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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

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第47話


 シルバー・プリンセス号、レストラン。


 教会と関係のある者達の名簿を手に入れはしたが、なぜか名簿のメンバーは左翼ばかり。自由や多様性を目指す考えを持つ者が、なぜか教会の魔族排斥派と関係を持つ。


 何故だと頭を抱えたが、トモヤがにやりと笑い、


「教会は派閥争いをしておらんのじゃろう。仲良くやっておる」


「まあ、仲良くかどうかは分かりませんが、敵対はしていないですね」


 ぴ! とトモヤが指を立て、


「そこよ! アルマダ殿、分かりませぬかの」


「分かりませんね。それがどう関係してくるんです」


 はん! とトモヤが笑って手を振り、


「魔物嫌いの教会の中にも、魔族を受け入れてくれる派閥もあるそうじゃのお」


「そうです」


「さあて、この派閥の者が貴族様の所に行くぞ。ワシらは魔族受け入れをしておるが、教会は基本的に魔族嫌いで困っておるのじゃ。お主らも魔族と仲良くしたいのじゃろう。同じ考えを持つ者同士、いっちょ後押ししてくれんかのう」


 クレールが感心して頷く。


「な、なるほど・・・」


「教会の中では派閥同士は仲良しじゃ。魔物受け入れ組が聞いた話も他に広がるじゃろうな。さて、この仲良し派閥がマサヒデの事を知ってしもうたと。これはどえらい話じゃ。ま! 後は言わずとも分かりますかの」


「むむむ・・・」


 カオルは顎に手を当てて少し考え、


「少し違うのでは。これは、魔族受け入れ派のふりをして、排斥派が左翼側に近付いているのでは? 他の派閥はご主人様の事を知らぬのでは?」


「何故そう思います」


「知っているなら、魔族受け入れ派は必ずご主人様の所に来ます。彼らは教会の中では少数派です。強力な後ろ盾になりそうな者が居るが、旅の者。ならばここを離れる前にと急いで駆け込んで来そうですが、連絡もない」


 アルマダが腕を組んで頷く。


「そうか。確かにそうです。教会の受け入れ派は知らないのか」


「右翼側は元々魔族には良い印象を持っていない者が多いから、わざわざ近付く事もない。だから左翼側の方に多く近付く。そうして左翼側の動向を掴んでいる。そういう目で見てみますと・・・」


 カオルが名簿の右翼側の者の名を差していく。


「右翼側は上級貴族。裕福な貴族。発言力の高い貴族。絞られておりますね。対して左翼側はのべつまくなし、という感じです。つまり情報収集目的。排斥派とはつゆ知らず、同じ考えを持つ魔族受け入れ派と思い・・・どこかでぽろりと出るのを探る」


「ははあ・・・左翼側が多いのはそういう事か・・・そこでマサヒデさんの事がぽろり、ですか・・・仲良し派閥同士でも、これ程の事は知られたくないから、秘密」


 アルマダが頬杖をついて黙り込む。


「・・・」


「ご主人様。如何致しましょう」


 え、とマサヒデがカオルを見る。


「は? 私ですか?」


「これらの者への対応はどうされましょう」


「どうと言われましてもね・・・漏れちゃってるんですから」


 マサヒデが名簿を指差し、


「しかもこれ、こんなにたくさん。それにこの方達、今の予想の通りだと、排斥派って知らずに仲良くしてるんです。それじゃ成敗も出来ませんよ」


 アルマダが港の方を向き、


「・・・襲ってきた3人。明日か、遅くとも明後日には読売に載りますね」


「そうなんじゃないんですか?」


「すると、教会の方々も、あれ? と思いますよね。何故、人族を襲った? 同じ船にはクレール様も。あれ? 何故、クレール様でなく人族のマサヒデさん?」


「まあ、そう思うでしょうね」


「実はマサヒデさんは魔王様の義理の息子。教会の派閥は皆が仲良しですが・・・でも、こんな大きな隠し事をしていたら・・・」


 ああ、とカオルがにやりと笑う。


「ふふふ。そういう事ですか」


 アルマダもにやりと笑う。


「知れば受け入れ派もマサヒデさんを欲しがる・・・でしょうね」


「ふふふ。奪い合いの争奪戦。受け入れ派はなんとしてもご主人様を守りたい。排斥派から守ってくれると」


「あとは穏健派。一番数が多い。魔族の入信を受け入れはしないが、別に手を出してくるでもない者達。どちらに傾くでしょうか・・・手っ取り早いのは、やはりマサヒデさんが魔王の姫と関係を持っている、と、堂々と世間に知らせてしまう事。信者の魔族も味方につくから、多数の味方が出来ます。穏健派も必ず受け入れ派に傾く。ですが・・・これは出来ない」


「なんでじゃ」


「マサヒデさんは、まだ魔王様にマツ様を嫁にしても良いか、と許可を得ていない。魔王様から反対だと言われたら、受け入れ派から見てマサヒデさんの価値はなくなる。魔王様の娘だと知られたくなくて隠棲しているマツ様も大慌てですよ」


 はあ、とトモヤが溜め息をつき、


「面倒じゃのう。排斥派の者共は向こうから刃を向けてくるのじゃ。全員成敗してやれば良かろうが」


「トモヤ。それは駄目だ。前に説明しただろうが」


「ふうん。そうじゃったかの。ではどうするのじゃ」


「む・・・」


 ぐっと言葉に詰まり、マサヒデがアルマダの方を向く。

 アルマダが片眉を上げて、


「受け入れ派に教えてやりますか。排斥派と喧嘩が始まります」


「しかし、それだと世間中に知られてしまいませんか」


「その恐れもありますが・・・まあ、外には出ないと思います。宗教団体は外には口が固い。喧嘩が始まるとマサヒデさんに向けられる者も減るでしょう」


「じゃあ、助けて下さいと受入れ派の所に行くんですか? 私は嫌ですが」


 ふ、とアルマダが笑って、


「いいえ。それは教会に借りを作る事になる。向こうがあなたと仲良くしたい、と訪ねて来るんです。ふふふ。私達はマサヒデさんの事を固く秘密にしているんですよ。さて、誰が知らせに行きましょうか・・・」


 アルマダが名簿を取って、にやにやしながらカオルを見る。

 カオルもにやりと笑って頷いた。



----------



 その夜。居住区にある小さな教会―――


 ぎいい・・・ばたん・・・

 扉の音に気付き、奥から牧師が出てくる。

 懺悔室に貴族らしき男が入ったのが見えた。


 かつ・・・かつ・・・

 す、とカーテンが開き、牧師が座った。

 向かいに座る貴族らしき者の顔は見えないが、頭を抱えている。


「このような時間に懺悔とは・・・そのご様子、何がありました」


「牧師様・・・私は・・・」


「どうされました」


「ああ、私は今まで何と言う事を! 知らなかったんです!」


「落ち着いて。最初から」


 ふう、ふうー、と男が息を整え、


「私は・・・私はこの国で政治家の1人として、議席に座らせてもらって頂いていますが・・・所謂、左側の者で・・・魔族との共存を進める考えの方の政党に属しているのですが」


「はい」


「あれは・・・もう3年・・・以上も前になります。私の事務所に、教会から・・・受け入れ派の代表者だと・・・私は面会を許し、彼と話しました」


「代表者・・・? ふむ?」


「賢く、礼儀正しく、飾る事なく、穏やかで・・・いつしか、私は彼と政治家と宗教家という壁を取り払い、友人として話すようになり・・・個人的な事も、互いの仕事でも相談もするように・・・何と愚かな事をしていたのだ! その者は受け入れ派ではなかった! 魔族排斥派の者だったのです! あの殺人鬼共の!」


「なんと!?」


「私のせいで何人の犠牲者が出たのでしょう! 私はあの男に仕事の相談までしていたのです! 私達が進めていた政策のせいで、この国の何人の魔族の民が苦しむ事になったのでしょう! 何と言う事を・・・」


「ううむ・・・」


 男はしばらく沈黙し、小さな声で続ける。


「それだけではない・・・先日、ある話を聞いて・・・それを、あの男に・・・話してしまった・・・受け入れ派の力になってくれるかもしれないと・・・」


「何をお話ししたのです」


「・・・先日・・・あるお方が・・・トミヤス殿の・・・あの、トミヤスの神童と呼ばれる、剣で名高いトミヤス殿の秘密を教えてくれたのです。彼の妻が・・・」


「奥方様が何か」


「彼の妻が、魔王様に近しい縁戚であると」


 む! と牧師が目を見開いた。


「それは・・・それを、排斥派の者に!?」


「はい・・・先日、トミヤス殿は排斥派に襲われたと聞きました。私はその時に疑問を抱いたのです。人族であるトミヤス殿が狙われた。これは彼の妻の事が漏れたからでは、と。であれば、排斥派にとっては、彼は格好の標的です」


「むう・・・」


「このような大事、漏れるはずがない。もしや私が話していたのは! 恐ろしくなり、急いで調べた! あの男は魔族排斥派だった! 私はトミヤス殿は受け入れ派の力になってくれる者かもと思って・・・く、くそ・・・こともあろうに、このような大事を排斥派に!」


「・・・」


「トミヤス殿も、お仲間も・・・この先、排斥派にずっと命を狙われ続ける。私のせいで! 旅先でもずっと! ああ・・・何と謝れば良いのか! 魔王様になんとお詫びしたら!」


「ご自分を責めてはいけません。あなたは私達の厚意として話した。違いますか」


「・・・」


「あなたは何も悪くはありません。あなたを騙していた排斥派の者が悪い」


「・・・先日、晩餐会でトミヤス殿とお会いしました。直接話す事は叶いませんでしたが・・・まだ二十歳にも届いていない、涼やかな若者でした。彼は勇者祭の参加者ですが、必ず降参させ、決して殺さずに勝つようにしているそうです」


「それは・・・いくら名高いお方でも、難しいでしょうに」


「晩餐会に一緒に来ておられた内弟子の方から聞きました。やむなく斬った者が1人だけいると。その者に対して、毎晩経を唱え、なぜ斬らずに済ませられなかったと涙を流し、苦しんでいると・・・」


「それ程に・・・」


「彼を襲った排斥派ですら、斬らずに昏倒させただけと・・・しかし、彼は排斥派の標的となった! 排斥派の連中に降参はきかない! 斬るか斬られるかなのです! 排斥派はどこにでもいる! いつかは血が流れる! あの若者がまた人を斬る事になれば、どれだけ苦しむか・・・」


「落ち着いて。トミヤス殿もこの首都に招聘をうける程の達人です。大丈夫」


「うう・・・」


「さあ、心をお鎮め下さい。あなたは一切悪い事をしていない。神が許すも許さぬもない。罰せられるべきはその排斥派の者。何よりも、あなたがご自身を責め苦しむ事を神は悲しまれます」


「はい・・・」


「きちんとお話しすれば、トミヤス殿も必ずお許し下さいます。あなたは何も悪い事をしていないのですから」


「はい・・・」


「もう夜も遅い。あなたもご身分のあるお方。急いで帰った方が宜しいでしょう」


「・・・分かりました」


 男が項垂れて懺悔室を出て帰って行った。

 ぎいい・・・ばたん・・・

 重い音を立てて、扉が閉まる。

 牧師は懺悔室の中で、険しい顔で座ったままであった。


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