。周りで皆が見ているのによくバレなかったものだ。
「終わりました!」
ラディが顔を上げて頷く。生きている。
アルマダが歩いて来て、
「カオルさん。その方、忍ですか?」
「いえ」
「ううむ、見事な隠形の術でしたね。お二人共、ありがとうございました」
カオルとラディが離れると、アルマダが「こつん」と軽く男の顔を蹴る。
「起きなさい」
「は・・・はっ!?」
「お仲間は逃げましたよ」
アルマダが剣を抜いて男に向けると、男は寝たまま手を上げて、
「まままま参った!」
くい、アルマダが顎をしゃくり、
「行きなさい」
「はいーっ!」
この男も全速力で走って行った。
逃げ方はどちらもそっくりだ・・・




