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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

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第46話


 ウキョウ神宮から、カオルは途中で1人離れて職人区。


 人を斬った。

 腰に差すモトカネは、研師のサガワに見せる約束もしていたし、全然研ぎに出す必要もなさそうだが、ついでと念の為。


 ぽくぽくと馬を進め、研英堂。

 するっと馬を下り、繋ぎ場に繋ぐ。


「失礼致します」


「お、これはこれは・・・」


 番頭がカオルに顔を向けて、にっこり笑う。カオルも会釈して番台に歩いて行く。


「本日はこちらを研ぎに出しに来ました」


 カオルが腰からモトカネを抜いて、番台に置き、


「初代モトカネ。先日、サガワ先生にお見せする約束もしておりましたので」


「初代モトカネ!? それは・・・何とまあ!」


「実は全然研ぎに出すという状態でもないのですが、先程、人を斬りましたので念の為」


「は?」


 人を斬った、とあまりにさらりと言ったので、番頭が口を半開きにしてカオルを見る。


「あ、殺してはおりません。足首を飛ばしただけです。すぱんと行きましたし、見た所、ヒケも欠けも捲れも曲がりもありませんが、まあご鑑賞いただけたらと」


「は・・・」


 遅れて、たらりと番頭の額を冷や汗が垂れていく。


「私、港のシルバー・プリンセス号という大きな客船で寝泊まりしておりますので、見積もりはそちらへ送って頂けましょうか。カオル=サダマキ宛でお願いします」


「え、ええと、港のシルバー・プリンセス号。カオル=サダマキ様」


 さらさらと番頭がメモを取る。


「それでは、サガワ先生には宜しくお伝え下さいませ。失礼致します」


 くるりと振り返り、店の戸に手を掛けた所で、表に人が集まっているのが見えた。

 稽古着の者が数人、カオルの馬、白百合を囲んで見ている。

 三傅流の道場の者か・・・


(ふ)


 マサヒデ達と一緒だと他が立派すぎて目立たないが、白百合も大きく逞しい。1頭だけなら目立つだろう。

 少し優越感を感じながら、がらりと戸を開ける。


「先日はお世話になりました」


 笑顔で軽く会釈して、繋ぎ場に歩いて行く。

 お? と1人がカオルに顔を向ける。


「誰・・・で?」


 ん? とカオルが怪訝な顔になる。先日、三傅流の道場では門弟達と軽く立ち会って転がしてやったが、あの時に居なかった者か。

 カオルは解いた手綱を握ったまま頭を下げ、


「失礼致しました。先日、道場にてフギ先生にお教え頂きました、カオル=サダマキと申します」


 ああ、と男達が顔を見合わせる。


「フギ。三傅流か。それじゃ俺達は知らないなあ」


「だな。俺等の先生はあの王宮剣術指南のヤナギ先生だし」


 しまった! これは車道流の・・・ここは職人区。うっかり同じ区にある三傅流の者かと見てしまった。

 厄介事にはなりたくない。変な輩でなければ良いのだが。


「これは大変失礼を致しました。あの高名なヤナギ車道流の!」


「そおよ!」


 は! と男が笑って、偉そうに胸を張る。これは変な輩そうだ。


(面倒な!)


 しかもサガワの店先で絡まれるとは。絶対にここで騒ぎにしてはいけない。

 カオルがもう一度頭を下げる。


「田舎者にて、どうか無礼をお許し下さい。ウキョウへは先日来たばかりにて」


「ふうん。お登りさんか。それじゃあ仕方ねえ。今のは許す」


「ありがとうございます」


「女。その格好、ふらふら歩いて武者修行ってか」


「は。そのようなもので」


「どこの者だ?」


 適当に答えて何とか逃げたいが、ねちこい。何事もなく済ませれば良いが・・・


「ヤセキ村という田舎村です」


「そうじゃねえ。流派は」


 トミヤス流、と答えるのはまずい。そもそも、正式にトミヤス流の門人となったわけではないが。


「我流です」


「ふうん・・・我流か。にしちゃあ、そこそこ出来てる感じだな」


 それなりに相手の腕を見る目もあるようだ。つまり腕もそれなりにある、という事。これは本当に面倒だ・・・負けるとは思えないが、この者達と喧嘩になるのはまずい。態度から見ても、貴族の次男坊、三男坊と言った輩に違いない。


「お褒め、ありがたく。無礼な態度をお許し下さり、感謝致します。それでは」


 馬を引いて歩いて行こうとした時、


「待て」


「は」


「その馬。女、お前・・・貴族か?」


 ち! とカオルが心の中で舌打ちする。


「いえ。ただの平民です。これは野におりました馬で」


「ほう。捕まえたのか」


「運良く」


「欲しい。言い値で買おうじゃねえか」


 やはり貴族。何と嫌らしい顔。オリネオの町の傾奇者を思い出す。


(誰が貴様なぞに売るものか!)


 仕方ない。

 す、と服に仕込んであった針を出して、軽く白百合を突く。


「ひひいん!」


 大声を出して、白百合が前足を上げて立ち上がった。


「うおっ!?」


 驚いて、男達が跳び下がる。

 白百合が駆け出し、カオルも駆けて行く。


「ああ! こら待てー! 鎮まれー!」


 慌てて駆け出す風にして、白百合に引きずられる体を作り、わざと変な姿勢で飛び乗る。


「ははは!」

「ひでえ悍馬だ!」


 後ろで男達の笑い声が上がった。

 ちらりと後ろを見て、よしよし、と白百合を宥める。


「すまなかった、すまなかった。後で角砂糖をやるから」


 んん!? とカオルを見る白百合の目が怒っている。


「悪かった。だが、お前を守る為でもあったんだ。許してくれ・・・」


 もう一度振り返る。男達はもう見えない。

 ほ、と息をつき、適当な脇道に入って行った。



----------



 港、シルバー・プリンセス号、レストラン。


 皆がひとつの大きなテーブルに座っている。


「というわけで、車道流の者共と」


「ふうん・・・そんな感じですか。嫌ですね」


「あれは厄介です。鬱陶しいだけでなく、そこそこ腕もあります」


「そこそこ。どの程度ですか」


「対1ならまず負けませんが、囲まれると少々てこずるか・・・ただ、何人も集まって来られると」


「そうですか。ま、その程度なら、いざ斬り合いとなっても問題はないでしょうが、後が面倒ですね。気を付けましょう」


「はい」


 す、とクレールが名簿を出す。

 今日の本題。


「これが名簿です! オオカワ子爵は完全にこちらの味方にしました!」


「ほう」


 クレールがにやりと笑い、


「にひひー。うちの者が頑張ってくれました! 御神託を授けたんですよ!」


「御神託?」


 アルマダが怪訝な顔をする。


「部屋をぱーって光らせて、神の使いじゃー! って! オオカワ子爵、泣いて御神託だ! って!」


「ははは! で、どれどれ・・・」


 ずらりと上から下までびっしりと名前が書いてある。『疑』と書いてあるのは疑いで、どうか分からない、という所か。


「・・・」


 名前を見ながら、アルマダが眉を寄せて、難しい顔になる。

 カオルも険しい顔で顎に手を当てる。


「どうしました?」


「左翼ばかりだ」


「さよく? って何です」


「左の翼と書いて左翼。基本的には、平等な社会を目指そう、というのが左翼。古い考えに固執せず、新しくしよう・・・社会の公正、自由、多様性を目指す・・・そういう方達を左翼と呼びます」


 はて? とマサヒデが首を傾げる。


「んん? おかしいですね? それって魔族反対っていうのと違うのでは? 自由とか多様性とか言うなら、魔族は受け入れようってなるのではないですか?」


「ええ・・・魔族排斥派と関係するなら、旧体制派の方ばかりかと思いましたが。なぜでしょう」


 カオルも首を傾げる。


「金などで釣られたのでしょうか。家族に教会信仰がいるなど」


「それもある・・・と思いますけど、にしても多すぎる」


 クレールも難しい顔で名簿を睨む。

 さすがに誰がどこの派閥かまでは分からないが・・・


「神道派が右に居るからでは。教会に比べると神道は魔族には緩いです。仲が悪い方々が左側の政党に入って、とか」


「ふむ。しかし、排斥派と関係を作るのはいくらなんでもどうか。排斥派は人族から見ても印象はかなり悪い。なぜ左翼ばかりが排斥派と手を結ぶ・・・」


 とんとん、とアルマダが名簿を指で叩く。


「それもこんなに。政治家が教会の排斥派と関係を持っていると聞こえれば、それだけで読売に載りそうなくらいですよ」


 ううむ、とアルマダ達が腕を組む。

 が、トモヤがふあーっと欠伸をして、


「皆様、こんな簡単な事も分からんのか?」


「む。どういう事です。簡単な事ですか?」


「そうよ。至極簡単な事。重要な事を忘れておるだけよ」


 ずいっとトモヤが身を乗り出し、にやりと笑った。


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