表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/65

第45話


 ウキョウ神宮道場、神誠館。


 虎が跳び込み、大混乱。

 シズクが跳び込み、閉められた雨戸を鉄棒で一薙ぎでばたばた倒し、門弟は青ざめて固まってしまった。


 そこに真剣を垂らしたマサヒデとカオルがゆっくりと入って来て、もう逃げ道はない。「いつでも」とマサヒデの声が響いたが、誰も動こうとしない。


 マサヒデはばらばらになった門弟達をゆっくりと見渡して、


「どなたか。まとめて掛かって来ても構いません」


「はっはっはー!」


 シズクが大声で笑って、虎の頭を撫でる。


「この猫ちゃんに決めてもらおうかー。それともー・・・」


 ぶうん! シズクが総鉄の棒を振る。


「まとめて適当に死ぬか! 大して変わりゃしないぞ! 1秒早いか遅いかだけさ!」


 猫族の男が震える手で矢を取り、マサヒデに向ける。

 びゅ!


「んっ」


 飛んで来た矢を掴もうとしたが、流石に獣人の引く長弓の矢は勢いがあった。

 しゅうっとマサヒデの手を抜けていってしまった。


「おっと! 危ないですよ。流れ矢が通行人に当たったら大事故です」


 後ろの玄関は開いたままだったが、幸い叩かれた感じになって、矢は後ろの壁に当たり、からん! と跳ねた。

 猫族の男は目を丸くしてマサヒデを見ている。


「最初はあなたですね。相手は私で良いですか」


 すたすたとマサヒデが歩いて行く。

 足を止め、すっと雲切丸を猫族の男の鼻先に向け、


「まだ私の間合いの外。その刀、抜けるかもしれませんよ」


「・・・」


「お仲間さん。構いませんか?」


 かなり脅しているが、誰も「降参」と口にしない。

 これは立ち直る前に急いで決めるべきだ。

 平静に戻ったら面倒。


「シズクさん。誰でも良いので1人。ぎりぎり死なない程度に」


「おうよ!」


 のし、のし、とシズクが歩き、弓の虫族の前で止まる。


「痛いぞ」


 ばし! 腕を掴んで、握る。

 ばつん! と音がして、稽古着の袖から虫族の腕が垂れた。


「づぎゃあーっ!」


「ほれ」


 垂れた腕を掴んで軽く押すように蹴る。ぶちんと腕が切れてシズクの手に残り、虫族は後ろに吹き飛んだ。倒れた虫族に腕を放り投げる。袖が赤黒く染まり、血溜まりを作っていく。

 数分もせずに死ぬ。


「降参しませんか? あの方、治癒しないと死にますが」


「・・・」


「カオルさん。死なない程度に」


「は!」


 音もなくカオルが駆けた。ぴ! とカオルのモトカネが一閃。


「あっ?」


 カオルは懐紙を出して、犬族の男の前ですうっとモトカネの物打ちから切先を拭う。

 綺麗に刃筋が立った。低い姿勢で横薙ぎに斬ったのに、きっちり軸の重みが乗った。ほとんど抵抗なく、骨まですぱんと斬れた。懐紙には、ほんの少ししか血が着いていない。綺麗に斬れた証拠だ。


 無願想流はこれが良い・・・


「ふ」


 口の端を小さく上げ、ちら、と犬族の男に目をやり、はらりと懐紙を落とす。


「あれ」


 足を捻ったように、腕を回しながら、こてん、と犬族の男が転がった。転がった拍子に、足首から先もごとんと音を立てて転がって行った。は! と起き上がって、転がった足首を見て、ぶるぶる震える。


「あ、あ、ああ! ああ!」


 斬れた道着の袴から、斬れた足首が見えている。その下には血の水たまりが拡がっていく。これもすぐ死ぬ。


 マサヒデが道場を見回し、もう一度目の前の猫族の男を見る。

 完全に怯えているが・・・

 マサヒデは1歩前に出て、男の喉元に切先を当てた。


「降参しませんか。私、あまり血は見たくないのです。うちの治癒師、優秀です。あの怪我も出血も治せますよ。どうします」


「・・・」


 がたがた震えているが、やはり降参と声に出さない。

 斬るしかない。刀を振り上げようとした時、


「もう良い! 全員降参せよ!」


 老人が声を上げた。


「降参!」「降参する!」「参りました!」


 次々に声が上がり、全員が得物を投げ捨てて手を上げた。


「ラディさん! 早く!」


 マサヒデが声を上げると、ラディがばたばたと駆け込んで来た。

 マサヒデが刀を納め、老人の方を見ると、老人が頭を下げた。

 マサヒデも老人の方を向き、頭を下げた。


 後ろでラディが怪我人を治癒し終え、頭を下げたままのマサヒデに、


「助かりました!」


 と声を掛けた。

 老人がラディの方を向き、深く頭を下げた。



----------



 アルマダとイザベルも上がって来て、鋭い目の老人の前に並んで座る。

 老人はぐっと頭を下げ、


「神誠館館長、タク=アラガヤツと申します」


「マサヒデ=トミヤスです」


 マサヒデ達も順に名乗り、頭を下げる。

 アラガヤツはちらりと項垂れる門弟達に目を向け、


「うちの者では、相手になりませんか」


「さあ、それは時と場所によって、何とも。今日は私達の運が良かっただけです」


「場所。ここは彼らの道場ですが」


「運が良かっただけです」


「待ち受けていると分かりましたか」


「はい。今日は休みでもなく、稽古時間なのに雨戸は閉まって音もせず。殺気は外まで」


 ちらっと門弟を見て、はあ、とアラガヤツが溜め息をつく。


「こうなると分かっていました。まだまだ幼い」


「参考までに、アラガヤツ先生ならばどうしたでしょうか」


 アラガヤツは腕を組んで天井を見上げ、


「床下に隙間なく火薬の樽を置いておき、暗い道場の中に囮の人形をいくつも置いておきます。鈴なども垂らしておくのも良いかもしれません。気を引かせて入って来た所で爆破。残った者は狙撃させるか魔術で始末します」


 容赦ない。そもそも剣など使わず、姿は見せずに勝つ。流石は元軍人。

 この辺り、忍に通じるものがある。

 ううむ! とマサヒデが唸った。


「なるほど。勉強になります」


 マサヒデも項垂れる門弟も見る。


「最後まで降参はしませんでしたね。怯えきっていたのに」


「・・・」


「平静を取り戻していたら、死兵になっていたでしょうか。これは落ち着いたら危ない、と乱暴に急ぎました。彼らが落ち着いて襲いかかってきた時、私は生きていたかどうか」


 アラガヤツがマサヒデをじっと見る。


「トミヤス殿。ひとつお尋ねしたい」


 マサヒデもアラガヤツを見返した。


「はい」


「トミヤス殿の武士道とは」


「武士道」


 繰り返して、マサヒデは腕を組んだ。


「さ。明確なものはありません。ただ自分を貫くだけと言いますか。今はただ武術をを学ぶ事。稽古して、色々な方に教えて頂き、勇者祭なり手合わせ希望の方々なりと立ち会って、強くなった、と自分を認められたら、死んでも半分くらい本望です」


「半分。残り半分は」


「もしも武術で世界的な偉業を成したとか、天下一になれたとかしても、そこで死んだら家族や友人が悲しむでしょう。ここで半分減っています」


「なるほど」


 ううん、とマサヒデが天井を仰ぎ、またアラガヤツに目を戻す。


「以前、似たような事を聞かれました。どういう時なら抜くのか、と」


「ほう。で、トミヤス殿はどのような時に抜くのでしょう」


「自分に近い人が危ない、となったら抜きます。後は、自分の為。先程言ったように、自分が死んだら悲しむであろう人がいるから。まあ、我欲です」


 マサヒデが笑って頷き、


「そうですね、私の武士道はとんでもなく我儘な我欲です」


 アラガヤツが初めて笑顔を見せた。そして、軽く頭を下げ、


「大変申し訳ないが、鹿神流は教えられません。この神誠館で、この者であればと私と教官が見た者にしか教えられない。ですが、強くなるコツを教える事は出来ます。と言っても、あくまで私の経験上のコツですが、役に立つかどうか」


「お教え下さい」


「ただ習った技術をそのまま練習し、使うだけでは、いつまで経っても教えてくれた方には追いつけない。剣術、弓術、短刀術、体術、馬術・・・世には様々な武術がありますが、その種類に固執せず、身につけた技術をひとつひとつ整理して、自分なりの使い方を作り出す。そうしてやっと追い越す事が出来る。分かりますか」


「ううむ・・・分かりますが、難しいですよね。時間もかかります」


 アラガヤツがにやりと笑った。


「ところで、トミヤス流には型がないと聞きますが。お父上のカゲミツ殿も、元はアブソルート流から、様々な流派のものを習い、盗み、選び抜いて自分のものにして、トミヤス流なるものが出来たとか」


 あ、そういう事か。

 アラガヤツの言うコツは、今まで通りやれ、と言う事。

 変にこだわらず、今のまま通して行けば良いのだ。


「そういう事です。そして、武士道。個々人で変わる。剣術もそう。流派によって求め方が違う。細かく言えばきりがないが、ばっさり言うと最終目的はどの流派も勝つ事。だが、同じ勝ちでも、どう勝つかで道、つまり求め方が変わる。そこが違い」


 アラガヤツが門弟を指差し、


「全員さっさと殺しても勝ちのはず。だが、トミヤス殿は出来る限り人死にを出さない勝ち方を選んだ。重ねて降参を勧めた。同じ勝ちという目的地でも、ここで道が変わった」


 アラガヤツは門弟を差していた指をマサヒデに向け、


「道がない。だからトミヤス流は強い。私はそう思う。なぜだと思います」


「勝ち方にこだわらないからでしょうか」


 アラガヤツが首をふる。


「違う。道があれば、何も考えず、ぼけっとそこを歩いていけば遅かれ早かれ辿り着く。勿論、辿り着いた者は強い。だが、街道を歩いた者と、野に道を作りながら辿り着いた者と、どちらが鍛えられるか。当然、道を作った者。だから、何々流の開祖は達人、と、どこもこういう話ばかりになる」


「なるほど」


「つまり・・・」


 ふふ、とアラガヤツが苦笑して、


「トミヤス流は達人を作る流派だと考えています。トミヤス殿はそこに足を踏み入れている。私が教える事は何も無い。と言うより教えたくない。私も恥ずかしながら達人と言われている。あなたが私以上の達人になったら、達人と呼ばれる私の顔が立たない。ですから、何度ここに来ても私は鹿神流を絶対に教えません。ははは!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ