第41話
シルバー・プリンセス号。
オノダ一剣流道場から帰った頃には日も落ちていた。
この首都は広い。
この港湾区から遠い道場であれば、泊りがけになるかもしれない。
マサヒデ達は軽くシャワーを浴び、着替えてレストランに集まる。
大事な話があるので注文は後で、と給仕をテーブルから離すと、サクマが懐から国王からの返書を出した。この返書の中の誰か、もしくは誰か達が、マサヒデが魔王の義理の息子だと排斥派に漏らしたのだ。
マサヒデが返書を取って、カオルを見る。
「この中に犯人候補がいますが、カオルさん」
「は」
「あなたにはスパイ養成所の監視員がついていますね。全然どこに居るのか分からない。私達はレイシクランの忍さえ掴めるのに、あなたの監視員さん達は全く掴めません。この会話も当然彼らには漏れています」
「は」
「監視員さん達は基本的に私達には不干渉ですし、ただあなたの仕事ぶりを見ているだけですが・・・」
ぴ、とマサヒデが封筒を立てる。
マサヒデが皆を見回す。
「この中に書いてある名前によっては・・・私達は明日の朝を迎えられないかも。国家反逆罪とかテロとか言われる前に、全員行方不明で死体も見つからない」
皆が封筒を見つめる。
「これを開けたら後戻り出来ませんよ。良いですか」
はあー、とトモヤが頬杖をついて溜め息をつき、
「さっさとせえ。皆、そのくらい覚悟しておるわ」
む、とマサヒデが口を尖らせ、
「行動に出る前にお陀仏では、華も咲かせられんであろうが。そう思ってだな」
「ごちゃごちゃうるさいのう。ほれ、開けろ」
皆がマサヒデを見る。
「む・・・すみませんでした。開けます。ええと、マツさんが魔王の娘だって知ってる人は」
マサヒデが順に読んでいく。
日輪国国王、ノブヨシ=ヒラマツ。
第一王子、公爵、コウ=ヒラマツ。
貴族院議長、公爵、タツイエ=ヒラマツ。
貴族院議員、公爵、ノブヒサ=ヒラマツ。
近衛都督、親王、タルト=コマツ。
陸軍大将、親王、アキト=アリミヤ。
文部大臣、侯爵、ショウゴ=キノト。
御側御用取次役、伯爵、ヘイシロウ=オカ。
そして、
外務大臣、公爵、サネミツ=ミスジ?
陰陽頭、ハルオ=ツチカド?
と、2人の名の後に「?」と書いてある。
2枚目を見ると、
『ミスジに関しては魔の国との外交の際に尋ねられる機会があるかもしれないので、タツイエやノブヒサが知らせたかもしれない』
『ツチカドに関しては自分は知らせた事はないが、王宮魔術師内にマツの出を知っている者がいる等で知られたかもしれない』
との事。
キノト、ツチカド、ミスジ以外は全員が国王の親族。
アルマダがテーブルを指でとんとん叩きながら、
「ふうん。ほとんど陛下の親族ではありませんか。これは調べるのが厳しいですよ」
「ご主人様。まずは簡単そうな所から行きましょう。陛下の親族を調べるのは厳しいです」
カオルがミスジ、ツチカドの名を、とん、とん、とん、と指差す。
「簡単なのはこの2人。キノト侯爵には近付けません。カゲミツ様に忍び寄るようなものです」
ううむ、とマサヒデが変な顔をして、
「でしょうね。キノト先生、護衛つけてるって言ってましたけど、護衛いります?」
アルマダが肩をすくめ、
「そりゃあ数がいれば襲いにくくはなります。間違いなく面倒は減りますからね。ですけど、キノト侯爵でも留守中に屋敷を探るくらいは出来ます」
ううむ、とマサヒデが腕を組み、
「確かに。でもキノト侯爵、どう思います? 昔から陛下の護衛もやってて、魔族排斥派と何度も斬り合ってる。元々とんでもなく仲が悪いのに、情報流すと思います? 仲良くしようって情報流したって、排斥派がそれを信じるとも思えないですけど」
「そうですね。危険も考えると、優先度は低いですよ。カオルさん。ミスジ公爵かツチカド陰陽頭。どちらがやりやすいでしょう」
「ミスジ公爵です。陰陽頭はちと厄介です」
アルマダがぎしっと背もたれにもたれかかり、腕を組む。
「ほう。陰陽頭が厄介。ツチカド様は貴族でもないです。官位もあるし陰陽頭という仕事、多少金はあるでしょうが、貴族程に警備があるとも思えない。影護衛はついていると思いますが、カオルさんなら大した事はない程度では」
カオルが首を振り、
「ツチカド家は代々陰陽師の家柄で、陰陽術のエキスパート。式神、結界術に長けております。結界に守られておりますと、我らでは見えも感じも出来ません。そこに証などがありましたらどうしようもありませんし、そうしているでしょう。根気よく張り付いて接触を待つしか」
「ふうむ」
「クレール様程の魔術の達者であれば結界があるのも分かりましょうが、クレール様を潜入に連れて行くわけにも参りませんし、間違いなく式神が家中をうろつき回っております。そこに無理矢理入り込んでみてハズレでは・・・」
ぱ! とクレールが手を上げた。
「はい!」
「なんでしょう。クレール様が潜入は駄目ですよ」
「いえ。そうではなく、ここですけど」
クレールが2枚目の紙を指差す。
『ツチカドに関しては自分は知らせた事はないが、王宮魔術師内にマツの出を知っている者がいる等で知られたかもしれない』
「これ、王宮魔術師を調べないとまずくないですか? 王宮魔術師って凄くたくさん居るんですよね? 城内に居るのはそれほどかと思いますけど、昔やってたって方もおりましょうし」
「む・・・確かに・・・」
「やっぱり、私達だけでは手が足りないです。船の警備、港の警備、皆様の護衛。私の忍にも限りがあります。それで考えてたんですけど、神祇省に働きかけてみては」
神祇省。
日輪国内の神社の総まとめである。
王宮祭祀、布教、神戸(じんこ:寺における檀家のようなもの)の管理などを行う。
また、代々の国王の墓の管理なども神祇省の管轄である。
一昔前までは神道が国教である日輪国の、教会の宣教防衛も仕事であった。
現在は宗教の自由が認められ、その仕事は削られたが、当然禍根は残っている。
「なるほど! 神祇省は教会とは仲が良くない。排斥派なら尚更。敵の敵は味方ですか。しかも省庁。城内の教会の人間は厳しく見ているはずだ。さらに陰陽頭との関係も深い。良い手です」
クレールが芝居がかった口調で首を振る。
「私、高名なウキョウ神宮に参りたいと思っておりますの。ですけれども困りました。勇者祭の参加者ですと、中々に寺社などに入る事は憚られますわ。しかも私ったら魔族なんです。ああ、どなたかお助け下さらないかしら・・・」
「ははは!」
ぱちん! と手を叩き、
「そうですわ! 神祇省のオオカワ子爵でしたら!」
アルマダが笑いながら首を振る。
「ふふふ。そうだ。我々だけで何とかしようなんて事は愚かですよ。相手は大物かもしれないんです」
「ですよね! 明日はお参りに行きましょう!」
ぱん! ぱん!
クレールが手を叩くと、給仕が歩いてきた。
「ご注文でしょうか」
「はい!」
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翌朝、神祇省前。
マサヒデ、クレール、アルマダ、トモヤが前に立つ。
クレールは今日はいつもの冒険者服ではなく、軽いドレス。
「ううむ・・・」
マサヒデが納得いかない顔で建物を見つめる。
トモヤも腕を組んで首を傾げている。
「のう、アルマダ殿。神祇省とは、神社のまとめ役であろう?」
「そうですが」
「なんで石造りの建物なんじゃ。硝子窓ではないか。全然神社ではないぞ」
「そうですよ。アルマダさん、私は納得いきません」
はあ、とアルマダが溜め息をつき、
「下らないことを言わないで下さい。ここは神社そのものではなく、それらをまとめる仕事をしている所なんです」
マサヒデとトモヤが顔を見合わせる。
「でも納得いかんな」
「ほうじゃな」
アルマダは呆れ顔で建物の方を向き、
「クレール様、行きましょう。マサヒデさんも中でそんな顔しないで下さいよ」
「はい!」
「ううむ・・・」
両開きのドアを開けて中に入ると、巫女服を着た受付。
「・・・」
建物に全然似合わないが、制服と決まっているのであろうか・・・
周りを見れば、他の職員は普通のスーツや半着の袴だ。
クレールがすっと前に出ると、巫女服の受付嬢が頭を下げる。
「おはようございます。本日は神祇省に何か御用でしょうか」
「私、クレール=フォン=レイシクランと申します。オオカワ子爵はおられますでしょうか?」
「ご面会ですか?」
クレールが困惑した顔を作って、
「お約束はないのですけれど・・・やはりレイシクランが来てはご迷惑でしたでしょうか。いくら貴族とはいえ、魔族では」
くす、と受付嬢が笑って、
「日輪国の神社はそのような差別のような真似は致しません。神様はそんな狭い心の方ではございませんもの。それではオオカワ子爵に尋ねてまいります。少々お待ち下さいませ」
軽く頭を下げて、受付嬢が奥に入って行った。
マサヒデがクレールを見て、
「鬼族でも入れてくれますかね」
「ううん・・・シズクさんは・・・どうでしょうか」




