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勇者祭2 首都編  作者: 牧野三河
第四章 神社と教会

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第42話


 神祇省、大臣室。


 絨毯。ソファー。テーブル。紅茶。ケーキ。


(神社じゃないなあ)


 マサヒデが心中で首を傾げながら、前に座る男を見る。

 撫肩の小柄で神経質そうな男。これが神祇大臣、ノリスケ=オオカワ子爵。

 オオカワが頭を下げ、


「ノリスケ=オオカワです」


「クレール=フォン=レイシクランと申します。お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます」


「お目にかかれまして光栄です。して、本日はいかなご用件で」


 クレールが紅茶のカップを取って一口飲み、


「困った事がございまして、ご相談に参りました」


 む? とオオカワが首を傾げ、


「困った事? 私でお力になれますでしょうか?」


「私、ウキョウ神宮にお参りに行きたいのですが、ご存知の通り魔族ですし・・・その上、勇者祭の参加者でございますし・・・どうしても憚られてしまいまして」


「口添えをと? その程度でしたら、一筆したためましょう」


 ぱあ、とクレールの顔が輝く。

 マサヒデとアルマダがクレールを見て、ちらりと目を合わせる。

 手を合わせ、喜びの極み! という顔は素晴らしい演技だ。


「本当ですか!? ああ、オオカワ子爵、感謝致します! 私、この国に来てから、八百万の神という考えを知り、神社、神道というものにとても興味と関心と尊敬の念を抱いておりまして」


「それはそれは! 私も嬉しく思います」


 オオカワ家は代々王中祭祀を司る神道の家。クレールの言葉を聞き、オオカワが喜ぶ。

 クレールが残念そうに首を振り、


「当家は少々影響力がありすぎて、特定の宗教は許されてはおりませんけれども、逆にそれで様々な宗教を、偏った目で見る事なく学ぶ事が出来まして・・・中でもこの国の神道というものに触れ、私、非常に素晴らしく惹かれるものを感じたのです」


 うんうん、とオオカワが満足気に頷く。


「万物全てに神が宿り、想いが宿り、祈りが宿り・・・他に見られる多神教とは違って、とてもロマンチックで、美しいと感じております。まさにこの国を・・・」


 なんとよく回る口であろうか。これには流石のアルマダも参った。

 クレールが目を輝かせて喋る、喋る、喋る。

 オオカワがうんうんと満足気に頷く。


「・・・それで、この首都には、日輪の神を祀っておりますウキョウ神宮という素晴らしい神社があると聞き、この神道という宗教に出会えたお礼をお伝えしたく思っております」


 うむ、とオオカワがにこやかな顔で頷き、


「お任せ下さい。私が一筆したためましょう。ウキョウ神宮はこの首都の魔族の皆様も普通に参拝に行っております。ないと思いますが、もし止められるような事があれば、神主に見せてもらえば問題なく」


 オオカワがにこにこしながら立ち上がり、机ですらすらと書いて、ぽん、と印を押す。封筒に入れ、どうぞとクレールに渡すと、クレールが深く頭を下げ、


「なんと感謝を申し上げたら良いのでしょうか。ありがとうございます」


「構いませんとも。そこまで神道にご興味を持って頂けたというだけで、神祇の私にとっては喜びです」


 ほ、とクレールが溜め息をついて首を振り、


「神道は美しくて、魔族の参拝も受け入れて下さりますのに。全く、教会の輩と言ったら・・・」


 本題だ。上手くオオカワを引き込めるかどうか。

 マサヒデとアルマダが緊張する。

 む? とオオカワが怪訝な顔をする。


「教会? 何かございましたので」


「先日、宿としております船に、教会の者が押し入って・・・」


 何!? とオオカワが驚き、


「なんですと!? ・・・なんと・・・下手をすれば教会自体も・・・」


「命を落とし掛ける所だったのです。3人の輩が剣を抜いて私を取り囲み・・・私だけならまだしも、側に居た方にも剣を向けて・・・一般の方、それも人族の方でしたの。教会は魔族をあまり好いていないのは承知しておりましたけど、まさかあのような暴挙に出るなんて、今でも信じられません」


「なんと!? 許される事ではありませんぞ!」


「私が人族の宗教の乱暴な方に襲われるのは、仕方のない事だと承知しております。ですけど、同じ人族の方にまで剣を向けるなんて・・・あの方達、駆け付けたマサヒデ様にも言ったんです。見られたからには全員って! 全員・・・皆殺しだと・・・同じ人族なのに、嗚呼、なんて悲しい・・・」


 ほろり。


 マサヒデはクレールの涙を見て『その気になれば人は目でも嘘をつける』とカオルに注意された事を思い出す。クレールの目は悲しみにくれている。まさにこれ。


「許せぬ・・・」


 きりきりとオオカワが歯噛みして、顔を赤くする。

 がん! とオオカワがテーブルを叩き、


「神の御心にて人を救うのが教会ではないのか! 救わずして皆殺し!? 言語道断の振る舞い! 私は教会に抗議致しますぞ!」


「オオカワ様! おやめ下さい! 私が魔族として生まれた事が悪いのです!」


「魔族である事など関係ございません! 彼奴らめは魔族にも『金を出せば神は許す、さあ免罪符を買え』などとのたまっておるのです! 呆れてものも言えぬ!」


「良いのです・・・オオカワ様・・・ぐすっ」


「レイシクラン様、お聞き下さい。その者らはおそらく排斥派と言われる者。教会の過激派なのです」


「排斥派・・・過激派」


「魔族許さじ、『魔族であればそれだけで悪』と乱暴を。殺人さえをも厭わぬ! 教会はそのような輩を黙認しておるのです! 恥ずかしき事に、当国の宮中にも・・・むっ!? そうか! レイシクラン様の事は、彼奴らから漏れたか・・・」


 大成功。

 マサヒデ達は心の中で「やった!」と拳を握る。

 居場所は漏れたのではない。レイシクランの船など港に行けば誰でも分かる。最初からバレバレだ。


「知っておられるのですか?」


「はい。あ奴らめ・・・なんと破廉恥な。もはや許せぬ。これは陛下に直訴すべし」


「オオカワ様。そのような事はおやめ下さい。宮中の皆様には、私が顔を見せねば済むことです。皆様がおられて、政が回っております事は確かなのですから」


 ぐぐ、とオオカワが拳を握り、震わせる。


「くっ・・・なんと情けない! 私は何も出来ぬのか!」


「その方々のお名前を教えて下さいませ。私、今後その方々の前には出ぬように致しますから。それで済むのですから・・・ぐっすん」


 オオカワが唇を噛んで頭を下げ、


「・・・名簿を後ほどお届け致します。肩身の狭い思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。この国の者として謝らせて下さいませ」


「ああ! そんな! オオカワ様もこの国も何も悪くありません! 悪いのは排斥派なる過激派だけです! きっと、教会の方も黙認せざるを得ない理由があるだけです。考え方こそ違いますけれど、人々を助けようという心は同じなのですから」


「命まで狙われているというのに、なんと寛容な・・・私はレイシクラン様を尊敬致します」


「私がただその方々に会わなければ済む事。簡単な事ですから・・・きっと、過激派の方達だって、誰かに吹き込まれただけです。彼らもそれが正義だって騙されているだけなんです。とても正義感が強い方々なんです・・・きっと彼らも・・・」


「レイシクラン様・・・」



----------



「ははははは!」

「おーほほほ!」

「ははは! やりますね! 名演技でしたよ!」


 マサヒデ、クレール、アルマダが笑いながら馬車まで戻って来た。

 カオルとイザベルがにやにや笑う。


「上手くいきましたか」


「上々です! 排斥派の名簿を送ってくれますよ!」


「ふふふ。やりましたね。クレール様、どなたかをここに残し、その名簿がすり替えられないか、奪われたりしないか、見張りを置いておきましょう。その名簿で我らの活動が大きく進みます」


「分かりました! 誰か!」


 す、と馬車の影から先程見たスーツの職員が出てくる。


「お任せ下さい」


 と、忍が頭を小さく頭を下げ、神祇省の建物の中に入って行った。

 マサヒデが忍を見送り、


「では神社に行きましょうか。ウキョウ神宮ってどんな所なんです?」


「凄く大きい神社ですよ。何と21万坪!」


「ええっ!?」


「日輪の神様と豊穣の神様が祀られてましてー、縁結びの楠っていう木があってー、鳥居の大きさは国で一番! 王宮庭園もあるんですよ! 菖蒲園が有名で、梅雨時でしたら凄く美しい景色なんですって」


「へえ・・・」


 アルマダが胡乱な顔をして、


「マサヒデさん、本当にウキョウ神宮を知らなかったんですか?」


「全然」


「ほら、毎年正月に初詣客で人が倒れて怪我人が、とか」


「ああ! あの神社ですか!」


「運が良ければ王子が居るかもしれませんよ」


「王子が?」


「王子は乗馬が趣味で、城を抜け出ては良くウキョウ神宮の王宮庭園に来て、散歩しているそうですね。幼い頃は非常に身体が弱くて、あの庭園で散歩をしながら少しずつ身体を丈夫にしていったそうです。王子と知らず出会っている方もいるでしょう」


「へえ・・・こっそりお城を抜け出てですか」


 あ! とクレールが顔を上げ、


「8代王みたいですね!」


「ですよね。あの王子が成敗! とか来たら誰でもひれ伏してしまいそうですけど。凄い貫禄でしたからね」


「あの雰囲気、軍人さんに近い感じでしたよね! 眉毛がぐっとしてて、目が鋭くて、威圧感と威厳があって」


「ですよね! 私もそう思いました」


 カオルが微笑みながら、


「そろそろ参りましょう。ウキョウ神宮ですと、少し距離があります」


「む、そうですね。では行きましょうか」


 クレールが馬車に乗り、皆が馬に跨った。


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